mixiから救出した読書感想文#1

邪魅の雫
(和書)2018年05月19日 20:10
2006 講談社 京極 夏彦

何年振りかなあ、京極堂シリーズ読んだの。シリーズである以上当然とは言え、従来のキャラクターが多数登場している上に新しい登場人物も重なって、しかも今回の事件がいつもに増して複雑怪奇な割には盛り上がりがイマイチな展開ということもあって、内容を把握するのに四苦八苦…というか、途中で内容理解を放棄した部分もありました。ただ、京極堂シリーズの中ではかなりミステリーとしてしっかりと構築されている方じゃないかな?という印象があります。別にそれが長所になるシリーズでもないですが(笑)。読んでて大鷹というキャラクターに必要以上に感情移入していたなあ。この傍迷惑なバカはなんか好きなので、できれば生き残ってもらいたかったけど、まあ最後には死ぬだろうと思って読者はみんな読みますよね、その通りでしたよ(苦笑)。


15歳 サッカーで生きると誓った日
(和書)2018年04月29日 15:29
梅崎 司 東邦出版 2017年12月20日

浦和に所属した選手の中でも最も好きな選手の一人であった梅崎司。その自伝です。内容はかなり生々しいもので、そのプレーを見続けていた身としては、色々と思うものがあります。明らかにうまく行っていない時期、梅ちゃんはこんな風に苦しんでいたんだ…と。怪我の多い人で、浦和在籍期間中も実働時間は限られた人でしたが、浦和のサポーターの多くは彼を愛し、今季からベルマーレ湘南に移籍して、敵となり埼玉スタジアムに戻ってきた彼に対しても、試合終了後には声援を送っていました。この本に書かれている通りの、極めて人間臭い彼の魅力故でしょう。


証言記録 東日本大震災
(和書)2018年04月29日 15:22
NHK東日本大震災プロジェクト NHK出版 2013年2月23日

今年も被災地に行くにあたって読みました。NHKの豊富な取材陣を駆使した密度のある内容だと思います。


君を愛したひとりの僕へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-2)
(和書)2018年04月29日 15:19
乙野四方字 早川書房 2016年6月23日

前作、いや平行するもう一つの作品と複雑に絡み合った関係にあるもう一つの物語。もう一つの作品の主人公が日常の幸福を噛み締めて生きていく物語であるとすれば、この作品はその幸福な日常の陰にあった悲しい物語、という感じでしょうか。こちらの主人公は途中から、狂気に似た執念に取り憑かれて行くのですが、作者自身が理知的な人だからでしょうか、その描写があまりうまく行っていない印象があります。同時に2冊分のロジックをまとめ上げる難しさもあったのでしょう。しかしそれを差っ引いも、2冊読み通す価値のある作品で、こういう真っ向勝負の若者向けSF(しかもできればいかにも即アニメ化!しそうな商売っ気のないやつ)がもっと増えればいいなあ、と強く思います。


僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫JA)
(和書)2018年04月29日 15:10
乙野 四方字 早川書房 2016年6月25日

恋愛とSFとミステリーと二重構造のプロット。うわあこりゃ難題だ、と言うものに果敢に挑んだ作家さんに乾盃。作者さんが若いので、冒頭の歳をとってからの主人公の描写が浅いかなーと言う印象で読み始めたのですが、真っ向勝負のSF作品の魅力で押し切った清々しさが読後にはありました。終盤の重要なエピソード、「13の和音」に関しては、どこまでウェットな描写を抑制するか作者も考え抜いた印象があり、そういう考えを持って書いた文章というのは好感が持てます。こりゃもうもう一つの作品も読まないわけにはいきません!


伊集院光の今週末この映画を借りて観よう vol.2
(和書)2018年04月29日 14:56
伊集院 光 宝島社 2016年11月25日

前作はオチに衝撃!な作品が目立ったので、本当に文章前半と後半の間に紹介されている映画を見ないと損な感じでしたが、今回はそう言うのがあまりないので、こちらの方が読みやすいです。伊集院さんとTUTAYAさんには悪いけど、「わさお」をわざわざ借りるのはしんどいですし(苦笑)木村大作さんの語る内容は日本映画ファンとしては貴重なものでしょうし、マツコが本当に興味深く話しているのも楽しいです。ぜひもう少しこの本が売れて続編、できれば気楽に読める文庫化まで持って言って欲しかったのですが…


文豪の探偵小説
(和書)2018年04月29日 14:27
集英社 山前 譲

久しぶりに古い文体の小説を読んだら厳しかったなあ(苦笑)。推理小説と言うジャンルに並々ならぬ興味を持っていた文豪もいれば、ちょっと強引に含めたかな…(苦笑)と言う作品まで様々。森鴎外の「高瀬舟」も推理小説といえばそうなるのかな、と。一番印象に残ったのは佐藤春夫の「オカアサン」かな。残虐さのない詩的な作品で、だけど少し切ないラストがいいです。


東大オタキングゼミ
(和書)2018年04月29日 14:17
1998 自由国民社 岡田 斗司夫

1998年発行されたされた本で、すでに当時で時代遅れになっている部分もありますが(3DOリアルってw)テーマパークや映画に関しては今でも興味深く読みことができます。こう言う講座を東大でやっていた、そしてそのことが話題になった時代があった、と言うことを知る意味で、当時の空気を知る楽しみもあるかな。


ふるさとをあきらめない: フクシマ、25人の証言
(和書)2018年03月04日 12:36
和合 亮一 新潮社 2012年2月24日

今、ここで語られている方々は、いかにお過ごしなのでしょう。震災から一年立たず、放射能の恐怖に立ち向かっていた人たちの様々な思いが、丁寧なインタビューで引き出されています。被災したと言っても境遇は様々で、放射能に対する意識も大きく違う。あれから時間が経過して、みなさんの不安は拭われたのでしょうか。元の生活が戻らないまでも、せめて満たされたものになっていることを願うばかりです。


捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書 (講談社ノベルス)
(和書)2018年03月04日 12:24
加藤 元浩 講談社 2016年10月6日

本業であるマンガ、Q.A.DとC.M.Bは大変な長期連載になってしまい、読者の方が同情せざるを得ないほどトリックに困っておりながら、見惚れるように巧みな短編プロットの収め方を駆使して今尚、魅力の絶えない作品を続けている作者がついに推理小説にも進出ですよ。小説にするからには小説ならではの述術トリックを使ってくるのか?と思いきやそれほどでもなく、とにかく軽妙で元気いっぱいな主人公の語り口が魅力の作品になりました。明らかに見え見えな犯人像や、引き延ばしすぎな展開など、不満はありますが、気楽に楽しむ推理小説としてはまずまずな内容では無いでしょうか。


小説 映画ドラえもん のび太の宝島 (小学館ジュニア文庫)
(和書)2018年03月04日 12:15
川村 元気, 涌井 学 小学館 2018年2月2日

今までF原作ではないオリジナル脚本の作品は多くありましたが、小説って出てたっけ?(F原作ありでは鉄人兵団の時に瀬名さんが書いたのは知ってますが)もしかしたら、これを小説にしたと言うのは、プロットの自信の表れなのかもしれません。かなりよくできたストーリーです。冒頭部がお約束ならまだしも全く以前のアイデアのままだったり、登場人物の台詞が作品の盛り上がりに比例し過ぎてクサイ感じになっていたり(スタンドバイミーで顕著だった、最近のドラ映画のエモーショナルに持って行き過ぎは、ほんと何とかなりませんかね…)不満は多くありますが、これを脚本とするなら、多分、映画は面白く出来上がっていると思います。小説として評価すると、ドラえもんの描写が上手いなあと。この小説の中で、ドラえもんはコメデイリリーフに徹して、一歩引いた位置にいる印象で、ただ一場面だけ、強くメッセージを発するシーンがあるんです。そのメリハリの効いた書き方が良かった。


超人幻想 神化三六年 (ハヤカワ文庫JA)
(和書)2018年03月04日 12:05
會川 昇 早川書房 2015年9月17日

とにかくややこしい物語であったコンクリート・レボルティオを楽しめた貴兄なら、このプロットも大丈夫だね!と言う信頼関係の基づいた、かなりひねりのきいた昭和(いや、神化)風味のタイムトラベル・ミステリー。個人的にアニメ一期のラストシーンがすごく印象的で、ああそうか、主人公は、そしてこの物語の起点となっているのは、あの大怪獣だったのか!と言うのがそこで初めて理解した驚きがあったのですが、この小説ではその部分に、名前を述べるまでも無い漫画の神様、(そしてとある児童向け推理小説作家が微妙に混ざっている)が収まっています。昭和を彩った様々なヒーロー、それが照らし出す戦後日本の明暗。アニメのサイドストーリーで収まるにはちょっと勿体無い作品です。


サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD'S WAR III third (角川文庫)
(和書)2018年03月04日 11:35
石ノ森 章太郎, 小野寺 丈 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012年10月25日

石ノ森というより永井豪じゃね?という残酷描写がてんこ盛りの展開に首を傾げて始まった最終決戦。とにかくサイボーグ戦士がパワーアップしてはやられての繰り返し。(機械的パワーアップから、人間本来の生命力精神性による強化へ…という推移はすごくいいんですけど、その展開の描写も…)事態の展開をほとんど説明文か箇条書き、みたいな文章で書き進めていきながら、感情的な部分にはこれでもか、というほどウェットな文章を書き連ねる。身も蓋もないことを言ってしまうと、この作品は溢れんばかりの故人への愛情を持つが故に、その気持ちに押しつぶされそうになってもがき苦しんだ素人の作品というべきもので、その熱意を、読者側が汲み取ってあげる必要のある作品です。できることなら、故人のプロットを可能な限りそのまま公開して欲しかった…。そもそも、島本和彦が言っていたように「なんだかよくわからない」部分が魅力である石ノ森作品は、文章に向いてないと思うんですよ。ご子息の熱意だけでは、ちょっと相手が悪かった、と言うのが、正直な感想です。


サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD'S WAR II second (角川文庫)
(和書)2018年03月04日 11:20
石ノ森 章太郎, 小野寺 丈 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012年9月25日

執筆者の生真面目さと、作品に対する過剰な想い故に息苦しい作品となっていたこの状況を、改善できるのは007と008のコメディコンビしか無い!と期待を抱いて読んだ2冊目。…やはりハジけるところまでいかず、と言う感じでしょうか。007と図々しい巨大豚とのネパール珍道中というプロットは面白かったので、もっとコメディに振ってしまえば、このストーリーの流れを変えられたと思うのですが…。さらに続く008には故人の元アイデアが存在せず、完全オリジナルで書いたそうで、008のコメディ的要素がほぼ見えない真面目話になってしまったのが、決定的だったように思います。(それでも落語のようなプロットを持ち込んだストーリー自体は悪く無いと思いましたが)決して良い意味では無い息苦しさを孕んだまま、各登場人物の舞台挨拶は終わり、物語は佳境へと向かいます。


サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD'S WAR I first (角川文庫)
(和書)2018年03月04日 11:09
石ノ森 章太郎, 小野寺 丈 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012年9月25日

故人である原作者のプロットを、ご子息が引き継いで作品にしたと言う程であれば、力が入ってしまうのもやんなきことかな。ですがあんまり力がこもり過ぎていて、読み続けるのが億劫な文章になっているのは、やはり残念です。002のエピソードは故人の残された文章の比率が高いらしく、独特の文体で面白みがあるのですが、その他の文章にはそんな余裕があるはずもなく、原作者の残したプロットをいかに表現するか、に苦心惨憺している様子が伺えます。念入りな取材による几帳面な情景描写と、どのように解釈して良いのか探る故に魅力に欠けるストーリー展開の息苦しさ。物語が進むにつれて、その辺が改善されて行けばよかったのですが。


ホラー映画の魅力―ファンダメンタル・ホラー宣言
(和書)2018年01月28日 12:03
2003 岩波書店 小中 千昭

「リング」や「呪怨」が大ブレイクした、Jホラーの理論の構築者によるホラー映画の演出論。いかにすれば「怖い」映画になるのか、嫌悪や驚愕との違いはどこにあるのか、そうした取っ掛かりを掴むのに適した内容です。それ以降様々なホラー映画は作られ、Jホラーもピークを過ぎて、また新たな恐怖を模索している時期に入っているように思いますが、そういう時代だからこそ基礎としてこの本の内容を学ぶ必要があるのかもしれません。


DEATH NOTE アナザーノート ロサンゼルスBB連続殺人事件
(和書)2018年01月28日 11:54
2006 集英社 西尾 維新, 大場 つぐみ, 小畑 健

私、西尾維新という作家さん苦手派なんですが、この作品に関してはクリーンヒットですね。かなり賛否分かれる内容で、どちらかというと否定派の方が多いんじゃないかな?と思う「反則技」を使っているのですが、その使い方が抜群でした。マンガチックなキャラクター描写は得意中の得意の人だけに、南空のキャラクターなどは原作の大人びた印象よりハジけていますが、面白い。原作と西尾さんの相性がピッタリだったのでしょう。おそらく何も考えていないことは間違いないと思いますが、巻末に書かれた「別の事件」の顛末も読んでみたいですね(苦笑)。


歩兵型戦闘車両OO(ダブルオー)
(和書)2018年01月28日 11:31
2002 徳間書店 坂本 康宏

時代としてはエヴァ以降、パトレイバーの影響が色濃く出ている…という印象ですかね。これが書かれた時代から、世の中が大きく動いたものだと思います。国内で劣化ウラン弾を撒き散らす主人公機、国内世論により軍備縮小を迫られる自衛隊なんてのは、今はもう…ね。にも関わらず行政のお役所対応で拡大する被害、とか、長引く不況とパワハラと下請けの圧力に苦しめられる登場人物、なんてのだけは何も変わらず、というのが切ない限り。登場人物の書き分けに、明らかに得意不得意が出てしまっている印象がありますが、それでも盛り上がるところは盛り上げてきます。


黄泉坂案内人
(和書)2017年12月24日 13:10
仁木 英之 角川書店(角川グループパブリッシング) 2011年7月1日

途中の人情話はよく書けていると思うんですよ。語り口も工夫してあって、ちゃんと泣ける良い話だと思うんですよ。ただ、肝心の締めの物語がよろしくない。ていうか、異界の人たちのバックストーリーをほとんど書かないまま最後に持って行っちゃったから、感情移入するタイミングが読者側にないのが致命的。色っぽい女将とか、突っ張った態度の河童少年とか、もう少しキャラクターをあらかじめ膨らませておくべきだったと思います。主人公が大切な人を守り抜いた話ではありますが、これではそれにしたって救いがない人生なので、もうちょっと救いの手を差し伸べても良かったんでない?というのは好みの問題ですかね。


