mixiから救出した読書感想文#3


二百年の子供
(和書)2011年02月03日 05:53
2003 中央公論新社 大江 健三郎

 学生の頃、「芽むしり仔撃ち」を読んだことは、自分の読書人生においてもトップクラスの衝撃でした。戦後民主主義の象徴的な言われ方をされている時期の作品は全く読んでいないので(新しい人よ目覚めよ、とか)ずいぶんと久しぶりに大江さんの作品を読んだことになります。
 内容はまさにファンタジーそのもので、主人公である子供3人を含め、登場人物全て、生の人間らしさというものを全く感じられない絵空事です。ただし読んでいると、その場面場面の情景が凄くくっきりと想像されるのに驚きました。文章自体はシンプルで、状況や設定の説明はむしろ足りないと思わせるほどなのに、とても読者の想像力を喚起させる文章で、これはよほど言葉の趣旨選別が的確なのでしょう。だからこそ正直に言わせてもらうと、挿絵はない方が良かったです。
 途中、「芽むしり仔撃ち」を連想させる場面があったので懐かしさを覚えましたが、内容が丸くなった感じがするのは、あくまでファンタジーだからなのか、作者の心境の変化なのか。


火の粉
(和書)2011年01月25日 06:18
2004 幻冬舎 雫井 脩介

内容は面白くて最後まで一気に読めるのですが、一番の興味と言える点を、中盤までしか引っ張りきれなかったのが残念。これで終盤にさらなる大逆転があれば文句なし、という気もするのですが、作者さんが基本、正々堂々とした文章を書かれる方なので、そこまでトリッキーな真似はしないのでしょう。犯人の過去をしゃべり過ぎというくらい説明させているのも、その現れだと思います。
物語の中盤は、女性目線で書かれている場面が続き、その文章が、女性の思考にしては固過ぎるかな、という印象があったのですが、巻末の解説によれば、女性の心理を美味く描写している、とのことです。自分の女性に対する理解の無さを、改めて思い知りました。


日本沈没 第二部
(和書)2011年01月17日 22:21
2006 小学館 小松 左京, 谷 甲州

「もし坂本龍馬が生きていたら」とか、「もし日本が太平洋戦争で勝利していたら」といった、if歴史ものや仮想戦記というのは、なんか自己満足というか、自慰的な感じがあって、あまりその手の大風呂敷は広げるものじゃないな、という印象があるのですが、ここまで気合いを入れて書かれると、もう何も言えないという、もの凄い力技です。
 序盤はむしろ穏やかな印象なのですが、主要人物の一人が巻き込まれるシベリアでの逃走劇の描写が凄かったです。獄寒の地という世界の恐怖が綿密に書かれていて、昨今の関東の寒さなど比較にならない恐怖。もしかしたら、シベリアに抑留された方の話などの参考にされたのでしょうか。
 ストーリーの展開のペースがバラバラで、とくに終盤はずいぶんと急ぎ足で、メッセージ性のみで話が進んでいる印象もありますが、やはり日本人の本質とは何か、を問うその言葉は重いです。

 この本とリメイクされた映画はほぼ、同時に発表されましたが、何から何まで全くの別物ですね。「特撮場面が見所の、特に新味のないメロドラマ」といった案配の劇場版とこの本では、重みがまるで違いますが、かといって、この内容を映画化すべきだったとは思いませんね。「日本沈没」にふさわしいカタストロフシーンはあまり無さそうだし、それに、ラストは映像化すると、すっごい陳腐になりそうだし……。


決定力―なぜ日本人は点が取れないのか
(和書)2010年12月31日 23:12
2007 集英社 福田 正博

 福田正博信者がお布施するためにつくられたような本です。以前、解説者をしていた頃の福田さんという方は、言っていることは全くの正論で、鋭いところを突く面もありながら、時に気持ちが先走りすぎ、そして何より語彙が乏しいので、聞いていると「……」な気持ちになるという、それはそれは現役時代そのままのスタイルだったのですが、その辺り、本になっても変わりません。
 言っていることは頷くことの多い正論なのですが、正論を正直に述べているだけなので、文章としての面白さはほとんどなく、生真面目だけど成績はイマイチな学生が書いた卒論みたい。しかも文中で述べた自分の主張を、ほとんど同じ言葉のまま収録されているインタビューで相手にも語っているので、いよいよ中味が薄く感じます。巻末にシュートのテクニックの解説と、それに連動したDVDが収録されているので、サッカー少年に向けた本、と解釈すれば良いのかも知れませんが、文章自体は丁寧な言葉遣いでありながら、子供向けという感じでもないし……。
 とことん真面目な福田さんの人柄がよく分かるので、星はせめて3つにしたいのですが、値段が値段だけにそれは出来ませんでした。


野ブタ。をプロデュース
(和書)2010年12月31日 07:31
2000 河出書房新社 白岩 玄

ざっくり短く説明すると、「スネ夫の側にオバQがやってきた」、みたいな話。

 まさか自分でも、この作品に星5つをつけるとは思わなかった。実際、文末に(笑)をつけるような小説を認めるわけにはいかない、という気持ちは今もあるのだけど、全く期待していなかった作品に、読後ここまで感動したことに「負け」を感じたので、星5つ。
 作者が21歳の時に書いた小説らしいが、多分、それくらいの年齢でギリギリ書くことが出来た内容という気がする。この生々しさと、学生時代に対する客観性が同居できる時間というのは、すごく短いと思う。世に数多ある青春小説の嘘くささを振り払い、現在の学生のリアルに肉薄しようと、また、自分の数年前の姿を忠実にさらけ出そうと、十分に考え抜いた上での、この文体なのではないか。実は、時節変化(季節の移ろい)のようなものはかなり丁寧に書かれていて、端正な文章もちゃんと書ける人だと思う。
 若者に押しつけるような理想や夢物語でしかない青春賛美ではなく、青春というものの正体を突いた作品というのは他にもあるけど、それをリアルタイムの世代に伝えると言うことに対し、これだけ考えた作品はあまりないと思う。
 ラストに関しては、ちょっと考えどころだけど、これはこれで一つの正解なのかな、と。


J2白書 永久保存版―51節の熱き戦い
(和書)2010年12月28日 05:50
J's GOAL J2ライター班 東邦出版

書かれている内容が2009年度のJ2リーグなので、今、オススメできるものではないのですが、現在、天皇杯生き残りの4チームを除くオフ期間で退屈な思いをしているJリーグファンにとっては、スタジアムの雰囲気を思い出させてくれる良書です。こと、J2特有のマイナー、地方、低予算等々のマイナス要素をはね除けるべく、多くの人が持ち込む必死さ、情熱。それ故に産まれる素敵な「ゆるさ」。それが存分に盛り込まれています。「縁は異なもの、味なもの」のエピソードなんか好きですねえ。今年度版の出版も希望しますが、値段を出来ればもう少し……。


きつねのはなし
(和書)2010年12月19日 22:12
新潮社 森見 登美彦

まず最初に。内容は連作短編の形式で、「きつねのはなし」、は最初の一本のタイトルで、本全体とすると、むしろきつねではない他のお化けらしきケモノが中心になっています。しかしながら、その「きつねのはなし」は突出して面白くて、怖い。この作品の中心にいる「きつね」なのだろう人物の不気味さと存在感が際立っていて、「羊たちの沈黙」を最初に見たときのインパクトを思い出しました。
 土着ホラーというか怪奇譚なのですが、文章や世界観は都市的であり洗練されていて、こうした文章は京都、という土地でないと成立しにくいなあ、と思います。


びっくり館の殺人
(和書)2010年12月19日 21:58
2006 講談社 綾辻 行人

 小学生の頃、教室の後ろのロッカー上に並べられていた学級文庫。その中に混ざっていたジュニア向けの推理小説。「怪盗ルパン」だとか「少年探偵団」あれ、小学生当時でも、「それはちょっとどうなんだろう」と思わせるトリックがふんだんに盛り込まれていたものですが、なにもそんな「なんだかなあ」的空気も忠実に再現する必要がどこにあるんだろう。
 ぶっちゃけ、どうせ子供なんてまともに推理なんかしないんだろ、と言わんばかりの大雑把な叙述トリック一発勝負です。コナンとかのがよっぱど真面目。どうやら「暗黒館の殺人」と平行して書かれたようですが、綾辻さんは推理小説の正統たる読者とのトリック勝負を放りだして、怪奇色や背徳感を売りにした作風にシフトチェンジするつもりなんでしょうか。
 「推理小説の骨格を利用して、作者独自の世界を提示する」という作家さんは昨今多いので(それこそ京極とか)、それを卑怯とは思いませんが、従来のファンがそれに納得してついてきてくれるかは別問題ですよね。


