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「トークを止めるな! 『カメラを止めるな!』上田慎一郎監督x 田中泰延トークライブ」レポート(2018/12/9)

やってきました!
映画ファンで、『カメラを止めるな!』ファンならば、これは聴きたい組み合わせ!
『カメラを止めるな!』、通称「カメ止め」の映画監督、上田慎一郎さんと、コピーライターで「青年失業家」でありながら、面白い映画コラムも書かれる田中泰延(ひろのぶ)さんのトークショウ!!

主催は関西の映画・映像情報のウェブマガジン「キネプレ」、
http://www.cinepre.biz/wildbunch
場所は大阪・天六のブックカフェバー「ワイルドバンチ」で行われました。

ただねぇ、「カメ止め」旋風が巻き起こった2018年、ありとあらゆるイベントが行われ、テレビのインタビューやWebの記事も一通り出尽くした感があるこの師走に、今さらナニを話するんやろか?
ところがどっこい、さすがは泰延さん、
「上田監督も『カメ止め』の話はし尽くしたでしょうし、みなさんもいろんな記事を目にしてるでしょうから、今日は監督が好きな映画について、ざっくばらんに語りましょうよ!」
そうよ、それ! そういうのが聴きたかったのよ!
今宵は、「上田監督が好きな映画10本」というテーマで、映画に関して縦横無尽に語る夜とあいなりました。
しっかしねぇ、映画マニアという人種は、(ありとあらゆるマニアがそうであるように)、好きな映画について語らせたら止まらない!ましてやシネフィルの上田監督と泰延さんならいくら時間があってもキリがない、まさに「映画談義を止めるな!」という一夜になりました。
※今日は『カメ止め!』出演者の竹原芳子(どんぐり)さんもいらしてましたよ!!

『マグノリア』 ポール・トーマス・アンダーソン監督

上田監督が「どうしても一本あげろ」と言われたら、この映画を選ぶとのこと。
フシギなフシギなストーリーで、個性的な登場人物は交わらない、最後の○○〇が降るところ以外何の接点もないけれど、それぞれのキャラクターを深く照らし出す群像劇。
上田監督は「カメラがフィックスしないし、音楽も流れ続けるスタイルが大好き」と仰っていた。
トム・クルーズのベスト・アクトは必見。今は亡き、フィリップ・シーモア・ホフマンも素晴らしかった!

『パルプ・フィクション』 クエンティン・タランティーノ監督

上田監督が一番好きな監督の、一番好きな作品。
映画ファンなら言わずもがなの映画です。
とにかくオシャレでカッコいい、音楽の使い方も、時間軸を交錯させる手法も、本筋に関係ないバカバカしくも気の利いたセリフも全部好き!
この映画に影響を受け、学生時代に作った自主映画で、女の子二人に「マックとケンタのポテトの違い」について語らせたりしたそう。
あとトラボルタのダンスシーン(顔の前で横向きのVサインのポーズをするやつ)はよくマネしたって言ってましたね。

『スティング』 ジョージ・ロイ・ヒル監督

テレビでこの映画をはじめて観たとき、上田監督が思わずブラウン管に向かって拍手をしたという作品。
映画を好きな人なら、この映画を観て面白くない人と思う人はいない!そんな映画。
ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードという二大スターのバディムービーで、他の登場人物もキャラ立ちしていて、とにかく粋でスタイリッシュ。
悪役を演ずるロバート・ショウは、映画撮影時に足を怪我してしまったので、役の上でも足を怪我させてしまうという“現場でのアクシデントも取り込む”というスタンスは「カメ止め」にも影響を与えている。
上田監督はこの映画をリメイクしたいそう。
(因みに、スタンリー・キューブリックやデビッド・フィンチャーのような“ニュアンス”で魅せるような映画監督の作品は、リメイク不可能とも仰っていた)

『ミッドナイト・ラン』 マーティン・ブレスト監督

上田監督が最も好きな俳優ロバート・デ・ニーロの中でもベストな作品。
相手役のチャールズ・グローディンもホントいい! 
地味な映画なので不当に過小評価されているけれど、バディムービーで、タイムリミット・サスペンスで、笑いありアクションありと、娯楽映画のすべての要素がつまった楽しい映画。ジャッキー・チェンも大好きらしい。
上田監督は、「不器用なオッチャン」が好みで、「娘に嫌われている父親」という設定は、「カメ止め」にも通ずるところがある。
ラストシーンの粋! デ・ニーロの背中! 映画っていいな!