太陽の村 (小学館文庫)
(和書)2017年12月17日 13:16
朱川 湊人 小学館 2012年10月5日

一般道路を低速でタラタラ~と走っていたら、最後の最後で突如猛アクセルを吹かし曲がりきれずに木に激突、みたいな小説。どっからどう読んでもラノベでしょ?みたいな文章でどこかちぐはぐな過去の日本のごとき異世界に巻き込まれるというというこれまたラノベ展開。これ作者はどういうつもりで書いたんかなと思っていたら、ラストにいきなり急展開で、突如声高に現代批判を始めます。え、何これ。作者の意図がいよいよ分からない。「ある世代以降に日本人の精神が堕落し始めたので、それ以前の精神性を取り戻す」という論理、極めて最近の世論の右傾化と親和性の高い主張を、作者自身も賛意として書いたのか?それとも全編にサブカルのパロディが溢れた文章同様、これもまた現代の世相を皮肉って言っているのか?ラストの投げっぱなしの気味悪さはどこまで意図的なのか。どのみち、ある個人の主張のみの基づいて作られた世界など、それがどんなに正しい思想であっても、正しい世界にはなり得ない、ということまでは書いておかないとこういう作品はダメだと思います。


雅楽戦隊ホワイトストーンズ
(和書)2017年12月09日 21:40
2007 幻冬舎 鈴井 貴之

ドラマを小説化するにあたって、ファンタジー的要素を大幅に削いで、人間ドラマとしての要素を濃くする、という判断は交換を持てます。おそらく映像と文章の表現の違いを、鈴井さんなりに考えてのことなのでしょう。内容としては、中年に差し掛かった男たちのむさ苦しい描写もありつつ、昭和中期の特撮ドラマにあった過剰なドラマツルギーが濃厚に込められていて、鈴井貴之にとってのヒーロー番組とはこういうものなのだろう、というのがよく分かり、かつ共感させるものがあります。いかんせん構成が雑というかバランスが悪くて、双子の話などは序盤から書いておくべきだろうし、ヒロインが全く動けていないしと、物語としては不満点ばかりが目立つのですが、こういうヒーローものを見たい、と思わせる作品であります。


カウボーイビバップ―コード・メモリー
(和書)2017年12月09日 21:30
2001 ソニーマガジンズ 矢立 肇, 佐藤 大

アニメをノベライズするにあたってのポイントは?という課題に対する回答はいろいろありますが、この小説は、本編ではあまり深く語られることのなかった、この作品の設定にかなり文字数を割いています。それがいい!SFとしての作品の面白さを増しているのですが、文章自体はラノベ主体の読者に向けた投げやりのように散文的で簡素なもので、飄々とした主人公の雰囲気そのままで読み進められます。ただ、押井版攻殻機動隊を思わせるネットダイバーの描写は、もう少し書き込んでほしかったかなあ。


アクセル・ワールド 2 (電撃文庫 か 16-3)
(和書)2017年12月09日 21:04
川原 礫 アスキー・メディアワークス 2009年6月10日

前作の好評を受けての続巻なのでしょう。同時にいきなりファンサービスに全速力で走り始めました。のっけからロリッ娘登場かい!節操ねえな!物語を進めるうえで、わかりやすくするという意味で「いかにも」なキャラクターや展開やセリフを配置することは何ら悪いことでもなんでもないですが、それで全部通してしまうと、じゃああんたのオリジナリティって何処やねん、という話になります。ファンサービスと自分のリビトーに折り合いをつけつつ、いかに娯楽作品の体裁を整えるか…その入り口に立って、とにもかくにも前に進んだ作者の心意気が、そのまま物語の前向きさに転換されている感じは決して悪いものじゃありません。このまま加速して突っ走れ!


アクセル・ワールド1 ―黒雪姫の帰還―<アクセル・ワールド> (電撃文庫)
(和書)2017年12月09日 20:52
川原 礫 KADOKAWA / アスキー・メディアワークス 2016年2月16日

秋葉原を歩いていたら、新作アニメの紹介らしき映像で、なにやらさすがの猿飛みたいな主人公が写っていて、なんじゃこれはと思ったらこの小説のアニメでした。主人公がぽっちゃり系という大胆な配置ですが、物語との関連性はちゃんとあって、「加速すること」そのことに重要な意味を持つ仮想世界を舞台にした能力バトルものだからこそ、鈍重な外見の主人公にしたというわけ、なるほど。学校カーストの最下位に位置する、という主人公の息苦しさを描写する点においては、いきなり学校一の美少女と知り合いになるわ元気な幼馴染っこはいるわ、ゲームの腕は天才的だわ、挙句にいじめている相手がぶっちぎりの悪人過ぎてリアリティがないわでちょっと甘い気がするし、後半の感情描写が極端に走りすぎているうえに、「殴り合いながら分かり合う」展開の会話の応酬がいまいち刺さってこないなど、やや不満は残りますが、続けて読んでみたくなるいい小説だと思います…と言って、今何巻ぐらい?と調べてビックリしました。そんな出てるんだ…


恐るべきさぬきうどん―麺地創造の巻
(和書)2017年10月08日 20:14
2003 新潮社 麺通団

そうですか、やっぱり埼玉のうどんは不味いですか…作者含む麵通団の方々の意見ではないですが、やはり本場香川の人の意見は厳しいですね(苦笑)。人を笑わそうという、漫才やコントのような文章を続けるというのは大変に知識とセンス、そして何より文章的体力が問われるのですが、香川のうどんパワー恐るべし、と言うべきハイパワーで突っ走っています。まあそれくらいでないと、香川県内のうどんを出すお店コンプリートなんてマネできるはずないですものね。この本はもう古いので、ガイドとしての価値は大きく減っていますが、それ以降に数々のガイド本が出版されているそうなので、いずれ香川に行くときはそれを見たうえで、埼玉のうどんを味わってから赴きたいと思います。


装甲騎兵ボトムズ equal ガネシス (角川コミックス・エース 332-1)
(和書)2017年08月20日 11:09
高橋 良輔 角川書店(角川グループパブリッシング) 2011年5月26日

ATが一騎も出て来ないなんて!咽せるわ!
ボトムズの世界観で語られるハードボイルド新人類物語。
ミリタリー部分はガッチリ書いてあるので、そこは本格感たっぷりなのですが、一方で主人公を始め登場キャラクターがいかにもアニメ向けな設定なのが(添え付けイラスト含め)いささかギャップ感があるし、冒頭に唐突感のあるコメディパートもあったりするので、ちょっとまとまりに欠ける印象があります。終わり方も少し唐突な感じ。いややはりでもとにかくATは…


球漫―野球漫画シャベリたおし!
(和書)2017年08月16日 13:52
2003 実業之日本社 伊集院 光, 岸川 真

伊集院さんが自分の好きな野球漫画を中心に、色々しゃべり倒すインタビューコラム。「アストロ球団」の正当な評価への渇望、水島野球漫画の敬意、新興野球漫画への期待、言いたいことを全力を込めて語りまくり、まだ語り足りない、という熱意を味わえます。もう15年くらい前の本なので、これ以降の野球漫画も増えたし、何より野球界自体が大きく変わって言ったので、今の視線から見た続編ができたらぜひ読んでみたいですね。


小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
(和書)2017年08月16日 13:47
宮部 みゆき 講談社 2010年5月14日

私だってラノベくらい書けるのよ!とでも思ったのか、宮部さん若者口調で頑張って書き下ろしました。内容も若者受けするトラウマ克服ものです。個人的にどうも宮部さんはソリに合わない作家で、今回もコゲパンという女性登場人物の言動がどうしても納得できないのですが、それは単に自分に男としての甲斐性が欠けているからなのでしょうか。でも、宮部さんの小説に強く感じる、何かに依存してしまう女性をどこか肯定している(とまではいかなくとも同情している)視点ってやはり苦手です。
なお、昨年数年ぶりに小説の表紙に写され、作品にも絡んでいる飯給駅に行きましたら、撮り鉄の数が大幅に増えた上に、雰囲気も荒れていました。この作品で有名なったから、とは申しませんが、地元の方が一生懸命に手入れしている風景がエゴイストに踏みにじられている光景は、見るに耐えないものでした。


UFOはもう来ない
(和書)2017年07月02日 13:03
山本 弘 PHP研究所 2012年12月10日

良かれ悪かれヲタクサブカル臭の強さが残る山本さんの作品の中で、この作品は真っ当な冒険小説の印象が強く、そこが良かったです。UFOに関する薀蓄はやっぱり、という感じですけど。悪人の顛末がこれで良いのかな、と思いますが、続編を意識しているのかな。


殺人鬼教室 BAD
(和書)2017年07月02日 12:05
倉阪鬼一郎 TOブックス 2013年9月16日

エロとグロを書きたいのに理由がいるのか?というと、少なくとも表向きは理由がいるんだということですね。エロとグロとエロとグロだを畳み掛けてサイバーな考証を絡めて、どうやら何か言いたいことがあったのかもね、という読後感。ただ、エログロの積み重ねで最後まで飽きさせない工夫をしているのがプロだなあ、という関心はしました。

ダレカガナカニイル…
(和書)2017年06月10日 18:38
1992 新潮社 井上 夢人

ある日突然、超常現象が我が身に起こった! あなたはそれをすぐに現実として受け入れられるか? ラノベやアニメに限らず、「おいおいお前あっさり受け入れすぎだろ」という作品が散乱するなか、この主人公は頑として認めません。良いぞ!それがリアリティってもんだ!と拍手するのも途中まで、中盤を過ぎても終盤に向かっても、主人公が違うこんなのは病気で幻覚だと言い張っているのに付き合っているのは流石にイライラしてきます。読者って勝手ですね(笑)。そもそも、作者の脳内で話しかけてくるのが美少女やファンタジーのお姫様ならともかく、世話好きのおばちゃんなんだもん、話盛り上がらねえよ(苦笑)。話としてはミステリーですから、ラストには謎解きと驚きのどんでん返しが待ち構えているわけですが、やはり、総合的に見ても話が長過ぎますね。


小太郎の左腕 (小学館文庫)
(和書)2017年06月10日 18:30
和田 竜 小学館 2011年9月6日

のぼうの城でヒットした作者さんの続編…か続続編くらいの作品なのでしょうか。のぼうの城が史実を基にしているのに対し、この作品はかなりオリジナル要素が高く(と思いますが…戦国史詳しくないので)、ファンタジーっぽい内容になっている印象があります。話の構成がかなり雑で、とにかく不幸にとにかく不幸に話を持っていこうという意図が強く、そのために登場人物の行動にかなり無理が生じている印象があります。「戦国自体の武将の心理はこのようなものであった…」みたいな一文でなんでも解決すると思うなよ、と言いたくなる(笑)。せめて途中、主人公と玄太との不条理と友情の書き込みを深くすれば、話の筋が通ったと思うのですが、それも場面が散らかっている上に、全部説明文のような口調で済ましちゃってるのが残念。


小説 鉄腕アトム 火星のガロン (KCノベルス)
(和書)2017年06月10日 18:17
二階堂 黎人 講談社 2007年11月29日

手塚ファンの小説家の全力投球をその目で味わえ!原作鉄腕アトムを文章で再現せんと目論むその熱量が素晴らしい。原作版のノリを知らない人にはちょっとついていけないかも、と思わないでもないですが、古風な少年科学冒険ものとしてもストーリーは抜群に面白いです。スピード感のありダイナミックな展開、個性的なキャラクターの活躍、圧倒的に強力な敵の存在、そして、火星大気圏突入時などの場面でキラリと光るSF的ディテール描写の巧みさ。二次創作作品のお手本になる作品だと思いますが、その一方で、挿絵の出来の微妙さは、一体どういうことなのか…。


嘘と少年 (ポプラ文庫)
(和書)2017年06月10日 18:06
永瀬 隼介 ポプラ社 2011年8月5日

私小説風文体の和製「スタント・バイ・ミー」。似たようなコンセプトの作品はよくあるし、まあ、これもその一つかな…と思っていたら、終盤に衝撃の展開が!いや、それはありか?「スタンド・バイ・ミー」と思ったらそっちの洋画?
読者の意表をつく、というのが良いのか悪いのか。個人的には、読み続けていた文章の重みに対する「台無し」感がちょっとあったので、あまり良い印象が持てませんでした。ひっくり返すならひっくり返すで、もうちょっとやり方もあったと思うんだけど、あまりにもまんま、アレだもんなあ…


空色メモリ (創元推理文庫)
(和書)2017年06月10日 17:53
越谷 オサム 東京創元社 2012年6月21日

物語の締め方がとても好みです。ここで話を止めなきゃいけない、というベストタイミングで終わってる。これ以上は蛇足です。最近のストーリー、特に若者向けの作品は、少し話を続けすぎ、という印象が僕にはあるので、これはとても大事な部分。太っちょとがり勉タイプの二人がふとしたきっかけで知り合った女の子二人のために奮闘するライトミステリー。青春という季節のリアリティとファンタジーの配合比を楽しむ作品ですね。


あなたは虚人と星に舞う
(和書)2017年06月10日 17:47
2002 徳間書店 上遠野 浩平

厨二病豪速球の設定のシリーズ第3作。第1作はことさら若くささは強烈で、それがいっそ癖になる味わいだったのですが、3作目ともなると色々とこなれてくるのか、SFストーリーとして程よく落ち着いた印象があります。今まではグロテスクな外見の宇宙艇がメインだったのですが、今回は巨大ロボットものに!青臭いだけでなくそういうあざとさもちゃんと持っているのが上手いなこの野郎!というのが一番の感想(笑)。主人公が諦念を背負いながら、実際に相当に悲惨な世界観なのですが、それでもポジティブなイメージに持って行っているのが良いです。


龍の館の秘密
(和書)2017年06月10日 17:38
東京創元社 谷原 秋桜子

様々な不幸にも貧乏(いやそこまで貧乏という感じもないのですが)にも負けず父親の行方を捜すためにアルバイトをする少女が殺人事件に巻き込まれるというベタの王道を追求したような前作が面白かったので、今回の作品も期待したのですが、うーん。トリックが文章向きじゃないですよね。丁寧に説明しているのですが、それを脳内でイメージするのが難しい。ミスリードを意図したのかそれとも作者の趣味か、本筋には絡まないウンチクや風景のディテール描写が混ざっているので尚更。それが話のテンポを落としているし(殺人が起こるまでは長い長い)。コッテコテの少女マンガ的世界なので、これをマンガにして視覚化すればわかりやすくなっていいかも。


トギオ
(和書)2017年05月07日 12:16
太朗想史郎 宝島社 2010年1月8日

土着性の強いサイバーパンクで、ちょっと初期の村上龍が入っているかな…という感じ。明らかに途中でネタ切れというか失速しているのが残念ですが、情熱をありったけつぎ込もうとした気合は買います。冒頭の閉鎖的で貧しい山村での描写に密度を、とうとうそれ以降で抜けなかった感じなのは、多分、作者の経験、というか皮膚感覚の投影量の差なのでしょう。ちなみに私の持っている本は初版で帯付きなのですが、そこでこの作品の冒頭の一行を「尋常でない」と褒め称えてる評論家さんがおりますが、いやいや、かなりありがちな一文ですよ!多分全部読まずに冒頭だけ読んで褒めてるでしょ!


ヤング・シャーロック・ホームズ1 死の煙
(和書)2017年04月30日 14:30
アンドリュー・レーン 静山社 2012年9月10日

本の体裁を見る限り、ハリポタとかを読む世代に向けた作品なのでしょうか。若き日のシャーロックホームズの冒険譚なのですが、推理的側面はかなり雑で、死の煙の正体が…というのは「まだらの紐」の伝統か(苦笑)という感じ。ホームズは当然イケメンの寄宿舎暮らしの御曹司だけど不幸がちとか、相棒役の家族も宿もないが行動力抜群のワイルドな少年という組み合わせとかが、もう腐女子ホイホイ感半端ないのですが、こういうのはやはりイギリスのそういう年頃の女性ファンも黙っちゃいないんですかね?


