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音圧戦士からラウドネス市民へ

私は朗読やらトークやら宣伝動画やらで音声や動画をネット上に公開することが度々ある。その場合に悩ましいのが、音声レベルをどの位にするかということだ。悩ましいというか、方針は決まっていたのだが、つい最近、私はその方針を以下の如くコロッと変えた。

(旧)天井の0dBFSを目指して充分な音圧を確保する
(新)ラウドネス値が世間で求められる数値になるように調整する

どちらも言ってしまえば「ノーマライゼーション」だ。それが「ノーマル」の基準が時代とともに変わり、私はやっとそれに追いついたわけだ。知ってる人にとっては「ああそう、良かったね」という話だが、以下、聞きかじった話を中心にそれらしく纏めてみる。

昔、戦争があった。いや、今も

このへんの話をするのに「音圧戦争」の話を持ち出さない訳にはいかない。音源制作者が商業的競争に勝つために他と比べてインパクトのある音に聴こえるように音圧を可能な限り上げていった結果、収拾がつかなくなるばかりか表情のない歪みがちの音源が蔓延ったというアレである。

音圧戦争的なものはアナログの時代にも多少はあったらしいが、それほど問題にはならなかった。アナログの世界は機器の性能が如実に音に表れる。そして再生機器の性能はまちまちである。レベルを下手に突っ込むと針が飛ぷかもしれないし飛ばないかもしれない。音が歪むかもしれないし平気かもしれない。実際どういう音になるかは鳴らしてみないとわからない部分が多かったのでレベルを上げるにもリスクが大きかったのではないか。

対してデジタルの場合は0dBFS未満に収めていれば絶対に歪まないという保証があったからギリギリまで突っ込むことが出来る。さらにPCでの制作があたり前になるとかなり無茶な圧縮も試行錯誤で出来るようになる。また、上限0dBFSという公平な条件があるからこそ並べると勝ち負けが分かりやすかったのではないかと思う。

そして、「とにかく音圧を稼ぐべし」というその考えは素人の音楽制作者にも飛び火し、人の声を扱う私もなんとなく巻き込まれていった。私の場合は誰かに勝とうという気はなかったのだが、音圧が他と比べて低いということは聴き手がボリュームを上げなければならず、それは罪だと思っていたのだ。実際、他人の作ったとてつもない小さな音量の動画などに出会うと憎しみを感じたものだ。

この音圧戦争は音が歪んだり、曲のダイナミズムが失われるといった弊害も生んだ。

平和的解決、それはラウドネス規制

音圧戦争は業界内でも当然問題視されていた。そして10年ほど前から動きが見え始める。まずは、音量・音圧の測定基準が、ピークレベル(dBFS)でなく人間の聴覚に基づくラウドネス(LUFS/LKFS)という単位で測定できるようになったこと。続いて、放送業界で番組やCMのラウドネス値を統一しようという取り決めができたことである。

さらに、音声や動画の配信プラットフォームも動き出した。現在までに私の知るかぎり以下のような基準・目安が確認されている。

Apple Music -16LUFS
Spotify -14LUFS
YouTube -14LUFS (2020.1.14更新)
ニコニコ動画 -15LUFS (2020.1.14追記)

私、やっと本気になる

さて私はというと、そういった動きは知っていた。アップロードするときはラウドネス値を意識して調整しなければいけないとは思っていた。ただ、それよりも音量や音圧が低すぎることの方を気にしていた。したがって、より0dBに近づけて音源を作ることを優先し、アップロード時に大きすぎるならば下げればいいくらいに考えていた。

ところが先日、録音した音声をラウドネスメーターで測って調整してみたら、思いのほかレベルが低くなることが分かった。けっこうスカスカなのである。これは、何を意味するかというと、コンプレッサーで頑張って潰してやらなくてもいいということ。ダイナミックレンジも大きく取れるし、音質が大きく変わることもない。

メリットはそればかりではない。他の音源とのラウドネスの統一が取れるので、自分の音源の音圧が低いために聴き手にボリュームを上げさせてしまうという心配がない。

とにかく、今まで何を戦っていたのだろうと考えてしまう。これからは-14LUFSあたりで音源を作ろうかなと思っている。ビルがあり山があり空がある素晴らしい世界。これで一件落着。

……とはいかない。

人の声はちょっと違う

私が主に扱っているのは、読んだり喋ったりしている人の声で、けっこう隙間が空いたり強弱がついたりする。もともと全体の音圧は高くない。レベルを上げるとピークが天井にすぐ届く。結局、コンプレッサーで潰すか、強弱の大きい部分のレベルをいじって(フェーダーのオートメーションを書くってやつ)やらなければならない。

逆に、コンプレッサーでがっつり潰すとかなり音圧感を得ることができ、それでも基準のラウドネス値に収まってしまうので、潰しすぎ、上げすぎには気をつけなければならない。

目標としては、ある程度は潰して-18LUFSぐらいにすればいいのかなと考えている。


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