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NONA REEVES「DESTINY」(2000年)ライナーノーツ

※この記事は2013年にリリースされたNONA REEVES「DESTINY」再発盤CDのライナーノーツを再掲したものです。アルバムのオリジナル音源は各ストリーミングサービスで聴くことができます。

バンド初期サニーサイドの到達点

「DESTINY」は2000年10月12日にワーナーミュージック・ジャパンよりリリースされた、NONA REEVESのメジャー3rdアルバム。

小松シゲル(Dr)はこのアルバムを指して「普通はこれで解散してもおかしくないですよね。行き着くところまで行き着いてる」と笑う。現に「LOVE TOGETHER」「DJ! DJ! 〜とどかぬ想い〜」「AUGUST」「パーティは何処に?」など、今に至るまでライブで愛され続けるキラーチューンがずらりと並び、バンド史上最大のセールスを記録したアルバムでもある。それほどの突き抜けたポップセンスと高い完成度を持つ作品は、いかにして作られたのだろうか。

西寺郷太(Vo)は当時を振り返ってこう語る。「90年代が終わって21世紀を迎える直前、躁状態の世の中で、このままじゃダメだ、生き残れないって思ってました。『BAD GIRL』や『STOP ME』もそれほどヒットしていたわけじゃないし、早く次を見つけなきゃならない。じゃあ次は歌謡曲の要素を取り入れてみようって。自分のルーツの1つはMTV的な80'sポップスで、もう1つは少年隊や光GENJIのような歌謡曲。当時ヒットしていたJ-POPにはあまり共感できなかったけど、歌謡曲の中でも好きなものはあって、それが筒美京平さんの曲だったんです」。

筒美京平との接点は、ワーナーミュージックで当時ノーナを担当していたディレクター・渡辺忠孝が筒美の実弟である縁からもたらされた。「STOP ME」を聴いた筒美は「素晴らしい曲だが全部のメロディがよすぎるし、聴かせどころが多すぎて複雑」と感想を述べたという。歌謡界の巨人によるこのアドバイスを受けて、郷太は改めて自身のソングライティングを見つめ直し、“ダメもとで”筒美にプロデュースを依頼。これがきっかけとなり筒美京平 & NONA REEVESプロデュースによる「LOVE TOGETHER」の制作がスタートする。

郷太は「世の中に広く受け入れられるものを」という視点を強く意識し、筒美との細かいやりとりを重ねながら曲をブラッシュアップしていった。筒美が「ここのメロディが弱いから変えたほうがいい」といった形で修正の指示を出し、郷太はこれを受けて何種類かのメロディを提案。こうした作業を経て完成した楽曲「LOVE TOGETHER」は、メロディや展開の緩急が強調され、これまでになくキャッチーな仕上がりとなった。

ちなみに「LOVE TOGETHER」の制作は難航し、ミックスの最終段階まで修正作業が何度も繰り返された。そうした工程を経て完成した音源を聴いた筒美は、郷太に「ようやく商品ができましたね」と声をかけたという。「その言い方に京平さんの“ドライな優しさ”を感じたんです。『商品』という言葉にはセンチメンタルかつストイックな響きがある。俺もポップな商業音楽が好きだったし、自分が作った曲にお金を出してくれて、喜んでくれる人がいるっていうのはすごくうれしいことだなって」(郷太)。

切なさとまぶしさに満ちたこのアルバム「DESTINY」は、NONA REEVESのサニーサイドを象徴する傑作として今も多くのファンに愛されている。ポップに振り切れているという意味では、のちの「3×3」(2006年2月発売)や最新作「POP STATION」(2013年3月発売)に通じるテイストを感じる向きも多いだろう。タイトルはTHE JACKSONSの出世作となった1978年のアルバム「Destiny」からインスパイアされたものだ。

今回の再発にあたっては、翌2001年にリリースされたシングル「I LOVE YOUR SOUL」やワーナー時代の最後を飾るベストアルバム「GREATEST HITS / BOOK ONE」に収められた楽曲も多数追加。初期NONA REEVESがたどり着いた最初の到達点をこの1枚で味わうことができる。

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01. LOVE TOGETHER(ラヴ・トゥギャザー)

2000年3月25日にシングルとしてリリースされた初期NONA REEVESの代表曲。筒美京平とNONA REEVESの共同プロデュースによって制作された。「この曲の存在はデカすぎて、いまだによくわからないところがある。メンバーも俺も不思議な気持ちで作っていました」と郷太は当時を振り返る。2001年5月9日にアニメ「パラッパラッパー」の主題歌「LOVE TOGETHER 〜パラッパラッパーMIX〜」として再度シングル化されている。

02. 二十歳の夏(Pts. 1&2)(Hatachi No Natsu)

「LOVE TOGETHER」で筒美京平との共同作業を経験した郷太が、作詞面での松本隆への尊敬の念を表現しようと作った楽曲。それまで断片的なイメージを組み合わせた抽象的な歌詞を得意としていた郷太が、リアルな言葉で映像的なストーリーを描き出すことに挑戦している。ミックスは少年隊など多くの名曲を手がける大御所・内沼映二が担当。真城めぐみがノーナのレコーディングに初めて参加した記念すべき曲でもある。なおタイトルの「Pts. 1&2」は、前半にラジオエディット+後半にダンストラックを配置したソウルミュージックの定番スタイルを踏襲したもの。この曲では開始後5分からの後奏部分が「Part 2」となる。

