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第2回たくみちゃん杯 開会宣言/審査を終えて

 第2回たくみちゃん杯 開会宣言 

人生は選択と決断の連続ですね。ついつい色々考えちゃいます。
あのときああすればよかった、とか。
ああするべきではなかったかな、とか。

バイトをずる休みしてあいちトリエンナーレに行くべきだったかな、とか。

恋人と別れないほうがよかったかなあ、とか。

後悔がないように生きたいと、常々思っています。
でもなにを選んでも後悔するようにできているのかもしれません。

「いや、あのときの選択には後悔はない」と言える出来事も沢山ありますが
それについては、選択が正しかったわけじゃなくて「たまたま」なんでしょう。
そうか、だから人間には信念が必要なのか。

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ある脳科学者によると、「過去」とは「現在の脳が持っている記憶」のことで、
つまり過去ってものはなくて時間は未来から現在に向かって流れているらしいです。

では歴史ってなんなのでしょうか。

歴史について語り合う「今」が未来からやってくるということなのかなあ。

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数十分後の「今」、第2回たくみちゃん杯の優勝者を決定します。


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 審査を終えて
 第一ラウンド1回戦先攻は飛び入り参加のなかじまっぺいさん。「飛び入りもありですが、参加しますか」と持ち掛けると「まっ白ですけど」と言ってインプロのエチュードを披露してくれた。壁のトーナメント表を読み上げ、僕が最初に配った開会宣言のハンドアウトを大声で読み上げた。ぼくは匂いを嗅がれたりもした気がする。「まっ白」な状態で飛び出した一人の俳優。
 清水恵みさんは屋外のウッドデッキで鈴を鳴らしていた。おもむろに始まっていて、観る人は自発的に外に移動した。今にして思うとその「自発的に移動させる」デザインがすごくよかったなと思う。鈴の音をいろいろと試す。へそに埋め込んだり、耳の穴に埋め込んだり。庭の木の横で。木のそばで何かしている人を見るとエンドレス・ポエトリーを思い出す。
 審査時間に入る前には、清水さんの勝ちだと思っていた。清水さんのパフォーマンスは、観ながら、周りの空間にも感覚が開かれるのがすばらしかった。清水さんの鈴を見ながら、漏れ出るような笑い声が聞こえていた。それはなかじまっぺいの笑い声だった。審査しながらそれを思い出したときに、なかじまっぺいの勝ちだって思ってしまった。
 すべてのパフォーマンスは比べられないという前提に立っている。そのうえで審査の時には毎回違う「ある尺度」を設定して、そのルーラーの上で勝敗をつけるようにしてる。それはうまく言語化できない。このときは、あえていうなれば「外部的」というルーラーの上で、なかじまっぺいが勝ってしまった。
 2回戦はひろぽんとたくみちゃん。たくみちゃん(僕)は今回フンドシでのトランスフォーめいそうを行った。鈴のイメージ→銅鑼のイメージ→どら焼き→タコ焼き器→そこに木を植えて→トラがぐるぐる回りバターになり→火がついて→エクセルのスプレッドシートが広がって。そんな感じの内容だった。
 武漢から一時帰国しているひろぽん。断熱シートの上にレンガを置き、その上にワセリンと火打石で火をつける。ウサギの下顎骨と蟻をレンガの上に置く。蟻は逃げた。「あと何分?」「あと何分?」としきりに聞いていたのが印象深い。
 木造の家のなかで行われる「火遊び」。子どものころ蟻んこをいじめたことを思い出した。蟻に悪いことをしたなあと思って大人になった。今回蟻を焼くわけではなく蟻はすぐ逃げたけど。火はほんの小さなものだったが蟻にとっては猛火だ。周りに火が付いたらっていうひやひやは、主催者として感じざるを得なかった。火をつけたのは火打石で。このパフォーマンスアートと僕のトランスフォーめいそうでの勝敗をつけないといけない。訓練されたパフォーマンスということでトランスフォーめいそうの勝ち。訓練が大事なのではない。トランスフォーめいそうは火打石を含むことができる。そして、 自分である。うまく言えないけど、自分だからすべて含むことができる。
 3回戦。山口静。スピーカーからポップスが流れる。ぴょんぴょん跳ねる動き。衣装のワンピースがひらひらする。鍛えられた筋肉が見えて美しい。ノートに振付が書いてある。それを目の前に置いていて、その通りに踊っているようだ。振付は跳ねたり左右のステップを基本にするようなミニマルなものだったと思う。曲が終わって、次の動き。腰を落とし、左腕を伸ばし、見る。(これはインプロだったのではなかろうか?)時間の流れ方の質が変わったところで終了。
 ちびがっつ。花がついた緑の全身タイツと、花のフェイスペイント「はながっつ」で。色褪せたトラロープを円にして土俵をつくる。一人相撲。お相撲の音楽がラジカセから流れる。投げられるときにくるくると回転し、派手に倒れる。何回も何回も。曲に、EDMのようなビートがミックスアップされて、聞いたことのない感じになる。そこで終了。ビートが入ってもとくにやることは変わらない。色の褪せたトラロープの印象が強く残る。ちびがっつの勝ち。より振り切れた反復だった。
 4回戦。齋藤健一。「竜球部」の活動ということで、参加型のパフォーマンス。まず、4チームに分かれる。で、壁を全力で押す。あんまり声を出さずに(会場の都合で)でもテンションを上げようという狙いだと思う。望月亮佑が壁を殴っていたのが思い出される(僕がとめた)。そのあとで、かめはめ波を打つ。場とパフォーマンスの関係がちょっとちぐはぐだったと感じた。