御手洗潔対シャーロック・ホームズ (創元推理文庫 M つ 5-1)
(和書)2017年04月30日 14:23
柄刀 一 東京創元社 2008年7月

御手洗潔シリーズ本来の書き手で在る島田荘司ではなく、弟子(なのかな)によるパロディ感の強い作品。シャーロックホームズが現代に現れる、という設定から生じる色々な矛盾を全部吹っ飛ばして、とにかくいるんだから!という力技でストーリーを進めるからには、もっとぶっ飛んだ展開にしても良かったと思うのですが、本格の枠に収めるからにはこの辺が納めどころでしょうかね。ただ、ホームズの人物像が、従来通りの超人的存在と、かつて島田荘司が書いたような「ダメダメ変人キャラ」の中間を狙ってあまりうまくいってない感があるので、そこはかなり残念。巻末に島田荘司本人による締めの文章があるのですが、これが明らかに楽しんで書いているのがわかる文章で良いですw


ずっと死体と生きてきた。
(和書)2017年04月30日 14:16
2001 ベストセラーズ 上野 正彦

経験豊富な監察医の方が自分の体験を中心に書いた様々な検死対象になった死亡事故の実態を記した著。なかなか知ることのできない実情が伺えて興味深いのですが、どうも著者の方がサービス精神が豊富で、世間を賑わした有名事件の犯人像に対する推理まで始めてしまうのは思わず苦笑。観察の立場からは間違いなく犯人だと思わせる相手を有罪にできなかったような、重い内容も在る一方で、どこか孫がお話をねだるのに笑いながら応じるようなイメージがふと浮かんでしまいました。


サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ
(和書)2017年04月30日 13:59
宇都宮徹壱 カンゼン 2016年11月17日

2008年から始まった連載だけに、現在では内容が大きく変わっているチームも多くあります。規模が小さく、些細なことで大きく形を変えることも、場合によっては消滅することも珍しくない地域クラブの姿。いかに地域に受け入れてもらうか、各クラブが苦労しながらアプローチしている姿、またそのポリシーを丁寧に伝えている文章です。文章中に登場する、J3という存在に対する評価に関して否定的なロック総統が、昨日、チェアマンと話し合ったというビックリニュースがありましたが、有意義な会話がなされたのでしょうか?


歓喜へ
(和書)2017年04月30日 13:50
山岸 範宏 KADOKAWA 2016年9月30日

「山の神」と呼ばれるあの奇跡のヘディングゴールでJリーグファンでは知らぬ者はいない山岸範宏選手の自伝。冒頭はもちろんあの場面を振り返っているのですが、文章は割と浦和レッズ時代が中心で、特に都築龍太とのバチバチのポジション争いが一際、読み応えあります。もうビジュアル面からキャラの強い実力者同士で一つのポジションを争っていたんだから、すごい時代でした。加藤(現大宮)のお人好し後輩っぷりってのも予想通りすぎて良いです(笑)。しかしまさかこの本が出て3月経たずして山形を離れることになるとは…もう少し神様を大切にせんか山形!


在る光 3.11からのベガルタ仙台 (ELGOLAZO BOOKS)
(和書)2017年04月30日 13:40
板垣晴朗 サッカー新聞エルゴラッソ ベガルタ仙台担当記者 スクワッド 2017年2月23日

3.11以降のベガルタ仙台の推移を近くで見つめてきた番記者による一冊。希望の光になろう、という言葉に象徴される、ベガルタ仙台のチームすべての人の震災に対する思いの変遷を、チーム成績を合わせ語られています。チーム戦力を鑑みれば震災翌年の2位は賞賛に値する一方、それ以降の成績は伸び悩んでいる現状は、決して純粋な気持ちだけで乗り越えられるものではありません。より高みへと進むのであれば、何らかの変化が必要だと思うのですが、忘れてはいけないものを再確認する意味で、こういう文献は必要だと思います。


津波からの生還 東日本大震災・石巻地方100人の証言
(和書)2017年04月30日 13:33
旬報社 2012年7月25日

今年の3.11、野蒜地区を訪ねる際に読みました。この本を読まないと気づけないほど風景は変わっています。タウン誌の限られた文字数(といっても異例なほどに量を取っているそうですが)でまとめられた文章は簡潔なだけに、身も蓋もなく正視に耐えない悲惨な光景を切り取っています。地元紙ならではの地道な取材と、地域の方達からの信頼があるから成り立ったのであろう一冊だと思います。
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記者たちは海に向かった 津波と放射能と福島民友新聞 (ノンフィクション単行本)
(和書)2017年04月30日 13:27
門田 隆将 KADOKAWA/角川書店 2014年3月7日

震災以降、幾つか出版されている、報道側の被災ルポ。その中でこの作品が異質なのは、直接の犠牲者が出ている点。津波が迫る中、自分の本分である取材を投げ打ってまで避難誘導をしていた一人の記者の最後を中心に、その周囲の人たちの思いを書き留めた作品です。その周囲にいた文中の方々の、読むのが辛くなるほどに痛々しい心情は、今も多くの被災者の方々が心に留め置いている気持ちと同質なのでしょう。それはできない事であった、というのは百も承知ですが、この作品には、記者として、同僚として、友人としての亡くなられた記者に対する言葉が並べられている以上、ご家族の言葉も必要であったかな、という気持ちはあります。それと、犠牲者を出した以上、福島民友新聞として、今度の危険が予想される取材活動に対する基準はどうなるのか、ということも明示して欲しかったと思います。


鷹狩りへの招待
(和書)2017年02月12日 16:54
1997 筑摩書房 波多野 鷹

この人の鷹狩りの実演を見たことがあります。途中、カラスか何かに追っかけられて鷹が見えない場所まで逃げてしまって、そのままいなくなったらどうすんだと観客がハラハラしている中、ご本人は悠然としていたのが印象的でした。(その時の内心は知る由もないですが…)鷹狩りの人と鷹の関係が、一般の動物、ことペットのそれとは大きく違うところが興味深かったです。もちろん愛情は絶対に必要ですが、それを相手側からは期待しない、徹底的にロジカルな関係。伝統的な世界でありながら非合理な要素は必要とせず、体育会系のような精神主義はむしろ障害となる世界。長く続くべき伝統というのは、むしろこういうものだと思うのですが、一部の愛好家がいなければその伝統も途絶えていたかもしれない、というのが実情なのですね。


山と森の生活誌
(和書)2017年02月12日 16:35
遠藤 ケイ 日本放送出版協会 1994年5月

冒頭がいきなり、自然生活原理主義丸出しな文章なので多くの人はビビってしまうと思われますが、肝心の内容に入ると興味深い自然の中の生活が手際よい文章で綴られていて楽しめます。以降も、ところどころで顔を覗かせる力の入りすぎたエコロジー至上主義の文章を上手くかいくぐって楽しむことが、この本のポイントですね。「現代文明に毒されて腐敗した都市生活者」をさんざん悪く言ってますが、この本を買って読む人の99%がその中に当てはまると思うんですがね、そういうことをどう考えてこういう文章って書くのかな。文末の写真を見ると、あまりに想像通り風貌なので怖くて、とても本人を前には言えないけど。


ニッポンの河童の正体 (新人物ブックス)
(和書)2017年02月12日 16:28
新人物往来社 2010年10月13日

表紙に水木しげる御大のイラストが使われているように、イラストもふんだんに使われた読みやすい本です。マンガやゆるキャラのように、現代のアイコンとして使われている河童のようなポップな部分から、民族学的見地に基づいた専門的な部分まで、まんべんなく解説したバランスのいい本で、より詳しい専門書の紹介まで含めて、ガイドブックとしては文句のない本です。他の妖怪の続編もあれば読みたいのですが。


親を殺した子供たち
(和書)2017年02月12日 16:21
草思社 エリオット レイトン, Elliott Leyton, 木村 博江

いきなり日本での事例で始まる、子供により親殺しの実例を重ねてくることで共通で浮かび上がる家庭の内実。貧困に苦しむ下流でもなく、様々な外的要因のあり得る上流でもなく、多くの人が含まれるであろう中流階級でこそ起こりうる凄惨な事件。中流という階級のボリュームが減少し二極化が進む現在は、よりこうした事件が起こりうる環境になっているかもしれません。文章は丁寧に調査されていますが、ややスキャンダラスな文章という気がします。出版されたアメリカ(ですよね?)ではこれくらいが標準なのかも知れませんが、共犯関係の恋人同士がどんなプレイをしていたか、とか書く必要ありますかね?文章の後半では、親殺しというのが人間の歴史においていかに特殊であるか、というのを強調していますが、そんなに珍しいことか?と思ってしまう自分は、現代社会に毒されているのかもしれません。


イビチャ・オシムの真実
(和書)2017年02月12日 16:00
エンターブレイン Gerald Enzinger and Tom Hofer

海外で出版されたイビチャ・オシムの自伝に、千葉時代のパートを追加した1冊。日本の自伝のようなウェットな文章ではない事実を書き重ねる文章はクールですが、オシムの母国、ボスニア周辺の政治、歴史にある程度知識を持ってないとわかりにくいかも。ただ、海外でも高いオシムの評価を存分に感じることができる内容です。書き足しの部分では、日本のサッカーの将来に対してポジティブな言葉をオシムさんは残してくれているのですが、文末で訳者が台無しにしているのが隠れた見どころ(笑)フランスW杯で負けてもヘラヘラ笑っていた選手って誰だよ(苦笑)


殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件
(和書)2017年01月08日 12:39
清水 潔 新潮社 2016年5月28日

この作品をフィクション、推理小説に例えるのであれば、「この物語を書くにあたって絶対に書かなくてはいけない、ある一つの大きなこと」がまるごとごっぞリ抜けています。それにはノンフィクションならではの書くことができない理由があるのでしょうが、それがない不自然さが、この作品を読んだ人に与えるであろう圧倒的な影響力を考えると、少し気になるという部分は指摘しておきます。北関東で起きた連続する少女連続殺人事件。埼玉周辺でおきた宮崎勤による連続殺人と似通っていながら、その後の捜査、報道の経緯の歪さが際立っています。16年後半に文庫Xの名で改めて話題になったことをきっかけに、世論がこの事件の進展を推し進める力になれば良いのですが、その予兆がいまも感じ取れないのは、この本の中に書かれているいろいろな「不都合な真実」のためでしょうか。今の日本の現実の一端として、極めて見る価値のある文章だと思います。


社長・溝畑宏の天国と地獄 ~大分トリニータの15年
(和書)2017年01月08日 12:29
木村 元彦 集英社 2010年5月25日

情熱と狂気は紙一重。Jリーグを語る上で外せない、稀代のトリックスターにしてトラブルメーカー、元大分トリニータの社長、溝端宏の物語。噂でいろいろ耳にした人ですが、その実態は噂よりも凄まじく、サッカー本としてのレベルを超えた、jリーグや九州産業界を中心としたビジネスの実態を露骨にあぶり出す、かなりな衝撃の本です。生半可な気持ちで読むとえらい目に会いますが、サッカーの興味ない人にもぜひ、手にとっていただきたい一冊。うわ、マジで日本の(こと地方の)商売って、今もこんなにドロドロしてるんだ、と思い知らされます。社長の前でズボン脱いで陰毛燃やして支援金を勝ち取る、とか、平成でも普通にやってるんですね…。大分サポの大半にとっては今でも怨嗟の対象なのかもしれませんが、この人の狂気の残り火が今にも残っているからこそ、トリニータというチームには他のチームにはない魅力があるのでは、と思っています。


星の林に月の舟―怪獣に夢見た男たち
(和書)2017年01月08日 12:13
1987 大和書房 実相寺 昭雄

実相寺昭雄監督が円谷プロ在籍時の日々をフィクションに仕立て直した物語。登場する人物や語られる作品のエピソードの名前の大半は置き換えてありますが、それなりのマニアであれば「あー、これはあの人だなw」「これってあのエピソードじゃんw」と見ぬくことができるでしょう。もっとも、そういう楽しみ方はあくまで邪道で、物語として古風な文体のよく似合う、骨太な昭和時代の若者たちの群像劇として読み応えのある作品です。自分たちの作品に掛ける情熱と、時代に翻弄されて懸命にもがく姿。ビターな味わいがよく似合う、だけどやっぱりウルトラの物語。 


大相撲あるある
(和書)2017年01月08日 10:14
荒井 太郎 新紀元社 2013年11月23日

オモテウラの表紙のインパクトよw 若鷹ブームの頃に、あちこちの相撲関係誌で拝見した琴剣さんの絵が懐かしくて買ってみました。ブーム後はいろいろとあったようで、苦労されたようですが、絵柄は以前のままの暖かいもので、むしろ画力は上がっているように見えるあたり、本当に絵を書くのが好きな方を思わせて、改めて好きになりました。いわゆる読者の共感を誘う「あるある」本とは違って、力士さんがあるあると頷くような日常を描写しているあたり、内容が素直に面白いので、相撲好きなら絶対オススメですし、そうでないかたも、自分の知らぬ業界人々の姿を垣間見る楽しさがあります。


クロ物語―氷海に飛び込んだ犬
(和書)2017年01月08日 10:07
2005 けやき出版 独活 章

文章に「イデオロギー」という名の雑音が多すぎます。作者が学生運動から思想的挫折していろいろ渡り歩いた人らしく、自分の主義思想のアピールがバンバン前に出てくるので鬱陶しい事この上ないし、正直、「犬の感動ストーリーを餌に自分の政治思想を読者にバラ撒く」狡っ辛い所業としか読めないのですが、まあ、作者的には悪気があってのことではないのでしょう。本当に日本の現状を嘆いているだけで。文章を書くにあたっての資料採取に関しての努力は評価されるべきもので、そもそも「クマ」と誤認されていた犬の名前を正し、直接犬に関わった人にインタビューを重ね、犬が氷海から救出される場面を写した写真を発見して、と価値が高いものであることは間違いありません。


新選組戦場日記―永倉新八「浪士文久報国記事」を読む
(和書)2017年01月08日 09:57
木村 幸比古 PHP研究所 1998年10月

新撰組副長、永倉新八が、新選組在籍時のことを回想し記した日記録。日時に関しては齟齬が目立つものの、新選組時代の内容に関しては具体的に書かれていて、この資料が見つかった当時は大いに話題になったものです。しかし小説でネタになる部分、例えば山南敬助の自刃とか山崎烝の水葬とか、真偽が話題になる部分の記述は少なく、特に腐女子大好き沖田総司の描写は「力士と喧嘩した時怪我をした」「池田屋の時に病気が再発して途中で抜けた」とかイマイチな場面ばかりが目立ち、猫を切ったとかどうとかの場面はいっさい描写なし。つかいつ死んだかすら書いてない。ただ、喧嘩別れした相手なのに近藤勇への敬意は感じられるところは救いがあるかな。