03. DESTINY(ディスティニー)

EARTH WIND & FIRE「Fantasy」の世界観をギターバンドで表現することに挑戦した、ミディアムテンポのソウルバラード。グルーヴィなホーンセクションやベースラインがメロウなテイストを増幅させる。奥田健介(G, Key)が「いいのが弾けたと思ってる」と語るピアノのフレーズにも注目。

04. AMAZON(アマゾン)

THE WANNADIES「You And Me Song」にインスパイアされたロックチューン。当時「AMAZON」という通販会社が米国で大流行しているという記事を雑誌で読んだ郷太がその語感に惹かれてタイトルに採用した。冒頭のコーラスはドイツ民謡。ノーナはインディーズ時代の音源をまとめた編集盤「SOUL FRIEND」をドイツのレーベルからリリースしており、これに伴い2000年にフランクフルトでライブを実施。その後の打ち上げで現地の知人が歌ったドイツ民謡をDATで録音した音源が収録されている。なおこの曲のベースはカジヒデキが担当。「スタジオで会ったらフランス人が食べるようなおしゃれなサンドイッチを買ってきて食べてて、流石だなと思いました」とは郷太によるレコーディング時の思い出。

05. シリアス・ラヴ(SERIOUS LOVE)

AメロとBメロは郷太、ラスト「窓辺には〜」以降のコード展開は奥田によるもの。スケールの大きな曲が多いこのアルバムの中で、パーソナルな楽曲も欲しいという狙いのもとに制作された。宅録風のシンプルなサウンドに美しいメロディがよく似合う。

06. DJ! DJ! 〜とどかぬ想い〜 feat.YOU THE ROCK★(DJ! DJ! (What have I done to deserve this?))

2000年9月13日にシングルとしてリリースされた、YOU THE ROCK★とのコラボ曲。プロデュースは筒美京平 & NONA REEVES。当初タイトルは「DJ! DJ!」のみだったが、日本語のタイトルをつけたほうがいいという筒美のアドバイスを受けてサブタイトルの「とどかぬ想い」が追加された。もともとはYOU THE ROCK★が「LOVE TOGETHER」をラジオで聴いて感銘を受け、その後両者がスペースシャワーTVの番組で出会って意気投合したことがきっかけ。郷太がYOU THE ROCK★にコラボのオファーを行い、山中湖のスタジオ合宿でこの楽曲が制作された。曲の起点となるベースラインは小松の発案によるもの。メロディは郷太、コードは奥田が担当しており、作曲クレジットはノーナ3人の共作になっている。歌詞に関しては、筒美が多くのアドバイスを行った。「青春 イコールあの娘といた日々」のパートは「『DJ! DJ!』の繰り返しだと冷たい。もっと恥ずかしくて心にグッとくることを言ってください」という筒美の指示により「青春」というキーワードが採用された。続くフレーズで郷太は「STAY TUNE 甘く締めつけられてくラヴソング」と韻を踏みつつ置き換えることを提案したが、これも筒美が「青春×2回のほうがいい」と主張し、この形となった(近年のライブでは当初の郷太の意図に沿って「STAY TUNE」と歌われることが多い)。カーティス・メイフィールド的なソウルサウンドと、カーティス・ブロウ的なラップパートの融合が果たされた異色のナンバー。郷太は「この頃まだRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWもメジャーデビューしてないし、オールドスクールの明るいラップってあんまりなかったから、彼らが出てきたときに『DJ! DJ!』っぽいなって正直思った」と語る。

07. 地球儀と野鼠(Pts. 1&2)(CHIKYUGI-TO-NONEZUMI)

小松が作曲およびメインボーカルを担当した初の楽曲。歌詞はイラク戦争開戦が噂される不安定な世界情勢を反映し、宗教戦争をモチーフにした内容となっている。「誕生日もクリスマスも 祝ったことないよ」のフレーズは定番のイベントに興味を示さない小松のキャラクターをイメージして郷太が書いたもの。サウンド面ではシンセベースを大胆にフィーチャー。これがノーナのレコーディングでProToolsを導入した初めての楽曲となった。

08. AUGUST(オーガスト)

郷太と小松が交互にボーカルを担当するミディアムチューン。歌詞は恋人との同棲解消を考える男が主人公。8月になってもまだ女に別れを切り出せず、雨が降ったらさよならを言おうと思い悩む姿が描かれている。アウトロ部分はTHE ROLLING STONES「Sympathy For The Devil(悪魔を哀れむ歌)」やPRIMAL SCREAM「Loaded」などでなじみ深い王道のコード進行。奥田がロック的なカタルシス全開のギターソロを披露している。2012年に上演された小林賢太郎の演劇「ロールシャッハ」のメインテーマに採用され、改めて注目を浴びた。

09. パーティは何処に?(WHERE IS THE PARTY?)

