見出し画像

LOG ENTRY: SOL 623

 火星に取り残された宇宙飛行士マーク・ワトニーの日誌にならって始めたこの「LOG ENTRY: SOL XX」スタイル。XXには、僕がNASA JPLに就職してからの経過日数が入る。今日は623日目だ。

 始めた頃はほぼ毎日更新していたが、案の定、途中から見事に更新が間遠になってきた。しかし、実は本家アンディ・ウィアーの小説『The Martian』でも同じようにだんだん日付が飛び飛びになっていくのだ。そして、何を隠そう、僕はその日付の飛び方まで完璧に一致させてきたのだ・・・!

嘘です。

楽しみにしてくださっている方々、更新が滞っておりすみません。こんな個人の日記でも、ひと月に一人くらいの方から「note更新してください!」と言っていただけます。気が付けばフォロワーが激増しており、noteの中の人が架空アカウントを大量作成したんじゃないかと疑っております。

 それはそうと、アンディ・ウィアーの新作『Artemis』を購入して少しずつ読み進めている。舞台は、2080年代の月面都市。主人公は、女密輸業者ジャスミン・バシャラ。映画化も決定している。前作の映画『オデッセイ』が大ヒットしたので、今作にも大きな期待がかかるが、その重圧をはねのけることができるか。

★彡

 JPLでのエンジニアの典型的な働き方は、複数のプロジェクトを掛け持ちし、それぞれのプロジェクトに対して毎週働いた時間分をチャージして自分の給料を満額そろえるというもの。

 こちらに書いたが、僕はハーフタイムで火星探査ローバーのシステム設計、ハーフタイムで小惑星探査機の自律化をやっている。

 といっても、毎週絶対に50%ずつ時間を使わなければならないわけではなくて、週によっては片方に仕事が集中することがあり、そのときは事実通りに「これは70%、これは30%」などとチャージするわけだ。

 これに関連して、最近面白いことがあったので、これは記しておかねばと思い、筆を執った次第である“φ(・∇・*)

キャンパスにときどき現れるR2-D2。この日はBB-8付き。関係ないけどスター・ウォーズの俳優陣って、よその銀河だからか、いわゆる俳優っぽい顔の人ってほとんどいなくて、なんか普通の人そろえてるよね。全員JPLにいそう。『最後のジェダイ』を見た翌日に、自律化のミーティングで同僚たちの顔ぶれを見て、こっちの方がよっぽど俳優っぽいわ、と思ったです。

25%失業した話

 小惑星探査機の自律化の仕事は今、3年間のR&TDプロジェクトの2年目なのだが、20人以上の人間が関わる大きめの研究技術開発プロジェクトだ。

 このプロジェクトがなかなか難航しており、当初の予定より多くの人間と時間を要している。そのため、先月の中間報告会の時点で17%(金額にして約1700万円)も予算を超過しているのだ。

 先日、このプロジェクトを統括しているL.F.が僕のオフィスにやってきた。L.F.は僕が所属する局の最高技術責任者でもある。

 過去の日記を振り返ると、最初の出会いはSOL 9に遡る。僕の上司が就職したばかりの僕を何人かの有力者に会わせる「種蒔き」をしてくれたのだった。そのときの日記では、僕はL.F.のことを「初老のおばあちゃん」「魔女の宅急便でニシンのパイを焼いてたみたいな、感じの良いおばあちゃん」と表現している。また、このプロジェクトが始まったSOL 88でも「偉いおばあちゃん」と描写している。

 あとからわかった話。白髪に見えた彼女の髪は明るいブロンドだった。そして彼女には大学生の子どもがいた。

 偉いことには変わりないが、決して「おばあちゃん」ではなかった。ここにお詫びして訂正したい。

偉いおばさん。

 その偉いおばさんがコンコンと僕のオフィスにやってきた。そして少し言いにくそうに言った。

「自律化のR&TD、あなたも知ってるように、予算を大幅に超過しているの。あなた今50%でやってるわね?それを25%に減らせないかしら?」

 まず僕の今後のタスクを口頭で確認した。それを半分の時間でやれるか、という話だ。確かに、一番の難所は越えていた。半分の時間でやれなくもない。プロジェクトの事情もわかるので「できると思います」と答えた。答えながら、僕はブラック労働を受け入れやすい性質だろうな、と思った。

 彼女は「その答えが聞きたかったわ」と言って去っていった。

 僕一人の25%をカットしたところで取り戻せるレベルの超過ではないので、他の人にも同様のことを言ってまわるのだろうか。大変な仕事だな。。

 さて、今度は僕自身の問題。空いた25%をどうやって埋めるかだ。なぜなら、このままでは僕の給料は75%しか支払われない。4日に1度、自宅をAirbnbで貸し出し、僕ら一家は車に寝泊まりしなければならなくなる。他の仕事を探してきて穴を埋め、自分の給料を満額そろえるのは、僕(と僕の上司)の責任なのだ。

つまり、僕は今しがた25%失業した。

 翌日、上司J.H.から"we need to talk"という題名のメールが届き、呼び出された。もちろん、残りの25%をどう埋めるか、の話だ。

 部下のプロジェクトの切れ目などに、他のプロジェクトに紹介したりなどして、新しい仕事を斡旋するのが、彼らグループスーパーバイザーの仕事のひとつでもある。僕は直接見たことはないが、どのプロジェクトがどのようなタスク内容でどのような人材をどのくらいのFTE*で必要としているか一覧できる社内データベースのようなものもあるようだ。