GOTH 夜の章
(和書)2010年12月12日 23:22
2005 角川書店 乙 一

露悪趣味が売りのショートミステリー、といったところでしょうか。ライトノベル、というよりむしろ児童文学のような文体で、野次馬で悪趣味な少年を主人公にしているギャップが産む独特の妙味が、この作品の魅力なのでしょう。自分で自分のことを、「僕には罪悪感が無いのだ」なんてぬけぬけと言ってしまうような文章が、読んでて気恥ずかしくなる人にはキビシイ小説です。
 個人的には2話目が受け入れられませんでした。こういう叙述トリックって強引な上に意味がない気がします。しかし、理由があるとはいえ、ヒロインのイヌ嫌いには「オバQか?!」と突っ込まずには居られません。


見えない敵
(和書)2010年12月12日 23:09
1998 ブロンズ新社 阿部 夏丸

そもそもこの小説を、誰に読ませようとしているのか、というところからして疑問。昭和30年代、今の子供からすれば(出版当時の1998年の子供にしたって)古生代にも等しい昔の話を読んで貰うには、それなりの工夫も必要でしょうに、これまた昭和、というよりむしろ戦前?とすら思わせる古めかしい文体で書かれています。むしろ児童文学に名を借りた、同世代のオトナに向けた小説なのでしょう。それにしても、自伝的というには登場人物があまりに物語的でリアリティに欠けていますし、物語としては文章の構成が大ざっぱ過ぎ。前半と後半の繋がりに欠けるし、展開が急ぎすぎる部分が目立って、終わり方が唐突すぎます。なんか、全てにおいて距離が足りない印象。


イノセンス After The Long Goodbye
(和書)2010年12月05日 08:02
2005 徳間書店 山田 正紀

ハードボイルドなサイバーSFを一人称視点で、という、実に成功率の低そうな文章を、見事に書き上げていることに感心しました。やはり、「いかにもハードボイルド」的な文調の多様、それに対する照れのようなものが滲んでいますが、それもユーモアとして処理しています。SF講釈の手際の良さといい、高い実力の人が、適度に力を抜いて書いた小説だなあと思いました。バトーのイメージが映像とちょっと違うとか、作品で描写されている世界観が狭苦しい印象があるので、そこを不満に思う人もいると思います。


ジュリエットXプレス (角川文庫 し 38-1)
(和書)2010年12月01日 05:15
上甲 宣之 角川グループパブリッシング 2008年5月24日

アメリカドラマの「24」を意識して、45分間のサスペンスドラマを45分をかけて読んで貰おうとしたとのこと。そういう発想が良いですね。そのような目的があるからでしょう、あのケレン味たっぷりの文章が控えめで読みやすかったです。普段のテンションがクドく感じてしまう私としては、いつもこれくらいにしてくれれば良いのに、と思ってしまいます。
 内容はこれまでの作品通り、読者サービスとひねった構成を存分に盛り込んでいます。書くとなるとそれなりに頭と体力を使う文章なのにも関わらず、どうしても色物扱いをされがちな作風なのも相変わらずで、苦労の割には報われない人だなあ、と思うのですが、是非、このまま突っ走って欲しいです。やっぱり「洗練されていない勢い」が魅力の人です。


狐化粧―死なない男・同心野火陣内 (時代小説文庫)
(和書)2010年12月01日 05:14
和久田 正明 角川春樹事務所 2010年6月

 この本を買った理由。表紙イラストに描かれた主人公が、どう見てもジャイアンなのに、その名前が「ノビ」だったから。意図的だとしたらなかなかのものだ。

 例えるならキオスクの横にある、クルクル回る本棚。そこで官能小説やトラベルミステリーと並んで置かれているのをよく見かける、サラリーマンの通勤のお伴を目的にした時代劇小説のフォーマットとはこうしたものでしょうか。
 物語の展開も時代考証も心理描写も、シンプルな説明的口調で統一された文章に、深みはないですが読みやすく、仕事帰りの疲れた頭でも大丈夫。物語自体も意外性や巧妙な展開には無縁ですが、時代劇の定番はハズしていません。いわばテレビ時代劇の文章化であり、定番娯楽としての役割を果たすことを忠実に守った作品だと思います。

 と、ここまでで済めば良いのですが……。
何なんだこの主人公。恐いよ。裏表紙の紹介文にも書かれている通り、本来は「笑いと涙の物語」のハズですが、主人公の行動が思い切り逸脱しています。
 収録作品のうち最初の話は、従来であれば、悪役が最後に改心してハッピーエンドとするべき物語なのですが、主人公、かなり陰険と思える手段で殺してしまいます。2話目に至っては、自分を殺そうとした悪役どもとは言え、温泉の湯が真っ赤に染まる程の乱闘の挙げ句、最後に襲ってきた女性をその湯船に沈めて溺死させる所行。駆けつけた部下達には、その光景を背に冗談に言って場を引かせていますが、読者だって引くわ。
 テレビ時代劇も、ラストに二桁にはなろうかという人数を殺しているものをあるわけで、それと同じと言えばその通りです。だけど、この主人公の活躍(?)を読んで日頃のストレスを晴らしているのが日本のサラリーマンの日常だとしたら、日本の病理は深いなあ、と言わざるを得ません(苦笑)。

 衝撃を受けたと言えば間違いなくその通りの一冊です。どうやらシリーズの三作目らしいので、他の二作も読んでみたい。


トワイライト
(和書)2010年11月22日 22:41
2005 文芸春秋 重松 清

37才で独身でワーキングプアの我が身を鑑みれば、
この手の「人生の盛りをすぎて生活に行き詰まった人達の物語」なんて内容は手を出すべきではないと分かっていたのですが、
登場人物がそれぞれ「ドラえもん」のキャラに当てはめられている、という話を耳にしたので購入。

まあ案の定、とにかくドロドロというか、ジメジメというか。
リストラだDVだ浮気だ自殺だ病床だと積もり積もった生活の重みをうんざりするほど書き連ねた内容ですが、
それでも読後感はスッキリしています。
これには驚きました。
ある種の職人技とも思えますし、
一度どん底に突き落とした後で持ち上げて開放感を味わせる、ある種の自己啓発セミナー的方法論に乗っ取った文章、という気もします。

文章の途中までは、「あまりドラのキャラと重なっている気がしないなあ」と思いつつ読んでいたのですが、結びの段になるとそうした感じも薄れていました。その辺も上手い。

しかし、作者は表紙でも分かるとおり、万博世代、
つまりドラえもんも、初期の部分を主に読んでいたのでしょうね。
文中後半で「ドラえもん」に例えられるキャラクターが
おおらかな「初期のドラ」っぽい。
っていうか、この作品、「ドラえもん」っつうより、
「裸の大将」ですよね、内容……。


「世界征服」は可能か?
(和書)2010年11月22日 22:25
2007 筑摩書房 岡田 斗司夫

こういう種類の本は啓蒙書というのですかね……?
あまり普段読まないジャンルです。
アニメマンガでお馴染みの「世界征服」とは具体的にはどういう事か、
ということから、現代の世界を語るといった感じの内容。

古今東西のアニメ漫画特撮の「世界征服を企てたキャラクター、団体」を網羅した、という内容ではありませんので、そういうのを求めて買うことのないように。

言っていることはとても良識的で、納得する部分も多いのですが、
いろいろな例や事象を、自分に都合が良いように選別、解釈している気配が強くて、読んでいる最中に洗脳的気配とでも言うべきものを感じ、内容にあまり共感できませんでした。
それとも、こうした啓発的な文章ってのは、
たいていこうしたものなんですかね……?

また文章がえらくまた慇懃な感じで、
それがまた胡散臭く感じさせる一因なんだよなあ。


重力ピエロ
(和書)2010年11月22日 22:13
2006 新潮社 伊坂 幸太郎

お買い求めになる前に、物語のはじめの1ページを御覧になることを強くお薦めします。巻末で解説者の方が絶賛している冒頭、
「春が二階から降りてきた」
の一文の後に続く文章を読んで、
「なんて繊細かつスタイリッシュでリズミカルな深みのある文章なのかしら」と思う人は必読ですし、
「なんじゃこのまわりくどいスカしたナルシスト臭いイライラさせる文体は」と思った方はすぐに読むのを止めた方が良いです。
当然、私はぶっちぎりで後者でした(苦笑)。

中性的で耽美的な、ある種の少女漫画を連想させる世界観は、
それはそれで好む方がいるでしょうし、
私が強烈な拒否反応を起こしたのは、あくまで好みの問題であり、
文章の上手い下手ではないので、
(むしろこれだけ一貫した雰囲気を貫いているのだから、
文章はかなり上手な方だと思います)
批判をすべき箇所ではありません。

しかしこの文章は正直、ダメだっ!
特に兄弟の交わす会話は耐えられない!
この会話文のカギカッコ連発の書き方と回りくどくてイヤミ臭い衒学趣味乱発の言い回しは、駄目な文章のお手本にしか見えません!