 村上裕。持ち込んだ機材で、まず音をつくる。ラップの内容が良かったと覚えている。「言葉が…!」そして前に出てきて踊りを踊る。ひたすらに踊りでしかない。完全に没入しているので、観ている側が気を付けないと蹴られる。音楽だった。時間を忘れる、という点で、それは音楽のもつ特性だ。村上裕の勝ち。
 5回戦。第1ラウンドの最後。望月亮佑。すでにへべれけに酔っている。一回、出場を辞退したが彼を観に来た観客もいたりしてやはり出場することになった。「俺のパフォーマンスの時間は休憩でいいよ」と言っていた。それでいいけど、アナウンスはするからね、って言って呼び込みがあり、持ち時間。村上裕に曲をかけさせる。対戦相手の武本拓也を呼び出して立たせる。あと、何人かに踊らせたりした。5分を使い切った。
 武本拓也。薪のような丸太を床に立てる。ドンッ。なかなか立たない、が、ドン、となんとか立てる。服を脱ぎ、丸太に着せる。眼鏡も取り、丸太にかける。パンツも脱ぐ。全部色が黒い服だ。そして全裸になって、静止する。ゆっくりゆっくり歩いている。背景は、アトリエの白い壁だ。大きな窓を、あらかじめベニヤ板を立てかけてふさいでいた。そして白いビニールシートを家主の村上君と内田さんが二人で持ってもう一つの窓をふさぐ(目隠しだ)。この光景がすごくよかった。
 さて審査。この光景がすごくよかったことを思い(審査でも言った)、武本さんの勝ちかな、って思っていた。でも審査しながら「それでいいのか!?」という何かが去来した。武本さんは物理的に裸だったけど望月くんも裸だった、とか意味わかんないことを言ってしまったが、本当に考えていたことはやはりたぶん「外部」の問題だったと思う。望月亮佑はあきらかにパフォーマンスの「外部」だった。直観的にそっちを勝たせた。
 会場はむっとする熱気があった。僕はちょっと消耗していた。15分の休憩。村上裕さんがDJをしてくれていた。斎藤健一さんの踊りが独特だった。
 第2ラウンド1回戦、なかじまっぺい対たくみちゃん。なかじまっぺいは歌を大声で歌った。リクエストを求めて、宇多田ヒカルがかかった。けど、全然違う歌手の曲を歌っていた。
 たくみちゃんのパフォーマンスは第1ラウンドのときに比べてより激しい内容になった。身体から出てくる、(喉と口からでてくる)音声を増幅させるようなもの。そこに、血流のイメージを重ねる。ジョン・ケージは無響室で自分の血流の音を聞いたという逸話があるが、そんなイメージで、血管の中を言葉が流れ、こすれ合い音を出す。そのようなことを思いパフォーマンスをした。やっている間ちょいちょい望月がうーとかあーとか言ってた。それに対してのセッションをした。
 なかじまっぺいさんは一回戦のときの「まっ白」さがなくって、スリルが減ってたと思う。たくみちゃんの勝ち。
 第2ラウンド2回戦は、ちびがっつ、村上裕、望月亮佑の3つ巴で。
 ちびがっつは寝転んで足をバタバタさせる。そんな動きがずっと続く。「何かをやろうとしている」ということはよくわかる。なにをやろうとしているのだろうなぁ、と思っているうちに5分間が過ぎて、内容はよく頭に入ってこなかった。5分の終了後に言っていたが、おならを出そうとしていたらしい。
 村上裕。第1ラウンドよりもだいぶ抑え目な音と動きだったと思う。でも踊りは没入していたし動きはしなやかだった。望月亮佑がいいじゃんいいじゃんと言っていた。
 正直この辺りから、時間が溶け始めたというか、僕は素面だったけど酒に酔ったときのような数時間と瞬間とが同一に感じられるような感覚があった。文章や映像で伝えるのは難しいがあの場にいた人の何人かは同じ感覚を持ってたんじゃないかと思う。望月のターンになった。観客を一人立たせた。急に恥ずかしそうな顔をする。あっ、できない、みたいな。笑顔で。
 おならは、出たほうがよかった。望月は恥ずかしそうな顔をする。村上裕は恥ずかしそうな顔をしない。恥ずかしがるということは「外部」なのかもしれない。望月の勝ち。
 そのまま、決勝戦へ。勝つたびに「クソが」と言い捨てる望月。観客をアジテーションする。こんなの意味わかりませんよね!みたいな。決勝戦は二人同時にパフォーマンスをしたら?という提案もありちょっと考えたが、やはりルールを変えないほうが良いので順番に僕からパフォーマンスをすることになる。本気で来いよ!という望月。ピッコロ大魔王対ベジータって感じだなと誰かが言っていたのをよく覚えている。そういう感じは確かにあった。
 もちろん本気で行くつもりだった、村上さんに音楽をかけてもらった。ちょっと冷静さを欠いたというか、本気のフルアウトダンスができた瞬間はあったと思うけど筋肉を少し痛めてしまった。ああしまったな、と思って、パフォーマンス時間を終了した。発語内容はたしか、輪切りにした大腿骨の無数の穴に花を生ける、とか言った気がする。
 溶けた時間のなかで望月亮佑はゆるく踊っており、「みんないい感じだよ」と言ってお辞儀して終わった。へー、お辞儀するんだー、と思った。望月の勝ちにしようと思った。審査。僕が「酒さえ飲みすぎなければいい男なんですよねー」と言い、出場者の一人が「酒を飲んでても十分」と返した。優勝カップの授与は石原さんがしっかり写真をとってくれていて、ああこの写真が撮れてよかったな、と思った。酔いすぎており落としそうになった優勝カップを齋藤健一がキャッチしたということは書き残しておきたい。
2019.9.10 たくみちゃん

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