お前がセカイを殺したいなら
(和書)2017年01月08日 09:44
1995 フィルムアート社 切通 理作

学生の頃、この作者の怪獣映画の評論を読んで、サブカルの評論に興味を持った覚えがあって、これもこの当時に買ったと思うんだけど、ほとんど読まないまま放置。今回、改めて最初から読み返してみて、あーなるほど、と思った。ちょっと学生の時に読むには重い内容。しかし冒頭でいきなり「東京少年」と「ブランキー・ジェット・シティ」の歌詞についての評論から入る辺りがまあ時代ですね。しかしながら東京少年のボーカル、ささのみちるがレズだとカミングアウトする前に書いた文章だとすると、この考察はなかなか鋭い。「いじめ自殺事件」や「大江健三郎」についての評論は今も見る価値は十分にあると思います。平成ゴジラ中、最も映画としての完成度で難を言われる「ゴジラ対キングギドラ」を好意的に書いた文章を書いた作者が、「シン・ゴジラ」をどう評したのか、ちょっと気になるところですね。


伊集院光の今週末この映画を借りて観よう vol.1
(和書)2016年11月12日 21:16
伊集院 光 宝島社 2016年9月23日

実はまだ読み終わっていない!文中で紹介されている映画の中でどうしても一つだけ、「あれみたよ編」を読む前に見たい作品があるので、そこだけ飛ばしています。人に映画を紹介するのって意外に難しくて、自分が良い点を言えば言うだけ相手が引くというパターンならまだしも、そもそも自分が何処を気に入っているか分からない、なんてことも多いし。個々の紹介されている人たちはその顔ぶれで分かるように鮮やかに自分が惚れた映画を言葉で描き出し、それを伊集院さんが匠に引き出しています。1200円の値段で紹介された映画が8本、というのは物足りないですが、まあこの文章の仕掛けを考えれば仕方ないのかもしれません。


蝦蟇倉市事件1 (ミステリ・フロンティア)
(和書)2016年11月12日 20:52
道尾 秀介, 伊坂 幸太郎, 大山 誠一郎, 福田 栄一, 伯方 雪日 東京創元社 2010年1月27日

ぶっちゃけ、作品に当たり外れはあるような…。いや、あくまで好みですね。架空の街、蝦蟇倉市を色々な作者が描き出していく連作集。他の作者の描いた風景や登場人物を絡めていったりと、連作ならではの楽しさがあります。しかし、蝦蟇倉と名前を着けたからには、もうちょっと鎌倉っぽい雰囲気にしても良かったのでは…というか、続けていく内にどんどんズレていっちゃった?みたいなところも楽しいですね。


ドラえもんは物語る―藤子・F・不二雄が創造した世界
(和書)2016年11月12日 20:44
稲垣 高広 社会評論社 2012年3月

ドラえもんが好きで好きで、自分が好きなエピソードで人とたくさん話したい!という気持ちがフルパワーで解き放たれた渾身の書。すごく勉強熱心な人らしくドラえもんの短編エピソードからあっちこっちに話が広がる様子は、いかにも楽しそうで、読んでいるこちらまで良い気分にします。丁寧な性格ゆえに、同じことを何度もくり変えるような文章はご愛嬌でしょう。しかし、40を過ぎたおっさんでも例えば「かげがり」「人間製造機」「どくさいスイッチ」「未来世界の怪人」「家がどんどん遠くなる」と、この手のタイトルがずらりと並べられると恐怖の気持ちでゾワゾワします。多分、同じように感じる人は多いはず。ドラえもんの凄みは、キャラクターとストーリーの双方が極めて高次元で、しかも子供の理解できる範疇で収められている点だと、あらためて思い知らされます。


ローカル線で行こう!
(和書)2016年11月12日 20:34
真保 裕一 講談社 2013年2月13日

そのまま TBSあたりのドラマの企画資料として提出できそうな、「地方創生&窓際リーマン逆転劇の専門知識込めたミステリー風味」。それこそ流行りを手当たり次第にぶち込んできたような作品で、会社もの連続ドラマ大嫌いな私が本来なら絶対に手を出さないジャンルなのですが、ネタが鉄道、それもかつて幾度も乗った「くりはら鉄道」がモデルとなると見ないわけには行かなかった。そしてなんで現実はこのようなハッピーエンドにならなかったのだ(泣)まあこのテの作品に「現実はこんなに甘くなんかねえよ」という見方をするのは、それはそっちが悪いわけで。シンゴジラを見た直後に読んだもので、主人公がずっと石原さとみで再生されていましたが、今思えば、多分、もうちょっとブサイクだと思う。


島はぼくらと
(和書)2016年11月12日 20:23
辻村 深月 講談社 2013年6月5日

主人公を始めとして、登場人物の少女まんが感はすごく強いです。表紙のイラストがダメ押しですね。Iターンの受け入れに積極的な孤島の様々な人間関係を、迫り来る将来の気配に揺れる少年少女の視点から書かれたみずみずしい物語。ドロドロしている人間関係も書かれていますが、それすらも浄化するような素敵な描写で記述された風景とピュアな感情。読んで清々しい気持ちにさせる、期待に応える作品だと思います。ところで、瀬戸内海の島なのに、活火山というのはどうなんでしょう、地学的に。


グレイヴディッガー (角川文庫)
(和書)2016年11月12日 20:15
高野 和明 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012年2月25日

とにかくドキドキハラハラのサスペンス逃走劇。活字を追うのにこれだけワクワクしたのも久しぶりってくらいのスピード感あふれる展開は文句ないに面白いです。ストーリー的には東京を縦断するだけなのに。アクション映画的、という言い方はできますし、実際、見せ場を意識し過ぎるあまり無理のある場面もないではないですが、よほど上手に撮らないと、映画化はこの原作には負けますね。最後に、よく見かけますが、使うには恥ずかしくて余り使う機会のないこの一文をこの作品に捧げます。
「とにかく面白くて、最後まで一気に読んでしまいました!」


戦争のリアル Disputationes PAX JAPONICA
(和書)2016年10月23日 11:09
2008 エンターブレイン 押井 守, 岡部 いさく

まあこういう文章を読んでしまうと、政治的視点からどーのこーのと騒ぎ出す人もいらっさるでしょうが、あくまで軍事オタクのよもやま話ですから、あまりムキになるのもどうかなと思います。(途中、脚注で修正が必要なくらい、認識齟齬している場面もあることですし…)日本が持つべき軍備、ミニマムな点では重火器から、戦車や航空機、船舶、果ては核兵器に至るまでを論じた内容ですが、素人が読んでも「お前そら趣味に走りすぎだろ」と言いたくなる箇所も多いので、どこまで本気にして良いやら。ただ、戦争や軍隊を肯定するにせよ否定するにせよ、日本人が現状、戦争というものを知らなすぎる、という部分は、考える部分ではあるなあ、と思います。


駅前旅館に泊まるローカル線の旅
(和書)2016年10月23日 10:57
2002 筑摩書房 大穂 耕一郎

有名なホテルやビジネルホテルでなく、鉄道を利用する古くからの商人用の宿を(一部規定から外れているような宿も含まれていますが…)紹介していくエッセイ。ともすれば単調になりがちなこの手の作品の中で、この作品は文章が達者で、読み物としても楽しめます。実はこの本、旅行の途中で読みましたもので、中で紹介されている山田線と並行する「道路の制限速度を守らないことを前提にしたダイヤ」の長距離バスにまさに乗っておりました(苦笑)。山田線の長期不通解消を切に願います。途中に紹介されている宿もあったのかなあ。「ビーフビレッジ区界」はやっているかどうかもわからない感じで通り過ぎたなあ…。久留里線や関東鉄道、小湊、わたらせ渓谷、鹿島、京浜急行など東京近郊の案内も多いのが意外。


怪獣文藝
(和書)2016年10月23日 10:46
赤坂 憲雄, 天野 行雄, 菊地 秀行, 黒 史郎, 黒木 あるじ, 小島 水青, 佐野 史郎, 雀野 日名子, 樋口 真嗣, 牧野 修, 松村 進吉, 山下 昇平, 山田 正紀, 夢枕 獏, 吉村 萬壱 メディアファクトリー 2013年3月15日

怪獣より怪物や妖怪にかなり寄った内容の作品が多いのは、文学の特性上なのか。怪獣映画の原案になるような直球を描いた作品は少なく、そこに投げ込んだ筆頭が本職ではない佐野史郎さんというあたりに、怪獣小説の難しさが偲ばれますね。今、このタイミングで一番興味深いのはやはり、樋口さんの夢枕獏さんとの対談になりましょうか。震災後の怪獣映画の不在の中の対談は、よくよく読むとシンゴジラの気配を感じさせるもので、結果、怪獣映画の空白を埋めるに至る経緯を伺うことができます。


ゾンビ解体新書―ゾンビハザード究極マニュアル
(和書)2016年10月23日 10:24
笠倉出版社 2010年7月

古本で買ったのですが、いわゆるコンビニブックのような安い体裁の本です。なのに内容はえらいこと充実していて、マニアの執念のようなものを感じさせるこのギャップ。これぞチープだけど執念がかったB級ゾンビ映画そのものって感じですごく良い!ゾンビ発生のシュミレーション、ゾンビから生き残る方法、ゾンビとはどういう存在か、ゾンビ世界の行く末、そしてゾンビ作品の歴史と、やりたいことを全部やりました!という製作者の充実した血まみれで青ざめた笑顔が浮かびます。それしても何ですが、ゾンビ発生のシュミレーションにおける政府の対策の後手に回りっぷりが、まさか発刊一年後になかなか正確に再現されるとは、思わなかったでしょうねえ…。


セブンセブンセブン―わたしの恋人ウルトラセブン
(和書)2016年10月23日 10:15
1997 小学館 ひし美 ゆり子

ウルトラファン永遠の恋人、アンヌ隊員を演じたひし美ゆり子さんの自伝。この表紙の美しさは今でも通用しますね。健気にモロボシダンに尽くすアンヌ隊員と異なり、実際のゆり子さんはかなり豪快なお方らしく、そのエピソードもいかにも昭和の武勇伝っぽさに溢れ、昭和のアイドルエッセイを思わせる(なかなか今時にしては恥ずかしい)文体と相まって、「なんかこれ、アンヌと違くね?」と思いつつ、読み物として面白いし、ゆり子さんという方の魅力を楽しめる内容です。セブン全話を回想した章などもあるのですが、むしろセブン以外、昭和の大物俳優などとのエピソードに意外なものが多く、ウルトラにあまりこだわりのない人にも楽しめる内容だと思います。


描きかえられた『鉄腕アトム』
(和書)2016年10月23日 10:07
小野 卓司 NTT出版 2008年3月

考証ファンの悲鳴を誘う悪名高き手塚治虫の書き換えに、自費を大量に費やして挑んだ労作。ヲタクの執念恐るべし。その苦労がしのばれるだけに、文章全体から滲み出ている「ヲタクのコレクション自慢」感も、「ページ数に及ばずネタ切れでちょっと水増しして見ました」感のある終盤も大目に見てあげようという気にさせます。また、手塚プロから許諾を得てくれたので、作品の画像は使い放題で、華やかで見ごたえがあります。なかなか高価な値段はここで納得しなくてはいけません。大きな欠点としては、作品の配列を、作者の判断によるテーマ別にしてしまった点。これですごく分かりにくくなってる。資料的価値を求めるなら、筆者の主観などでなく、作品の発表順などにすべきだったはずです。また、改めて見るとアトムが強いメッセージ性のある作品なのは事実にせよ、そこに作者個人の思想を乗っけてくるのは、個人的には反則だと思います。


ドキュメント 震災三十一文字(みそひともじ)―鎮魂と希望
(和書)2016年09月17日 18:20
NHK出版 2012年4月19日

時々、東日本大震災の関連本を見つけて読んでいます。あんな大きなことでさえ、時が過ぎれば薄れ行くもので、それを防ぐ意味でも。
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新廃線紀行
(和書)2016年09月17日 18:13
嵐山 光三郎 光文社 2009年12月17日

新幹線や飛行機に置いてある車内雑誌が好きな人っていません?そこに書かれているような、有名な作家さんが息抜きに描いたような紀行エッセイのテイストが、廃線というお題で丸々一冊楽しめる内容です。この手の文章にありがちな、描いているご本人が照れているような文章が楽しいですが、朽ちていく廃線跡の魅力、その行程につきまとう困難などをユーモラスに語りつつ、温泉やグルメも、周辺の観光も手際よくはさみ込むその手腕は大したもので、読んでいるとここも行ってみたいと思わせる箇所ばかりでした。はるか昔の廃線から、比較的近年のものまで、バランスよく全国各地に散らばっているのもいいですね。
しかし、旅先で食べたグルメはどれもとても美味しそうに記述しているのに、埼玉県熊谷だけはボロクソに書かれているのが埼玉県民としては(泣)。いや確かに美味いもん何もないけど(苦笑) 


新選組99の謎 (PHP文庫)
(和書)2016年09月17日 17:53
鈴木亨 PHP研究所 1993年9月30日

古い本ですが、新選組入門として程よくまとまっています。まことファンの多い新選組ですし、今も新事実が絶えることなく見つかっているので、訂正が必要な部分もあるでしょうが、新選組研究家にありがちな、個人的願望による推測や予断を可能なかぎり避けている姿勢は伺えます。それでもまあ、沖田総司終焉の地の記述あたりに、若干の悪意が感じなくもないですが…w お嫌いなんですね、今戸終焉説w 


リカーシブル (新潮文庫)
(和書)2016年09月17日 17:43
米澤 穂信 新潮社 2015年6月26日

作品の内容と、作品の舞台がそぐわない印象があります。この内容だと、寂れた地方都市というより、山深い因習の村、とかにしないと成立しないんじゃないかなあ。いくらなんでも登場人物の範囲も狭すぎるし。ミステリーというだけでなくホラーも混ざっている内容はイマイチすっきりしない感じ。結末もちゃんとまとまっていない気がしますが、年頃の、決して幸福ではない少女の心境とはうまくマッチしている感じです。


ULTRASEVEN X
(和書)2016年08月20日 22:54
円谷プロダクション, 小林 雄次, 小林 英造 ホビージャパン 2008年5月28日

円谷プロが大人向けの作品を作ろうともがいていた時期の変わり種作品…と言ったら失礼かな、そのノベライズです。基本、「あくまで本編を見た上でその補完を主とした内容」のタイプなので、本編をダーイブ昔に見た後で読むとちょっとスカスカ感が厳しいのは致し方ないところ。本編同様、「ハードボイルド」な世界観を狙っているのですが。まあ成功しているとは言い難い。世界観とか物語の展開とか、悪い意味で子供向けの作品の厚みのままで雰囲気だけハードボイルドにしちゃってるから、全方位で浅い内容になっている感は否めません。ネクサス同様、発想にセンスと予算がおっつかなかった作品、といったら言い過ぎですかね。