それと、こちらは明確で重大な問題点。
これがミステリー小説として捉えるなら、かなり肝心な部分でズルをしています。(「犯行現場の場所の意味」の部分です)「こうじゃないかな」と思わせて引っ張る部分が実は間違いで、正解は推理では解けない、という構造はズル以外の何者ではありません。

この作品も映画化されていたなあ。
こういう世界観が好きな人って、そんなに多いのか……。


シネマ坊主 (幻冬舎よしもと文庫)
(和書)2010年11月14日 22:14
松本 人志 幻冬舎 2009年3月

 内容から察すると、どうやらインタビューを文章にしたらしく、文章は松本本人が書いたのでは無い様子。なので、松本が発言にずいぶんと気を遣っているのが伺えます。映画を見たときの周囲の状況(当映画の評判や事前知識、見たときの順番や、果ては鑑賞時の館内の様子などなど)を細やかに伝えた上で、「こういう条件で見たんだけど、その時には……」と言っている。(少なくても当時は)映画に対して門外漢だった人だけに、無責任な批判はしたくなかったのでしょう。だから、例えば井筒監督や押井監督のような一刀両断、という豪快さはあまり感じません。またマンガ「ミズシネマ」(みずしな孝之)のように、観た映画を素材に一笑い作るということも、文章を他人に委ねる手法では無理だったようで、せっかくの松本に映画を語ってもらう、という企画が充分生かし切れていない、と思うのは欲張りでしょうか。むしろ映画に対して気を遣っていない「関東モンの指定席の行動」や「天才バカボンと元祖天才バカボンの違い」といった、脱線部の話がこと面白く感じました。 


のはなし にぶんのいち~キジの巻~ (宝島社文庫)
(和書)2010年11月14日 22:00
伊集院 光 宝島社 2010年4月6日

 イヌの巻同様、内容は文句なしです。やはり問題は値段。待つ期間は2年半で、安くなる金額はわずか260円、しかし面白写真コーナーが追加。それを理解した上で、さっさと単行本を買うか、文庫を待つか?
 まあ基本ビンボなんで、単行本を買うことなんか滅多にないんですけど。でもブックオフ待ちはしないで新刊で買おう、と思わせるほどに充分、面白いです。


川の深さは
(和書)2010年11月07日 10:01
2003 講談社 福井 晴敏

「トゥエルブ」も「亡国の」も読んだ後にこれを読むと、如何に作者がデビュー作から延々同じ事を繰り返しているのか、というのがよく分かる(笑)。ただ私は、「同じ事を繰り返して何が悪い?ハッキリと言いたいことがあるから何度も言うんだ。そもそも、何度繰り返そうと面白いものは面白いだろうが!」というこの態度は嫌いじゃないです。
 高度経済成長とやらは産まれるまえで、オイルショックと公害問題真っ盛りの時期に産まれ、バブル経済とは無縁で過ごした学生時代、社会に出るときは就職氷河期……という世代にとっては深く胸に突き刺さる、現在日本の救い難き矛盾点を力説する一方で、ほとんどギャグになりかねないほどの大サービスアクションてんこ盛りのストーリー展開で読者を引き込むこの豪腕というべき手法は、つくづくガンダム世代に向けた物語だなあ、と改めて思います。
 それにしてもこの作品が書かれてからの10年で、また一段と日本ってダメになってしまっておりゃしませんか?



のはなし にぶんのいち~イヌの巻~ (宝島社文庫)
(和書)2010年11月07日 09:50
伊集院 光 宝島社 2010年4月6日

 これの素になった単行本「のはなし」が1260円。文庫化したときに上下にしてそれぞれ500円。つまり260円しか安くしないって……。もうこういう商売止めてくれないかなあ。出版業界も大変なのは分かるんだけど……。
 内容は文句なしです。文章を必要以上に飾っていないのが良い。下手に読者を笑わせようとして、妙に凝った文章やテンションを高くした文章を使うでもない。素材(内容)の良さに自信がある、シンプルな文章で、相当神経質な人が書いた文章なのに読んでいてリラックスできる。その一方で、深く考えさせる内容もあります。


DZ(ディーズィー)
(和書)2010年11月07日 09:37
2003 角川書店 小笠原 慧

 感情的なものを極力廃した、まるで観察者みたいな文体だの、最初っから読者に理解してもらおうなんて考えてもいない医学説明だの、びっくりするくらい呆気なく次々と人が死んでいく展開といい、いかにもインテリゲンチャが書きそうな内容だな、と思って読んでいたら、作者は京大医学部出身だって。ああそうですか。
 しかし読んでみると、人の情みたいなものはしっかりと書かれていて、頭でっかちなだけの小説ではないです。何より、物語のスケールの大きさは、ちょっと日本のミステリーでは見かけないので、その緻密な展開と相まって、とても楽しむことが出来ました。作品の出来で言えば星5つでもいいくらいですが、やはり人を選ぶ作品、という感じがしたので一つ減。


ナイチンゲールの沈黙(下) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-4 「このミス」大賞シリーズ)
(和書)2010年10月31日 09:39
海堂尊 宝島社 2008年9月3日

とにかく登場人物詰め込みすぎで、オマケにその大半がミステリーとしての物語と関係がない。「神秘の能力を持つ歌」や「殺害現場を正確に再現する機械」は、謎を解き明かすのに必要不可欠なモノではなく、あくまで作者が、そうした設定とそれに付随するキャラクターを書きたかったから登場させたもの。それはそれでいいのだけど、さすがに「ハイパーマン」に意味はないだろう(苦笑)。ヒデマサ君は全く話の本筋に絡まないし。そうした部分の部分の描写が多くなるあまり、ミステリー小説というよりもキャラクター小説としての要素が強まって、しかもその面々のケレンが強いので(そしてそれを描写する文章も)、何とも地に足が着いてない印象の物語になった感じがします。次作以降で、さらにどのような方向性に向かうのか。それによって、このシリーズを好きになれるかどうか決まると思います。


ナイチンゲールの沈黙(上) [宝島社文庫] (宝島社文庫 C か 1-3 「このミス」大賞シリーズ)
(和書)2010年10月31日 09:05
海堂尊 宝島社 2008年9月3日

この文字量で前後編に分ける商売っ気は、いい加減控えてもらいたい。それにしても、ウルトラシリーズのパロディらしき話を、いやに生き生きと書いていると思ったら、今回新たに登場する人物がヤケにヲタク受けしそうな面々ばかり。不幸な境遇でも冷静で優しさを隠し持つ不良少年だの、酒に溺れ死を目前にした、不思議な能力を持つ伝説の歌手だの、死を目前にしながら、凛とした態度を失わない薄幸の少女だの……。挙げ句の果てに、白鳥のライバルとして、背の高く二枚目で、最先端の科学捜査を信奉する刑事まで登場する始末。なんか、京極小説じみてきたな、と思っていると、ミステリーの部分をお粗末に扱い出すあたりまで似てきてしまったような。 


ウルトラマンメビウス
(和書)2010年10月24日 20:45
朱川 湊 光文社 2009年12月17日

自分が脚本に参加したテレビシリーズのエピソードを基に、オリジナルキャラクターの視点から書かれた作品。いかにもマニアらしいディテールが微笑ましいですし、小説ならではの筋の通った展開もあって、楽しめる内容であります。ただ、ごく個人的な意見ではありますが、「怪獣使いと少年」という作品には、手を出してもらいたくなかったなあ、という気持ちはあります。あれはやはり、昭和のあの時代だからこそ語れた物語では無かったのか、という思いがあるので。


憑神
(和書)2010年10月24日 20:37
2007 新潮社 浅田 次郎

 浅田次郎さんって、こんなキャラクターの書き方をするんですか、と意外に思いました。ひどく今風のキャラクター小説っぽい感じで、それこそ貧乏神と疫病神のキャラを(死神はそのままでオッケー)萌え系女子にでもすれば、同人誌受けするライトノベルにでもなりそうな感じ。
 物語全体としては悲劇の物語なのですが大らかでポジティブな書き方で、古き良き大衆小説を現代に再現してみせた、という感じもしますね。不幸すらも笑って受け入れる、そのたくましい庶民性を堂々と書き貫くというのは、けっこう難しいことで、それをこうした場数を踏んだ実力のある作者が書いてくれるのは嬉しいですね。本人も気に入っているのではないかな、と思ったりします。


