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グレイテスト・ショーマン動画によるYes,andの解説

みなさま、グレイテストショーマンという映画はご覧になりましたでしょうか? 心が熱くなるとても良い映画です!
その映画の事前ワークショップの様子がYoutubeにあがっているのですが、これが素晴らしいものなのです。おそらく観たことがある方が多いのではないでしょうか。まだご覧になっていない方はまず観てくださいませ。

僕の演劇ワークショップでは「Yes,and」という言葉を多用していますが、これがなかなか説明が難しいのです。
ところがこの動画の空間にはYes,andの精神、そして演劇(ひいてはコミュニケーション)の大切な要素がわかりやすく詰まっていますので、動画のシーンを細かく切り取りながらYes,andの解説を試みようと思います!



〇エネルギーを出す(心をさらけ出す勇気)

この動画の主役キアラ・セトルさんはこれまで自信がなく、「ありのままの私でいい」と歌う『THIS IS ME』という曲を胸を張って歌えなかったようです。

初めは泣きそうな顔で歌い出しています。

動画1:00頃

まずここでキアラさんは自分の弱さや不安を隠さずにそのまま表現しています。これは自分に対するYesの姿勢と言えます。舞台に立つと誰もが自分を守りたくなります。多くの目にさらされた中で自分の弱さをさらけ出すのは並大抵のことではない。それでも勇気をもって自分をそのまま表現するありのままの心をさらけ出す(=エネルギーを出す)。これが素晴らしいと思います。

〇他者に頼る勇気

動画1:29頃

そして、頻繁に仲間の方に目線を送っています。
しんどい時、つらい時、どうしても人は自分の内側に閉じこもりがちです。でもそういう時こそ外に目を向けた方がいい。「助けてほしい」と素直に他者に頼る強さが大切。これもとても勇気がいることです。

動画1:49頃

監督の方にも目線を送ります。「私はいま不安である」「恐れを感じている」「助けてほしい」「でも逃げたくない」という弱さともとれる感情が表情から伝わってきます。

〇安心感を得て不安定に飛び込む

そしてキアラさんは目の前にある譜面をどかして前に出ていきます。

動画1:55頃

仲間たちに目線を送り、彼から自分に答えてくれる、助けてくれる、この場に敵はいないということを理解できたんだと思います。キアラさんは安心感を得ることで部屋の中央へ出ていくことができた。その場でずっと歌うことだってできたはずです。でも勇気をもって不安定な場所に自ら飛び込んだ。素晴らしい感性だと思います。

〇相手のために

そこから仲間たちのコーラスが入る。キアラさんは彼らの方を向いて助けをもとめています。そして紫のパーカーを着た方が椅子?の上に立ち上がり歌い始めます。

動画2:18頃

ここまでキアラさんは主役としての責任を果たしてきました。つまり、心をさらけ出すこと、助けを求めること、仲間を信頼すること。その勇気に仲間たちがYesし、そしてandを発露させていきます。
たとえば、ここで椅子の上に立つ必要はないわけです。なぜそうしたのか?
仲間たちに助けを求めるキアラさんを肯定し(Yes)彼女にエネルギーを送るために自分にできることをした(and)んだと思います。
そこからキアラさんのためにパフォーマンスし続けます。そしてキアラさんもそれをただ受け止めるだけじゃなく、仲間にYesし表現をお返ししていきます。二人の間にYes,andの相乗効果が生まれどんどん高まっていく様子が見られます。そしてその二人に引っ張られ周りの人たちもヒートアップします。主役を主役にするのは周りです。主役がただ自分だけで輝こうとしてもそれはクサい(過剰な)表現にしかならないのです。

ここから特にピアニストの方に注目していただきたいのですが、ほとんど譜面を見ていません。

動画2:30頃

もちろん暗譜しているんだと思いますが、それにしてもずっとキアラさんを見ている。このとき彼はもう自分が失敗するとか、間違えるとか、そんなことは頭から消え去っていると思います。自分のことなどどうでもよく、ただ相手(キアラさん)のために表現しています。これこそまさに表現者にとって理想的な状態です。相手のために表現することが、結局は自分をも輝かせるのです。

〇いっしょになる

ここまでYes,andが積み重なるともう怖いものはありません。

動画3:13頃

スタッフであろう人たちもノリノリで歌い踊っています。この場にいる全員がいっしょになってひとつの表現を作り上げています。この場にいる限り他者ではいられなくなり、失敗とか後悔とかそういったものは消滅します。ただこの場にいて、ただ表現し続ける。そういう素晴らしい状態になっています。

動画3:27頃

ピアニストの方の顔を見てください。口開いちゃってますよ。もう自分の見た目とかそんな些細なことはどうだってよくなっているんです。本当に素晴らしい……

〇一歩目を踏み出す勇気

ということでここまで動画を細かく解説してきましたが、最後に書いておきたいのは、この状況はキアラさんの勇気から起こったことだということです。もちろん多くの方がYes,andして協力することで生まれた奇跡ですが、まずキアラさんが勇気を出さなければこうはならなかった。そして勇気を出したからといって、いつも素晴らしい結果になるとは限らないのです。自分の勇気が誰にも受け取ってもらえないことだってあるかもしれません。いろんなことが嚙み合わず表現として出来の良くないものが生まれることもあります。それでも誰かが一歩を踏み出さなければ何も起こらないのです。

〇演劇ワークショップの意味

演劇のメソッドではこういった感覚をトレーニングすることができます。恐れずに一歩を踏み出すこと、そして誰かが踏み出した一歩をしっかり受け取ってYes,andしていくこと。これは舞台の上だけではなく人生における多くの場面で肯定的に働くと思います。
わかりやすく即効性があるわけではないかもしれません。それでも繰り返しトレーニングしていけば、動画のキアラさんのようにこの感覚を体験できる瞬間があると思います。
もしよかったら、演劇ワークショップでいっしょに一歩目を踏み出してみませんか?

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