自作曲解説文 綺麗に咲く千の花とともに オーケストラのための Con mille fiori che sbocciano così belli for orchestra

今堀拓也: 綺麗に咲く千の花とともに 

Takuya Imahori : Con mille fiori che sbocciano così belli
(With Thousand Flowers Coming Out Beautifully)
(Mit tausend Blumen, die so schön blühen)

(3.3.3.3. 4.3.3.1 timp. 2 perc. pf/cel. hp. strings)
(3rd flute plays always piccolo, 3rd oboe doubling with English horn, 3rd clarinet d.w. bass cl., 3rd bassoon plays always contrabassoon)
(piano in orchestra plays internal playing)

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作曲の経緯

この曲は、まず最初に2016年に作曲されました。僕はいつも作曲するときにタイトルは後から決まってくるのですが、この曲に限ってはまず最初にタイトルがあり、1-3月に構想を考え、4月から作曲を開始しました。6月にピアノスコアを完成させた後、オーケストレーションに入り、9月末に完成させました。これが当初のヴァージョンです。(そこから改訂版を経て初演に至ります。以下詳述。)

その後、2017年1月から3月にかけて、同じ作曲素材で別の曲としてクラリネット協奏曲「鳥たちの対話」 De Avibus Dialogum を書きました。これは室内管弦楽として書かれ、それは初演済みです。その後三管オーケストラに書き直して5月に完成させました。そちらは未初演です。

その後2017年6月ごろより、さらに同じ素材でピアノ協奏曲第2番を書いています。同じペースでいけば半年くらいで出来上がるはずだったのですが、度々中断を挟んでいるので、そろそろ2年経ちますが未だに完成していません。(タイトルは二転三転して現在も未定。湿って鬱蒼としたシダの森のようなものをイメージしている。シダはフィボナッチ数をはじめ様々な数学的曲線が認められ、これを積極的に作品中に応用させたいという考え)
これらは三部作を成し、理想的には連続した一つの作品として鑑賞するべきものとして書いています。

2018年4月から6月までの3ヶ月間にウィーンのレジデンスに居て、上記のピアノ協奏曲第2番を書き進めていましたが、7月に帰国後、3部作第1作の「綺麗に咲く千の花とともに」をもう一度見直しました。元となったピアノスケッチには全く手を加えず(「スイレン」の中の計算で重複した1小節のみ削除した)、しかし主にオーケストレーションとスコアの書き方を(同じ情報でも見た目を読みやすく)徹底的に見直しました。
8月下旬に改訂版を完成させて、同月末締切のバーゼル作曲コンクールに応募して入選し、2019年2月21日(12人の予選)と24日(5人の本選)に演奏され、3位に入賞しました。

曲の構造

この曲は11の部分からなる変奏曲です。それぞれの楽章には花の名前がついており、咲く時期の順で四季に並んでいます。イタリア語のタイトルは複数形でつけられています。

最初の上行アルペジオの音高c - h - b - es - a - d - b が音列として全曲を支配します。(bは2回出現します)

音高は上下を厭わず、様々なヴァリエーションが現れます。

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それらに逆行形、反行形、逆行反行形が加わります。これらはシェーンベルクの十二音技法と全く同じテクニックなので、説明は割愛します。
また、順序を厭わないハーモニックフィールドとしての音列の使用、1つ飛ばし読みなども出てきます。

リズム構造は、フィボナッチ数を入れ子構造にして用いています。

そしてこれがこの曲における音列決定のキモなのですが、フリークェンシーシフト frequency shift (周波数移調)で、これらの基本音列を「歪めて」います。

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これは大元のピアノスコアでの音高の決定は近似の平均律に四捨五入し、オーケストレーションに際して上部和音を上乗せする際には微分音も含めて使用しています。