ぼくらは虚空に夜を視る (星海社文庫)
(和書)2016年08月20日 22:45
上遠野 浩平, serori 講談社 2012年8月9日

実際の中二ですら想像するのをためらうほどの超ド級の厨二病設定の物語を、一ミリの狂いもないど真ん中に投げ込んできたら、それはもう見送るしかないよね。というくらいの堂々たる小説です。いやもうこれは豪快というか、逆に自分の文章力に相当自信がないとやれないよね!という力強さに惚れてしまいます。ここまで迷いがないと鬱展開なんて行きっこないだろ!という安心感も、むしろ良い方向に作用して、とにかく読んでて爽やかなのが良いです。


妖奇切断譜
(和書)2016年08月13日 15:51
2003 講談社 貫井 徳郎

幅の広い作者さんというか、以前、貫井さんのユーモアたっぷりの小説を読んだことあったので、この本の猟奇性たっぷりさにビックリしました。正直、その手の苦手な人は絶対読んじゃいけないレベル。ミステリーの丁寧な組み立てや、身分や階級の不条理といったテーマも、冒頭からラストまで途切れなく続くグロテスクな描写に掻き消されている印象すらあります。


田舎の刑事の趣味とお仕事 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M た 7-1)
(和書)2016年08月13日 15:44
滝田 務雄 東京創元社 2009年9月29日

実は相当性格の悪い主人公を含め、個性豊かなキャラクターを上手く配置したユーモア成分の強いミステリー。気が重い通勤途中に読みにはぴったりのお気楽にミステリーといったところでしょうか。ただ、趣味とお仕事、というタイトルから、冒頭で細かく書かれたネットの趣味が話の中心に絡んでくるのかと思えば、割とそうではなかったですね。特にそれが問題というわけではないですが。


図書館革命 図書館戦争シリーズ4

(和書)2016年08月13日 15:37
有川 浩 角川書店(角川グループパブリッシング) 2011年6月23日

「海の底」とかもそうだったのですが、有川さんは「その後」を書くんですよね。好みの問題であるとはわかっちゃいるのですが、それがあまり好きじゃないんですよ。そこは読む方の想像力に任せてほしい、というか…。波乱の物語もここで一段落、それを締めくくるにふさわしい主人公の奮闘ぶりは見応えありますが、この卷が始まる時点で、すでに主人公の相思相愛はほぼ出来上がっているので、物語の起伏がやや乏しい印象もあります。


図書館危機 図書館戦争シリーズ3
(和書)2016年08月12日 22:29
有川 浩 角川書店(角川グループパブリッシング) 2011年5月25日

全4部作の中、今回は一つの話として盛り上がりがうまくできていた感じで、個人的には一番印象が深い部分ですね。良かれ悪かれ、この展開の作品でハッピーエンドでないわけでないので、どうしてもラストよりその手前の山場が一番インパクト残ってしまうのは仕方ないところなのかもしれません。以前に旅行で行った水戸の風景が舞台になっている、という個人的理由もあるかな、そこは。


図書館内乱
(和書)2016年08月12日 22:12
2006 メディアワークス 有川 浩

ラブコメ要素が増したかな、と思った今回の展開。しかしその展開が三者三様というか、うまく散らばっているのはさすがだなあ、と感心した次第。ただ一番印象に残るのは、冒頭の父母参観の場面ですかね。有川さんは「ちゃんとした大人」と「ちゃんとしようとしている子供」を書くのがつくづく上手いし、そういう人が描いた作品を、若い人が楽しんで読んでいるのが嬉しいです。それと一番大事なこととして、自分もこうやって仮にも人様が見る読書感想文を書いているのだから、作家とそれを読む他の読者の方々へのリスペクトを忘れてはいけないなあ、と肝に銘じるいい機会でした。第4章。


ガメラ監督日記
(和書)2016年08月12日 21:52
小学館 金子 修介

3の公開が本決まりする前に書かれた文章。怪獣映画中興の祖であるガメラ3部作も、必ずしも幸福な物語でありえなかったのがよく分かる内容です。3に関しては、金子さんと樋口さんで意見が分かれた、という話も聞きますし…。しかし誰がなんと言おうと、ガメラ3部作が怪獣映画を延命させた事実は揺るぎようがありませんし、今のシンゴジラも生まれなかったというのは断じてもいい事実。その貴重な記録であり、その立役者たる金子さんの映画論、怪獣論を知る上でも貴重な一冊。表紙もいいなあ…。


ダンガンロンパ/ゼロ(下) (星海社FICTIONS)
(和書)2016年08月12日 21:46
小高 和剛, 小松崎 類 講談社 2011年10月14日

ちょっと推理小説を読み込んでいる人、そうでなくとも少しでも感がいい人であれば、このラストは読めていたでしょう。それでもこの文章は面白いので、そこを非難するのは筋違いというもの。ゲームから小説、今ではアニメまで巻き込んだこのシリーズに共通する息苦しさ、「才能があるがゆえに自分に溺れる登場人物たち」は、肥大した自我の取り扱いに苦しむ若人の心境にマッチするのでしょう。荒唐無稽でグロテスクでありながら、希望を求めて狂おしいほどのたうちまわる切ない物語。最後に辿り着くのはどこなのか。とりあえず今やってるアニメは傑作たり得るのか。気持ちを盛り上げるにはもってこいです。


ダンガンロンパ/ゼロ(上) (星海社FICTIONS)
(和書)2016年08月12日 21:32
小高 和剛, 小松崎 類 講談社 2011年9月16日

ゲームのダンガンロンパ1、2をやっていることは大前提の本です。こねくりまわしたセリフの応酬とドタバタのアクションアンドサスペンスで話がハイペースで展開されるサイコポップストーリー。ゲームド下手で先の展開が早く知りたいのになかなか見れない!というもどかしさとも無縁です。しかしそうなるとそれはそれで物足りない…ボイスもBGMもないし!もっかいゲームをやりたくなるね!


ああ息子
(和書)2016年08月12日 21:22
2005 毎日新聞社 西原 理恵子, 母さんズ

西原さんのほのぼの面を最大限に利用した読者応募コラム集。世のお母さんの悲哀と喜びが込められている楽しい本ですが、こういうのは気楽に読みたいので、あまり高い値段設定は控えてほしいなあ、と思います。こういう内容の本に、ハードカバーとか、必要ですかね? 「卵の思い出」が印象的でした。


完全探偵マニュアル―尾行・盗聴・人捜しプロの手口がすべてわかる
(和書)2016年08月12日 21:18
1995 徳間書店 渡辺 文男

読み物としての面白さを意識したのか、実際にあった依頼内容を結構書いています。確かにそこは生々しい、あるいは下世話な面白さがありますし、実際に参考になる部分の色々とあるので、有益な内容の文章では…あったのでしょう。20年前は。今の世の中ではいかにも古すぎて、実践部分はもう通用しないところもあるので、再放送のドラマを見てるような内容になってしまっていることは否めません。でも、おばあちゃん探偵のコラムは、泣けました…。


完全探偵マニュアル〈2〉―けっこうアブナイマル秘テクニック
(和書)2016年08月12日 21:16
1996 徳間書店 渡辺 文男

前回より具体性が増している内容で、それだけに時代に流される部分も増していますかね。それでも読んでいてドキドキさせる部分もあるのですが、途中、さすがにそれは偏見だろ?という箇所もチラホラあるのがやや残念。自社の宣伝臭がするのは、それだけの自信があるから、ということで許せるのですが。


軍用機マニアの常識 (イカロスMOOK―マニアの王道)
(和書)2016年08月12日 21:01
坪田 敦史 イカロス出版 1996年7月

どうやら「軍用機マニアの基礎知識」という本があるらしくて、そちらが入門編でした。こちらは中級者向けというべきか、冒頭のネタが「怪しい軍用機が人気者」です。のっけからディープですね!ところどころついていけねっす!という箇所もありましたが、軍用機マニア、という人の活動内容がうかがえる部分は結構面白く読めました。


列島周遊 もっとへんな駅!?
(和書)2016年08月12日 20:56
所沢 秀樹 山海堂 1998年7月

続編もありました。総じて前作より文章がこなれてきている印象で、紹介する駅の個性別分布というべきものもいい感じになっていると思います。が、最後の章でいきなり文体がまるで変わってしまったのはどうなのか。タイトルに「自分を見つめ直す旅~人気のない秘境の駅を訪ねて」って、なんていうか、小洒落たレストランが料理につけそうなセンスが気恥ずかしさ全開で厳しいっす。そもそも、「人気のない秘境」って、文章として変だし。


列島縦断 へんな駅!?―こんな駅知ってますか?日本全国「不思議な駅」の話
(和書)2016年08月12日 20:48
1997 山海堂 所沢 秀樹

鉄道雑学としては定番ネタの風変わりな駅を紹介する本ですが、プロ作家というわけではに作者がちゃんとその場所に行っているというのは大切ですね、文章に臨場感でますから。文章がどこかブログ的素人っぽさに溢れているのも、時々文章の水増し感を感じる部分があるのも味というものです。


アイの物語 (角川文庫)
(和書)2016年05月01日 10:43
山本 弘 角川グループパブリッシング 2009年3月25日

スターウォーズから宇宙戦艦ヤマトに夢中になった、私らより少し上の世代の人のポップカルチャーでは、SFというのは最先端の注目教養の一つだったようです。今では数ある作品ジャンルの一つ、それもかなりマイナーな分野に落ち着いてしまった感がありますが、これだけ力のこもった作品であれば、今でも多くの人を惹きつけるのでしょう。まあ途中、ことさら女性キャラに関しては露骨すぎるほどに今の若い人々に向けて書かれてはいるわけですが。しかし一方、「詩音が来た日」のラストに使われた曲の選曲を見ても、やはりその世代が見たら一番響く内容なのかなあ。その短編の舞台は、介護施設。もうその頃の世代の人も、そういう年齢になっているのだなあ、我々もそう遠くない…とふと考える自分はガンダムやドラえもんの世代。日本版SFがまさに大衆化した世代です。


白戸修の事件簿
(和書)2016年05月01日 10:07
2005 双葉社 大倉 崇裕

主人公のいい人ぶりを楽しむ推理小説、というと貴重ですね。ただし、作品にヒーリング効果があるかというとちょっと疑問なので、売り文句の「癒し系ミステリー」の肩書にはいささかご注意。作中で主人公のいい人ぶりが際立つほど、悪人への不快感が増す、というか、出てくる悪人が絶妙に不愉快な感じの小悪党(大犯罪者とか凶悪殺人犯とかでなく、ただ他人の不幸を意に介さず自分の幸せを求めるタイプ)なので、けっこう読んでて「あーこういうタイプ身近にいるわー」と身につまされて、ちょいちょい嫌な気持ちになりがちです。ただ基本ハッピーエンドですし、逆転劇の痛快さもあるので、作品としては面白いです。


続5分間ミステリー (扶桑社ミステリー)
(和書)2016年05月01日 09:48
ケン・ウェバー, 片岡 しのぶ, Ken Weber 扶桑社 1995年3月

旅先の電車の中で読むのにもってこいと思っているこのシリーズ。前回の第一弾は謎解きになかなか至らぬのが実情でしたが、第二弾にして文章がこなれたのか、それともネタが切れ始めてトリックが浅いorパターン化しつつあるのか、割と読みながら謎解きに至る短編が増えた印象があります。パズルとしても楽しめますし、文章がいかにもキュッとしまった情報量の洋訳文なので、その雰囲気だけでも十分楽しめます。


金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲 (角川文庫)
(和書)2016年05月01日 09:34
赤川 次郎, 有栖川 有栖, 小川 勝己, 京極 夏彦, 柴田 よしき, 服部 まゆみ, 菅 浩江, 栗本 薫, 北森 鴻 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012年11月22日

いろいろな切り口で書かれていますが、あまりパッとしない書かれ方をされてばかりですね、金田一さん!まあたしかにそういう人柄ですが。それにしたって金田一さんでなく横溝さんを書いている作品のも幾つかあるってのがアレですね。全体に王道のパステーシュよりも変化球的な作品が目立つのは、やはりお孫さんの出てくる作品の影響か…。


5分間ミステリー 難事件を解け (扶桑社ミステリー)
(和書)2016年02月06日 11:25
ケン・ウェバー, Ken Weber, 阿部 里美 扶桑社 2004年3月27日

お手軽なパズル本みたいな感じ? とか思って手を出すと痛い目アイマス。まず大前提として、翻訳文章を読み慣れてないとキビシイです。ミスリードを誘うためにあえてややこしい文章にしている印象もある、日本語のリズムとは懸け離れた文章の内容を追っかけるので精一杯で、とても推理する余裕はありません。まして普段から推理小説を推理しながら読まないタイプの人間では勝ち目ない、という感じ。ただし、短編の文章はいろいろなシチュエーションで変化があるので、読んでてうんざり、とはならない…と思います。


サムライブルーの料理人 3・11後の福島から
(和書)2016年01月10日 10:41
西 芳照 白水社 2014年5月23日

前作がまさに3.11の直後に発行された、福島県出身の西さんのその後の話。筆舌に尽くしがたい事実を、冷静に、かつ周囲への感謝への思いを込めて書いた血の滲むような文章です。日本サッカーのため、地元福島のためという西さんの奮闘に心から感動しつつも、くれぐれも無理をされすぎないようにと思わずにいられません。


テキヤはどこからやってくるのか? 露店商いの近現代を辿る (光文社新書)
(和書)2016年01月10日 10:31
厚 香苗 光文社 2014年4月17日

「男はつらいよ」に象徴されるように、放浪の民という印象の強い「テキヤ」ですが、調べてみるとその大半は地元に住んでいる人、という事実がまずは掴みで、その実態を丁寧に、しかも敬意を持って調べている好著です。歴史に感じては確実になっている部分までしか書かないという慎重さも信頼が持てます。


子どもの最貧国・日本 (光文社新書 367)
(和書)2016年01月10日 10:18
山野良一 光文社 2008年9月17日

タイトルで日本と掲げておきながら、文章の具体例はアメリカのケースが多いです。看板に偽りありやないけ! と思うのですが、日本での研究が進んでいない、さらに言うなら、こうした調査に国が極めて非協力的という悲しい事実がその原因にあると知ると、陰鬱な気持ちになりますね。日本が貧困世帯の子どもに対して保護が成されていない、という現実は(特に一人親家庭は深刻)深く思い知らされるのですが、より積極的な対応を行っている他国(主にアメリカ)でも改善が進んでいるとは言い切れないようで、問題の根深さを感じます。


ウルトラの金言 人生を戦い抜くための勇気と知恵 (双葉新書)
(和書)2016年01月10日 10:08
牧 詩郎 双葉社 2013年1月16日

うーん、ウルトラに対する愛情は感じるんですが、典型的な「第一次ウルトラ原理主義者」の書いた文章という感じですねえ。昭和初期三作辺りの引用は山ほどあるのに、レオからの引用はたった一つ。それもモロボシダンの発言だしね(笑)。しかも80(正確にはジョーニアスになるか?)以降には一切触れないというのは、自分が熱中した世代以外には出しゃばりませんよ、という謙虚さゆえなのかもしれませんが、物足りなさは拭えません。


妖怪文藝〈巻之壱〉 モノノケ大合戦
(和書)2016年01月10日 10:01
2005 小学館 東 雅夫

とにかく妖怪に関する文章を詰め込んだゴッタ煮感がまさに妖怪。つかみどころのないものをつかみどころのないまま文章にするというのは実に難しく、それにどう立ち向かうのか、各作者の苦労がしのばれます。子供の頃にワクワクしながら読んだ話を思い出させるような「河童将軍」村上元三さんの作品がお気に入りです。


