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2018.12.09 天皇杯決勝 浦和レッズ vs ベガルタ仙台戦 @埼玉スタジアム2002 ~祝祭は少し切ない、ロマンチストとの決別~

鹿島アントラーズとの準決勝で、3つの交代枠全てを選手の負傷の為に費やすという激戦の末、勝ち上がった浦和レッズ。対戦するのは、準決勝でモンテディオ山形との《東北ダービー》を制したベガルタ仙台となりました。ACL出場権を勝ち取るべく、浦和は今年後半、このタイトルに賭けてきました。なんとしても負けるわけにはいきません。オリヴェイラ監督の呼び掛けに従い、大原練習場に声援を送ろうと駆けつけたサポーターの数は、鹿島戦前に350人、この決勝戦前には800人を超えたと言います。

クラブW杯に出場する鹿島アントラーズが勝ち残った可能性を考慮して本来の24日開催から日程が変更、それにルートが重なる埼玉マラソンとの兼ね合いが加わり、日曜日の18時キックオフという、特に仙台サポーターには酷な開催時間となりました。しかもこの日はスタジアム行きのシャトルバスが運行停止。唯一の公共交通機関のアクセスとなった埼玉高速鉄道はかなりの混雑だったことでしょう。

試合開始前、一斉にメッセージタオルを掲げる仙台サポ。自分が観戦した席はメインスタンド南側。周囲には仙台サポーターの姿も多く、特にすぐ後ろの席には、「クラスではきっと《ベガルタはかせ》とか呼ばれてるんだろうなあ」と思わせる、事あるごとに「イケイケシュート打て打て」と元気に叫ぶ隣のお父さんに向けて、次々とベガルタの知識を並び立てる男の子がおりました。

一方、浦和サポの陣取る北側では…

なんと立体直立のフラッグを掲げます!

今まで様々なビジュアルサポートを見てきましたが、流石にこれには度肝を抜かれました。試合前日の準備が許可されず、入場開始後の僅か数時間で仕込んだ、浦和サポの面目躍如です。

もっともこれ、コールの中心部がフラッグに遮られてピッチの様子を確認できなくなってしまうので、来賓紹介のところでもコールをぶっ通しで続けた上に、国家独唱の時もコールを止めるのが遅れたりしてました。独唱だってのに皆で歌っちゃたし。

浦和のスターティングメンバー。鹿島戦の負傷交代3人はスタメンですが、鹿島戦で決勝点を挙げたマウリシオは脱落、代わりに阿部勇樹が入りました。

試合開始から、仙台は高めに設定したDFと中盤で浦和の攻撃陣を押さえ込み、ボールを奪うと主に自軍の左サイドを起点に、そのままサイドを突破、あるいは中央のジャーメインに背後を狙わせる、もしくは大きく右へサイドチェンジという、とてもスマートで秩序だったサッカーを展開します。対する浦和も同じ自軍右サイドが最近の攻撃の重要拠点なので、ここは激しい奪い合いが展開されました。

その中で、浦和は次第に劣勢になります。原因はその渦中にいる興梠と武藤の不調でした。興梠は得意のポストプレーがなかなか決まらず、武藤は相手選手を引き剥がすクイックプレーが披露できない。特に武藤は、プレイの切れ目に盛んに足首を気にしている素振りがみられました。腕を骨折した状態で強行出場したという青木も含め、鹿島戦でのダメージは隠しようがなく、その分、長澤と橋岡の奮闘が目立ちます。

そして、先制したのは浦和でした。最近の浦和の最大の武器となっているセットプレー。コーナーキックからの流れていたボールを、宇賀神がノートラップでダイレクトボレー!

浦和サポーターも驚く圧巻のゴールに、後ろのベガルタはかせ君も、「あんなのたまたま入っただけだよー!」と悔しがります。こちらも少しはそうは思っているが、ベガルタ側に言われちゃ腹が立つ。大人気ない話です(苦笑)。もっとも、このセットプレーの流れは、浦和サポーターが見守る中、繰り返し練習してきた形通りだったそうで、選手スタッフの対策と努力の成果であり、内容を誰一人漏らさなかったサポーターの団結心が招いたゴールでもありました。

その後も、仙台がボールを持つ時間は多く、ミドルシュートがいいところに飛ぶ場面もありましたが、次第に浦和の守備は安定し、GKがボールを出す味方選手を見つけられない場面もあり、途方にくれるシュミット・ダニエルに、容赦ない浦和サポからのブーイングが浴びせられます。この日の浦和はピッチ上で選手同士が確認をする仕草がとても目立ちました。浦和DF陣の修正された守備の前に、最前線で起点となるべきジャーメインは、途中からは完全に抑え込まれ、仙台はペナルティエリア内の入る方法を失っていました。

結局、前半は1-0で終了。

後半に向けて展開された、別パターンのビジュアルサポート。

後半も開始直後こそ浦和の攻める時間帯がありましたが、次第に前半に似た状況で推移していきます。そんな中で62分、柏木が柴戸と交代となりました。交代するなら興梠か武藤と思っていたのですが、柏木もまた満身創痍であったことは間違いなく、限界が来てしまったのか、あるいはこの日の前線では柏木のスルーパスが機能する見込みは薄かったので、柴戸の突破と運動量に期待したのかもしれません。しかし柴戸は相変わらず軽いプレーが抜けきれず、安易なドリブルからボールロストする場面が目につきます。気持ちの入った良いプレーもあるのですが、この辺りは彼のこれからの課題です。

