ネパールで子供たちと

音楽だけで生きていく!~フルート奏者藤原雪氏インタビュー(第4回)

フルート奏者 藤原雪さんインタビュー 最終回です。


音楽の授業のない国で

--- ネパールへはどういう形で行かれたのですか?

その市ヶ谷のイベントを主催していたNPO法人ミランクラブジャパンがカトマンドゥに恵まれない子供たちのための学校を建てて運営してたんです。「そこで音楽の先生やる?」って言われて、「やります」と即答。

(うなずきながら)やりたい、やってみたいと、それだけでした。転機でした。それが。人生の。

あまり知られていないことだと思いますが、ネパールの学校には音楽の授業がないのです。体育も美術もありません。

その理由は、17歳になったら全員が受ける全国統一学力試験です。その結果がその後の人生を左右します。落ちて自ら命を絶つ人も毎年います。

学校の授業はその試験対策の暗記重視で、試験科目以外の授業はないんです。

---- 生徒から「受験に関係のない授業なんて邪魔なだけ」という反応はなかったのですか?

それどころか、とても楽しみにしてくれていました。

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ネパールでの授業風景(写真は藤原雪さん提供)

自分を表現するだけであなたは素晴らしい

--- 具体的にはどんな授業をされたのですか?

統一試験に落ちたら「ダメな人間」かのように思ってしまう環境に置かれているネパールの子供たちに「例え勉強ができなかったとしても、自分を表現するだけであなたは素晴らしいんだよ」ということを音楽を通じて教えたいと思いました。

音楽の授業がないので子供たちはドレミファソラシドも知らない、楽譜を見たこともない。五線譜も初めて見た。自分たちの国歌も歌えないという状態でした。

私が日本に帰った後も好きな曲を演奏して欲しいと思ったので、楽譜の読み方を教えました。国歌も歌えるようにして、それから校歌がなかったので校歌を作って、それも歌えるようにしました。

毎朝、学校の朝会があるんですけど、その時に国歌と校歌を歌ってくれるようになりました。伴奏班は日本から寄付したピアニカで伴奏して、歌唱班は歌って。それを見た時は感動しました。

今でも、その時と同様に毎朝、国歌と校歌を歌ってくれているそうです。その頃に親しくなったネパールの人たちとの交流も続いていて、ほんとに行ってよかったと思っています。


音楽で表現するために生まれてきた

--- ネパールから帰って来られた時、日本で何をやるか決まっていたのですか?

特には決まっていませんでしたが、帰国して結構メディアに取り上げられたんです。他にも、中学や大学で講演して、それがきっかけで幾つか演奏して欲しいという依頼もあって、それなりに活動していました。

でも、そうしているうちに壁にぶつかるんですよね。やっぱり。
ネパールに音楽(教育)を根付かせるには、ネパールの制度が変わらないとダメなのだと。私がネパールに行ったのは無駄だったのかな? 毎朝、国歌と校歌を歌ってもらえるようにはなったけど、これ以上、私に何ができるんだろう?

それで、どうしよう、どうしようと思っている時に、首の骨を折ったんです。脊髄損傷で意識不明。医者に「あなた、いつ死ぬかわからない」と言われました。自分でも首の骨を折った時に「死ぬな」と思いました。あまりの痛さに。

それで、「明日死ぬ」「明日死ぬ」と言われている中で、「なんで自分は生まれてきたんだろう」と思いました。ネパールから帰ってきてもまだなんかモヤモヤしてたんですよね。なんでモヤモヤするのかな、なんで生まれてきたのかな、と考えているうちに、「私、音楽で表現するために生まれてきたんだ」と気づきました。

もし、運よく生きることができたなら、私、音楽で表現しよう!と思ったんです。

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NPO法人森林浴音楽会が主催するコンサートで演奏する雪さん。森林浴音楽会は病院やホスピス、子供の施設、高齢者施設等への出張音楽会を行っている。雪さんもその主旨に賛同して活動している(写真は藤原雪さん提供)

音楽だけで生きていく

--- それはいつ頃のことですか?

2016年ですね、骨折したのが。それで、翌年の2017年に社会起業を学ぶ大人のためのビジネススクールに入学し、演奏活動と並行して学生もやっています。

--- 壁に当たって、ネパールにはこだわらずに音楽で社会貢献する方法を学びたいと思って入学されたということですか?

そこまで立派なものではなく、もう音楽しかやりたくないけど、そうするにはどうしたらいいんだろう? 音楽だけで生きていくにはどうしたらいいのか、見つけたい。そういう気持ちでした。

--- また新しいことを学んでおられるのですね。短大で学ばれた音楽療法はその後の活動にはどう影響しているのですか?

音楽療法の課程を習得したという実績があるので何度か音楽療法の現場でサポートとしてお仕事させていただいております。

また音楽に興味がない方にも、音楽療法の話を伝えると「だから音楽って人間には必要なんだ」 と納得して貰いやすいなと体感してきましたので、間接的にも活動に役立っています。


--- 今後活動していくにあたって一番の課題は何ですか?

自分の弱さを認めてあげる勇気、ですかね。あと信じる気持ち。ありきたりでごめんなさい(笑)

1人では音楽は成り立たないと思っていて、人ありきなんですよ。音を共に鳴らすには聴いてもらうにはその人間を知りたい。でも向き合うってすっごく怖い。 それでも、人間を信じて行きたいと思っています。

最後に、将来に向かってやりたいことを言わせてもらってもいいですか?
私、バンドを組みたいんです。青春時代に夢を見せてくれたヒーローがいて、彼らのように、今までのフルートのイメージが180度変わるようなロックをやりたいです。


---- いろいろなことを学び経験してこられたことが今後の活動にどう活かされていくのか楽しみですね。今日はありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

[了]

(2018/9/20 神保町ブックハウスカフェにて)


関連リンク:
藤原 雪 https://www.facebook.com/yukiflutist/
森林浴音楽会 https://shinrinyoku.or.jp/


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