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(追記)
もう少し詳しく解説しましょう。A4=440Hzです。(最近のコンサートピッチだと442Hzが標準ですが、ここでは計算しやすいように440と考えます)
1オクターヴ上の音は周波数を2倍にすれば良いので、A5=880Hzです。
B4はおよそ500Hzです。(正確には501.nnnですが、ここでも計算しやすいようにちょうど500と考えます)1オクターヴ上の音はB5=1000Hzとなります。
440+440=880で倍になりますが、500+440=940で、1000には60足りません。したがってこのB4の500Hzに440Hzの周波数を足した音はB5には届かず、音程としては若干下がった音になります。
このように、周波数に同じ値を足すと、元の音列を均等に移調したものではなく、若干の音程の歪みが生じます。これを近似値で平均律に納めたのが、上の音列になります。

プログラムノート

(以下、引用文として書いた部分は初演時のプログラムノートに書いたもの。英語で提出し、コンクール事務局側でドイツ語に訳された。他の部分は今回の文章で初出となる詳細解説。(英語の出来は多分悪いので、できる人から見てもあまり突っ込まないで下さい))

I am always very interested to, influenced by, and impressed with plants, specially small flowers, and not on the commercial merchandise, but commonly seen on the field, and in mountain, river side etc.
This piece has 11 sections as a form of variations. Each plants gave me an inspiration, as their form, or numbers of petals and leaves, etc.
私は常に、植物、特に小さな花、商業的な流通上のものではなく、普遍的に道端や山、川端に咲く花に興味を持ち、影響を受け、また着想を得てきた。
この曲は変奏曲の形式で、11のセクションからなる。それぞれの花の形、花びらや葉の枚数などから着想を得ている。

This work is included to a trilogy with my clarinet concerto “De Avibus Dialogum” (2017) and the Second Piano Concerto (as I am working actually)
この作品は、クラリネット協奏曲「鳥たちの対話」(2017年)、「ピアノ協奏曲第2番」(作曲中)とともに三部作を成す。


花咲く前に Prima di fioritura / Before blooming

“Before blooming”
A landscape is moving from winter to spring. A basic motif (C-B-Bb-Eb-A-D-Bb (Bb repeats two times)) at all of the beginning, and then some of transformed motives are presented.
「花咲く前に」
情景は冬から春へと移ろうとしている。基本音列(C-B-Bb-Eb-A-D-Bb (Bbは2回繰り返される))が一番最初に、それから変形されたモチーフが提示される。

基本音列の提示、音列の組み合わせによる和音や幾つかのフレーズの提示。
ベースラインも基本音列に基づいていますが、それぞれの音ごとにハーモニックフィールドが展開されます。
数小節間のフレーズは全曲のモチーフとしてのちに使用されます。2小節目の和音は主要な動機として全曲で頻出します。

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(上2段および下段の1小節目はト音記号です)

また、このセクションの最後の方にある16小節目の和音は2小節目から短3度低く移調したものであり、両者は基本音列を縦に積み上げて構成されていますが、これは三部作の第2作、クラリネット協奏曲「鳥たちの対話」の冒頭の和音にそのまま引き継がれています。(そしてその曲でも同じ基本音列が展開されます)

春の野原 Campo di primavera / Spring field

“spring field”
This section is divided to 4 parts, as Common Daisies, Speedwells, Clovers and “carpet of flowers” which mixed all kind of ground flowers. They are gradually glowing, coming out and filling the field.
「春の野原」
このセクションは4つの部分に分けられる。「ヒナギク」、「オオイヌノフグリ」、「シロツメクサ」、そして「花の絨毯」では大地に咲く全ての花が混ざっている。それらは徐々に芽吹き、花を咲かせ、野原を埋め尽くす。

