サッカーとは何か

「“サッカー”とは何か」

時に極めて単純で、時に極めて複雑なこのスポーツを定義することは非常に難解である。

例えば、戦術的ピリオダイゼーションの提唱者とされるヴィトール・フラーデは、「カオスでありフラクタルである」と述べている。

ここでのカオスは“混沌”を意味するわけではなく、カオス理論のことを指す。
カオス理論とは数学理論の一つで、「初期値の微小なズレが最終的に大きな影響を及ぼし、全く異なる結果をもたらす」というものである。
(厳密な定義や数式はここでは省略するので、数学科の友人がいる場合は聞いてみてほしい。)

カオス理論をよく表したものとしては「バタフライ効果」が挙げられる。

※有名なバタフライ効果の例
『風が吹けば桶屋が儲かる』
『ブラジルでの蝶の羽ばたきが、テキサスに竜巻を引き起こすか』


一方で、フラクタルとは幾何学概念の一つで、「ある図形の一部分が、全体の自己相似になっているもの」とされる。

以下はフラクタルの代表例である。

この三角形を拡大していくと以下の通り。

これを見てもらうとわかるように、全体の三角形は小さな三角形の集合体であり、その構造はどこまでいっても(極限まで拡大しても)同じなのである。

「サッカーはカオスでありフラクタルである」とは?

では、前述のカオスとフラクタルをサッカーの文脈で解釈するとどうなるのか。

サッカーは「ピッチコンディション・天候・選手の状態及び体調・キックオフ時の最初の立ち位置・スパイクの摩耗度・ボールの空気圧」などなど、数えきれないほどの要素から成り立っている。

すなわち、サッカーにおけるカオスとは、こうしたありとあらゆる要素に由来する些細な現象が、試合結果に大きく影響するということを意味する。

また、11vs11のサッカーの試合において、1vs1の局面も3vs3の局面も5vs5の局面も等しくサッカーの試合を構成する一部であり、90分のうち15分時点でも60分時点でも80分時点でもサッカーの試合の一部分である。

すなわち、サッカーにおけるフラクタルとは、試合中のどの瞬間・どの場面・どのピッチの一部分を切り取ってもサッカーであることを意味する。

つまり、これらを踏まえると「サッカーはカオスでありフラクタルである」とは、「サッカーはどの局面を切り取っても“カオス”な状態が起こり得る(≒カオスそのものがフラクタルな構造を持つ)スポーツである」ということになる。


以上は『「サッカー」とは何か』(著:林舞輝)に書かれているので、興味がある人は是非読んで欲しい。



「サッカーは戦争である」

ここまでは学術的な観点から解釈したサッカーについて述べてきたが、抽象的すぎることは否めない。
ハッキリ言って私自身もピンと来るところは少ない。

そこで、ここからは別の言葉を以てサッカーを解釈してみる。

「サッカーは戦争である」

この言葉は、中学時代の顧問がよく言っていた記憶がある。
私は現在でも割と本質を突いているところがあるのではないかと考えている。


例えば、戦争で味方が敵に狙われている時、もしくは死角から襲撃されそうな時、あなたならどうするだろうか。

「危ない!」「敵、来てるよ!」「後ろ!」
などと声を出すはずだ。私もきっとそうするだろう。


これはサッカーでも同様である。
攻撃時に敵がボールを奪いに来ていたり、守備時に味方が背後を取られそうになっていたりするのであれば、周りの人間が声を出して指示する必要がある。

他にも、試合中に起こり得る展開やケーススタディを交えながら述べていきたい。

1.センターバックからのビルドアップ

戦争において、後方部隊の重要な任務は前線に武器や物資を“安全に”供給することである。
武器を供給する前に襲撃を受け、奪われてしまってはならない。

これはサッカーにおけるビルドアップにも同じことが言える。

自陣でセンターバック(以下CB)がボールを持った時、まず考えるべきことは「どうすれば安全にボール(=武器)を前に運べるか」である。

上の図のような場合、左CBはより安全に前進するためにリスクの高い縦パスよりも右CBに預ける方がベターだろう。

逆に、左CBの前にスペースがあるならば、自ら前進することで相手を引きつけてからリリースすれば、味方により良い状態、フリーな状態でボールを供給出来る可能性は高まる。

2.サイドバックからのビルドアップ

今度はサイドバック(以下SB)からビルドアップについて考える。
このケースにおいても優先事項は「安全にボール(=武器)を運び、前線に供給すること」だ。

以下の図は、実際に試合中で頻繁に起こる「SBで“嵌められた”状態」を示す。

このとき、左SBから安全にボールを前進させるのは極めて困難であると言えるだろう。

では、どうすべきか。
ポイントは左CBのポジショニングである。

上の図で示したように、左SBの位置で嵌められてしまいそうな場合、左CBは必ず深いところにポジションを取り、左SBの逃げ道を用意する。

戦争でも、味方が敵に囲まれてしまった時のために、いざとなった時の逃げ道は確保しておく筈だ。

そうすることで、上で示したように、敵のいないところから安全に前進できるようになるわけである。

このようなサポート(=逃げ道の確保)をしないのであれば、それは第二次世界大戦の特攻隊と何ら変わりない。

また、以下のような状況で敵が密集している領域にドリブルで突っ込んでしまう選手がたまにいる。

これも、言ってしまえば単騎で地雷原に突っ込むようなものであり、そんな判断を下す兵士が味方に居ると考えたら恐ろしいことこの上ないだろう。

3.アイソレーション

アイソレーションもサッカーを戦争として解釈する上でわかりやすいシチュエーションである。

片方のサイドに陣形が寄っている時、逆のスペースを活用して敵陣に攻め入ることは、戦争においても非常に効果的であると考えられるからだ。

※第二次世界大戦において、ドイツ軍がソ連との東部戦線に主要な戦力を割いている最中、連合国軍のノルマンディー上陸作戦によってドイツ軍は西部戦線で甚大な被害を受けたことで、劣勢に転じざるを得なかった。

しかし、ここで一つ注意しなければならない。
アイソレーションはカウンターのリスクを伴うのだ。

広大なスペースでの1vs1という局面が恣意的に生み出されるため、そこで優位に立てば決定的なチャンスを作ることができる一方で、仮にボールを奪われてしまった場合には、失点に直結するようなピンチを招くことになるのだ。

したがって、ただ単純に1vs1で勝負させれば良いというわけではない。

・バックラインの選手が後方のスペースを埋める&逃げ道を確保する
・中盤の選手が横のパスコースを創る
・前線の選手が背後に斜めのランニングをする

など、リスクヘッジのための工夫をする必要がある。

4.守備

守備については、攻撃の時と反対に考えれば良い。

先にも述べたように、ビルドアップをする際には「武器を安全に前線まで供給すること」を意識して行うべきである。
ということは、相手のビルドアップに対して守備をする際には「武器を安全に前線まで供給させないこと」を意識することが重要だということになる。

つまり、相手の余裕を奪うために高い位置からのプレス・奪われた後の即時奪回が原則なのだ。

(相手に押し込まれた時の展開、ポジショニングとバランス、チャレンジ&カバーの原則等については書き切れないので割愛する。)

おわりに

サッカーとは「11vs11で点を取り合う」という極めて単純なスポーツである一方で、様々な要素が複雑に絡み合う複雑なスポーツでもある。


これを読んだ皆さまにも、是非ともサッカーの複雑さを吟味し、自らの言葉で解釈し、自らの文脈で咀嚼することを楽しんで欲しいと思う。



“サッカーとは何か”

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