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木鐸

サッカーをやめよう。

そう思ったことは数えるほどしかない。

1番サッカーをやめたいと思ったのは間違いなく高校1年生の頃だ。

初めて公式戦に出た。インターハイの県予選初戦。1-0で勝っている状況での出場でどうすれば良いか戸惑った。10分間という短い時間のはずだった。でも後半ロスタイムに自分のマークの選手にセットプレーから得点を許した。焦った。延長戦になってなんとかミスを取り返そうと思った。運良く自分の得点が決勝点になって勝つことができた。ほっとした。これがデビュー戦だった。

次の試合は3年生が怪我をしたから運良くスタメンだった。準々決勝・準決勝と3試合連続で得点できた。そのおかげで決勝もスタメンだった。でも何もできなかった。途中交代。無様な自分の姿が目に浮かんで、世間が自分を見て笑っていた。結果は0-5。高校に入って初めての敗戦だった。交代してから試合終了まで悪夢の様だった。試合後のロッカーも何もかもが最悪のくうきだった。次の日から代表活動があったから決勝の翌日の早朝に寮を出た。だから大敗した後のチームの状況は知らなかった。大阪までの移動の間に3年生やキャプテンから連絡を受けた。「お前のせいじゃない。だから気にするな。今は代表で生き残る事だけを考えろ。」ってみんなが同じ事を言ってくれた。だから気持ちよく活動に参加できた。そこまではよかった。問題はチームに戻ってからだった。

「お前のせいで負けた。」

チームに戻った直後に監督に言われた。最初は自分に責任を押しつけているとしか感じなかった。でもそれが毎日続いた。パス1本ミスすれば、「またお前のせいで負けるぞ」。シュートを外せば「0-5だぞ」。ボールを奪われれば「そんな選手じゃ使えないよ」。毎日毎日言われた。日に日にプレーが悪くなって、言われる回数が増える。約2週間。もう限界だと思ってわざと練習で手を抜いた。そうすれば下のカテゴリーに落とされ監督から離れられると思ったから。でも落としてくれなかった。Aチームにはシーズン通して1年生は自分1人しかいなかったから寮飯も1人だったし相談する相手もいなかった。だからどんどん辛くなった。「お前なんか使えない」って言うくせに試合では使うし意味が分からなかった。1ヶ月で体重は5キロも減った。うどんですら喉を通らない。親に心配かけたくなかったから兄に電話して相談した。そしたら「理不尽こそ成長」って言われた。当時の自分には回答になってなかった。結局本当に限界が来て寮母さんに「退寮させてください」ってお願いした。説得されたけど泣きながら「やめさせてください」って何回も頭を下げた。たまたまキャプテンにそのシーンを見られて2時間近く話をした。その後も噂を聞いた先輩が部屋に来て夜中まで話をしてくれた。結果当時1年を見ていたコーチがAチームから1年生チームに落としてくれた。一気に楽になった。でも監督は嫌いなままだった。

その後もいろいろあった。国体中に連絡が来て怒られたり、学校生活が悪くて選手権のメンバーに入れてもらえなかった。プリンスリーグの最終節のvs川崎戦に出してもらったけど5分でイエローカード2枚もらって退場。その後もいたけど1月に甲府のコーチになるっていっていなくなった。急すぎた。あんなに嫌いだったはずの監督がいなくなることがこんなにも辛いことだとは思わなかった。一度も褒められなかった。スカウトされたときも指導されてた時も。認めさせたかった。だからいなくなるのが悔しくて悔しくてたまらなかった。

それから監督は甲府で1年間コーチをやった後にアルビレックス新潟シンガポールの監督をやった。2年連続4冠。やっぱりすごい。それなのにチームから離れても毎月、大会前は必ず連絡をくれた。いつも気にかけていてくれた。

吉永一明監督

毎回連絡が来ると僕は監督にこう言います。「必ず監督の下でまたプレーします」なぜかというと認めてほしいから。そして一番僕を理解してくれていると思うし理解してくれようとするから。だからまた一緒にやりたいんです。今はアルビレックス新潟のアカデミーダイレクターをやっているけれどいつかは現場に戻ってきます。そう信じています。いやそうしてください。

年末久しぶりに会った。すごいんだよこの人。めちゃめちゃサッカー好きだし、どうやったら良い指導になるか深く考えてる。だから当時のこと聞いた。そしたら「お前には強く言わないと分からないからな」っていわれた。確かにあのことがなければきっと終わってたなって思う。三年越しに成長を感じられた。だから今ではすごく大好きだし、何かあれば真っ先に相談している。怪我も常に気にかけてくれるし本当にお世話になりっぱなしだな。だから必ず認めさせます。

僕のサッカー人生で一番強敵で一番気にかけてくれる吉永さんは間違いなく最大の味方であり、最高の指導者です。

必ずまたやりましょう。そしてまた明日も積み重ねていきましょう。

加藤拓己

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