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Kurihara(2019) What Does an Overseas Teacher Education Program Offer to EFL Professionals?: Exploring the Program from Insiders’ Perspectives

JACET言語教師認知研究会研究集録より。

研究の概要

オーストラリアで行われるEFL研修プログラムにparticipant as observer(Merriam, 2009, p. 124)として参加し,授業観察(2名の担当者が行う授業)とプログラムのコーディネーター(2名)へのインタビューによってデータを収集した。

participant as observerとは,単に外から観察するのではなく,研修の参加者として積極的に活動に取り組みながら,その状況の中で観察をするというタイプの研究者の立場を指す。

Research Questions

(1) オーストラリアでの短期教員研修プログラムは,日本人の英語教師にどのような教育的ツール(pedagogical tool)を提供するか

(2) この教員研修プログラムのホストはプログラムの目的と役割をどのように捉えているか

研究の背景

長年海外のEFL研修に教員が送られているが,それらのプログラムが具体的にどのようなものを与えてくれるかはあまり知られていない。
文部科学省や各地方自治体などの派遣も含め,日本からも毎年海外のEFL研修に赴く教員は少なくないが,そこで教師は何を学んで帰ってくるのかを明らかにしたい。

pedagogical toolは概念的ツール(conceptual tool)実践的ツール(practical tool)に分けられる。

概念的ツールは教師の指導上の判断・選択を導く原理や考え方。

実践的ツールはより即時的な行動として教師が用いる実践やテクニック。

研究方法と研究のフィールド

授業に参加しながらの観察と,コーディネーターへのインタビュー。(後から,参加した日本人教員へのインタビューも行なったが,本論文にはそこは含まない)

日本,韓国,中国など東アジア諸国中心に64名の英語教師(24名が日本人)が3週間のプログラムに参加。

結果と考察

授業観察の結果,13の概念的ツールが授業の中で観察された。

筆者はそれらを3つの機能にまとめている。

(1) 授業実践をコミュニカティブにする考え方 [例: 流暢さを重視した活動]

(2) 学習者の学びを効果的にする考え方 [例: 学習スタイル]

(3) 日々の実践をリフレクティブにする考え方 [例: リフレクティブ・ラーニング]

一方,実践的ツールについては,ペンなどをも含む教材・教具("Artifacts")や,"Pair/group work"といった指導の手法などが31種類(回数は計198回)観察された。

また,授業の中でpeer teachingを行ったり,お互いの実践について語り合ったりする機会があり,それらは"Reflection"として3週間で14回観察された。

このように,概念的ツールと実践的ツール双方の観察から,リフレクションが重視されていることが伺える。

そして,プログラムのコーディネーターへのインタビューでは,以下のようなことが語られた。

このプログラムに参加する教師は多様なバックグラウンドを持っており,一方的に特定の考え方・指導法を教え込んでも機能しないため,複数の選択肢を示し,それを体験する中で自分が取り入れたいかどうかをリフレクティブに考えてもらうことが狙いだ。

コメント

日本人の参加する海外のEFL研修プログラムについての知見は日本の教員養成や教員研修でも参考とされる余地があり,実際に現地で経験しながら研究を行い,報告をした筆者には感謝の意を述べたい。

しかし,全体を通してやや物足りない印象は拭えない。

まず,概念的ツールのうち"Analyzing the target language""Teaching from sound to written form"といった複数の要素が上記3つの機能のどれを果たしているのか明示されずに終わっている。(後者は(2)に入れても良いかもしれないが,学習者要因への言及ではなく一貫性を欠く)
その一方でリフレクションに関わるものは"Reflective learning"しか見られず,それ一つ(しかも観察された回数は3週間でわずか1回)を取り出して,一つの機能として書き出していることは恣意的に映る。

また,別の論考を探せばあるのかもしれないが,これに参加した日本人教員へのインタビューが読めないことは言語教師認知の研究報告としては極めて残念だ。(序盤でそのことが分かってからもきちんと最後まで読んだ自分を褒めたい)

そして最も残念なことは,participant as observerという立場をとっていながら,少なくとも本論文の中では,特にその強みが活かされているように思える部分がないことだ。
授業観察が教育的ツールの生起回数のカウントと,その表面的なレポートに終始している。
それこそ,授業を実際に受けた身としてその中身をリフレクションしてくれても良かった,というか当然それがあるものと期待して読んだだけにとても残念だった。恐らく,観察者としての参加が許されなかったのか,あるいは研修に行くことに決まったからその機会を活かして研究もすることにしたのだろうと思うが,リフレクションや言語教師認知をテーマに論考を書くのであれば,participant as observerとしての立場はより活かしようがあったはずだ。それもまた別の論考に譲られている可能性は否定できないが,授業観察について述べるセクションがある以上,そこに記述するべきだろう。

文献情報

Kurihara, Yuka. (2019). "What Does an Overseas Teacher Education Program Offer to EFL Professionals?: Exploring the Program from Insiders’ Perspectives" Language Teacher Cognition Research Bulletin 2019. pp. 1-15.

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