1:22 繰り返しによる音楽で(ある意味ミニマルミュージックとも言える)、これらは春の野原に芽生える無数の花を思い描きました。
日本でもジュネーヴでもローマでもミラノでもそうなのですが、ちょっと町の中心部から離れてアスファルトが少なくなり、地面が見えたり畑のあぜ道があるようなところでは、春一番で無数の雑草の小さな花が咲き、それらが一面を覆い尽くす様はとても感動的です。
実は同じヨーロッパでも、スイスやフランス(パリ。南仏はまた違うでしょう)とイタリアではかなり雑草の植生が違うように感じました。その後ウィーンにも3ヶ月いましたが、イタリアと違ってスイスの植生に戻ったような感じがありました。アルプス(及びそれに続くチロル)を境にして、植生が変わるのかもしれません。
その現象を音楽にしようと思っていた2016年春頃はミラノにいて、この時は自宅のすぐそばにミラノ北部公園というかなり大きめの公園があって、そこから作曲の着想を得ました。
2月に広い野原にヒナギクが少しずつ開きだして暖かくなったかと思うと、3月に一面にオオイヌノフグリの青い花が埋め尽くして、それが一段落すると今度は4月中旬ごろからシロツメクサが咲き出します。同時にサクラは一段落してバラの季節になり、野生のイヌバラの藪がむせぶような香りを放つようになります(これはこの曲ののちの楽章にもつながります)。

ヒナギク Margherite / Common Daisies

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1:22 繰り返しているfis,gisの音にその1オクターブ上のgが挿入されます。この半音の関係は基本音列の最初の3音に基づきます。そこまでの「パルス音」の総数はフィボナッチ数に基づきます。挿入された音は野原に点々と咲き始めるヒナギクを表しています。
ハープで現れるアルペジオは、基本音列のフリークエンシーシフトから導かれたメロディです。

オオイヌノフグリ Veroniche / Speedwells

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1:52 長2度に保たれた2声部が並行して跳躍します。(これはドビュッシーの書法の暗喩です)
基本音列や、そのフリークエンシーシフトに基づいています。オーケストラ版では、ヴァイオリンの各奏者が指揮者から離れて各々の個別のテンポで演奏します。

シロツメクサ Trifogli / Clovers 

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2:13 ここではシロツメクサ(イタリア語のtrifogli, フランス語のtrèfle は三つ葉の意味)にちなんで3の数が基調になっていますが、たまに四つ葉にちなんで4の数も出てきます。

花の絨毯 Manto dei fiori / Carpet of flowers
2:41 第1変奏で出てきた3つの要素、導入部で提示された基本主題が重なり合って出てきます。
ここをいかに「ミニマルミュージックの安っぽい模倣」にならないように心がけるかで苦心しました。結果的にそうなってしまっているようにも思えなくもないですが。

サクラ Ciliegi / Cherry blossoms

“Cherry blossoms”
This section has the relation with the number of 5 because of the number of petals. It is also drawn like a tree which has many blossoms and their petals falling down on the wind. This is also a paraphrase of Japanese traditional folk song “Sakura sakura” with means cherry blossoms.
「サクラ」
このセクションは花びらの数である5の数字に関連している。ここではまた花を多く咲かせた木や、花びらが風に乗って落ちる様も描かれている。日本の伝統民謡である「さくらさくら」のパラフレーズでもある。

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4:00 この曲のほとんどの部分では弦は最低2部に分割された状態になっていますが、この楽章では弦が結束し、基本音列から派生したメロディで対位法的に動きます(冒頭だけメロディ1声部と和音伴奏によるホモフォニー)。時々ソロがトゥッティから外れて動く他、ヴィオラやチェロがヴァイオリンよりも上に出てきます。合いの手として管楽器が3/4,2/4の小節上で2/4の部分は3連譜になっていますが、ここの最初の部分が長2度なので実質的に「さくらさくら」を引用していることになっています。それぞれの縦の響きの音程関係は5の数字に基づいて関連され(ていたはずですが今やもう思い出せません)
(ここは最初に全く違うものを書いていて、最後にそれをボツにして全部新しく作り直したセクションです。最初にペンタトニックを複数重ねてそれをずらして音を作っていったのですが、まずそのアイデアは武満徹の「鳥は星型の庭に降りる」が先行例としてあってどうしてもそれに似通ってしまい、また単に音階をなぞって上下しているだけの楽譜になってしまい、結局ボツにしました。破棄稿の話をしても仕方ないのですが。)

