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伊丹空港のナイフ持ち込み事案について

先日、大阪伊丹空港でアーミーナイフが持ち込まれ
クリーンエリア内の乗客の検査を全てやり直すという
事件が起きた。この事件でネット上では検査員がダメだとか
批判的な意見が多数見受けられたが実際どうなのか?
説明したいと思います。

①アーミーナイフは何故持ち込めないのか?
②検査担当者って誰でもできるの?
③何故全員の検査をやり直したのか?
④この乗客は罪にならないのか?
⑤この業界の問題点はないのか?
⑥今後このような問題が起こる可能性は?

①アーミーナイフが機内に持ち込まれましたが何故アーミーナイフは持ち込めないのでしょうか?
以前は例外もありますが6cm未満のナイフであれば持ち込みが許可されていました。
日本におけるハイジャック事件は1970年(昭和45年)3月31日に起きたよど号ハイジャック事件と1977年(昭和52年)9月28日に起きたダッカハイジャック事件という2つの大きなハイジャック事件以降ほとんどありませんでした。(小さなハイジャック未遂事件は何回かありましたが)

しかし、1995年(平成9年)6月21日羽田発函館行全日空857便がオウム真理教の信者と名乗る男にハイジャックされました。犯人はオウム真理教とは違いエリート銀行員だったのですが.......
その後、1999年(平成11年)7月23日羽田発千歳行全日空61便が男にハイジャックされ操縦室に入り込み機長が殺害されるという前代未聞の事件が起きました。
実はそれまで刃物類には刃物の種類によって長さの規定がありそれ未満であれば機内に持ち込むことが出来たんです。
機長が包丁で刺されて死亡したことを受けて国土交通省が動き出しました。
ナイフは全部だめ!という指示を航空会社に出しました。
その後2001年(平成13年)9月11日アメリカのニューヨークで同時多発テロが起きて今度はハサミ等も含む刃物類全てを持ち込み禁止にしました。
【まとめ】
以前は持ち込めたナイフや刃物があった。
ハイジャックやテロが起き規定が厳しくなり刃物類は基本的にダメになった。



②検査担当者って誰でもできるの?
何故今回アーミーナイフを持たせてしまったのか?
これははっきり言って国土交通大臣の仰る通りあり得ない話です。
今回の検査員は恐らく入社してそれほど経っていない人かと思われます。
入って3カ月〜1年くらいの新人社員ではないかと思われます。
空港によって検査会社は違うのですがどこの会社でも入社したら新任研修を30時間以上行います。基本教育15時間以上業務別教育を15時間以上行います。ただしこれはあくまでも警備員としての研修です。もちろん業務別教育で保安検査についても教育されます。ただし検査会社が警備会社でない場合はこの限りではありません。
座学が終わり現場に配置されるとさらに現場研修を行います。
実際にお客様と接して慣れないと何もできませんから。
でも入ってすぐ検査業務が出来るかというとそういうわけにはいきません。
まず入社したら仕分け作業からやる場合が多いです。
荷物をx-rayに投入して検査をするわけですがモニターを見ている人から
指示が出ます。問題のない荷物ならそのままお客様に返します。
ナイフなど危険物の入ったバックやモニターで識別できなかったバックがあれば開披担当者(荷物を実際に検査する人)に受け渡す役割です。
次にボディチェックをする担当者の訓練をします。
実際にお客様の体に障らなくてはならない場合もあるので失礼のないように検査をするのと危険物の発見が出来るように訓練をします。
これも何十時間と練習します。最後に試験があります。
試験に合格しないと検査業務は出来ません。もちろん危険物の発見はもちろんですが接客態度や言葉遣い等も試験内容に入っています。
ボディチェックが出来るようになってようやく今度は開披検査の担当になるために訓練していきます。これ何十時間と訓練します。
凶器を発見することだけでなく言葉遣いや接客態度のほか、万が一危険なものが出てきた場合の対処方法も訓練します。こちらももちろん試験があります。試験に受かって初めて開披検査業務が出来ます。
開披検査業務が出来るようになって初めて今度はモニターを見る訓練を開始します。当然危険物を発見できる能力がないと合格できません。
ここまで来るのに早くても半年はかかる場合がほとんどです。
これほど訓練を積んでいるにもかかわらず今回アーミーナイフを持たせてしまったことは大変残念でありあり得ない話だと思います。

【まとめ】
検査員のレベルは決して低くない。一人前になるには相当な努力が必要!
知識も相当ないと出来ない。


③何故今回わざわざ検査をやり直したの?
今回飛行機に搭乗したお客様まで飛行機から降機させて検査をやり直したという面倒なことになりましたね?
これは以前はこのようなことはなかったのですがやはりこちらもハイジャックやテロが起き例えの刃物一本でもハイジャックの危険性があるという結論になりました。危険物を持ってお客様が入ってしまったり、お客様検査場を強行突破して検査を受けずに中に入ってしまった、何かの拍子に検査を受けずに中に入ってしまったなどの事件が発生した場合、すぐに取り押さえられれば問題ないのですが見失ってしまった場合は危険物を持っている可能性があり、安全ではなくなるので全てのお客様を外に出して待合室等に危険物が隠されていないかを入念に調べて安全を確認をした後に再度検査をしなければならないと決まりました。これは故意に検査を受けずに中に入り凶器を隠して検査後にその凶器を手にしたり出来ないようにするためです。今回はこれに該当したことになります。

これは本当は航空会社も検査会社もやりたくないんです。お客様からクレームも入りますし飛行機も遅れるし今回のように欠航便まで出てしまうからです。

【まとめ】
過去のハイジャック事件やテロ事件の反省を活かして飛行機に持ち込ませないのではなく、制限エリアと言われる検査場の先の全てに危険物を持ち込ませないという事になった。また該当の人だけでなく飛行機に乗った人まで降ろしてやるのはその人が他の人に渡してしまっている可能性もあるから!