そして仙台は67分、二人同時に関口と阿部拓馬を投入します。この交代策は効きました。今期後半の試合では槙野が守備に集中することで、難攻不落の砦と化していた浦和の左サイド。そこを関口の縦への突破と阿部の横方向のドリブルで掻き回し始めると、仙台のチャンスの数が増大していきました。ペナルティエリア周辺でボールを奪いきれない浦和は、危険な位置でのファウルを余儀無くされます。マウリシオに代わって出場の、阿部勇樹の優れたカバーリング能力が、ここで本領を発揮していなければ、浦和はさらに危険な状況に置かれていたかもしれません。

仙台の攻撃のタクトを握っていた野津田は、悔やんでも悔やみきれないでしょう。少なくとも彼には3回、直接ゴールを狙ったFKがあり、この試合、最大のチャンスだったと言って良い、浦和DFのマークのズレを掻い潜ったヘディングシュートがありました。しかしそれらは全て、ゴールネットに入ることはなく、仙台サポのため息を誘うだけでした。もっとも前半のジャーメインと言い、FWが決定的な仕事ができなかったことが、この日の仙台の反省点だったとも言えます。

浦和は84分、武藤に変えて李忠成を投入。李が前線でポストプレー、あるいはカウンターの狙いのランニングを繰り返すと、仙台はそれに引っ張られ、攻める力を弱めます。本来であればパワープレーを狙いたいところなのでしょうが、最後の交代策はMFの矢島。限られた予算の中で賞賛されるべき、豊富な運動量と丁寧なパスワークのポゼッションサッカーを作り上げた仙台ですが、選手層の薄さはこういう形で現れます。大分トリニータでも何度も見た光景です(苦笑)。

ロスタイムに入るタイミングで、浦和サポーターは「We are REDS!」の大合唱。この日一番の声量に、ベガルタはかせ君もイケイケお父さんも言葉を失います。

そして浦和は、カウンターのチャンスも無理をせず、敵陣深くでのボールキープを優先、時間を潰し始めます。それはかつてオリヴェイラが指揮する監督時代に、どれだけ浦和が悔しい思いをしてきたか忘れられぬ、鹿島アントラーズのプレーそのものでした。徹底した現実主義でエンターテイメントとしての試合を破壊し、勝利を追求する姿。常に最高のエンターテイメントとしてのプレーを求め、それこそが勝利への近道だと信じた稀代の戦略家にしてロマンチスト、ミハエル・ペドロヴィッチが否定するべく情熱を注いだプレーを、今、ここで、浦和の選手が演じています。ベガルタはかせ君の悲痛な浦和へのヤジが、かつての自分自身のように思える中、試合終了の笛は吹かれました。

天皇杯優勝の栄冠は、リアリストへの変貌を遂げた浦和レッズの頭上に輝きました。

優勝記念品贈与の壇上に上がる選手たち。座席の位置的にひな壇が見えなーい(泣)

キャプテン柏木がトロフィーを掲げます。苦しいシーズンの中、今年の柏木は本当に良く戦ってくれました。

お待ちかねの森脇劇場。何故にこんなベストショットが撮れた(苦笑)

控えやリハビリ組、スタッフも混ざり、平川がカップを掲げます。彼の現役最後にもたらされた、8つ目のタイトルです。

オズの胴上げ。安全のために前もってしっかり眼鏡を外しているあたり、「慣れてるっていやね」とこぼしたのは、一緒に観戦した友人です。

場内一周の際、武藤はベガルタサポーターに挨拶をしていました。2011年にベガルタ仙台に入団した彼は、ホーム開幕戦前日のベガルタのクラブハウスで東日本大震災に遭遇。建物の天井が抜け落ちる様を目撃していたと言います。

サポーターとの記念撮影。しかしカメラマンの数が凄かった。

ウィアダイの大合唱。写真にチラリと見えるバックアッパー上部のウィアダイの歌詞垂れ幕は、試合中は仙台側に指定された右半分は張り出されていなかったのですが、この時にはきちんと全部貼られていました。芸が細かい。

今年は最悪の序盤から、大槻親分の就任による回復、そしてオリヴェイラ監督の就任と、激動の一年となりました。しかし最後をこのように最高の形で終え、来年もACLを戦えるところまで持ってきたのは、望外の結果というしかありません。来年は最初からオズの指導の元に再出発。このオフは選手の入れ替えも激しくなるかもしれません。一抹の寂しさ、それはミシャ時代のロマンに溢れたサッカーとの決別も含め、拭うことはできませんが、それに勝る期待感を抱いたまま、2019年を迎えることができそうです。

来年も、浦和レッズに栄光を!

スタジアムを出た後、その足で浦和駅前に号外も貰いにいきました。号外を受け取ろうとする人達のあっと驚く大行列を眺める、演歌の大御所ステージのごときうな子ちゃん。団扇の文字に御注目。

更新は不定期ですので、気長に待っていただけると幸いです。Jリーグのサポーターの方はどこのチームでも大歓迎。煽り合いではなくゆるいノリで楽しめたらいいなと思っています。