クライマーズ・ハイ
(和書)2010年10月24日 20:25
2006 文芸春秋 横山 秀夫

「実際の事件を基にしたフィクションドラマ」と「企業の腐敗に完全と立ち向かう男のドラマ」というのが大嫌いな私がこの本を読んだのは、日航機墜落事件が子供のことの強烈な印象として残っている世代であり、自分が群馬県出身だから。
 正直な感想を言うなら、読むんじゃなかったと(笑)。とにかく濃厚すぎる作品。作者が実際に新聞社時代に日航機墜落報道に関係したそうで、書かれている内容の生々しさが尋常じゃないです。それも、実際の事故現場ではなく、地方新聞の内部描写が。
 おそらく作者自身も、それこそ書いている最中にクライマーズハイに教われたのでしょう。とにかく内容詰め込みすぎて、文章のアドレナリンがどんどん上がってしまい、途中から完全にドン引いた視線で読んでしまいました。主人公の途中からの行動に全くついていけなくなり、終盤、新聞社から身を引こうとした主人公を、周りの仲間たち、いがみ合っていた相手さえもが「辞めないでください!」と引き止める感動の場面などはもう完全にああそうですか、という感じです。もう少し熱血企業ドラマに対する耐性を身につけてから読みべき本でした。
 ただこれは賞賛しておかなくてはいけない部分なのですが、実際に起きた、今も多くの遺族がいる事件をエンターティナー小説にするにあたって、ものを書く人間が守らなくてはいけない仁義、ともいうべき部分は、しっかりと意識して守っている作品で、その姿勢は素晴らしいと思います。

 ところでこれ、映画化されていましたが、この作品内でかなり重要に書かれていた、群馬出身の2大政治家の色々、はどの程度映画内で描写されたのでしょう? それが何より気になります。


向日葵の咲かない夏 (新潮文庫 み 40-1)
(和書)2010年10月24日 20:09
道尾 秀介 新潮社 2008年7月29日

推理サスペンスとホラーとが混ざったような作品で、その配合比が、私の一番苦手な比率にぴったり収まってしまっていました。とにかく後味を悪くすることを第一の目的にしたような展開で、その為にサイコ系の人物だらけのお話。ミステリーとしての謎のまとめ方は一応、整っていますが、物語を読み終えた後でスッキリするでもなく、読後に胸に蟠るものは社会の理不尽とか痛切な悲劇などではなく、ただイタズラで動物に死体を見せられたように、不愉快なものを見た苛立だけ、という気がします。孤独のあまりに狂気に走った少年の悲哀を感じないといけないところなのかもしれませんが、そう思わせるにはあまりに文章全体から、自分の思いついたストーリーを見せつけたいという、作者の気配が浮かび過ぎているように思います。


脳男
(和書)2010年10月24日 19:54
2003 講談社 首藤 瓜於

 出だしは良かったんだけどなあ。作者に文章を書く上での持久力が足りてないのか、徐々に文章が雑になって、登場人物の書き込みも展開の段取りもかなり荒っぽくなってます。意図的に当初から説明的に話す主人公の口調に、次第にほかの人物も引っ張られていく一方で、行動はストーリーの展開上、どんどんおバカさんになっていくという有様は、登場人物たちに申し訳ないと思う。しかし最後の犯人逮捕の逆転劇はちょっと関心しました。
 それにしてもタイトル、「脳男」ってセンスはどうなの?


悪夢のエレベーター (幻冬舎文庫 き 21-1)
(和書)2010年10月24日 19:45
2007 幻冬舎 木下 半太

 ややネタバレの感想となります。

 読者をハラハラさせるという目的に徹した文章で、上甲宣之さん辺りに近いものを感じますが、文章の整い方ではこちらが上です。分かりやすい文章ながら人物の書き込みはそれなりにしっかりしていて、やくざのような中年男が終盤に向けて見せる、しゅぼくれたハードボイルド風味などはなかなか魅力に感じました。ブロットの収束の仕方も手際のいいものですが、この手のサスペンスの落ちにサイコキラーを使うのは、いい加減ご都合主義感が拭えなくなってしまってますね。


世界は日本サッカーをどう報じたか 「日本がサッカーの国になった日」 (ベスト新書 291)
(和書)2010年10月24日 12:06
木崎 伸也 ベストセラーズ 2010年7月24日

南アフリカのW杯、日本代表の戦いぶりを世界のマスコミはどのように伝えたのか、というタイトル通りの内容。主にブラジル、ドイツ、フランス、スペインなど。韓国がどう伝えたのかも入れて欲しかったなあ。
 予選第一選のカメルーン戦、そしてPKで破れたパラグアイ戦などは、世界各国でボロクソの言われ放題だったのがよく分かります。しかしそれは「日本が本来の自分の力を出し切れなかった」からで、「ワールドカップに選ばれるほどの実力があり、この試合ももっと力強く勝てる実力があるはずなのに」それをしなかったから責められるのであって、日本のサッカーが世界に知られつつある証なのだという話です。考えてみれば、日本だってブラジルとかフランスとかが実力を出し切れない負けっぷりをしたときはさんざん叩いたわけだしなあ。
 後半には、今後の日本代表はどうしていくべきかというお決まりの提案も各国の方からいただいていますが、その中に、「日本は周囲からの評価を気にしすぎる」という意見を述べている人がいました。そしたら、この本の存在自体を否定しているじゃん。


MM9 (創元SF文庫 )
(和書)2010年10月24日 11:57
山本 弘 東京創元社 2010年6月20日

 怪獣にまつわる物語という、歴史ある日本独自の誇るべき文化の中で、明確に一つの重要な意味を持つ作品。この現実の怪獣を出現させるその根拠、その場合に考えられる状況と対処に関して、とても誠実で精密な意見を提出しています。
 つまりは怪獣ヲタは絶対に読むべき一冊であり、内容のレベルも高いので、一般の方でも楽しめる作品です。
 あえて残念なのは、作品内で説明されている「物理的現象を超越している怪獣を説明するための根本的な理論」なのですが、「それを言っちゃうと、要するになんでもアリになるよね」っていう理論であること。怪獣をリアルに検証すると、結局そういうことにするしかないのか、というガッカリ感はありますが……、まあ仕方ないのか。
 これを元にしたドラマがやっていましたが、数話だけ見た感想としては、「低予算でかなり頑張っている」というもの。しかしあそこまで隅っこに追いやられた時間帯じゃないと放送してもらえないとは。


夜を守る (双葉文庫) (双葉文庫 い)
(和書)2010年10月24日 11:47
石田 衣良 双葉社 2010年5月13日

 同じ作者の「4TEEN」みたく、14歳が主役ってんならまだ許せたけど……。(これは現役14歳の人たちには失礼なもの言いですけどね)二十歳前後の連中を主人公にして、この物語はさすがに気恥ずかしくないですか?
 あらすじをいえば、「社会に出たもののやりたいことが見つからず日々を漫然と過ごしていたが、ある不幸な老人との出会いをきっかえに、自分の暮らす町を守ろうと自主的に夜の町をパトロールすることになる……」ってなかんじ。どうだろうこの純情路線。少しでも大人っぽい雰囲気を加えたいのか、ヤクザだの風俗嬢だのも登場してくるのだけど、それがまた嘘くささを助長しているというか何というか……。
 平成の世の中、こんな人情話が受け入れられるというのは、まだまだ世の中捨てたもんじゃないのかな、と素直に思えばいいのでしょうが、それにしてももう少し文章に締まりがあってくれないものか。なんかストーリーがダラダラしていて、話が終止生温い感じで嫌なんですよ。


暗黒館の殺人 (下)
(和書)2010年10月24日 11:37
2004 講談社 綾辻 行人

 前半のゴッテゴテの過剰装飾文章に耐え抜いたアナタなら、本来は推理小説の中でいちばん長ったらしく鬱陶しいはずの種明かしの長口上が、スッキリ爽快に読めること、間違いなし!この従来の推理小説とは真逆の読書感こそが、この小説最大の仕掛けなのでは、と思わせるくらい。
 注意事項としては、これまでの館シリーズの復習をしておかないと、ちょっとよく分からないです。なんだってこの作品はこんなに大ボリュームなんだと思ったら、これまでのシリーズの集大成的な要素があったご様子。以前の作品を読んだのて、大学時代だから……あらら、もう20年近くも前じゃん。そら覚えてないよ。


暗黒館の殺人 (上)
(和書)2010年10月24日 11:27
2004 講談社 綾辻 行人

人里離れた山奥に建つ謎の古い洋館。その中で暮らす奇怪な一族……という、マトモに書くならパロディにしかならないような舞台を必死こいて大真面目に書いています。その苦労たるや相当なもので、そのひたすらに鬱陶しい文章もまた、読者にどうか冷めた目で見てもらいたくないと思うが故の必死さの表れでしょう。クドく耽美的で退廃的で心理描写ダラダラの文章に馴染んでもらう為に、この前半の書はあります。おかげで殺人の場面なんか書いている暇もないくらい。これだけのボリュームと登場人物の割には人が死なねえなあ、とか思っていると、悲しいかな、後半でもあまり死ななかったりします。


ASSAULT GIRLS AVALON(f)
(和書)2010年10月10日 09:23
押井守 徳間書店 2009年12月16日

ハッキリ言いますが、映画よりこっちの方がオススメできます。
物語の説明は十分されている一方で無駄な蘊蓄などは少なく、
個性的な文章ながら読みやすく、
心象をセリフ調にした文章が中心で、
多分、ライトノベルのフォーマットってこんな感じじゃないのでしょうか。