名探偵はもういない
(和書)2016年01月10日 09:55
2006 講談社 霧舎 巧

「読者への挑戦状」付きの王道推理小説。とにかくミスリードを誘おうとする仕掛けが散らばっていて、それが逆に、結局はバレバレなところに犯人がいるのでは?と見透かされてしまいかねない印象があります…いや自分が見事解き明かしたわけではないですが。推理小説の定めとして、「イヤな奴」を登場させないといけない事情は分かるのですが、ちょっとそれを強調しすぎて、読んでて不快感がありました。とくに少年の視点から始まる小説ならば、そこはもうちょっとマイルドにしても良かったのに。


夢見る黄金地球儀 (創元推理文庫)
(和書)2016年01月02日 21:35
海堂 尊 東京創元社 2009年10月30日

海堂さんは作品によってはメッセージ性の強い、ほとんどプロパガンダのような作品も書くのですが、今作に関しては完全に娯楽性に舵を切った感じで、そこが良いです。怠惰と傲慢と虚飾に満ちた市役所にまんまと嵌められた下請け企業の反抗の強盗小説。病院小説のようにぶっとんだキャラクターとリアリティのある内幕が混じった海堂さん独特のコントラストは弱いですが、痛快な勧善懲悪感は増しているような気がします。主人公の日本風の所帯染みたハードボイルド調の語り口が良い味を出しています。


おんなひとりの鉄道旅 東日本編 (小学館文庫 や 9-1)
(和書)2016年01月02日 21:17
矢野 直美 小学館 2008年7月4日

「鉄子の旅」で巻き起こったぷち鉄道ブームにあやかって発刊されたのは、イラストが「鉄子の旅」の作者さんのイラストが挟まれているのでも明らか。矢野さんは実際に漫画に出演してますしね。鉄道ファンのブログを覗いているようなライトな文体は、ちょっと読んでいると恥ずかしい気がしますが、内容はしっかりとしていますので、この手のエッセイの責務である「読んでいる人も旅に行きたくなる」力はグイグイ感じます。しかし、何より問題なのは…。ここに掲載されている路線で、今は既に廃線になっているのも多くあるということですね。2~3千万の赤字で廃線になる地方鉄道。プロ野球なら一軍半程度の選手一人分の価格で良いのになあ。


朧月市役所妖怪課 河童コロッケ (角川文庫)
(和書)2016年01月02日 21:06
青柳 碧人 KADOKAWA / 角川書店 2014年3月25日

この作者さんの別のシリーズが大好きで、この人が「妖怪モノ」を書いている! と知った時にはそれは大喜びだったものですが、読んでみるとちょっと残念というか…まあ期待し過ぎましたかね。登場する妖怪に伝承とかの関連性がなくて、ジャンプキャラクターのような軽さが目立つ印象です。続編ありの物語ですが、その次回へ続くヒキの部分の巧みさがまた、ジャンプ的な印象を強めているのかもしれません。


六つの手掛り (双葉文庫)
(和書)2016年01月02日 20:52
乾 くるみ 双葉社 2012年3月15日

読み終えて、タイトルとサブタイトルが気が利いてるのと、ラストの締め方が粋だね!と言いたくなりますが、じゃあ内容は?と言われるとまあ普通、といった印象。「小太りのチャップリン」という主人公の風采はとても個性的なのに、けっこう性格は普通でインパクトが無い感じなのが問題なのかなあ。加えて、事件のポイントになる箇所がややこしくて、長い説明文が続く箇所が多くて、ちょっと面倒臭く感じる事が多かったのもマイナスかも。


てるてるあした (幻冬舎文庫 か 11-2)
(和書)2016年01月02日 20:43
2008 幻冬舎 加納 朋子

善良小説の代名詞の如き加納朋子さんの作品において、主人公の女の子がけっこうひねくれている語り口で綴る物語。世界中から見捨てられたような環境の中でも、気がつけば多くの人に自分は支えられていると教えてくれる物語。人の善意を前提にした物語は、読んでいて安心感がありますし、こういう読み口の物語がどうしても読みたい時、というのは人生かならずあるものです。決してハッピーエンドとは言えないストーリーですが、主人公の心の成長が余韻を暖かくしてくれます。


トワイライト・テールズ
(和書)2015年10月25日 12:22
山本 弘 角川書店(角川グループパブリッシング) 2011年12月1日

MM9シリーズの外伝。まだシリーズ全部読み終わってないのに読んじゃった。問題なかったですけど。出だしのエピソードが、この作品を手に取るであろう読者層の神経を逆なでするような内容だったので、どうなることかと思いましたが、ハッピーエンドとバットエンドを半々に混ぜ込んだバランスの良い内容でした。ストーリーはどれもド定番で、途中で展開は見えてしまいますが、怪獣映画はそこでどれだけ描写の積み重ねで見応えを増すことができるか、というところこそ真価。そこはしっかり果たしています。海外を舞台にした作品が並ぶのはそれはそれで面白いのですが、怪獣はやはり、日本の土着的な舞台こそが相応しい、と思ってしまう私は保守的怪獣映画ファンですね。


コスプレ幽霊 紅蓮女(ぐれんオンナ) [宝島社文庫] (宝島社文庫 603)
(和書)2015年10月25日 11:28
2008 宝島社 上甲 宣之

外連味の強い作風の作者さんというのは、続編を重ねるにつれて、読者からの要望に負けるのか、芸風をエスカレートさせていく傾向が多いように思います。それでいよいよ面白くなっていくのなら良いのですが、どんどんまとまりがなくなったり、収拾がつかなくなって、明後日の方向に行ってしまい…。というのもありがちなケース。しかしこの作者さんは、あの「XX」から始まっているのに、この作品などは、アラサーの独身女の悲哀をしっかり書き込むという、予想外に地味な部分をしっかりやっている辺りが良いです。アクションの部分のぶっちぎり感は相変わらずですから、ファンの期待も裏切っておりません。


三匹のおっさん (文春文庫)
(和書)2015年10月25日 11:06
有川 浩 文藝春秋 2012年3月9日

須藤真澄さんを挿絵に選んだセンスからして素晴らしいですよね。下町のおっさんを愛しげに描かせるならまさにこの人! いやそりゃ秋本治でもいいけどさ(笑)。一話完結の勧善懲悪譚に若い世代の恋愛模様を絡めた内容で、単なるいい話だけでなく、やるせない人の悪意も含めた厚みもある、娯楽小説として申し分のない内容です。この巻の最後のエピソードが、ちょっと物語として収まりが悪い印象もありますが、これに関しては、物語の構成うんぬん以前に、犯罪予防の啓発を訴えたいという意志を感じます。この作品を読んだ高齢者の方に、このような犯罪に巻き込まれないように、という願いで小説を書くのも、立派な動機であると思います。


オチケン探偵の事件簿 (PHP文芸文庫)
(和書)2015年10月25日 10:46
大倉 崇裕 PHP研究所 2015年9月9日

シリーズの三作目でした。まあそれでも楽しめる小説ですが、登場人物や設定の説明に出だしにあまりないので、戸惑う部分はあります。「バディ・ムービー」というのはよく聞きますが、日本の場合は「三人組物語」の方が受けが良いんですかね?「巻き込まれ型主人公」と「はた迷惑なイケメン」「お人好しの太っちょ」。ほぼ典型的な三人組の落語研究部を主軸に据えた、「ビブリア古書店」シリーズあたりからとみに目立つ「専門知識を絡めたライトな読感のミステリー」です。落語のお題とミステリとの絡みはそこまで深いわけでなく、エピソードの中には落語のお題がそもそもネタばらしになってねえか?と思わせるものもあるのですが、まあこの手の小説は、キャラクターをいかに生き生きと描写するか、が一番のポイントですし、そこはしっかり果たしているので、充分楽しめる小説だと思います。


レイトン教授とさまよえる城
(和書)2015年10月25日 10:33
小学館 2008年12月18日

発刊が08年ですかあ…。そうでしょうねえ。子供向けの小説にガッツリと放射性物質のウンチク。レイトン教授、放射線低レベル被曝してますよ。ルーク少年巻き込んで。ハリポタ以降の低年齢層向けヨーロッパファンタジーを意識したのでしょう、レイトン教授の冒険譚。ハラハラドキドキの展開を詰めに詰め込んだ内容ですが、どうもテンポが悪い。児童文学特有の丁寧な言葉遣いは、どうしてももたついた展開になりがちなので、文章にメリハリが必要だと思うんですが、そこが足りない印象です。犯人の捕まり方がアッサリしすぎなのも残念でした。


TOKYO BLACKOUT (創元推理文庫)
(和書)2015年08月11日 22:40
福田 和代 東京創元社 2011年8月11日

東日本大震災が起きた事で、その前後に発表された作品に影響を与えたケースというのは幾つも見てきましたが、これはその中でもかなり気の毒なケース。なにしろ東京に電気を送る電力会社にテロを仕掛けるという内容ですから、そりゃあなた。この文庫版が発刊されたのが2011.8.11。その際に文章を書き足したのでしょう、文中にも震災を連想する文章が挟まれているのですが、そのおかげで作品内で原発が動いていたり止まっていたり混乱が生じています。下手に手を出さないほうが良かったのに。この作品が書かれた時点では誰も知らない前提の知識が、今や日本人の大半が知っていたりするものあったりするので、3.11以前の我々の常識ラインを再認識させる意味でも。
この作品、テロを進める手段として、小型遠隔操縦ヘリコプターも使われていたりします。後のドローン問題を連想させる意味でも、やはり時代を先取りしていた内容と言えるかもしれません。


ケルベロス 鋼鉄の猟犬
(和書)2015年05月10日 12:32
押井 守 幻冬舎 2010年2月25日

押井さんの小説は、そのウンチクについていける人だけ読んでりゃいいという手合いのものですが、今回はドイツの第二次大戦前後の仮想戦記。ハードルいつもに増して高いです(笑)。もう書かれていることの何処が本当で何処が創作なんだか。これは戦記マニアでもかなり高いレベルじゃないとついていけないんじゃないでしょうか。ストーリー自体は戦地を幻の舞台を追って変遷する物語性の高いもので、語るだけ語って大したことやってないという、ありがち押井パターンとは異なりメリハリがあるますが、まあビックリするくらい恋愛描写は下手です。まさかアンチ宮崎の筆頭として「風立ちぬ」のレベルに合わせたわけじゃないでしょうが(苦笑)。しかし攻殻の草薙のような、完璧で冷徹な印象の女主人公ではなく、弱い部分が出ている主人公には魅力がありました。まあ繊細な恋愛描写を期待している人がいるわけないし、そこはあっさりと済まして、ギッチギチに詰め込んだウンチクをお楽しみください。


新世界より (講談社ノベルス キJ-) (講談社ノベルズ)
(和書)2015年05月10日 12:11
貴志 祐介 講談社 2009年8月7日

貴志さん好きだったし、デストピアものも好きなので、それはそれは楽しみにしてたのですが、ちょっと思ってたのと違った(苦笑)。とりあえず残酷描写と虫嫌いの人は決して見れません。作者はSFと言っていますが、印象としてはダークファンタジーの雰囲気が強く、「H×H」のイメージがちょっと重なる気がします。とにかくグロテスクな描写がてんこもりで、陰惨な世界観で、そりゃまあデストピアものなのだからそれもありだろ、と言えばそうなのですが、感情移入の場所がない。強いて言うと、奇狼丸というキャラは好きになれましたが、他は主人公を含めて全く共感できず、「気持ちの悪い人たち」だけしか登場しない物語です、私にとって。これを一体どうやってアニメ化したもんだか不思議でなりません。中高生の年頃って「少し気持ちの悪い世界」を楽しむ感性ってけっこうありますけど、これはさすがにやりすぎなんじゃないですかね。 


有頂天家族
(和書)2015年03月07日 16:17
2007 幻冬舎 森見 登美彦

生真面目と怠惰と阿呆と純真。4つの属性に分けられた。4人の兄弟狸の物語。この作品を書くにあたって、作者がどの程度、古今東西書かれてきた狸の物語、資料に目を通してきたかは分かりませんが、(実はあまり調べていない気がします)現代の我々が思い浮かべる狸のイメージをほどよく汲みとっていて、この物語の主役は狸以外にはあり得ません。まさに笑いあり涙ありの痛快娯楽大活劇。文章の面白さへのコダワリがやや先走っていた感のある作者ですが、この作品は物語のパワーもバツグンで、クライマックスの大爆走の場面の痛快感と泣けてくる描写の配合が本当に好きです。ああ娯楽小説はかくあらん。アニメ化もされていたようですが、あのオシャレな絵柄は、まあ京都という舞台なのだから妥当なのかなあ。単行本の表紙の緻密な絵、何故かプロダクションIGの人が描いているんですね。こういうリアル路線で描いてあるのも観てみたい。さらに個人的なことを言うと、森見さんの小説って、高橋留美子っぽい気がするのだけど。


春マタギ (新人物文庫)
(和書)2015年03月07日 15:47
葉治 英哉 新人物往来社 2010年1月6日

江戸時代後期のマタギ社会、なんだってそんなところを小説にしようとしたのか、その目の付け所だけで大したもんだと思います。もっとも、マタギみたいな題材というのは、現代に近づけば近づくほど描くのが難しい面を出てきたりするので、この辺が程よい距離感、という気もします。それにしてもよく調べたもので、文章全体がマタギ資料館といった様相を呈しています。それだけでも十分すごいでのですが、この手の文章はややもすると資料の羅列に満足しておしまい、というのがあったりします。しかしこの作品に関してはなかなかどうして、物語も面白い。個性豊かな登場人物がお互いの事情を抱えながら目的に向かい力を貸し合い、お互いに成長していく、まさに物語らしい物語がしっかりと書かれていて、読んでいて気持ちが良い。その展開が物語の舞台とは違い近代的な感じもしますが、それも気にならないほどに文章が濃厚な土着性を孕んでいて、それも極めて肯定的に書かれているのが素晴らしい。田舎特有のねっとりとした濃い人間関係をこれだけ緻密に描写しながら、全体的にユーモアを感じられるのがとても良いのです。続編もあるそうなのでぜひ読んでみたいですね。


金田一耕助VS明智小五郎 (角川文庫)
(和書)2015年02月22日 11:42
芦辺 拓 角川書店(角川グループパブリッシング) 2013年3月23日

以前、この作者の他の作品を呼んだ時に、
ちょっと読みづらい文章だなあ、と思ったりしたのですが、
この作品を読んで納得。
こういう古典的文章がまあ板に付いていることと感心するばかり。

悪意を込めた言い方をすると、
「かなり頑張った二次創作同人誌」という感じ。
とにかく古典二大探偵の知識をふんだんに詰め込んだ上で熟成を重ねた
「オレ的妄想」の濃厚汁という感じで、
ヲタ的比喩で言えば、「ガンダムUC」を読んだ時の居心地の悪さを
この作品にも感じます。

