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みんなが無理なく、ちょっとずつ。多彩な地域プレーヤーが連携する新規事業【みまたん宅食どうぞ便】

7月17日、宮崎県三股町のとある作業所にお邪魔すると20人以上のボランティアが集まりました。

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三股町では「みまたん宅食どうぞ便」(以下、どうぞ便)という取り組みが行われており、生活が大変と感じる子育て家庭に毎月食品をお届けしています。お届けする中で、お困りごとを見つけた時には、ご家庭に必要なサポートとつないでいます。

食品は地元の企業や農家の皆さんからのご寄付がメイン。集まった食材は、ボランティアの皆さんと一緒に仕分けを行っています。

この日の食材は、お届け定番品のお米と味噌に、じゃがいもやごぼう、近隣農家から届けられた夏野菜のゴーヤもありました。ボランティアさんは慣れた手付きで仕分け・梱包作業はあっという間に終わり、30世帯分のカゴが食材でいっぱいになりました。

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どうぞ便は、2018年4月から、月に1回のペースでご家庭に食品をお届けしています。

しかし、「食材を集め、定期的にご家庭に配送し、相談があれば、適切なサポートをしたり、必要な機関につないだりする」というのは簡単なことではありません。毎月の食材集め、梱包・配送、ご家庭との信頼関係作り、そして個別のサポート・・・。「どのような人たちがこの事業を作り上げ、支えているのだろう?」それを知るために、宮崎県の三股町に行ってきました。

取材を通しての3つの気付き(前編):

1.  「地域の子ども達を笑顔に」という事業のミッション・ビジョンに共感してくれる企業・経営者とつながる。企業の本業を活かして無理なく続けられる応援の形を考える。

2.  ボランティアは「作業」をお願いする人ではなく、親子の良い変化ややりがいを共有し、一緒に事業を作るプレーヤー。面白い・楽しい事業ならみんな続ける

3. 「本当にご家庭に必要なこと、子ども達のためになることは?」という利用者目線で事業を考え、より良くしていく

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「地域に支えられているから、自分たちも地域を支えたい」地元企業の温かい応援

「農業は、食、ヒト、地域の未来を支える使命があります」と企業サイトに理念をかかげる有限会社ファームヤマトさん。宮崎県都城市で根菜などを生産する農業生産法人で、取材した日もごぼうをどうぞ便に提供してくれていました。

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「農業はその地域に根差した事業で、地域や住民の人に支えられている。どうぞ便の話を聞き、困っている親子がいるならば自分達ができる範囲で何か協力したいと思った」と語る社長の川路さん。ご自身にお子さんが3人いることもあり、食に困っていたり、なかなか支援が届かない親子の問題を身近に感じたとのこと。

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どうぞ便には毎月カゴ1-2つ分の野菜を提供しています。「全体の生産量からすると、毎月無理をせずに協力を続けられる量。どうぞ便が車で取りに来てくれるのも負担が無い。」

毎月の野菜の集荷のためにどうぞ便の事務局が川路社長に電話をすると、「今月の野菜は◯◯ですよ」といつも明るく対応してくれるそう。「地域の子ども達の為に、企業活動を通じてできることをしている」という自然体の姿勢・思いがとてもまっすぐで素敵だと感じました。

次に取材したのが、都城市にある、明治4年創業、醤油や味噌などを手掛ける老舗総合食品メーカーのヤマエ食品工業株式会社さん。地元に根差した企業で、毎年、都城市や近隣から小学生から大学生までたくさんの子ども達や学生が工場見学に訪れるそうです。

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取材を受けてくれたのは常務取締役の江夏さん。シーズン商品やパッケージ切り替えの商品などに着目し、社内の在庫会議で話を通して7月からどうぞ便に鍋の素などの自社製品の寄付を開始。

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「食は人間の活動を支える基礎。食品関係の事業をしているからこそ、食で困っている親子や、食品を入り口とした支援活動に協力していきたいと思った」と話してくださいました。

創業家の江夏家には代々続く「生かされて生きる我が生命 常に関心奉謝して 質素な生活世に尽くせ」との家訓があるそうです。「事業を通じ地域への還元を続けていきたい。周りの経営者とも、異業種の団体や事業が組んで地域の問題を解決していくことが必要だと話している。」

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江夏さんも川路さんと同じくお子さんが3人いらっしゃるそうです。お二人のような若い経営者の方々が本業を経営しながら地域の身近な課題に目を向け、自然体で「どうぞ」の気持ちを届けているところがとても印象的でした。