要するに、純粋に娯楽作として書かれた内容であり、
だったら何故、映画があのように、
人によっては眠気、あるいは怒りを喚起させる内容になってしまったのか。
それが不思議でなりません。


勝つために戦え!〈監督ゼッキョー篇〉
(和書)2010年10月10日 09:14
押井守 徳間書店 2010年9月1日

 前回の「監督」からわずか半年ちょっとでこの続編。インタビュー興しの内容だから可能だろうとは言え、そんな好評だったのだろうか。だとしたら、みんな、人の悪口が書いてある本は好きなのだなあ。
 前回よりやや、マイナーな映画監督が増えているので、(それでも充分、有名な方々なのでしょうが……)映画ファンではないワタクシのよう知らない人も混ざっていますが、その人となりを思わず決めつけさせてしまう程のばっさりした語り口は相変わらず。それにしてもエメリッヒをあそこまで養護するとは。


勝つために戦え!〈監督篇〉
(和書)2010年10月10日 09:07
押井守 徳間書店 2010年2月26日

国内外の有名監督を「映画監督としての勝敗論」を前提に押井さんが評するという内容。身も蓋もない言い方をすれば、全編、「他人の悪口」と、「オシイさんの自己弁護」に満ちた内容なのだが、いずれにも確固たる根拠と信念を持って言っているので、ネガティブで低俗な雰囲気ではありません。対象者によっては、オシイさんなりの共感や同情も感じることが出来て、辛口評論でも不愉快な気分にさせられることはないです。
 それにしても巻末の対談の、一見なごやかな言葉で語られる反面、漂ってくるピリピリとした雰囲気と言ったら。


押井守の映像日記 実写映画 オトナの事情
(和書)2010年10月10日 08:55
押井 守 徳間書店 2010年6月30日

ものによっては5分程度しか見ていない映画で感想を書いて公に発表するという、よく考えなくとも無理のある内容。本人が言うには、5分も見ればその映画の大半は理解できるそうで、まあ確かに、ちょっと見ただけで「ああこの映画はこうなんだな」というのを察することは皆さんもご経験あるのではないでしょうか(特に出来が……の映画は)。
 むしろ映画の評論として読むより、適当に見た映画のツマミにしたオシイさんの映画論を楽しむ内容です。それにしても文中にある「FCグランスパ熱海」の映画は、「押井ファン」で「Jリーグファン」の私は是非観てみたい!


遺品整理屋は見た!
(和書)2009年11月29日 08:12
2006 扶桑社 吉田 太一

人の覗き見趣味を刺激せずにはいられないこのタイトル。当初、真っ先に気になったのが、書かれた文体がイヤミなほど整った文章で、まるで業界パンフレットのよう。優秀セールスマンの営業トークに付き合っているようなちょっとした不快感があったのですが、読み進んでいく内に、それは消え去り、逆に、常に人が死ぬ舞台に向かう人の、切実な思いが伝わってくるようになりました。過剰なほど丁寧な文章も、感情を抑え節度を保つためだったのか、文章が進むほどに、堪えきれないように訴えかける言葉が漏れ始め、それが胸に刺さります。いたたまれない場面と、胸暖まる場面が交互に並び、さて、自分の死後にこうした依頼をした場合、どっちに収まるのだろうかと、ふと考えてしまいました。


機動戦士ガンダム モビルスーツ開発秘録(竹書房文庫) (竹書房文庫 メ 1-2)
(和書)2009年11月29日 07:57
MEGALOMANIA 竹書房 2009年6月25日

誤植が多いなあ。
いわゆるガンダムを疑似ミリタリー的視点から見るのが好き、という人には、けっこうたまらない内容。イカニモな設定満載でジオン軍メインでモビルスーツの開発、発展の経緯を、一年戦争メインで書いております。
 ただ、この手の文章のマナーとして、元ネタはどこなのかはある程度明確にしてもらいたいもの。「この設定はこの作品のこの描写からくみ取りました」みたいのがある程度分からないと、例えば、文章を整合化させるために筆者が推測で付け足した設定がオフィシャルに絡みついてしまう可能性もあるわけで。その手のオレ的設定が、今までどれだけガンダム世界を混乱させてきたことか。まあ今も、バンダイが商品販売で新たな設定をどんどん継ぎ足して、混乱を拡大させている印象もあるのですが。
 しかし、さすがにボツモビ水泳部の扱いには苦慮していますなあ。


バカの壁
(和書)2009年11月29日 07:44
2003 新潮社 養老 孟司

あれだけ話題になったベストセラー。読んで最初の印象としては、全体として内容が散漫な感じがしたのですが、そもそも会話を文章化したもののようなので、避けがたいことかもしれません。
 全体的には「穏やかな逆説」というか、世間一般で常識的、あるいは良識的と思われている意見と真っ向反するフレーズを提出し、それを解説することで、読む側の固定概念を揺り動かすことを目的とした文章といったところでしょうか。手法としては常套的ですが、(この本の成功以降、なおさら増えたような気も)とくにこの本が好まれたのは、その丁寧で明快な文体にあるのかも知れません。こうした手法の文章は、えてして高飛車であったり必要以上に難解にしたりしがちですので。
 ちょっと気になったのは、逆説を利用することで良識を見つめ直すというこの手法の文章は、「それはちょっとどうなんだろう?」と思う意見があったとしても、反駁がしにくいですね。ところどころ、そういう箇所が見受けられました。


酷道を走る
(和書)2009年10月23日 11:45
鹿取 茂雄 彩図社 2009年8月8日

以前にレビューに書いた「だれも行かない秘境の温泉」同様、物好き人間の体を張った体験ルポ。この手の企画は、筆者の行動にどれだけ共感できるかで評価は大きく左右されると思います。文中で時々行っている、いささかモラル的にどうかと思う行動には首を傾げます。文章的にも、自宅近くの国道は回数を複数通い、さらに気になる事象に関しては追跡取材までしている、それなりに密度の高い内容なのですが、旅行先で一度だけ走破したような道に関しての記述はかなりなおざり。正直、素人サイト記事的な内容かな、というのが率直な感想です。ただし、自動車が満足に走れないほど荒廃した国道、そこで見える光景から、日本の開発の歪みがかいま見えるのは興味深いものでした。 


地獄のババぬき
(和書)2009年10月23日 11:22
宝島社 上甲 宣之

リアリティなんか最初っから放棄して、文章の厚みなんか考えにも入れず、
荒唐無稽ストーリーのパワーで押し切ろうとして、そしてそれがある程度成立してしまっている。とにかく力任せの作品。山ほどの突っ込みどころがあろうとも、ページを読み進ませる魅力のあるテンションと展開が見事であり、マンガのト書きのような文章もそのパワーに一役買っています。これほどマンガ原作向きの小説もないだろうに、と思うのですが、前作の「そのケータイはXXで」のコミックはイマイチだったなあ。 


ハサミ男
(和書)2009年10月03日 12:39
2002 講談社 殊能 将之

一回読んだだけだと、若干、内容を把握し着れませんでした。文中で登場人物が言っているように、推理小説定番のクライマックスの長口上がキライらしく、描写、文章をかなり絞っている為ですが、読み返すと納得できました。本来、小説としての体裁を考えれば、これくらいのほうが良いのかも知れません。以前、同作者の「美濃牛」を読んだときにも強く感じたのですが、人間描写に独特の風味があって、そこに惹かれます。人間の肯定的な部分、陽性な部分をキチッと拾い上げながらも、胸に嫌なものが残るビターな終わり方をする作者さんで、ややシニカルが強すぎると思いつつも、クセになる作品を書く人だなと思います。


空をつかむまで (集英社文庫 せ 4-3)
(和書)2009年09月21日 07:49
関口尚 集英社 2009年6月26日

小説の出来からするなら、お世辞にも褒められたものではないと思います。
基本、話詰め込みすぎで、説明的なセリフ連発で展開が妙に急いだりするし。なにより、メインはトライアスロンなのですが、話の都合でルールをまるっきり変えてしまうあたりどうなのか。傲慢で高飛車な敵キャラ、主人公達を陰で支える謎の老人といったお約束パターン。さながら昭和のジャンプマンガのようでもあり、それでいながらクライマックスのはずのトライアスロン大会の描写は大幅に端折っているのはある意味大胆。イジメやセックス、レイプ未遂、子供同士の傷害やヒキコモリや浮気離婚といった現代的で重い内容も含まれながら、その一方で妙に古典的な友情の描写や楽観的な展開も目立ち、とにかく終始バランスの悪い小説です。
 なのに泣ける!こんな使い古された出来の悪い友情物語になんでこんなに感動するのかってくらいに心震える自分が悔しい。もちろん自分の、そして読んでいる全ての人の青春の、おそらく誰にも似ていない、メルヘンとかファンタジーと同義と断じて良い青春の物語なのですが、それでもこうした物語は書かれ続け、何時の時代もまるで自分のことのように感動する人は絶えないのでしょう。 


