閑話休題 弁護士法に基づく懲戒処分、これに対する審査請求と裁決、裁決の取消訴訟の関係の検討

弁護士法に基づく懲戒処分は講学上の行政処分

 弁護士法56条2項は「懲戒は、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会が、これを行う。」と定めているところ、同法59条2項は「前項の審査請求については、行政不服審査法第9条、(略)の規定は、適用しない。」としていますから、弁護士法に定める懲戒処分は、行政不服審査法1条2項の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当することを前提としていると読むことになります。
 行政法の行政処分の定義については諸説あるところですが、最高裁判所の判例によれば、

「行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、所論のごとく行政庁 の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または 公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまた はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものである」

 とされていて、弁護士法に定める懲戒には業務の停止、退会命令や除名など、弁護士としての業務を行えなくなるという意味で「直接国民の権利義務」に係わるものですから、弁護士会が「行政庁」に該当すれば、行政庁の処分ということができることになります。

 「行政不服審査法の逐条解説 第2版」宇賀克也著 有斐閣刊の行政不服審査法1条の「行政庁」の解説によれば、

 「弁護士会が行う懲戒処分(略)も「処分その他公権力の行使に当たるので、(略)、弁護士会も「行政庁」に当たる。」

 と説明されています。
 先の最高裁判例は、行政庁の行為のうち一定のものを行政処分としているのに、宇賀先生の「処分その他の公権力の行使を行うから行政庁」という当てはめだと、トートロジーのようにも見えなくもありませんが、少なくとも、弁護士会の行う懲戒処分は「行政庁の行う処分その他の公権力の行使に当たる行為」(行政不服審査法1条2項)に該当するということは判例・通説ということで良いでしょう。

弁護士法に基づく懲戒処分に対する審査請求

 弁護士法に基づく懲戒処分に対する審査請求は、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、行政不服審査法の定めるところによる(行政不服審査法1条2項)となっていますから、行政不服審査法に基づくものということになり、この審査請求に対しては、各弁護士会の上級行政庁たる日本弁護士連合会が裁決を行います(弁護士法59条1項)。

裁決の取消訴訟とその判決の効力

 日本弁護士連合会のした裁決が取り消された場合、関係行政庁を拘束し(行政事件訴訟法33条1項)、裁決をした行政庁は、改めて裁決をしなければならないことになります。
 日弁連の裁決が審査請求の一部認容一部棄却である場合には、同条2項及び3項がそのまま当てはまるわけではないですが、同条2項の趣旨からすれば、判決の趣旨に従って審査請求に対する裁決をすることになると考えられます。
 条解行政事件訴訟法第3版補訂版574頁によれば、認容裁決が実体的違法を理由に取り消されれば再度認容裁決がされる可能性がないため、同法33条3項は手続的違法のみを規定したとしています。
 裁決が取り消されれば、審査請求に対応する裁決がないことになりますから、改めて裁決をする必要が生じます。認容裁決が実体的違法を理由に取り消された場合は、同法33条3項ではなく、同条1項により関係行政庁が判決に拘束され、その内容での裁決を行うべきことになると考えられます。
 なお、裁決が一部認容一部棄却であり、その裁決が判決で取り消された場合、原処分はどうなるかといえば、形式的には原処分が残っていることになりますから、不整合処分の取消義務の有無やその法的性質・効果と合わせて議論となっている、というのが現在の議論状況のようです。
 裁決で変更が加えられた原処分について、裁決が判決で取り消された場合、判決の内容が関係行政機関を拘束するので、処分庁は判決に沿った形で原処分を変更する義務を負い、変更されるまでは原処分の効力がある、というのが整合的と考えます。

行政不服審査法の前提と問題点

 行政不服審査法は、行政処分を行った行政庁又はその上級行政庁が、不服を申し立てられたことを契機として、簡易迅速かつ公正な手続(行政不服審査法1条1項)で処分について再検討する、というのが基本コンセプトになっています。
 「簡易迅速」とはいいつつも、行政処分には様々なものがあり、それこそ今回のテーマのような弁護士会の懲戒処分のようなものから、生活保護法に基づく費用徴収のようなものまであり、争点が複雑多岐にわたり、証拠の数も多いような案件の場合には、審査前置でないならば訴訟で争った方がふさわしいというようなものもあるところで、そのような案件について「簡易迅速」な判断を行政庁に求めるのは少し厳しいと思われるところもありますし、審査請求の判断が出てから訴訟をということですと、かなり時間を要することも考えられます。
 審査前置でない場合であって、証拠が多数あるとか、争点が多岐にわたることが見込まれる案件については、訴訟を選択したほうが結果的に結論が出るまでに要する時間が短くなるということもありますから、手続選択においてはこのような視点も必要かもしれません。