閑話休題 行政文書管理担当になって勉強したこと(行政文書の管理等について) その4

公文書管理に関する悩み(ガイドライン等を実物にあてはめるときなど)

 公文書管理の考え方の一般的なものはガイドラインを含めて示されているものの、個々の行政文書の取扱については、どれが当てはまるのかが明確でなく、実務担当者としては困るケースもあったように思います。
 例えば、国又は行政機関を当事者とする訴訟に関する文書を行政文書ファイルにまとめるときに、ガイドライン別表第1の11(6)や12(6)は「訴訟が終結する日に係る特定日以降」としているので、保存期間の始期は訴訟が終結する日を基準として決定します。(具体的な始期は「特定日」がいつかという問題になります。)
 しかし、「訴訟が終結する日」については示したものがないので、判決が確定した日、あるいは和解により訴訟が終了した日など、それ以上訴訟が動かなくなったときと解釈することになると当時の私は考えました。
 もっとも、行政機関の職員はどんどん異動していくので、訴訟が終結する日の時点では文書を取得した(又は作成した)職員はおらず、保存期間の設定が引き継がれていないという事態が生じ得ます。
 行政文書管理システムは、基本的に年度単位で行政文書ファイルを管理する形になっていて、訴訟の場合を想定して、訴訟関係の行政文書ファイルにだけ、訴訟が終結した日を記録するようにはできていませんでした。
 行政文書管理システムをうまく利用して訴訟が終結した日を保存期間の始期として設定していくのですが、どういう理由で、あるいは、どういう方法で設定したかは、省庁の行政文書監理官室ではわからない可能性があり、設定した人間が異動していて担当部署も説明がうまくできないという事態が発生しえます。
 国の機関の行政文書の管理一般は内閣府所管なのですが、各府省の行政文書がどれにどう当てはまるかは、情報公開の不開示情報同様、実際に文書を見て、さらに、どのような業務に関係するものなのかということを把握して初めて判断できるものなので、公文書管理法を所管する内閣府に質問しても、基本的には各府省の判断ですというような回答になってしまうところがあります。内閣府は、各府省から上がってくる情報を元に、これは正しいのかと疑義をいただいた場合にはその事案についての説明を各府省に求めるなどはするものの、各府省から説明がなされた場合、内閣府が各府省の判断を否定するということはあまりなかったような記憶です。
 こういう点からしても、各府省が自己の行政文書管理規則に則って保存期間や期間満了後の取扱を定める場合には、その理由も合わせて引き継いでいかないと、なかなか大変なことになってしまうことがありうる、ということです。

 私が消費者庁の公益通報担当課長補佐に任ぜられ、同部署の行政文書の管理の仕事が回ってきたときに、従前のリストに記載された文書の所在を確認したところ、そもそも行政文書として扱うべきではないもの(各事案の処理のために集めた参考資料であって、各事案の処理が終わったならば用済みとなるもののようなもの)がリストに入っているなどしていました。これを整理すべく前任者に話を聞こうにも前任者も特定任期付であったためにすでに消費者庁の中にはいないという状況で、頭を悩ませながら、当時の消費者庁全体の公文書管理を担当していた部署と相談しながら、リストから消す場合の理由を考えるなどして、何とか整理したということがありました。このような実体験からしても、業務の引継ぎって大事だなと思うものの、引き継がせる側と引き継ぐ側の業務における問題の所在の認識がずれていると、引き継ぐ側からすれば重要なことがらの引継ぎがないとなって、大変な状況になってしまうので、引き継がせる側は、まっさらだった自分を思い出して何を知りたいかを考えて引継ぎ資料を作っていただくのが良いのではないかと思う次第です。

デジタルデータのプロパティに記録されている情報の取扱い

 行政文書の定義自体は、国の機関であれば公文書管理法、地方公共団体であれば情報公開条例や個人情報保護法を受けた条例などで決まるわけですが、デジタルデータのプロパティとして記録されている情報が、行政文書の内容に含まれるかという問題があります。
 プロパティ部分を行政が意図的に記録しているならば、審査会の答申において行政文書該当性を否定していた理屈(審議会は諮問庁の「職員が職務上作成したものでもなければ、組織的に用いることもないものであって、法2条2項に規定する行政文書に該当しない」との説明を是認しています。令和元年度(行情)答申第52号参照。)が当てはまらなくなるので、行政文書管理のための情報をプロパティに記録した場合、その部分も行政文書の一部として扱っておくことになるものと考えられます。注意が必要です。

「写し」の取扱に関する注意点

 年明けになると、公文書・行政文書の移管や廃棄を準備するタイミングになってきます。
 職務上作成、取得した文書は、決められたルールに従ってきちんと保存(物理的または電子的なファイリング)し、ルールに従って期間満了時の処理を決める(廃棄or移管)というのが最初にやるべきことです。
 そもそも公文書・行政文書なのか、担当者の手控えやメモなのかをきちんと区分しておくということが重要で、組織的に用いるものを手控えとかメモ扱いにしてはなりません。
 また、紙媒体をスキャンしたデータやメールも公文書・行政文書に該当しえます。
 スキャンしたデータは写しなので、紙媒体が保存されていればスキャンデータ自体は写しとしての処理で良いですが、紙媒体を永年保存するために電子化する意図でスキャンしたのであれば、スキャンしたデータを公文書・行政文書として扱う必要があります。この場合、紙媒体のものが写しとなりますから、写しとしての取扱をすることになります。
 なお、写しであっても、行政機関が保有していて、組織供用されているのであれば、公文書・行政文書に該当します。特に、実際に写しが存在するのであれば、情報公開請求や個人情報開示請求の対象になりますから、請求における対象文書の決定の際に、写しであるということだけで対象から排除するのは正しくありません。請求者の意図が、写しと本体がある場合には本体だけで良いということであることをきちんと確認していれば、写しを除外しても問題ありませんから、請求者の意図を確認するという手間を惜しんではなりません。
 紙媒体が保存期間満了で廃棄されていたとしても、電子データで写しがあるならば、前述のとおり、その写し自体が別途情報公開請求の対象となるので、行政機関としては写しが残っていないかの確認も必要です。
 情報公開に関する記事のその5で書きましたが、文書のバージョン違いだけでなく、写しがあるということもあり、対象になる文書はどれかというところについては注意が必要です。対象になる文書が何かは、開示請求等の記載内容にもよるわけですが、請求者本人の意図するところは重要なメルクマールあるいはファクターです。記載内容を行政機関で勝手に解釈し、請求者が内心では欲しいと思っていた行政文書を開示対象から外すようなことをして、請求者との間で揉めてしまい、審査請求等がなされるという事態になることもありえますから、記載内容がわかりにくければ請求者に確認し、どういう意図であるのかの記録を残したり、請求の記載内容を補正したりするなどして、請求の対象となる行政文書の範囲を確定するようにしていくのが、請求対応担当者のあるべき姿であろうと思います。