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本の紹介60冊目 『動物裁判』

こんにちは、TAKUです。

今日紹介するのは、
池上俊一さんの著書『動物裁判』です。

この本は、
東京大学の助教授で西洋中世史を専攻とする池上さんが、中世ヨーロッパで広く見られた「動物裁判」についての詳細をエピソードを交えて説明しています。

また、
この時代背景にあったキリスト教の価値観や、
動物裁判による「自然への感受性の変化」なども著者が考察を綴った一冊です。

それでは紹介していきます。

【動物裁判とは?】

これは、

中世ヨーロッパなどにおいて行われた、
人間に危害を加えるなどした動物の法的責任を問うために行われた裁判手続

のことです。

例えば、
一番多く処刑されたブタや、
バッタ、ミミズ、ハエなどの昆虫も
裁判にかけられていました。

裁判の流れは、
人間に対するものと全く同じ流れで行われており、判決を言い渡されるまで動物が檻の中で待ち、判決が下されると裁判所で書記が読み上げる罪状を被告席で動物が聞いている形です。

また、
世俗法(国王や領主の所有)に基づく刑事裁判のほかに、教会法(民事訴訟)に基づく裁判もあり、現代的なシステムとほぼ同じでした。

ここで西洋の動物裁判は、
主に12世紀から18世紀の時代に行われ、
残っている資料上有罪となったものだけで、
合計142件記録されています。

【動物裁判の背景について】

動物裁判が行われているのは、
キリスト教が背景にあります。

これは、
罪を犯した物は人間でも動物でも植物でも無機物であっても裁かれなければならないというキリスト教文化の背景があったからです。

例えば、
小さい昆虫などが大量発生すると、
実際に農家の畑が荒らされたり、
人間社会にも大きな影響を与えていました。

ここで住民たちは、
教会裁判所に駆け込んで、
司教に訴えたりもしてました。

【破門宣告とは?】

裁判にかけられた動物は、
有罪が言い渡されると「破門宣告」
言い渡されます。

これは、
司教を中心に聖職者が教会の中に集まり、
ロウソクに火を灯した後に、
それを床に叩きつけて足で踏みにじります。

そして、
「悪魔(裁判にかけた動物)」「処分」する
ための許しを神からもらっていました。

これは現代と比べてみると、
とても無駄なように感じてしまいます。

ですが、
当時は生き物を駆除できる薬品や機械があるわけでもなかったので、
人間が処理する限界もありました。

なので、神や祈りの力で「穢(けがれ)」
遠ざける力が強かったということになります。

【今だからこそ、中世ヨーロッパの世界観を見つめ直す必要がある】

当時の人間は、
自然を征服・収奪、人間に奉仕させていました。

ここで自然からエネルギーをすいとり、
人間の用に共していきます。

この意識がスクリーンにのぼったときに、
人間の前に立ちはだかったのは、
ヨーロッパのほぼ全域を覆い尽くす森でした。

これまでの人間は、
長らく森や原野、海や川での狩猟生活を送ってきました。

ですが、
「切りひらき耕せ」という12世紀あたりに
本格化した開墾運動が、

人間と自然とバランスを崩していきます。

著者は、

啓蒙主義と科学的合理主義の近代世界は、
動物裁判を克服したが、
自然の領有(征服・搾取など)のプロセスは
あともどりできずらついにゆくべきところまで
たどりつき、もう一刻も猶予を与えないような、危機的な様相をうみだしてしまった。

と語られています。

つまり、小手先な対症療法ではなく、
心的なレベルを踏み込んだ、包括的な自然との新しい関わりが必要だと、著者は考察しています。

【最後に】

本書では、
12世紀から18世紀で行われた「動物裁判」
ついての背景や、そこから読み取れる現代の自然との関わりを考えさせられる一冊です。

ぜひ、読んでみてはいかがでしょうか!

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