手塚先生、締め切り過ぎてます! (集英社新書 490H)
(和書)2009年09月21日 07:23
福元 一義 集英社 2009年4月17日

手塚先生の人生がそれこそ下手なマンガ以上に劇的であったからでしょうか、伝記評伝は数多く出ていますが、その中でも特別な位置に当たる内容ではないでしょうか。手塚の資料を調べてまとめあげたのではなく、あくまで身近に手塚を見つめていた作者の視点、記憶を中心に書かれているだけに、名内容に血が通っている、と言いたくなる文章だと思います。それだけに、手塚の最後を綴る文章などには、こみ上げてくるモノがありました。文体もやや古風な表現があるものの大変読みやすく、ところどころに挟まれたユーモアのあるカットマンガと並び、作者の人柄の良さが感じられる作品です。


全国「ご当地キャラ」がよくわかる本 (PHP文庫 れ 2-15)
(和書)2009年09月21日 07:12
株式会社レッカ社 PHP研究所 2009年9月1日

タイトル通りの内容で、いわば「ゆるキャラカタログ」。以前、みうらじゅんさんの似たコンセプトの本にはあった「毒」のようなものもなく、ただ素直にゆるキャラの説明を列挙しているだけなので、興味ある人はどうぞ、といった内容。
ゆるキャラブーム、多分「風太くん」だの「アザラシのタマちゃん」だのと同じ、後で振り返ると失笑混じりでしか語れない一過性のおバカブームで終わりそうな気配が強く強く感じ取れるのですが、地方活性化、というちょいとヘビーな内容が含まれているので、やはり多少は応援したくなります。
ところで我が埼玉には、「ゆる玉応援団」なる豪華なユニットがあるそうな。イベントがあるならちょっと行ってみたい。


ささらさや
(和書)2009年09月21日 06:59
2004 幻冬舎 加納 朋子

とってもお気に入りの加納さんの小説の中では、イマイチ入り込めなかった作品。短編それぞれの出来にバラツキがあって、なにもこんなに無理矢理オチをつけなくても、と思ってしまうものも散見された、ということもあるのでしょうが、大きな理由は、「赤ちゃんを抱えたお人好しの未亡人」という、30代後半の独身男には最も感情移入しにくい主人公だったからだと思われます。主人公を助けに表れるゴーストとなった旦那に対しても、
「死んでまでノロケ見せつけるんじゃねえよ」
とか思ってしまう(苦笑)

ただ、物語のラスト、主人公と旦那が、静かに別れていく展開はさすがに綺麗だなあ、と思いました。普通、派手な大事件でも起こして、劇的に盛り上げて別れさせたいところを、ゆっくりとほどけていくような展開にしたのが良かったです。


機動戦士ガンダムUC (10) 虹の彼方に (下) (角川コミックス・エース 189-12)
(和書)2009年09月07日 20:44
福井 晴敏 角川書店(角川グループパブリッシング) 2009年8月26日

ガンダムという物語を「人の革新」をテーマとした物語とするなら
これはこれで正解だろうし、
「ガンダム」の続編として制作された物語として、従来の「Z」以降の続編物の方法論に乗っ取って書いたことも間違いではないと思う。
にも関わらず、この物語の締めくくりの納得のいかなさはなんだろう。
サイコフィールドがあまりに万能に使われすぎて、
なんだかご都合主義のオカルトパワーめいてしまっていたり、
ニュータイプ論が走りすぎて、
胡散臭い宗教がかった展開についていけないといった感覚は、
正直、強い。
「大人が読むガンダム」とかいったフレーズがついて回ったこのシリーズだけど、
これを真面目に、テレもせずヒキもしないで読み終えた人というのは、
正直、あまり大人じゃないように思う。
ただ、広げた大風呂敷のまとめ上げ方としては上等だと思うし、
何より、とにかく人を殺しまくって終盤を盛り上げる、
従来のガンダムの悪癖を出来るだけ避けたことは偉いと思う。

ただ、まあ……。
アニメ化の際には、かなり変更を加えないと、きびしい終わり方ではないかなと。


機動戦士ガンダムUC (9) 虹の彼方に (上) (角川コミックス・エース 189-11)
(和書)2009年08月30日 06:49
福井 晴敏 角川書店(角川グループパブリッシング) 2009年8月26日

いよいよあのキャラクターの大往生シーンがやってきます。
はっきり言って、登場した時点で死ぬことが約束されていたような
キャラクターですが、
誰しもが「お願い、死なないで!」と願わずには居られなかった、
健気で不憫なあのキャラです。

ガンダム名物、「往生際の幽体離脱出張お礼参り」シーンを、
ふんだんに駆使してのそのシーンは、
やはり泣けます。
ただ、そのあまりにおおっぴらで感情的な描き方に、
いよいよラストへと迫るその展開に、
若干の不安を感じたのですが……。
それはどうも的中した感じ。


勝つために戦え!
(和書)2009年08月30日 06:39
2006 エンターブレイン 押井 守

オシイさんの勝敗論、何を持って「勝利」とするのか、
それこそが大事だと訴えるインタビュー調の一冊。
「必勝論」でないところがポイント。

どうやらこの連載の時期は、サッカー観戦に嵌っていたご様子で、
オシイさんのサッカー論が興味深かったです。
オランダやスペインは嫌いでドイツが好き、という、
フィジカルメインで合理主義最優先サッカーがお好きなのか。
気持ちは分からないでもないけど、
戦術ほったらかしで個人技寄せ集めで勝っちゃうサッカーも好きです、私。
ドゥンガやマラドーナが監督でも勝てちゃう、みたいな(笑)

一方、磐田が好きで清水が嫌いというのは、
とても共感できる(笑)。
もっとも磐田が強かった頃の連載だから、
今は違うかも知れないが。


新装版 洗脳体験 (宝島SUGOI文庫)
(和書)2009年08月21日 10:54
二澤 雅喜, 島田 裕巳 宝島社 2009年7月4日

洗脳体験というより自己啓発セミナー体験記、という内容。
まあどちらも同じと言えばそうですが。

作者が極自然な、ニュートラルな立ち位置で文章を書いているのがこの文章の価値だと思います。体験中のいくつかの手法は、実生活でも有効ではないか、と考えてしまうあたりの客観性ですね。

それだけに、これだけの精神的なバランス感覚を持っている人ですら、
勧誘活動を実践する一歩手前まで行くのだから、
つくづくこの手の手法は厄介だと思います。

ただ、実際の「洗脳」は「自我破壊」や「強制教化」というレベルの、極端に攻撃的なものも多く世間にはあるのが事実なわけで。
それに比較してやや「ゆるい」内容の洗脳体験を読んでみて、
「これくらいなら大丈夫かも」みたいな誤解をする読者がいなければいいのですが。


洗脳の科学
(和書)2009年08月21日 10:42
第三書館 リチャード キャメリアン, Richard Camellion, 兼近 修身

原作はかなり昔にかかれたもので、それをオウム事件で「洗脳」が話題になったため、引っ張り出して訳して出版したようです。だから内容はかなり古びていますが、世の東西様々な洗脳の歴史を記述しています。ただ、全体に文章がヒステリックな印象で、洗脳に荷担した学者の名前を挙げては大声で糾弾しているような文章が目につき、洗脳の手段や発達の経緯は後回しにされている感じです。気持ちは充分わかりますが、学術書としてはどうでしょう。そして、あとがきが書かれている文章(訳者による)は若干、オカルトに首をつっこみ書けているような内容で、それまでの説得力をかなり台無しにしているように思いました。


四国八十八か所ガイジン夏遍路
(和書)2009年08月21日 10:26
2000 小学館 クレイグ マクラクラン, Craig McLachlan, 橋本 恵

 ここに描写されている日本も、既に過去のものになってしまっているのかなあ、と思って、少し寂しさを感じてしまいました。今でも、謎の外国人が小学校に無断宿泊しているのを咎められずにすむとは、ちょっと思えないですからねえ。
 とにかく、文章の上手さに感心します。訳者の方の技量もあるのでしょうが、日本語にも訳しやすい丁寧な、そして何処の国でも通じる優しいユーモアに満ちた原文なのでしょう。作者の人柄がそのままこの作品を傑作にしています。行程直前に行われた祖国ニュージーランド近辺でのフランスの核実験に対する反感を、行く先々で話されたというエピソードが特に好きです。それでこそ日本人って気がして。


首無の如き祟るもの
(和書)2009年08月21日 10:14
2007 原書房 三津田 信三

最後の立て続けに責め立ててくる怒濤のどんでん返しは、まさに推理小説の醍醐味! 目眩すら感じさせる事実の変転は、まさに快感。
 しかし、そこにたどり着くまでには、かなりの忍耐力が必要とされます。とにかく文章が鬱陶しいというか、まだるっこしいというか。そもそも作者が魅力的な文章を書こうという意欲を持っていないのでしょう。ただただ自分が思いついた名プロットを説明することだけを目的とした、説明と帳尻会わせだけの文章が延々続きます。推理小説で時々、この手のアイデアに文章力がついていけてない作品って見かけるんですが、原作付きマンガみたいに、実際に書く人と分けるってこと、できないんですかね。