*FTEとは、Full-Time Equivalentの略で、一人のフルタイム職員が処理することのできる仕事率を表す単位として使われている。たとえばハーフタイムは0.5 FTEと表現する。僕は今0.25 FTEの仕事を探しているわけだ。

 J.H.はそのデータベースと思しき画面をザッピングしながら、これは0.5 FTE要求しているだの、これは伝統的システムズエンジニアリングすぎる仕事だの、これは開始時期が遅いだの、ブツブツと独りごちている。

 僕の興味と能力に合致する仕事を探してくれているようだが、ぱっと見、0.25 FTEでできそうなちょうどよいものが見当たらなかったようだ。

 そこで、J.H.は次のような提案をしてきた。

 自律化のプロジェクトにおける僕の担当は、システムに異常が発生したときに自動でそれを検知し隔離するソフトウェアの開発なのだが、実は同じソフトウェアを使う別のプロジェクトにもちょいちょい顔を出していた。

 まず、第一の策として、そちらに0.25 FTE分のお金を捻出できないか聞いてみろ、と。確かに、これでよければ僕はほぼ同じ仕事を継続できる。

 もしそれがダメなら、第二の策として、もう一方の火星探査ローバーのプロジェクトで、0.25 FTE分仕事を増やすことができないか聞いてみろ、と。なるほど、火星ローバーに25%比重を移す、ということか。

 そして、そのどちらもダメなら、いよいよ真剣に探し始めるから、と。僕にとって全く新しい仕事ということになると、3つのプロジェクトを掛け持ちすることになり、さらに忙しくなるだろう。

 とりあえず僕は第一の策、故障診断の研究プロジェクトを率いるS.C.にコンタクトしてみた。

・・・今日はもう書き疲れたのでこのへんで。つづきは後日書きます。

★彡

6歳と4歳と一緒に作った国際宇宙ステーション。シンプルそうに見えて、部品点数が390もある複雑システム。娘二人が調達と組立。僕がプロマネと品質保証。システムズエンジニアの手腕が問われるプロジェクトだった。

★彡

Voicyはじめました

 Voicy(ボイシー)という音声メディアがある。インターネットラジオのようなものだが、一般人が自由なスタイルで配信できるので「声のブログ」という表現の方がぴったりだ。

 今年に入って、ネット界隈の著名人たちが配信を開始したりして、一気にユーザーが増え注目を集めている。素人のパーソナリティでも、BGMが入ると、それっぽくなるから不思議。

 Voicy代表の緒方CEOは、とにかくエネルギッシュで面白い関西人だ。彼がアメリカを放浪していたときにボストンにもしばらくいたことがあって、僕も当時MITにいたので、そこで知り合った。僕の妻がラジオ局で働いてたこともあって、Voicyには立ち上げから注目していた。

 そこに緒方さんから宇宙の番組をやってみないかとお誘いをいただいた。宇宙の話、どれくらい需要があるのかわからないけど、日本に宇宙の競技人口を増やしたいとは常々思ってきた。そして、ここに書くのもなんだが、

書くよりしゃべる方が好きだ。

 どこまで続くかわからないけど、はじめてみることにした。簡単に言うと「NASAで働いてるけど何か質問ある?」というチャンネルだ。

 NASAで働くエイリアン(こちら参照)が、宇宙について極めて平均的な知識と興味しか持たない地球人代表を相手に、あの手この手で宇宙の誤解を解いていくチャンネル。

その名も「地球のみなさんこんにちは」。

 はじめは、収録と配信ってどのくらい腰が重いんだろう・・・と恐れていたが、録り始めてみると、なんということでしょう、ブログが筆不精な僕でも気軽に気楽に録れる・・・!!

 もちろんお話する内容は、改めて細部を勉強し直すのだが、これは僕の本業にも生きる勉強だし、その話をいかに卑近な例に置き換えて一般の方々向けに面白く話すかを練るのは、創造的ですごく楽しい。そして、こうしてストックされていくネタは必ずまたどこかで生きる。

 僕が楽しみながらスベりながら語りべとして成長していくさまを見守っていただけたらありがたい。あ、もちろんnoteも更新します。

★彡

GWあたりから配信を始めて、5月21日現在、第9回まで配信中。
第1回:宇宙人はいるの?
第2回:オリオン座が消える!?
第3回:地球外文明は何個ある?
第4回:宇宙人、本当はいない?
第5回:宇宙はビッグバンで誕生したの?
第6回:この世で最も大きな話
第7回:火星ローバー、冬ニモ負ケズ、夏ニモ負ケズ
第8回:なぜ地球外文明の証拠が皆無なの?
第9回:人類はいつ火星に到達するの?
Peingという質問箱で、質問やコメントを募集しています。

大学院に通院してた頃、明け方まで研究やって、めざましテレビで「愛ちゃん」のお天気ニュースに癒されて寝るのが日課だった。
まさかその愛ちゃんと注目チャンネルで並ぶことがあろうとはぁああ!!ありがとう緒方さぁああん!!ありがとう神の手ぇぁああ!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?