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父の作った弁当を捨てた。

「ストレスで眠れなくなってしまったから、
来月末に仕事を辞める!心配はしなくて大丈夫です。」

2月末に父からLINEがきた。

いや、心配するだろ...。
慌てて電話する。

「あ、ちょっとストレスがね、溜まってしまったようで。
お医者さんに退職を勧められたんだよ。心配しないでね。
大丈夫だから、大丈夫だから。

過剰な「大丈夫」。
余計に不安になる。

私の父は何に対しても一生懸命まじめに取り組む。
20年間勤めている会社に「皆勤賞」で表彰されたり、
50過ぎても仕事に必要な資格を取るために休日本を読み漁っていた。

でも、父がうまくいっているのをみたことはない。

「皆勤賞」で表彰されたばかりのときに、
ストレスで会社にいけなくなってしまった。

一生懸命勉強していた資格は、
当時大学生だった弟がほぼ勉強せずにすんなり取得した。

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ふと昔のことを思い出す。小学校低学年のときだ。

給食室にアスベストが使われていたことが発覚し、
家からお弁当を持ってこなければいけなくなった。

普段は母がお弁当を作ってくれているのだが、
ある日、体調を崩してしまい代わりに父がお弁当を作った。

父はナポリタンしか作れない。
お弁当の中身もナポリタンだった。

学校でお弁当の蓋をあけたときのことは今でも覚えている。

一緒にお弁当を食べている友人は、
何種類ものおかずが詰まったお弁当箱を持っている。
私のお弁当はナポリタンだけがびっしり入っている。

恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
一緒にご飯食べている友達に見せたくなかった。

「間違えて妹のお弁当持ってきちゃった!変えてくる!」
教室をでて、ご飯の時間をトイレで過ごし、
放課後、家に帰ってすぐにキッチン横の生ゴミ入れにナポリタンを捨てた。



23時過ぎ、仕事を終えて帰宅した父に怒鳴る。
「お弁当にナポリタンだけって!恥ずかしいよ!捨てたからね!!」


その時の父の顔を私は一生忘れない。

怒ってもおらず、
悲しんでもおらず、
もちろん喜んでもいない。

あえていうなら「どうしたらいいのかわからない顔」

私はその瞬間悟った。

父は私を困らせるためにナポリタンを作ったのではない。

普段から「お父さんのナポリタンは日本一おいしい!」
といっていた私を喜ばせようとしたのだ。

家族皆父のナポリタンが大好きだった。

朝6時半には仕事に向かう父が兄弟3人分のお弁当を作る。
お弁当を作り慣れていない父は4時半に起きて料理をしてくれた。

頭が真っ白。

「ごめんなさい、せっかく作ってくれたのに...」
急いで謝ったがもう遅い。

父は言う。
「大丈夫、大丈夫だよ。
パパこそナポリタンしか作れなくてごめんね」

小学校低学年。
初めて「死にたい」と思った。

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先日、母はこっそり教えてくれた。
1年ほど前から父は仕事がうまくいっていなかったらしい。

20年働き続けた会社、
後輩にどんどん追い抜かれてしまい、精神的に参ってしまったそうだ。

東京まで片道2時間弱、朝6時代の電車に乗って出勤し、
家に帰ってくるのは23時前後。

気がつけば眠れなくなり、
会社に行けなくなるほど体調を崩してしまった。


私は父の背中を見て、
一生懸命仕事をするのをやめた。

一生懸命仕事をしなければ、体は崩さない。
一生懸命勉強しなければ、子に負けても恥ずかしくない。
一生懸命作らなければ、お弁当を捨てても罪悪感がない。

力を抜いて生きる。
私は、父のようにはならない。

24歳。
これが「切ない」だと気がついた。