ここで、上田監督がハリウッド映画から学んだ作劇術についてのお話がありました。例えば「三幕構成」について。泰延さんの解説では「まず一幕目で未熟な主人公が登場し、二幕目で主人公が試練にあい、三幕目に試練を乗り越える主人公の成長が描かれる」。
上田監督は、こういう理論を学校や書物ではなく、映画を浴びるように観ながら感覚的に覚えていったとのこと。
例えば、多くのハリウッド映画は、第一幕が25分程度で、そのあと主人公は非日常に突入していき(ex. 「バック・トゥー・ザ・フューチャー」)、75分でクライマックスを迎える。
「カメ止め」は第一幕が37分あり、ちょっと長すぎるんだけど、結果的にそこがいい効果を生んだという評価もあったそう。ここで泰延さんの補足があり、「しかも「カメ止め」は、第三幕が第一幕にくるという、変則的で円環する構造なのがスゴイ!」という解説がありました。しかも第一幕の中が「三幕構成」になっているという緻密さ!

『アパートの鍵貸します』 ビリー・ワイルダー監督

ハリウッドのクラシックな娯楽映画の巨匠、ワイルダーからは『情婦』も『深夜の告白』もいいけれど、アカデミー賞5部門を制覇したこの一本。
マリリン・モンロー(『お熱いのがお好き』)ではなく、シャーリー・マクレーンをチョイス。
洒脱な名脚本家でもあったワイルダーは、脚本上で「伏線の痕跡を消す」(伏線がさりげなくて観客には気づかせない)技術は素晴らしい!と上田監督も絶賛していました。そこで泰延さんは「「カメ止め」では「(録音マンの)ミネラル・ウォーターには唸りましたよ」と言ってましたが、「カメ止め」をご覧になった方は納得されるはず。

『博士の異常な愛情』 スタンリー・キューブリック監督

キューブリックでは白黒時代の作品(『突撃』『現ナマに体を張れ』)が好みだという上田監督。この作品にも、今まで上田監督が語ってきた、好みの映画的要素である「限定された時間と空間」「ブラックコメディ」が含まれています。
同時期に作られたシドニー・ルメット『未知への飛行』は、まったく同じテーマを描きながら、社会派の傑作であり、映画史に残るラストシーンがあるので、ぜひ観てほしいとのこと。
因みに、「カメ止め」の中で監督の娘役を演じた真魚さんが、キューブリックの『シャイニング』のTシャツを着ていますが、特に深い意味はないっすと言ってました。

『ゴッド・ファーザー』 フランシス・フォード・コッポラ監督

これを観て、「将来は映画監督になるか、お笑い芸人になるか、マフィアになるか悩んだ」というぐらい、上田監督に影響を与えた作品。
マフィア映画では、マーティン・スコセッシの『グッド・フェローズ』とどちらをとるか悩んだそう。どちらも大傑作ですけどねー。
監督は、マフィア映画も撮ってみたいそうです。
あと、監督はアル・パチーノとダスティン・ホフマンとデ・ニーロの映画ばっかり追いかけていた時期があるそうですが、これも「映画好きあるある」ですよねー。この三人にジャック・ニコルソンとジーン・ハックマンを加えれば、1970年代以降のある時期のアメリカ映画の傑作がほとんど入りますよね。