赤い月、廃駅の上に (幽BOOKS)
(和書)2009年08月10日 22:29
有栖川有栖 メディアファクトリー 2009年2月4日

鉄道に絡んだホラー……、というより怪談の短編集。
鉄道というお題を掲げながら、鉄ちゃんを喜ばせるような蘊蓄絡みの
作品はあまりありません。
(むしろ大阪万博だの、海の怪談アレコレだの……)
それだけに一般の人も大丈夫ですが、
そちらを期待して手に取ったひとはがっかりしたかも。

話は恐い恐いというより、手堅く上手にまとまっている印象の作品が多く、SFのSSっぽい読後感を感じさせる作品が多いですね。
百物語の話と、海の怪談、狐の嫁入りの話が気に入りました。


後巷説百物語
(和書)2009年08月10日 22:22
2006 中央公論新社 京極 夏彦

巷説百物語の完結編……になるのだろうな。
内容は玉石混合、というか、いや、つまらない作品は無いのですが、
まとまりが無いなあ、という印象はあります。
「五位の光」は短編にまとまるにはスケールがでかすぎる話だと思うのですが、本格的にかこうとするとボロがいろいろ出ちゃってまとまらなかったどうなあ、というお話。
「赤えいの魚」はひどくグロテスクな世界観で、あの宗教団体だのあの国家だのを連想させずにいられないのですが、まあこの国とて、どれほど違いがあるのやら、とも少し思ってみたり。
内容はともかく、個人的に興味深かったのが、「山男」。京極のサンカ像が伺えるので興味深かったです。ウメガイこそ認めるものの、三角寛のサンカ像はやはりほぼ否定しているわけですね。

時代が明治初頭なだけに、もう少し遡って、幕末の事件を絡めた作品が読みたかったなあ、という気もします。


シャトゥーン ヒグマの森 (宝島SUGOI文庫) (宝島社文庫 C ま 1-1)
(和書)2009年08月10日 22:03
増田 俊也 宝島社 2009年6月5日

超硬派体育会系ネイチャーサバイバルホラー、と言った感じ。
とにかく文章の押しが強いので、読んでいて疲れます。
あまりにモンスターじみた熊の攻撃行動や
やたらグロを強調する捕食シーンなど、
ちょっとどうかなあ、と思わせる場面も多いのですが、
それを指摘すると、もの凄い形相で怒られそう。
「お前はなんにも分かってない!」みたいな。

自然環境や動物の現状、人間のエゴなど、
よく調べていて、熱意も感じられるのですが、
強く思う余り共感もしずらい、というか、かなりウザいというか……。
作者、あまりお近づきになりたくないタイプの人だと思います。


推理小説
(和書)2009年07月18日 08:15
2005 河出書房新社 秦 建日子

読後の印象は、
とにかく「カッコいい」小説だなあ、と。
描写を削った、半ば放り投げるような文章も、
カッコ良い「斜の構え方」を演出しているように思います。

そのあまりにまんまなタイトルが暗示しているように、
推理小説のお約束ごとに対するアンチテーゼが主題になっています。
「推理小説の枠組みにこだわる余りに、
登場人物の人間性がないがしろになっていいのか」
という疑問を、主人公の人間的苦悩と上手く合致させていて、
話のまとめ方として実に巧みだと思います。

テレビドラマはヒットしていたようですが、見ていません。
小説では途中、マスコミ批判、テレビ批判の文章が目立つのですが、
ドラマ化の際はどうなったのか。
主人公のキャラクターは確かに、テレビドラマ映えする造形でしたが、
実際のドラマでもこれほどまでにすっぽんぽんになったのか。
そのあたりも興味津々です。


誰も行けない温泉最後の聖泉
(和書)2009年07月18日 08:01
2004 小学館 大原 利雄

よくやるなあ、という以外に感想を持ちようがない(苦笑)。
毒ガスマスクを使わないと入れない温泉や、
道もない山中を延々彷徨わないと行けない温泉もそうですが、
とにかく呆れたのは、集落の道ばたにある、
普段は野菜を洗うためにあるような温泉に無理矢理入っているところ。
地元の住民に叱られたりしてるようですが、当たり前だよ。
迷惑でしょうに。
しかもなんのポリシーだか必ず全裸だし。
本を書いている人だから赦されているけど、そら犯罪だろう。

文章も面白ルポなだけに受け狙いを全面に押し出した文体ですが、
どうも全体的にスベり気味。
とことん、周囲の人を置き去りにするタイプの人間らしいです、
この作者。


シェルター 終末の殺人
(和書)2009年07月18日 07:53
2004 東京創元社 三津田 信三

すいません、ややネタバレ気味です。

おそらく本格推理ファン以外は楽しめず、
さりとて本格推理ファンの大半は満足しないであろうという、
本格推理小説の一番陥りやすい失敗を、
見事にやってしまったという印象です。

なにせ、よりによって「雪山の山荘」的限定状況で
一人ずつ、「密室」で殺されていくという展開。
どう頑張っても今更、
ファンを唸らせるトリックなぞ思いつくはずもない
シチュエーションで話が進んでいくのですから、
これはもう文章が上手くとも展開の引きが巧みだとしても、
端から勝ち目のない戦いというもの。

全て異なる密室トリックも、よく考えたなあ、とは思うのですが、
その大半が「そのトリックだと言われてもなあ」と思わずにはいられない、細工系トリック。
そして最後、生き残った二人のうち、真犯人はどちらだ……
という大オチは、
多少メタを効かつつも「あの大御所作品とほぼカブり」という、
個人的には一番すっきりしないパターンのラスト。
ただ、この話ではこうでもするより他にない、というラストです。
納得するより他にない。

冒頭で説明される、実際の核爆弾、核戦争の想定に関する話は、
とても興味深く読みました。
子供の頃に聞かされた核戦争後の世界みたいな話だと、
たちまち人類絶滅みたいな感じでしたが、
それとはだいぶ印象が違いましたね。


日曜日の沈黙
(和書)2009年07月04日 10:00
2000 講談社 石崎 幸二

内容の出来不出来以前に、
相当の比率で読んだ人間が不愉快になるのではないか、
と思わせる作品。

とにかくやたらと本格推理ファンをおちょくった文章が並ぶので、
(そしてそれを主人公らが言い重ねるので)
お前何様のつもりだ、というムカツキが抑えられない。
セリフ連発、説明文章乱立の「上手いとはとても思えない」文章で、
それを書くものだから尚更。

ただ、トリックを読んでみると、
確かに正攻法の本格にはしにくい内容で、
それを前提に「あえて」こうした人を小馬鹿にした文章で
通したのだとしたら、
それなりのセンスのある作家さんなのでしょう。

それでも文章の拙さは実力でしょうが。


BG、あるいは死せるカイニス
(和書)2009年07月04日 09:51
2007 光文社 石持 浅海

かって、これほど全ての登場人物に感情移入ができなかった
小説があったろうか(苦笑)。
男性読者でこの世界観にすんなり入れる人って、
実際、どれくらいいるんだろう。

内容は推理というよりSFの比重の方が高いというのが、
私の感想です。
トリックよりも世界観の構成の方が、
出来が良いように思えて……。

その筋の絵をかける人がマンガにすれば、
腐女子の方が大喜びしそうな感じですがどうなんでしょう。


犯人に告ぐ 下 (双葉文庫 し 29-2)
(和書)2009年06月28日 22:44
2007 双葉社 雫井 脩介

読後感の感動、間違いなく今年上半期1位でした。
犯人逮捕までの偶然を使いすぎだとか、
犯人が途中から物語内での立ち位置が弱くなってるとか、
文句を付ける人は多いでしょうが、
そんなことは問題ではないのです!