④今回これは大丈夫だと言って持って行ってしまった乗客は罪にはならないのだろうか?これは非常に難しいんです。故意にやったことが立証できないと立件は難しいでしょう?ただし過去にも同じようなことをして問題でも起こしていれば別ですけど。検査員についても同様だと思います。

【まとめ】
正直今回の件で罪を問うのは難しい。ただしお客が強引に荷物を持って行ってしまった場合はお客が罪に問われる可能性もある


⑤この業界の体制に問題点はないのか?についてですが問題は多数あります。
まず第一にこれは業界全体に言える話ですが拘束時間が非常に長く低賃金という事です。ブラック業界です。

ある会社の勤務時間表の例です。空港や会社によって若干異なります。
1日目   14時〜22時(8時間)
2日目  8時〜20時(12時間)
3日目  6時~20時(14時間)
4日目  6時~14時(8時間)
5日目  休み
こんな勤務がありました。

上記の時間は拘束時間です。
空港保安業務は朝早いのでほとんどの人が寮に入っています。
寮まではバスが出てます。20時に仕事が終わってもバスが21時ごろに
出たりします。上記の時間は基本時間なので30分前後の誤差があるので
30分遅い人を待ってなくてはいけないからです。
寮まで1時間程度かかると22時くらいになります。
それから入浴・食事・場合によっては洗濯をし寝るのは午前0時〜1時くらいになります。翌日6時に出勤するには4時半ごろに出るバスに乗るしかありません。4時半のバスに乗るにはどんなに遅くても4時には起きないと間に合いません。寝る時間はわずか3時間とか4時間です。翌日また検査業務の仕事をします。X-Rayと呼ばれる手荷物検査装置は定期的に荷物が流れてくるので結構きついです。このようなシフトの繰り返しをしても貰える金額は税込みで20万弱です。これに残業がついたらもっと拘束時間も延びます。当然辞める人は多いです。これの繰り返しです。
大体早い人は3か月〜半年で離職します。新卒が毎年100人入って中途入社もそこそこ入っても人数が増えることがありません。要するにそれだけ離職者が多いのです。
離職率200%と言われる業界です。半年サイクルで人が入れ替わるような感じですから。
会社が待遇を良くすればいいという方もいます。しかし契約金が安すぎてそれが出来ないのです。航空会社はそんなに出しません!
また、朝と夕方に出発便が多く昼間の出発便が少ないのでどうしても2交替や3交替には出来ないのです。人員が相当数必要になるのと今の契約金でそれをやるのは無理があります。

そんな中で今回の事案が起きてしまいました。ここまで読んでも検査員が悪いと言えるでしょうか?

【まとめ】
このような勤務体系で完璧を求めるのは不可能。


⑥今後同様の事案が発生するかどうかですが、間違いなく起こると思います。
この問題は今に始まったことではありません!過去にもあります。
今回の件は、全日空さんに確認したところ、
お客に大丈夫だと言われてしまい、責任者に確認をしたらナイフを預かるように指示をされたが検査員が責任者の指示を聞き間違えて返してしまったとのことでした。
また羽田空港でも見逃しがあったと報道されていますがあくまでも機械で見ているのでわからないときはわかりません!
開き直りに聞こえるかも知れませんがそれが事実です。
今のままでやっているとこれ以上のことが起きる可能性もあります。

【まとめ】
今後もこのような事案が発生する可能性は大いにある。
無いわけがない。過去にも何回もあるし、このまま放置すると
もっと大変なことになるかもしれない。

以上が事件に対する見解です。

じゃあ今後このような事案を減らすにはどういう対策があるの?

まずはすべての検査会社が国との契約にして必要経費は国が航空会社より徴収する。また現在も国からの補助金は出ているがその額を増額して検査員一人一人が普通の生活が出来るように給与体系を改める。拘束時間を短くし検査業務に集中できるようにする。現在はお客様の任意による検査となっているが法改正をして強制にし、検査を拒否するお客や迷惑客は航空会社職員をすぐに予備航空会社に搭乗拒否をさせる。
以上が私の考えた対応策です。


ちなみにアメリカの保安検査員も同じような問題を抱えていました。2001年のアメリカ同時多発テロが起きた後にこれではダメだという事で現在は連邦政府職員になっています。

最後に誤解のないように言っておきますが日本の検査レベルは海外の空港と比べると非常にレベルが高いです。日本はこれで人殺せる?って思うようなナイフまで検出して処理しています。海外からの乗り継ぎで来たお客さんが8㎝とかあるようなナイフを持っていることは多々あります。
念のために言っておきますが、乗り継ぎのお客もきちんと検査し日本の規則に触れるものは全て制限品として処理をしていますのでご安心ください。


以上が今回の持ち込み事案に対する見解です。

検査に関するルールや処理方法は国土交通省の指示に従っています。
ですので検査場で駄々をコネても検査員には何にもできません!
持ち込めない物とかに不満があったら国土交通省へ言うべきなのです。

皆さんの保安検査に対する誤解などが解けて頂けたら嬉しいです。
検査は嫌かもしれません。でも全ては飛行機を安全に飛ばすための
検査です。整備していない飛行機には乗りたくないですよね?
検査も整備も飛行機を安全に飛ばすために必要なことです。
嫌なことが多少あっても笑顔で検査を受けていただき
最後にありがとうと言ってあげると検査員も気分よく仕事が出来ます。
また、全国の検査を行っている検査員の皆様これからも頑張って仕事をしてください。

最後にこの記事を書くにあたって取材に協力してくださった現役検査員の方、元検査員の方ご協力ありがとうございました。


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