通称「パーどこ」。ライブの定番曲としても知られており、郷太曰く「いつどんなときにやっても楽しく盛り上がれる曲」。タイトルはマドンナ「True Blue」収録曲の邦題から。ブレイク部分はTOTO「Georgy Porgy」へのオマージュと思われる。パーティの楽しさを高らかに歌うと同時に、パーティが終わったあとの切なさや虚しさも感じさせる点はNONA REEVESの真骨頂。

10. HEAVEN(ヘヴン)

前作「FRIDAY NIGHT」収録の「THE GIRLSICK」で手応えを感じた郷太が、さらにブラックコンテンポラリー寄りのグルーヴィなバラードを、という狙いで制作。「京平さんと『LOVE TOGETHER』を作ったあとだったから歌詞は恥ずかしいくらいにえぐろうと考えていた」とのこと。郷太の学生時代のクラスメイトでもある朝日美穂がコーラスで参加。のちの代表曲「重ねた唇」につながるソウル感を持つ秀作。

<BONUS TRACK>

11. IF YOU WERE THERE / 「LOVE TOGETHER」収録

シングル「LOVE TOGETHER」のカップリングに収録されたTHE ISLEY BROTHERSのカバー。WHAM!がアルバム「Make It Big」でカバーしたバージョンを下敷きにしている。郷太は80年代を象徴するムードを“ひょうきん族のエンディング感”と表現したが、これはまさにそうしたみずみずしく切ない感覚が詰め込まれた1曲。レコーディングはバンドでの一発録りで行われ、ミックスを含む全工程が1日で完了したという。

12. JUST MY IMAGINATION (Running Away With Me) / 「LOVE TOGETHER 〜パラッパラッパーMIX〜」収録

THE TEMPTATIONSが1971年に発表したヒット曲のカバー。アニメ「パラッパラッパー」の主題歌としてリリースされた「LOVE TOGETHER 〜パラッパラッパーMIX〜」のカップリングに収録されている。

13. CESSNA -Okken's Brazilian Airport- / 「CHERISH! NONA REEVES THE REMIXES」収録

「奥田健介のブラジル空港」と名付けられたこのバージョンは、2001年11月7日に発売されたリミックスアルバム「CHERISH! NONA REEVES THE REMIXES」に新録セルフカバーとして収録されたトラック。レコーディングは郷太の自宅で行われた。空港のBGMを思わせる静かなアレンジが、メロディの強さを際立たせている。

14. I LOVE YOUR SOUL / 「I LOVE YOUR SOUL」収録

2001年11月7日リリースのシングル「I LOVE YOUR SOUL」のタイトル曲。筒美京平やYOU THE ROCK★との共同制作を経験した郷太が、サウンドプロデュースを担い「自伝的」に作り上げた作品。NONA REEVESの特質である都会的なカラーや郷太自身の持つ職業作家的なバランス感覚をかなぐり捨て、熱くストレートなメッセージがロックサウンドに乗せて歌われる。「I LOVE YOUR SOUL」「NEW SOUL」「MAGICAL」の3曲はその異質さゆえに3部作として位置付けられることも多い。「『君が涙流すなら 僕も泣くぜ』って『泣くだけなんかい!』って自分でもツッコミたくなるし(笑)ダサいんだけど、ライブで歌えば絶対に盛り上がるし、自分もグッとくるし」とは郷太の弁。「I GOT YOU BABY」のパートは郷太が小学6年生のときに作った「ショッキング・ニュース」という楽曲からの流用。シングルのカップリングに収録されたインストバージョンには「I NEED YOUR SONG」という別タイトルがつけられている。

15. CRAZY / 「I LOVE YOUR SOUL」収録

シングル「I LOVE YOUR SOUL」のカップリングに収録されたモータウン調のポップチューン。中盤のトーク風のパートを経て、ラストでさらなる盛り上がりを見せるも、約2分半であっさりとエンディングを迎える。

16. (HAPPINESS IS ON THE) TURNTABLES ONLY / 「GREATEST HITS / BOOK ONE」収録

2001年12月19日発売のベストアルバム「GREATEST HITS / BOOK ONE」に新曲として収録されたナンバー。音楽への愛を歌った大人のソウルミュージック。真城めぐみとのデュエット曲として制作された。ラストに差し込まれる「FORTY PIES」のフレーズが、ワーナー時代の終わりを示唆している。2011年6月8日にリリースされた「WARNER MUSIC YEARS / THE BEST OF NONA REEVES 1997-2001」には、横山剣(CRAZY KEN BAND)がボーカルとしても参加したリミックスバージョン「Honmoku '77 mix」が収録されている。

17. BOSSA NONA (GOTA'S DEMO) / 「GREATEST HITS / BOOK ONE」収録

郷太が1人で制作したデモを収録。「歌詞が好き。ボサノナって言いたかった(笑)」(郷太)。

(大山卓也)
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※西寺郷太の自伝的小説「'90s ナインティーズ」文藝春秋digitalにて連載中
※「西寺郷太のPOP FOCUS」音楽ナタリーにて連載中


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