また、営利事業をしているビジネスパーソンだからこそ、寄付や食品提供が一度で終わらず持続的なものになるよう無理のない協力体制を準備しているところも、どうぞ便が毎月バラエティにとんだ食品のお届けを継続できている一つの鍵なんだと勉強になりました。

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「楽しんでいたら自然と続いた。いまはみんなのやりがい」 地域の支援の輪

どうぞ便が食品をお届けした親子の中には、地域の学習支援につながったお子さんもいるそうです。

地域の子ども食堂「りんりん食堂」とどうぞ便両方のボランティアをする津崎さんは「なぜ自分の家はほかと違うのか、自分には居場所がない、そう思う子ども達に出会ってきた。その気持ちを楽にしてあげたくて居場所を作った」と話します。

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(学習支援立ち上げの話を聞かせてくれた津崎さん)

どうぞ便の中でつながったご家庭のお子さんが高校進学を控えていたことから、どうぞ便事務局の三股町社会福祉協議会に相談し、無料の学習支援「森の子学習塾」を立ち上げた経緯があります。通っているお子さんの成績が少しずつ伸び、希望の進学先に合格できたといった嬉しいニュースもあるそうです。

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(毎週、学習塾の場所を提供するこども園理事長の屋敷さん)

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(どうぞ便の事務局を担当する三股町社会福祉協議会の松崎さん)

事務局の三股町社協のメンバーは「作業をお願いするのではなく、ボランティアが自ら主体的にやれることをやり、家庭や子ども達が変わる。それが面白そうに見える、楽しそうに見える。そうすると自然に手伝いたいという人が増える」と話します。

ボランティアの人手の確保は慈善活動を続ける上で非常に大事なポイントです。森の子学習塾は、ボランティアのメンバーの大人の方が「これが無くなったら自分の方が困る(寂しい)」と言うくらい、充実した活動になっているそうです。

点と点の支援をつなげるネットワーク、新しい支援を作り出すパワー、楽しさや充実感を共有し合って支援を継続するボランティアのチーム力、こういったものがどうぞ便や三股町の支援の輪の強みなのではないかと思います。

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「親子が夕食を手作りするハードルを下げたい」食のプロの思い

どうぞ便の毎月の配送品のカゴには、一枚の手書きのレシピが入っています。

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きっかけは、食品配送をしていたものの、野菜などにあまり手を付けない家庭があることに配送ボランティアが気づいた事。料理をする習慣がない・仕方が分からないという家庭にどうしたら食材を使ってもらえるか・・・そこで思いついたのは、レシピの同封です。

地産地消で生鮮品が多いどうぞ便では、お届けする食品の内容が配送の前日か当日まで分からず、集まった段階ですぐに「手軽に作れて親子に喜ばれる美味しいレシピ」を考える必要があります。

取材した配送日は夏野菜が多く、レシピは、どうぞ便で買い足したトマト缶と市販のカレールーを足して作るカレー。(とても美味しそうでした!)作成しているのはりんりん食堂でも活躍する管理栄養士の花房さんです。

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「最初は、自分のモットーもあり、添加物を使わない料理やレシピを提供したいと思っていた。でも、どうぞ便の方から、そもそも料理をする文化の無い世帯、手作りの料理を食べる機会の殆どないお子さんもいると聞いて・・・・自分の考えにこだわるのではなく、最初は『家庭でお米を炊いて、地域の食材を使ってお味噌汁を作る』でいい、自分がそのサポートができたら、と思うようになった」と話してくれました。

どうぞ便でいつも野菜と一緒に同封するのは地域で手作りしたお味噌。お味噌と野菜があればお味噌汁が作れます。

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どうぞ便でのレシピ作りを通して地域の子ども達の食育に携われる、自分一人ではそんなに多くの家庭につながれない。レシピをきっかけに徐々に親子が料理をするようになってくれたら嬉しい。」

食品配送一つとっても、単に集めたものを届けるだけに終わらず、「本当にご家庭に必要なこと、子ども達のためになることは?」を考え続けて常に事業をアップデートしているところがどうぞ便の強さであり、ご家庭とつながりを継続できる秘訣だと思いました。

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三股町取材の後編は、食品を届けた後のご家庭との関係性づくりや、必要なサポートへのつなげ方についてご紹介します。


▼こども宅食応援団はふるさと納税で活動資金を募っています。よろしければ応援をお願いいたします。
https://florence.or.jp/v6io


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