しかし、一方的な「作品のオレ的補完」というわけでなく、
商業作品としてちゃんと練りこまれているので、ちゃんと楽しめるのでご心配なく。

……と、ここまで書いといてなんですが、
実は私、「金田一耕助」も「明智小五郎」も、ちゃんと読んだ覚えがありません。
私がこの文中で一番燃えたのは、
福島が生んだ某天才映画監督がチラリと登場しているところでした(苦笑)。
偉そうなこと言ってすみません。


西巷説百物語 (角川文庫)
(和書)2015年02月15日 19:09
京極 夏彦 角川書店(角川グループパブリッシング) 2013年3月23日

自分も年をとったなあ、とつくづく思ったのが、
昔であれば「鍛冶が婆」とか「野狐」とかの、
ハッタリの効いたおどろおどりしい話を一番楽しんだであろうに、
今はもう「豆狸」みたいな人情話にボロボロ泣くようになりましたよ。
せめて物語の中だけでもハッピーエンドを味わいたいですよ。

私はかつて日本の物語に出てくる「狸」について、
けっこう時間をかけて調べるという、
特異な真似をしたことがありますが、
ここに書かれているウンチクが心当たりありすぎて、
さすが京極というかなんというか。

このシリーズ、従来の主役の又市は、
京極作品の中でも魅力度バツグンなのですが、
いかんせん、伝法な話し方がちょっとくどいな、と個人的には思ってました。
しかし今回、舞台を大阪。
登場人物の大半が、やはりコッテコテの関西弁なわけですが、
これはあまりクドく感じ無い。
これは私が関東の人間だからか、あるいは関西弁の特性なのか?
関西の方はどう思うのか、ぜひお尋ねしたい。 


葉桜の季節に君を想うということ
(和書)2015年02月01日 16:26
2007 文藝春秋 歌野 晶午

これは衝撃の展開! ミステリ小説のどんでん返しには、まず間違いなく引っかかる私ですが、ここまでやられた! と思わせてくれたのは久しぶりですね。しかもその伏線の貼り方もダイナミックで、後になってみると、ここも! あ、こんなところも!と感心することしきり。これぞミステリという醍醐味に満ちた小説です。ストーリーの根っこはすごく切なくて、重たい内容を含んでいる小説ですが、主人公の造形が秀逸で、前向きにさせてくれるテンションを貫いているのも、娯楽小説として正解だと思います。いやー、ちょっと気を抜くとすぐにネタバレになってしまう内容なので、これ以上は書けない(笑)。お勧めなのに。 


生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
(和書)2015年02月01日 16:02
安生 正 宝島社 2014年2月6日

今年初めて呼んだ小説ですが、間違いなく今年のワースト3に入ってくる内容でした。個人的には久しぶりの星ひとつにしたいところでしたが、力作には違いないので星2つです。総合的な感想としては、「幼稚」の一言。とにかく登場人物がどいつもこいつもウジウジとして被害者意識塗れでヒステリックで、まあそのうち一人は神経を病んでいるのだからそれでもいいけど、他のキャラクターも似たようなもの。とにかく作品全体から醸し出す「俺がこんなに正しいことを言っているのに馬鹿な世間は分かっちゃくれない」オーラが凄まじい。主人公たちがそんな有様なんで、敵対するキャラクターはそれに輪を欠けて嫌な奴ぞろいなわけですが、その中にはあからさまに日本大震災当時の某政党をモデルにしたと思しき面々が。無策無能で被害を拡大させる一方の政府と、主人公が対峙するシーンがクライマックスにあるのですが、そこもまあヒステリー同士の喚きあいみたいなもので、ちっとも格好良くない。きっとこの作者は、ただただ誰かの悪口を言いたいだけ、なんじゃないかなあ、という気がします。いい歳をした大人が付き合う小説じゃないし、若い人たちはこんな安っぽい中二病小説には引っかからないでしょうし、やっぱり誰にも進められない…あ、いやいや、自民党関係者の人たちにはオススメできるな。割と話題になったこの小説、そういや読売新聞の広告でよく見かけたなあ。


ジェネラル・ルージュの凱旋(下) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-6)
(和書)2015年02月01日 15:28
海堂尊 宝島社 2009年1月8日

このシリーズを全部見ているわけではないですが、終盤の盛り上がりはおそらくシリーズ随一のものでしょう。波乱に満ちた展開で、レギュラーキャラクターが総動員。これはもう最初から映画化を狙っていたでしょそうでしょう。この原作を忠実に再現すればそれだけで面白い映画になるのは間違いないはずなのですが、実際はどうだったのかなあ。田口さんを女体化したり白鳥を美形にしたり、という時点でもう私なんぞは見る気を無くしちゃうんでねえ。しかし実際、大規模災害の度に思いますよね。報道ヘリ、あれを救出活動に貢献させる方法って、なんかないのか、って…。


ジェネラル・ルージュの凱旋(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-5)
(和書)2015年02月01日 15:10
海堂尊 宝島社 2009年1月8日

個人的に企業もの、ってまるでダメで、あれだけ話題になった「倍返し」のやつとか見てないし、島耕作が大嫌い、という私なのですが、海堂作品は読めるんだよなあ。理由はやはり、強烈にケレンの効いた修飾表現と、分り易すぎるほど分かりやすい人物造形、ト書きのように無駄を削いで効果を引き出す文体。その娯楽性でしょう。この人はより多くの人に自分の文章を読んでもらえるか、という部分を考えぬいた文章を書いていて、それだけ伝えたいものを、他の小説家以上に強く持っているのだなあ、と思っています。小説を書くことが「目的」じゃなくて「手段」なんですよね、きっと。伝えたいこととはもちろん、現在の医療現場における様々な矛盾や問題点。その余りにも重い主題を、極上のポップエンターテイメントに仕立てる豪腕に今回も夢中です。


路地裏のあやかしたち―綾櫛横丁加納表具店 (メディアワークス文庫 ゆ)
(和書)2015年02月01日 14:44
行田 尚希 アスキー・メディアワークス 2013年2月23日

文章が基本、プロじゃないというか、なんとも素人っぽい印象ではあるのですが、素直で一生懸命な雰囲気は伝わってくるので、不快ではないです。ただ、こういう最近目立つ、ゆるゆるとした日常系というのですか、この手の作品に感じる箱庭療法臭みたいのが、この作品にもかなり強く感じます。加えて、最近のラノベっぽいミステリ等での、「とある業界のウンチク詰め込みで物語の説得力を嵩上げする」手法。これはすっかり定着しましたね。京極が元凶なのかなあ。別に悪くはないですが、ほんとに資料を丸写しした感が出ちゃうのはさすがにどうかなあ、と思う。大学生のレポートじゃないだから。


ぼくらのバス
(和書)2015年02月01日 14:26
2007 ジャイブ 大島 真寿美

もう物語のシチュエーション、つうか舞台だけでノスタルジックを鷲掴みにしてしまうオハナシ。動かなくなったバスを子供向けの図書館に改装したおじいさんが亡くなって、誰もつかづかなくなって夏草が生い茂るばかり、そこの小学生の兄弟が…って、このあらすじだけでもう大抵の人の人の脳内には入道雲に麦わら帽子の蝉しぐれがぶわっと広がってしまうじゃないですか。もうストーリーいらないよこれ。逆に言うなら、用意された舞台を物語が超えていかない典型的なパターンに陥りがちですが、途中で現れる闖入者。この展開でこの手のキャラはえてしてファンタジー要素とか万能キャラに設定したりという向きになりがちですが、そうではなく、ただ単に使えないダメキャラにしたのはそれはそれで良かったと思いました。


ぼくのミステリな日常
(和書)2014年12月30日 09:51
1991 東京創元社 若竹 七海

よーし、ミステリを読むぞ! という気合が溜まっているタイミングで呼んだ方が良い本かも。一見バラバラに見せておいて、明らかになーんか隠してやがるなー、というのがミエミエの短編集。それを読み解くのが醍醐味なのですが、仕事帰りに疲れた頭では、一つ一つの作品の内容を追っかけるだけの、野暮な読み方になってしまいました。それでも十分楽しめる内容でしたが。


四畳半神話大系 (角川文庫 も)
(和書)2014年11月30日 14:40
2008 角川書店 森見 登美彦

とにかく出だしから文章の「面白さ」の密度が尋常ではなく、これで丸まる一冊もつのか?と思ってしまいましたが、読み続けると納得のループ構造。アニメで言うとこのバンクシーンですね。ちょっとガッカリした感は否めませんが、疾風怒濤で一歩も前に進まない、愚かで滑稽でしかも大真面目な大学生の空回りを大いに楽しめます。奇奇怪怪で海千山千な登場人物の面々、それは確かにアニメ向けかもしれませんが、このストーリーを、アニメはどうやって表現したの? 


スペース (創元推理文庫) (創元推理文庫 M か 3-4)
(和書)2014年11月30日 14:21
加納 朋子 東京創元社 2009年5月5日

手紙を主題にした叙述トリック…になるのかな?ファンタジー色、というか、往年の少女マンガを思わせる世界観で、切なくてほろ苦いけど、最後にきっと幸せに、前を向いていけるラストが約束されている安心感のある作風は健在で、こういう文章を読みたいな、と思う時に必ず期待に応えてくれる文章です。ただ、最初の文章はもうちょっと短くまとめられたんじゃないかなあ。全体のバランスがこれで果たして正しいのか。


大きな森の小さな密室 (創元推理文庫)
(和書)2014年11月30日 13:38
小林 泰三 東京創元社 2011年10月21日

ミステリの定石、お約束を逆手に取った皮肉の効いた短編集。文章の切れ味が抜群で、この手の内容にありがちな「上げ足取り」的な下品さがほとんどない。「更新世の殺人」の飛びぬけたバカバカしさは、文章のうまい人じゃないと引立たないですよね。半ば開き直ったようなカギカッコ連打もその度胸を買います(笑)。シチュエーションもさることながら、登場人物も一癖ぞろいの面々で、他の短編とも掛け持ちしている人物も多いよう。とりあえず、丸鋸遁吉と超限探偵Σの登場する作品はもっと読みたいな(苦笑)。


ベイカー街少年探偵団ジャーナルI キューピッドの涙盗難事件 (角川文庫)
(和書)2014年11月30日 13:07
真瀬 もと 角川書店(角川グループパブリッシング) 2012年7月25日

表紙のイラストとはちょっと印象の違う、重苦しい時代をどっしりを書き込んだ、丁寧で緻密な文章で…、そしてちょっと読みにくい感じ。丁寧すぎるほどに丁寧というか。登場人物の書き分けもしっかりして主人公をはじめとする「路地裏の少年」を生き生きと書いているのですが、ちょっとまどろっこしい気がします。続編前提のお話なので、ほとんどの謎は次回以降の持ち越し。推理小説というより冒険小説としてお楽しみください。


キャラクター小説の作り方
(和書)2014年11月30日 12:57
2003 講談社 大塚 英志

恥ずかしながら学生時代、小説を書いていた時、この手の入門書みたいなものには絶対手を出さないでいたものです。他人の力は借りずとも物語は俺の中にある、みたいな奴で(笑)。そのころの自分がこの本を読んでいたらどう思ったのやら…、多分、思いっきり反発して内容をけちょんけちょんに貶すんだろうなあ。文章創作のテクニック伝授本ではなく、物語を構築するプロセスを解説する文章で、自分の作品(原作含む)や漫画、アニメ、ゲームなどのサブカルの歴史をメインに具体例をふんだんに盛り込んでいて、このタイトルに引かれるタイプの読者に伝わりやすい内容ではないでしょうか。しかし、もっとも伝えなければいけない勘違いクンは、おそらく今もこの本を読んでいないまま、将来はイタくほろ苦い思い出にしかならない、自分の中の名作に取り組んでいるのでしょう。


鳥人計画
(和書)2014年08月14日 07:39
2003 角川書店 東野 圭吾

いろんな意味でトリッキーな小説だと思います。「犯人」が主体で「密告者」を探し出す展開、物語の主体となる人物が冒頭で殺害された人物、そして終盤の反転。推理小説を読む醍醐味は存分に込められているので、読んで損なし、な小説であることに間違いはありません。ただ、この作者特有の軽さ……というか、文章全体としてはリアリズムタッチで書いておきながら、悪役の部分だけやたら露骨に漫画的にしてしまうようなバランス感覚が気になります。結果、作品がちょうと適度に売れ線レベルの読みやすい重さに収まる、というのはおそらく意図してのことだと思いますが、そういうのが鼻につくのは私だけですかね。


浜村渚の計算ノ-ト 2さつめ ふしぎの国の期末テスト (講談社文庫)
(和書)2014年08月14日 07:27
青柳 碧人 講談社 2012年1月17日

ジュニア向けの小説として、今、もっともオススメできるシリーズの一つでは無いか、という作品です。推理小説の謎解きの快感と、ヒーロー(この場合はヒロイン)小説の興奮、キャラクター小説の魅力。いずれも兼ね備え、楽しく知識を学べちゃう上に、作品を通して健全なメッセージが込められている、という抜群のバランス。これ、アニメ化とかドラマ化はまだされていないようですが、やるんだったらドラマ化かなあ。しかも日曜朝の戦隊、ライダー枠の並びでやると収まりが良さそう。いっそ「黒い三角定規」の悪役たちを怪人に変更して!駄目かな?