『十二人の怒れる男』 シドニー・ルメット監督

「おっちゃんだけしか出てないのに成立している」稀有な傑作。
この映画には、上田監督が好きなモチーフである「密室」と「議論」が出てきます。この映画はリメークがいろいろあり、どれもよいけどやっぱりオリジナルは越えられないですよねー。
また、この映画をパロディ化した三谷幸喜脚本の映画『十二人の優しい日本人』にも大きな影響を受けて、2011年に上田さんが監督した『お米とおっぱい。』がこのほどディスク化され販売中だそうです。
これは「“お米とおっぱい”この世からどちらが無くなるとしたら、あなたはどちらを残しますか?」ということを延々ギロンするトンデモナイ映画だそうです。

『CURE』 黒沢清監督

確かにこれは大傑作だけど、上田監督のベスト10に入ってくるのは意外な感じの一本。黒沢清監督独特の世界観が広がる“ニュアンス”重視の映画
上田監督のことばを借りれば「「扉の向こう側がわからない」ということが物語の「推進力」になっている」見事な映画。

『愛のむきだし』 園子温監督

ワタクシ、「上田監督の映画ベスト10」の中で、この作品だけ未見なので、語る資格がないんですよね、、、
ただこのイベントで上田監督や泰延さんが何度となく仰っていた、
「まだこの映画を観てない人は幸せです。なぜなら「はじめてこの映画を観たときの喜び」がこれから味わえるから」
ということばを胸に、さっそくDVDをレンタルしてこようと思っています。あぁ、たのしみや~。
上田監督がいうところの「おとなが無邪気に撮っている映画」らしいので、4時間弱、どんな映画なのか観るのが待ちどおしいっす!

「上田監督のオールタイムベスト10映画」の紹介が終わったところで、
会場のモニターには、
「カメ止め」は俺の「ロッキー」だ!(by田中泰延)
が映し出され、
今は亡き映画評論家、荻昌弘さんのすばらしい『ロッキー』映画解説動画が上映されました。
その解説になぞらえながら、泰延さんのまとめのことばがモニター上にスライドされます。

「すばらしい脚本、
確実な演出、
予算関係ない熱量、
ぜんぶすばらしいです。

でも、

誰かのために作ったなにかではなく、
みんなに売るためではないなにかで、
ひとつのドリームを実現してしまった」
ことが、49歳無職の男にどれだけの勇気を与えたか、と。

そう、この「カメラを止めるな!」は元々「ENBUゼミナール」という監督&俳優養成スクールの卒業制作だった低予算映画が、口コミで日本中を席捲した「オバケ映画」だったわけです。

泰延さんのことばを受け、上田慎一郎監督が最後に語ります。
「最近、ある高名な映画監督に
「身近な人のために映画を作りなさい」と言われました。
ボクは今回、この映画を12人の俳優のために作ったのです。
そして、奇跡はおきました。
『カメラを止めるな!』はもはや“映画”ではありません。
俳優やスタッフたちがいっしょになって、ビラを配り、SNSで投稿し、舞台挨拶をし続けたこの半年間の活動そのものが『カメラを止めるな!』なのです」

最後に、質問タイムがあり、このイベントは終了しました。

単なる映画の雑談に終始するかと思いきや、上田慎一郎監督の映画に対する情熱があふれる中で、監督の映画モチーフである「群像劇」「緻密に構築された物語の構成」「時間軸の交錯」「台詞の面白さ」「キャラ立ちした登場人物」「不器用な人物像」「ジャンルムービーへのこだわり」「ウェルメイドコメディ」「限定された時間と空間」「伏線の見事な回収」といった要素が、過去の名作を“養分”として花開いたものだったことが、イベント終了時にわかる、という「見事な構成」になっていたんですねぇ。
(田中泰延さんの“勝利”と言えるでしょう)

まぁ、そんな固い話はさておき、映画好きたちが、大いに笑って、手を叩いて喜び、ひざを打ってうなずいて、過去に観た映画に想いを馳せ、まだ観ぬ映画に期待する、そんな楽しい一夜でありました!

またやってくださいね、こんなイベント。

※映画の引用画像の出典は、すべて「IMDb」です。

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