イヌバラ Rose canine / Dog roses

“Dog roses”
Dog rose, as known as wild rose, is a kind of climbing roses, and it glows as a bush. It smells more stronger at night. This section quotes “Heidenröslein“ of Schubert/Goethe. Also this section is related with the number of 5 as the petals.
「イヌバラ」
野ばらとしても知られるイヌバラは、つるバラの一種であり、藪のように成長する。夜にはより香りが強くなる。このセクションではシューベルト/ゲーテの「野ばら」が引用されている。またここでも5の数字が関連されている。

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5:07 ここで新しい素材が出てきます。シューベルトの「野ばら」からの引用です。h d g h d fis からなり、これを繰り返しながら長2度ずつ上がっていくことで、長三和音が重なって響きます。
この素材と基本音列とが絡んで(例えば 小節からのベースラインなど)、終盤ではそれにフリークエンシーシフトがかかって上方に圧縮された和音も出てきます。( 小節など)

エニシダ Ginestre / Ginsters

“Ginster”
It has many straight branches as a brush, and it blooms many yellow flowers. The fruit is as a shell of beans, even it has poison, and after dried it well in a sunny day, it explodes and scatters their seeds.
「エニシダ」
これは箒のようにまっすぐな枝を持ち、多くの黄色い花を咲かせる。その実は毒を持つものの豆のさやの形をしており、それが乾燥してから日差しの良い日に弾け飛んで、種子を遠くに飛ばす。

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6:57 基本音列は音高の上下を問わないため、上から順にC8, H7, B7, Es7, A6, D6, B5と下行配置し、そこからB5を次の音列の起点としてB5, A5, Gis5, Cis5, G4, C4, As3 - G3, Fis3, H2, F2, B1, Gis1 - F1, E1. A0 と並べます。今度はA0を起点として反行形で A0, B0. H0. Fis1, C2, G2, H2 - C3, Cis3, Gis3, D4, A4, Cis5 - D5, Es5, B5, E6, B6, Dis7 - E7, F7, C8 と並べます。この2つを合成すると、

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となります。
この音階を元に、爆発して上行するアルペジオを表現しました。上行するさまは箒のような枝に咲く花、爆発音はさやの弾ける様を表しています。
オーケストレーションとしては、木管の重音を重ねることで、中音域の「ヨゴシ」を狙っています。(汚しというのは、例えばプラモデルのジオラマなどで、一度綺麗に色を塗った後にわざと泥の跳ねなどの色をつけることでリアリティを出す事です。)

スイレン Ninfee / Waterlilies

“Waterlilies”
It is inspired by an image of reflection on the trembling water.
「スイレン」
このセクションでは、水面に揺れる反映をイメージしている。

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7:45 これは唯一の水生植物なので、水に映る鏡像とそれが揺れるイメージを連想しました。
基本音列の派生形が上下反行形で鏡像のように並びます。

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オーケストレーションとしては、トライアングルを水に浸けて揺れる音を採用し、それと同時にティンパニの上でテンプルベルを叩いて倍音を揺らしています。
(ちなみにこのセクションの冒頭で、弦のハーモニクスで毎回の最高音がチェロやヴィオラで入れ替わるというのをやっていますが、通常奏法ほどには音色の変化は顕著ではありませんでした)

ウイキョウ Fiori di finocchio / Flower of fennel

“flower of fennel”
It has a form of fractal. Therefore I used fractal transformation with the basic motif.
「ウイキョウ」
これはフラクタルの形をしているので、基本音列をフラクタルで変形させたものを用いた。

