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「ガッキー」という回答

年下の人間、いわゆる学生時代や会社の「後輩」に偉そうにすることなど、普段はなるべくしないように心がけているのだが、ついにこの前その不文律を破ってしまった。

今年の4月から新卒で入ってきたスズキと、会社近くの居酒屋で飲んでいた時のこと。やはり最近出会ったものだから、こちらが色々と質問を投げかけ、スズキがそれに答えていくという流れがベースになる。
スズキは真面目な男だ。生まれも育ちも大阪だというが、いわゆる皆がイメージしている「大阪人」とはかけ離れている。自分から冗談を言うことはまずない。どちらかというと「富山の山奥で平穏に暮らしてきた」と言われた方がしっくりくる。ピュアで、ネットに疎く、人のつながりを大事にして生きてきたような青年だ。富山の皆さん、なんかごめんなさい。

スズキは「本気」と「冗談」を聞き分ける能力に関しても少し欠落している。ある新婚社員がボケで「俺、嫁さんおって子供ももうすぐ産まれるけど童貞やねん」とスズキに言ったところ、

「ど、ど、童貞でそんなことってありえるんですか!?」

と、こちらの意に反してシリアスモードに突入したのだ。大阪での模範解答があるとするならば「じゃあ誰の子やねん!」と瞬時に突っ込むのが正解だろう(ツッコむ時は先輩であろうとタメ口で言うのがベター)。つまり真面目な反応というのはボケ殺しなのだ。「何で信じるねん!」となってしまう。
しかし、そんな真面目すぎる彼を見ていて楽しくなっている自分がいる。ピュアだなーと。僕もこういう人間でありたかったと。

その飲み会で、話が「好きな女優は誰か」というお決まりのトークテーマになった。周りの社員は「広瀬すず」だったり「橋本環奈」といった名前を挙げる。僕はもちろん「二階堂ふみ」一択だ。そしてスズキのターン。スズキは考え込む。なかなか即答できない。そして、ためてためて出した答えが「ガッキー」ときた。その瞬間、頭に血が上った。ためてためてガッキーかよ。そのスズキの回答を受けて、その場がどうなったかというと、「ああ、ガッキーか。そうなんや。…………」

ほらな!?こうなるに決まってんだ!

広瀬すずや橋本環奈は話が広がるのだ。なぜか。「彼女たちが嫌いだ」という人も一定数存在するからだ。「いやー、あれはないわー!」とか、楽しい論争ができたりする。あるいは、会社のおっさん連中などは「誰やそれ」となって、スマホで写真を見せたりしながら楽しむことができる。
でもガッキーは違う。ガッキーはみんな知っている。そしてガッキーはみんな好きだ。石原さとみも同様。ひと昔前の上戸彩もそう。こういう時に「みんなが知っていて、男がみんなが好きな女優を挙げる行為」は犯罪に近い。場の流れがそこで止まってしまうからだ。

しかし、「スズキは心底ガッキーが好き」という可能性もないわけではない。だから僕は念の為聞いた。
僕「背高い女性がタイプなんか?」
そう、ガッキーはデカい。我々が思っているよりずっとデカい。公称169センチとなっているがネット民の声では175くらいが妥当だという判断だ。
スズキ「え?ガッキーって大きいんですか?いや、何となく顔がタイプの女優選びました」
もう、これは言うしかない。

「あのな、スズキくん。今のこの雰囲気見てみ?『ガッキー』なんか言われてもたら、場の流れが止まってまうやろ?しかも自分、ガッキー特段好きなわけじゃないっていうのバレバレやで。もっと会話が広がるような女優のチョイスをせなあかんわ」

トドメとして帰ってからラインを送り、一日考える時間を与え、好きな女優を答えさせた。

ああ、安心してほしい。自覚はある。

ただのウザい先輩だ。

そしてこれは、受け取った人によっては、

完全アウトのパワハラである。

分かっている。何気ない会話の中で、何気なく答えた回答でなぜか先輩にブチ切れられ、大して好きでもないインリンオブジョイトイを推せと指示を出される……
さすがに僕も言いすぎたと思い、後日ランチをご馳走した。「後輩に対して偉そうにしたら、お会計は少しでも多く払わなければいけない」というのは「ガッキー以外で答えよ」というのと同じくらい重大な鉄則だ。

もちろんこういうことを、言っていい後輩と、言ってはいけない後輩で使い分けている。昨今社会問題になっている職場内でのパワハラ問題を起こすような輩は、ここの区別ができていない。
例えば、場を盛り上げるために女性社員の前で下半身をモロ出しにしたとする。ここでその女性社員が気分を害すようなことがあれば、それはもうただの変質者なのだ。しかしこの世には「嫌がるフリをしながらむちゃくちゃ凝視する女性」もいれば「サイズや形を冷静に分析できる女性」もいる。要はそこの判断、勝負所をいかに見極めるか、なのだ。ここが勝負、ここが出しどころだと思った時だけこのカードは切れる。僕もある程度出してきた側の人間だから分かる。

話が逸れた。伝えたいことはたった一つだ。「ガッキー」と言うのはもうやめよう。それを言ったところで何にもならない。それからもう一つ、カラオケで「睡蓮花」を歌うのももうやめよう。4人でカラオケに行くと絶対に一人は歌う。湘南乃風の印税に貢献したいならば「親友よ」にしてくれたまえ。それからもう一つ、「夢は叶う」ということを伝える時に「イチローや本田圭佑の卒業文集」を出すのはもうやめてくれ。そういうことではないのだ。理想も大事だが現実を伝えろ。あ、あと鬼気迫っている表情を「バチバチの時のジャックニコルソン」と喩えるのももうやめよう。あとそれに対して「シャイニングの時のね!」と被せるのもやめよう。

P.S.ワーホリの渡航日、11月4日に決まりました。マレーシアに寄ってからオーストラリアへ行きます。10月26日に僕の送別会を大阪でするので誰でもカモン!!

サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。