最後の記憶
(和書)2014年08月14日 07:16
2007 角川書店 綾辻 行人

とにかくまず言いたい事は、「面倒くせえ主人公だなあ!」という事。書かれたのがエヴァの放送時期くらいなのかな?とにかくシンジ君を思わせるウダウダした主人公で、しかも本家は周囲の人間もちょっとアレな人ばっかりだったのに対して、この作品では周りはいい人ばかりなのに、(あまりにいい人揃いなので、これ自体が後に反転する伏線なのか?と勘ぐってしまうレベルなのですが、本当に良い人だっただけ、というくらい)コイツだけひたすらウジウジしているもんだから読んでて苛立つことこの上ありません。物語的にもちょっとSキング的な不穏なノスタルジー幻想譚としては安っぽい感じですし、母親を苦しめる恐怖の幻影の正体……も、正直、ちょっとねえ……。まあ、それこそ有名純文学なんかを見てみても、主人公がとにかくクズ!という作品は珍しくないですし、それをもって批判するのは間違いでしょうが、かといってこの作品のオススメポイントは何処?と聞かれると返答に詰まります。


乱鴉の島 (新潮文庫)
(和書)2014年08月14日 07:02
有栖川 有栖 新潮社 2010年1月28日

おどろどろしいタイトルですが、内容にはあまり怪奇趣味はないです。絶海の孤島ものにしては、人もあまり死なないですし、総じて地味な感じ。そもそも物語の中心が犯人が誰?ではなく、この集団の正体は何?という方に傾けられているので、最終的には犯人は別に誰でもいーや、という雰囲気になり、実際、犯人を指摘する場面は全くもって盛り上がっておりません。しかも、その謎の集団が、ちっとも不気味でもなければ狂気も感じさせないので、探偵の追求心がただの覗き見趣味にしか見えず、「そっとしときゃ良いのに……」という気持ちになるのも困ったもの。物足りない感じの残る小説ですが、読後感は悪くないです。平均的な推理小説と比して、登場人物の善人の比率が高いからでしょう。


ゾンビ日記
(和書)2014年07月20日 07:23
押井 守 角川春樹事務所 2012年6月1日

ゾンビっても、人を襲わないんじゃねえ。世界は滅びたみたいだし暇だから、押井さんの長口上に付き合ってやってもいいか、という寛大な人だけお付き合いいただければ、という内容です。押井のウンチクが好きで「アイアムレジェント」の前半部が好き、というピンポイントな人にはたまらない内容かと。……他に書くこと無いです。


殺人喜劇の13人
(和書)2014年07月20日 07:12
1998 講談社 芦辺 拓

ときどき遭遇する、とにかく文章が読みにくい推理小説。作者本人もそうなる予感がしたのか、殺人事件、それも連続に次ぐ連続という舞台にあるまじき軽い口調で文章が書かれているにもかかわらず、っていうか、むしろそれが逆効果。なにせ登場人物がほとんど全員性格が悪くて判別がつかないうちにどんどん殺されていくものだから、作品になじみようが無い、という感じで、とにかく序盤は読むのが苦痛でした。ただ、最後まで通してみると、どう考えてもまとまらんだろ、というペースでのあらゆる殺害パターンの列挙のようなありさまをとにもかくにもまとめ上げた強引さに感心します。ベタではありますが、一番やな感じに書かれてた人物が終盤に人間味を発揮するという描写を入れたり、ただキャラを駒扱いにとどめているだけ、という訳でもないですし、いろいろと難はありますが、こういう荒っぽい推理小説もありはありでしょう。


震える牛 (小学館文庫)
(和書)2014年07月20日 07:03
相場 英雄 小学館 2013年5月8日

とんちんかんな表現になりますが、読んだ印象としては、「学研マンガ」か「NHK教育の児童向け番組」を見たような感じ。年取った刑事をガイドキャラクターに配置して、「ほーら、今の地方都市は、こんな状態になっているんだよお」とか、「わかるかい、今の食肉流通の現状は、こんな感じなんだあ」とか案内してもらっているような。「うん、おかげで世の中のうんざりする部分が、よく分かったよオジサン!」と笑顔で答える気持ちになること請け合い。実際、地方都市に足を向けたり、小売り業界に足を踏み入れたりすると、ここに書かれていることがごく当然、っていうか、何を今更?というレベルで見えたりしますしね……。このままで良いのかな、という思いを再確認させてくれる作品です。


死ねばいいのに (講談社文庫)
(和書)2014年07月06日 15:14
京極 夏彦 講談社 2012年11月15日

話の印象としたら、「喪黒福造にお孫さんがいたらきっとこんな奴」。セリフ廻しが苦手な方の京極作品だった(笑)。いわゆる「イマドキの言葉使い」というのは文章との相性が悪いのか、どう書いても不自然になってしまうものですが、こってりとしたセリフ廻しの京極の手にかかるとそれがもう尚更。話が面白い面白くない以前に、主人公の「たりい」口調の鬱陶しさに胸焼けしてしまいます。主人公に向かって「良いからお前少し黙ってろ」と言いたくなる小説ってどうなの。福造さん、お孫さんを甘やかしちゃったねえ。いや違うって。


鴨川ホルモー (角川文庫 ま 28-1)
(和書)2014年07月06日 15:01
万城目 学 角川グループパブリッシング 2009年2月25日

こういう妖怪だとかが絡んでくる物語というのは昔話だの歴史文献だのを下敷きにするものだけど、ほとんど全部オリジナルで考えたものだけでまとめあげてしまうあたりが大胆。それが独りよがりにならずにすんでいるのは、作者の筆力に加え、京都という舞台ゆえでしょう。古風なモノローグを駆使する主人公は、おおよそ現代の大学生には思えないのですが、バカで貧乏で馴れぬ色恋沙汰に振り回される、愚かでいとおしい大学生に、今も昔もないのでしょう。


THE NEXT GENERATION パトレイバー (1) 佑馬の憂鬱 (角川文庫)
(和書)2014年07月06日 14:34
山邑 圭 KADOKAWA/角川書店 2014年3月25日

作品を楽しむに当たって、ストーリーを優先する人にとっては、映像と合わせてこちらもご覧になった方が良いかもしれない。映像で説明不足な部分を文章で補完した、ノベライズのお手本です。が、面白いかどうかというと別問題。今回の新作パトレイバーがどうにも楽しめない、という理由のひとつに、殺伐とした雰囲気漂う登場人物への馴染みにくさがあると思うのですが、その部分を、ことさら強調している感があります。ギスギスした感じはそのまま、さらに初代隊員へのコンプレックスという側面を強調したこの作品、楽しめないなあ。団塊対ゆとりといった世代間闘争に重ねたい、という意図があるのでしょうが、ここに書かれている主人公に、今の世代の子が共感するでしょうかね。


完全なる首長竜の日 (宝島社文庫)
(和書)2014年05月25日 08:08
乾 緑郎 宝島社 2012年1月13日

すみません、思いっきりネタバレ含みます。私小説の文芸っぽさを感じさせる文章と、少女マンガじみた世界観。しかもSFの要素が混ざっていたりで、何ともつかみづらい、あまり見当たらない類の文章で、これはどうなるのか、と楽しんで読んでいたのですが、進めるウチに、あまりそっち方向に行って欲しくないなあーと思っていった方向に見事に突き進んでしまったのでそこは残念。メタ展開って、どんな手の込んだ文章を書こうが読者にガッカリ感を与えちゃう代物だから、あまり使わないで欲しいんですよね。しかも「無限ループの夢オチ」は、メタ展開の最たるものですし。


被害者は誰?
(和書)2014年05月25日 08:00
2006 講談社 貫井 徳郎

「慟哭」を書いた貫井さんが、一体どうした?と思うほどのライトな推理小説。冒頭のワトソン役が名探偵を訪ねる場面、そのベタベタっぷりにいきなりずっこけます。名探偵のキャラ描写は、もはやパロディ小説やライトノベルでも滅多に見かけないレベル。ただし、短編で語られるそれぞれの物語は、お得意なのか叙述トリックが目立ちますが内容がしっかりして面白いです。中にはそこまで完璧に書かれている名探偵の推理からややはみ出ている結末の奴もあったりして、しかもその犯人(……というか)が全くの小物だったりする変化球な作品もあったりして油断できません。


ボーナス・トラック (創元推理文庫)
(和書)2014年05月25日 07:47
越谷 オサム 東京創元社 2010年7月22日

ちょっと懐かしい感じの若者描写。自分が大学生から社会人になる頃、バブル崩壊直後の空気感があります。二人の主人公の一人、幽霊になった大学生。コイツの性格、「深刻な雰囲気がとにかく嫌いで、ひたすら軽い態度に徹する」感じって、現代の若者からあまり感じないのですが見当違いですかね。「イジラレキャラ」なんて言葉がある以上、それに類したものは残っているのでしょうけど、なんか本質が違う気がします。
 ブラック企業という言葉が一般化する前に書かれた小説なのか、大手ハンバーガーショップの勤務の過酷さが存分に書かれていて、今なら連想される某大手から実態に即していないとか抗議が来そう。こういう奴が友達にいたらいいな、という登場人物ばかりで、小説としてはヒロイン二人が本格的に絡み出すのが後半すぎる印象もあるのですが、「恋愛にあこがれているけど、まだまだ仲間同士でつるんで遊んでいたい」という、微妙な年頃のバランスとしてはこれくらいの方が良いなあ、と思います。


館島 (創元推理文庫 (Mひ4-1))
(和書)2014年05月25日 07:30
東川 篤哉 東京創元社 2008年7月

全く個人的な話をしてしまいますと、大学時代の推理小説家志望の知人が没にした、と話してくれたトリックと、この作品のトリックが酷似していました(笑)。いわゆる「思いつくけど普通使わない」バカトリックなのですが、それなりに説得力を持たせようと悪戦苦闘した影が見えます。時代設定を80年代にして、事件の舞台を……にしてしまう、なんてのは流石です。
しかし、この人のユーモアセンスって、こんなに鼻につく感じだったかな?文章が全体的に悪ふざけっぽくて、機嫌が悪いときに読むとイラッとする感じ。もっとも、C調のキャラとそうでないキャラの区別はちゃんとしているので、作品に品が無いわけでは無いです。好みの問題でしょうね。


4ページミステリー (双葉文庫)
(和書)2014年04月13日 08:48
蒼井 上鷹 双葉社 2010年12月15日

人によって違うのかも知れませんが、文章を書く人にとって「どんでん返し」のアイデアをいうのは、課金アイテムのように貴重な者。それをたった4ページで使ってしまうなんて!原稿料の効率悪すぎ!そんな真似をあえて選ぶ作者に敬意を表します。ミステリーと良いながらいわゆるパズル的トリックは少なく、ブラックなショートショートと言った内容が多い印象。ほのぼのとした話からホラーチックなものまで幅広くありますので、誰が読んでもお気に入りが見つかるのでは。表紙のイラストが全てを物語っているように、通勤途中に読むのに持ってこいの一冊です……ってみんな言っちゃうんだろうなあ、この本の紹介をする時。作者がそう言われるのを望んでいるのかどうかが気になる。


のぼうの城
(和書)2014年03月30日 08:47
2007 小学館 和田 竜

全体の印象を一言で言うなら、「しんベヱを主人公にした忍たま乱太郎」。古来物語の中に登場した「イノセントなデブ」。無能だが底抜けの善人で誰からも好かれ、いざというときには頼りになる太っちょ、というのは世の東西を問わず書かれるものですが、こと、相撲の国日本ではこと好まれる傾向があると思います。最近ヒットした小説でも例えば、空中ブランコの伊良部やチームバチスタの白鳥……は善人じゃないけど(苦笑)。ただこうした登場人物、映像化されると途端にイケメンになったり、個性派俳優に入れ替わったりで、原作のイメージ通りであることは滅多にありません。この作品もご多分に漏れず、だったようです。そりゃハクション大魔王もジャニーズになるわけだよ(苦笑)。
文章は少年ジャンプマンガのノベライズのような読みやすさで、本格歴史が好きな人たちには不満でしょうが、登場人物がつよく様式美に乗っ取った動きをするので、こういう文章の方が似合っていると思います。ただ、これは私のうがち過ぎかもしれませんが、全体を通して、言葉遣いに司馬遼太郎っぽさを感じるのがちょっと気になります。


もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
(和書)2014年03月30日 08:29
岩崎 夏海 ダイヤモンド社 2009年12月4日

読んでみた感想としては、懐かしいなあ、と。いや自分の高校時代を思い出すとかじゃなくて、「進研ゼミのマンガって、こんな感じだったよね」みたいな。セロファン紙よりも薄い人物造形も、あらゆるスポ根作品を凌駕するご都合主義も、効果をひたすら喧伝する企業広告のような一本調子な文章も、それがこの作品の目的と合地しているのだから宜しいわけです。個人的に気になるのは、この作品のコンセプトが「萌えキャラをガイドにした少年向けビジネス啓発書」だとして、「萌え」の描写がおろそかではないか?という点。いわゆる「萌えキャラ」が作品に登場する場合、そこには必ず作者の熱いこだわりである「萌え」のディテールが文章に込められているものですが、この作品にはそれが見当たりません。(そもそも登場人物の外見描写すらほとんどない)こんなんじゃ俺は萌えねーぜ!と、その筋の方々は思うのではないでしょうか。まあ、そこをキチンと徹底してしまうと、一般の方が手を出しにくくなるのかもしれません。ライトノベルの最もヘビーなところすらライトにしてしまったからこその、進研ゼミ臭なのでしょう。
最後にどうでも良い点。この作品、西東京が舞台なのですが、表紙はなんか赤羽っぽくないですか?多摩川をイメージしたのでしょうが、岩淵水門にしか見えないんだよなあ。


JOJO’S BIZARRE ADVENTURE OVER HEAVEN
(和書)2014年03月30日 08:13
西尾 維新, 荒木 飛呂彦 集英社 2011年12月16日

月刊ガンダムエースで見かけがちな、登場人物の一人の視点を選んでの作品のおさらい内容です。この作品の場合は、ジョジョの一部と三部を、ディオが日記を書くことで振り返っています。ディオが日記って(笑)その時点でもう違うだろ、と誰もが思うところ。ぶっちゃけ、ディオが自分の書いた文章に照れていたり、ジョジョ側の主人公補正の強烈さに愚痴をこぼしたり、マザコン臭全開に過去を振り返ったり、友達の作り方がわからなーいと白状したりした文章を、一体、誰が読みたいのか。正直、ディオのファンという人でこの作品を肯定出来る人っているのかと、かえって不安になってしまう内容です。私がディオファンなら間違いなく星一つですね。これではディオっちゅうより、SEEDのアスランあたりなら納得できるのですが、という情けなさ。
ただまあ、これを読むのが少年少女だとするなら、あくまで悪役であるディオを、格好良く書くのは教育上よろしくない、という判断があったのかもしれません。デスノートのクライマックス、キラがあれほどみっともなく悪あがきしたのと同じ意味あいの教育的配慮だとしたら、この作品の意図も分からなくはないのですが……、だったら無理にやらんでも、とは思うな。


ガンダムNOVELS―閃光となった戦士たち
(和書)2014年03月30日 08:01
2004 角川書店 鷹見 一幸, 庄司 卓, 富野 由悠季, 神坂 一, 後池田 真也, 林 譲治, 矢立 肇

主に一年戦争を舞台にした小説集。ルパンやこち亀でもありましたが、アレが大物作家中心だったのに対して、こちらはラノベや新人さんの作家メインです。内容はまさに玉石混合でして、いかにも「俺の考えたガンダム!」的気恥ずかしさ全開のものもあれば、ガンダムという舞台を利用して、己のやりたい事を追求した作品もあります。上手いことストライクゾーンから反らした作品もありますな(笑)。どの作品もそれなりに面白いので、どれが良いかは人それぞれかと思いますが、気になる作品が一つだけ。私は、「ザクレロ」というMAはガンダム界の出オチ担当だと思っています。アレはどうしたってシリアスに使えるシロモンじゃないと。なのに、何故そこで使う? 笑いを取りに来たのか、そこで?


生きていく民俗 ---生業の推移 (河出文庫)
(和書)2014年03月30日 07:48
宮本 常一 河出書房新社 2012年7月5日

50年以上前に書かれた、民俗学的見地からみた職業の変遷。基本、自給自足で行われていた国内の生活に、如何にして専門職や商業が発生したのかを調べた内容です。すでにこの時代に、文献には書かれているが今では見かけない、あるいは何の商売かすら分からないような、名称だけ残る職業があったりしているのを見ると、人々の生活というのは、昔から気づかないような場所で絶えず変わっていたのだなあと思わされます。研究としては、フィールドワークの場所が限られている上に、推測や類型化をし過ぎているような印象もありますが、この本自体はさらに長大な研究結果のダイジェストのようなものらしいので、そう見えてしまうのでしょう。ずいずいずっころばしの歌の意味、皆さんはご存じですか?

更新は不定期ですので、気長に待っていただけると幸いです。Jリーグのサポーターの方はどこのチームでも大歓迎。煽り合いではなくゆるいノリで楽しめたらいいなと思っています。