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8:54 ここではフラクタルによる音程操作を行っています。
フラクタルとは、ある大まかな形の細部を覗くと、それを圧縮した同じ形が展開しているというものです。マンデルブロ図形などが有名ですが、自然界にも例えばロマネスコという野菜(ブロッコリーやカリフラワーの近縁種)があり、その形はフラクタルになっています。
ここでの題に取り上げたウイキョウ(英名フェンネル)を含むセリ科の植物は、複散形花序という花の付け方を持っています。これも一種のフラクタルです。
ウイキョウの他にはニンジン、セリなどが該当します。ほとんどは円盤状のフラクタルですが、ドクゼリ(猛毒)の花は球形フラクタルになります。近縁種のドクゼリモドキ(無毒)の花は日本の花屋でホワイトレースフラワーという名前で売られています。

では、具体的にフラクタルをどのように音楽的に再現しているのかを解説します。
基本音列を元にオクターブの定まった音高を設定します。c4, h4, b5, es6, a5, d5, b5

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とすると、c4から最も離れたのはes6で、半音27個分の音程があります。ここまでを隣同士の各音程との比率に当てはめ、端数は切り捨てます(これによって最高音の音程は半音1つ分だけ低くなります)そうすると、c4とh4は半音11個分の音程があるので、各音程は11/27に圧縮されます。

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これによって、以下のフラクタル音列が導かれます。

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コスモス Cosmee / Cosmos

“Cosmos”
In this section, the rhythm and intervals is related with the number of eight such as the number of petals of cosmos.
「コスモス」
ここではコスモスの花びらの数に合わせ、リズムと音程は8の数字に関連している。

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10:00 コスモスの花びら(顎状花)は8枚なので、ここのセクションは8の数に基づいています。
やはりここでも基本音列を組み合わせてメロディが作られていますが、そこにまとわりつく縦の和音(つまりここではホモフォニックな音楽が展開される)はオクタトニック(メシアンのMTL第2番=移調パターンが原型を含めて計3回)で構成され、ある声部で音が出てくるたびに移調されます。フィボナッチ数で割り振られた小節(13, 8, 5, 3, 2, 1(G.P.), 1, 2, 3, 5, 8, 13)が変わるたびに、リズムのパターンも変化します。

キク Crisantemi / Crisantemum

“Chrisanthemum”
It symbolizes autumn, and specially related with funeral or All Saints Day. But in this section I observed rather the viewpoint of biology, such as number of petals of the flower which has a serie of fibonacci. It is related with the number of bells as 34 and 55.
「キク」
秋を象徴し、また特に葬儀や万聖節に関連している。しかしここではむしろ生態に着目した。菊の花びらはフィボナッチ数に基づき、鐘の音と関連させている。

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11:18 前の楽章からつながる頭の1つを数えると上は56なのですが、数えなければ55なのでフィボナッチ数としてはあっているとして、下が27ないし26で、34のつもりで書いていたのに、どこで数え間違えたんだろうとは思いますが、22で書くつもりだったのかもしれません。あるいは22+5=27なのか。(5もフィボナッチ数です)確かそのようなことを考えていたと思います。
ホルンのソロは、基本音列のフリークエンシーシフト(1オクターブと増4度)を移調して逆行させたものです。

シクラメン Ciclamini / Cyclamen

“Cyclamen”
In a field of winter, most of glasses has died already. Wild cyclamen comes out at that moment, in a cold wind or even in the snow.
「シクラメン」
冬の野原では多くの草はすでに枯れているが、野生のシクラメンはこの時期に咲く。冷たい風や雪の中でさえも。

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13:46 ここでのピアノスコアではピアノのスタッカートと、和音の一部の鍵盤を離して残りの音を伸ばす音(というとラッヘンマンの「エコー・アンダンテ」を想像する人が多いのではないかと思いますが、元ネタはシューマンの「蝶々」)が主要な音素材になっており、オーケストレーションはそれに沿って断片的な音素材が用いられています。音程は主にフリークエンシーシフトから持ってきています。

時の花園にて Nel giardino del tempo / At the garden of the time

“At the garden of the time”
Every flower gathers at a garden which across the time. It has two meanings; the first meaning is the assemblage of many flowers of every season, and the second meaning is that many parts in the orchestra have their own tempo independently from the conductor’s tempo. It makes a climax as a development section of sonata form, and it concludes with a harmonic section of strings such as fragrances of many flowers.
「時の花園にて」
全ての花は時を超えて一つの庭に集まる。これには2つの意味がある。一つは季節を超えた多くの花の集合、もう一つはオーケストラの多くのパートが演奏者から離れて各々の個別のテンポを持つということである。これはソナタ形式における展開部のようなクライマックスを形作り、そして多くの花の香りのような弦楽器のハーモニーのセクションで終わる。

14:29 この終楽章はそれ自体が楽曲全体の展開部となっており、またその楽章自体が明確にいくつかのセクションに分かれます。
・導入部
・ヒートアップからクライマックス
・クールダウン(ディミヌエンド)
・コーダ(弦による静寂部分、再度のクライマックスとディミヌエンド)

ヒートアップの部分はオーケストレーションの段階で木管の細かい動きが追加されています。
コーダの部分は、作曲の過程で冒頭を書いた直後にそのラフスケッチ(長音符の部分)を書いたものであり、ここに繋がるように各セクションの素材を生み出して行きました。上声部のメロディは基本音列の原形と、その最後の音を開始音として反行形になっています。
クライマックスでの素材は冒頭の 小節(素材 )を元にしていますが、メロディが同じ音高で伴奏部分が移調するのはドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」を下敷きにしています。
最後の和音はフリークエンシーシフトの基本音列を縦に重ねたものですが、間引かれて最後はDes dur の付加六度和音だけが残ります。その直前のバス声部の動きがAs, Desなので、ここは完全に調性的しかも強進行となります。

まとめ

以上のように、作曲の発想としては相当に「音列的かつ調性的」であり、いくらスペクトル的なフリークエンシーシフトを多用しているとはいえ協和音はあちこちに頻出するし、作曲の語法としては何も真新しくはないのですが、そうは言っても僕の近作というのは割と協和音がはっきり聞こえてくるものが多いので、何もこの曲だけが特別にそうであるわけではなく、近年の僕自身の作風がそうなってきていると言えるのかもしれません。
とはいえそれらの協和音が機能和声を持つことは、一番最後のバス声部を除いては他になく、時々姿を見せる協和音と、(オーケストラ版としては)オーケストレーションの変化によって多彩な色彩を描こうとして、それにこのような花の表題をつけたというのは、(表題を読んでの)聴き手にとっても結果的に受け入れられやすいものになったのではないかと思います。

第2作「鳥たちの対話」は同じ基本音列を用いているとはいえ、もう少し協和音の使用率は低めです。それでもクライマックスではかなり協和音が出てきますが。(この録音は「室内オーケストラ(アンサンブル)版」です。三管オーケストラ版も」ありますがそちらは未初演です)


第3作「ピアノ協奏曲第2番(副題未定)」(現在作曲中)は、フリークエンシーシフトが全面に用いられ、その場で鳴っている平均律上の和音からその都度導かれた微分音程和音が頻出します。しかしそれらの微分音和音も、結局は協和音の上に乗る倍音の音程であり、それが(オルガンのように)音程ではなく音色として捉えられるようであれば、濁らずに嵌った和音として捉えられるはずです(この「綺麗に咲く千の花とともに」の一番最後の和音がそれに当たります)。ピアノという平均律の楽器では微分音が出せないので、オーケストラでどこまでそれをフォロー出来るかが、今書いている第3作を仕上げる上での作曲家の腕の見せ所といったところでしょうか。


(ウイキョウ、コスモス、シクラメンの画像は、2016年当時にインターネット上で検索した画像を引用しています。その他の画像は自分自身で撮影したものです。)

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