この物語の結末で伺える、作者の誠実さと律儀さ。
それこそがこの作品の最大の魅力だと私は思います。
この物語の結末を、
出来過ぎの感傷主義と言うべきではありません。
詳しい描写は避けますが、
息子を殺された母親が、主人公を見舞い、その時に言った台詞と、
それからの主人公の描写は本当に泣けました。
あの状況でこの台詞をこの人物に言わせる、
それこそがこの作者の最大の技量ではないでしょうか。
つくづくちゃんとした大人の方が書いた小説だなあ、と思います。


犯人に告ぐ 上 (1) (双葉文庫 し 29-1)
(和書)2009年06月28日 22:32
2007 双葉社 雫井 脩介

とりあえず最後まで読んで下さい。
と、言うまでもないですかね。
前半だけでいいや、と投げ出せるようなヤワな小説ではないです。
ただし、
前編を終えた時点での評価は星4つでした。
文章全体にわずかばかり「カッコつけすぎ」の気配があって、
(こと、主人公の序盤のマスコミ相手の醜態場面は、ちょっと演出過剰な感じがしたので)
そのぶんの星一つ減らしでしたが……。


凡人として生きるということ (幻冬舎新書 (お-5-1))
(和書)2009年06月28日 22:26
押井 守 幻冬舎 2008年7月

アニメ監督押井守の人生指南、とでもいうべき一冊。正直、物の見方がそうとうに偏っている人なので、この文章の内容を全面的に肯定する人は多分いないのではなかろうか、という感じ。いたらそれはオシイ原理主義者ですね。ただ、世間の美辞麗句に振り回されるな、という意見は若い人に届いて欲しい、とこちらもオヤジにさしかかった36歳もつくづく思います。
 内容はともかく、文章自体はいわゆるオシイ節じゃなくて、かなり読みやすい文体。そのあたり、かなり誠実な思いでこの文章を書いたのではないかな、と思います。


はじめてわかる国語
(和書)2009年06月28日 08:15
2006 講談社 清水 義範

清水センセのホームグランドたる国語。さすがに面白いです。サイバラさんも学校の教科中では最も得意だった科目のためか、まれに見るイラストと本文のシンクロ率を示しており、そもそもカバー裏の清水センセの紹介文の一文のみで笑えました。対談が二つ掲載されていて、そのぶん、サイバラさんのイラストが少なめなのが残念ですが、斉藤美奈子さんとの対談はその身も蓋もなさっぷりが面白かったです。


英語ができない私をせめないで!―I want to speak English!
(和書)2009年06月28日 08:10
2006 大和書房 小栗 左多里

マンガエッセイでお馴染みの作者さんですが、今回は文章がメインです。文章に関しては正直、「普段のマンガからイラストを抜いただけ」というレベルで、つまらなくはないが物足りない、というのが正直な感想です。ただ、いろいろと英語を覚えるためにトライしたその内容は面白く、英会話学校の項などでは、読んでいるこちらまでむかっ腹が立つことは請け合いです。この人の本はつねづね、お値段が高いと感じているので、他のマンガエッセイも、このくらいの価格で出してくれると嬉しいんですけどねえ。


麺道一直線 (新潮文庫)
(和書)2009年06月28日 08:04
勝谷 誠彦 新潮社 2009年5月28日

ワイドショーに出てくるいわゆる「文化人」というのが大嫌いで、この人もその範疇に含まれているのですが、それはそれで、この旅食エッセイは面白いです。自分も含めた登場人物のキャラクターの引き立たせ方が上手で、同行する編集者やアシスタントとの丁々発止が、さながら「水曜どうでしょう」のよう。麺を食べたときの感想表現も凝っていて「ここに行って食べたい!」と思わせる文章です。自分でもうどん屋を経営しているので苦労が分かる為か、コメンテーターの時の毒舌はほとんどなく、波風立たない内容ではありますが、それだけに素直に楽しめる内容になっています。


今ここにいるぼくらは (集英社文庫)
(和書)2009年06月28日 07:56
川端 裕人 集英社 2009年5月20日

 表紙裏の「懐かしい昭和の風景の中で語られる少年の爽快な成長物語」というあまりにベタな紹介文にまんまとのせられて買ってしまいました。自分の子供時代を思い起こさせるようなノスタルジックなストーリー、を期待していたのですが、読んでみると割とそうでもなく。
 舞台こそ昭和後期の関東の田舎を忠実に描写していますが、作品全体にリアリティが欠けています。登場人物の描写がひどくキャラクター的なのが理由でしょう。その為に語られるエピソードも作為的な印象で、なんだか「S・キングの小説の舞台を日本にしてみてちょっと真似た」みたいな作品、となってしまった感じです。話が時系列を崩しているのはちょっと面白いアイデアだと思いました。


立喰師、かく語りき。(和書)2009年06月05日 10:58
2006 徳間書店 押井 守

映画の副読本、しかもよりによって押井守が趣味に走りきった映画のそれですから、人に勧めるには難のある書物であるのは間違いなく、星5つで人に勧めるのはどうかとは思うのですが、最近読んだ本の中では、一番知的興奮を誘った本なので、あえてそうしました。
 こと、笠井潔さんとの対談文が大変興味深く、現代における「具体的な敵」とは何か、の問いに、とある最近映画化もされた超有名小説を引き合いに出してあるあたりの内容には、深く感じるモノがありました。なお、カバー裏も必見です。


放送禁止映像大全 (文春文庫)
(和書)2009年05月22日 14:54
天野 ミチヒロ 文藝春秋 2009年5月8日

観れないものを観たい!
というヲタクのスケベ心を、これ以上なく刺激してくれる本です。
いやあアレも観たいコレも観たいと、ページを進めるごとに
思ってしまいました。

こと、終盤の方で紹介されている作品は、
内容を観ていない、いや観れないにも関わらず、
紹介文を読んだだけでズッシリとなにかを背負わされる気持ちにさせる
まさに強者揃い。

セレクトに筆者の趣味が出過ぎ、という印象こそあれ、
ここまで調べ上げた意欲に関心します。

最後に、最近観てレビューも書いたばかりの「ギララの逆襲」の
監督さんとの対談が掲載されているのですが、
それを読んで、少しギララの印象も変わりました。
星の数が変わるほどじゃないけど。


手塚治虫―ロマン大宇宙 (講談社文庫)
(和書)2009年05月22日 14:48
大下 英治 講談社 2002年5月

豊富な資料を手際よくまとめてあって、
手塚治虫の評伝として、ベーシックにもできるような、
良くできた文章だとは思います。

思いますが……、なんでこんな文体にしちゃったんですかね?
読みやすさを考えてのことだったのかも知れませんが、
「まるでその場にいたか、さもなくばその本人にでもなったような」
文調で、終始書かれているので、
なんだか物語めいてしまって、結果、全体的に胡散臭い感じになってしまっているように思うのですがどうでしょうか。

「講釈師、見てきたような嘘をつき」という言葉が、
読後真っ先に浮かびました。


機動戦士ガンダムUC (8) 宇宙と惑星と
(和書)2009年05月08日 22:12
福井 晴敏 角川グループパブリッシング 2009年4月25日

 相変わらずの登場人物の感情過多っぷりですが、最近の中ではもっとも読みやすかったように思います。話の展開上、戦闘シーンが少ない為か、文章を展開優先にしたのかもしれません。この作家さんのハッタリの効いた文章は、これぐらいの温度でちょうど良い、というのが私の感想です。カッコいいキメの台詞も引き立つし。
 アニメ化が決定したそうで、久しぶりにアニメガンダムシリーズをちゃんと見ることになりそうです。今から期待していますが、安彦キャラとカトキメカって、アニメーターさんには酷だろうなあ。


インストール
(和書)2009年04月29日 22:31
2005 河出書房新社 綿矢 りさ

以前、「12歳の少女が書いた推理小説!」とやらで酷い目にあったので、やはり年齢が話題になったこの人の作品も怪しいなと思っていたのですが、読んでみてビックリ。文章が上手い。持って生まれたセンスのみで全て書き抜いた直線ぶり、若さをテレもせず誇示しているような作品です。それもまた気持ちいい。それでいて文章の上手さに溺れることなく、作品内容にも表れているように、自分を客観視する視点を持っているところも良いです。余計なお世話を言うならば、まれに見るその文章センスが、今のところ「金に成りづらい傾向の文章」にのみ発揮されているように思うところ。年齢が話題にならなくなる今後、この文章の何処をセールスポイントにしていくのか?というのが蛇足ながら心配。


感染
(和書)2009年04月25日 12:11
2005 小学館 仙川 環

序盤から中盤にかけて、大人の女性の行き詰まった恋愛関係(しかも不倫だの離婚だの)や、息の詰まるような職場環境が、湿度の高い文章で延々と続いたので、うわあ嫌な小説選んじゃったなあと思ったのですが、中盤、重要な人物が不審死するあたりから俄然、面白くなります。前編を通してみると、資料はよく調べていて使い方も上手く、登場人物の配置も的確で、よくできた小説だと分かります。私のように、通勤時に読むにはいささかジメッとし過ぎだとは思いますが。


探偵ガリレオ
(和書)2009年04月19日 12:00
2002 文芸春秋 東野 圭吾

もちろん、ドラマを見た後、今こうして初めて原作を読んだわけですが、なんか、原作の方がいい人っぽい気がします。エキセントリックな感じがあまりないんですね。読んでみると、大人向けの「理系コナン」という印象ですね。リアリティは最初から放棄して、ただただキャラクターの魅力とハッタリの効いた謎で物語を押し通す。原作ファンは納得しかねるでしょうが、その長所を特化するように、設定を大幅に変更したドラマ版は、ある意味正しいのかも知れません。


もうひとつのMONSTER―The investigative report
(和書)2009年04月14日 22:41
2002 小学館 ヴェルナー・ヴェーバー, 浦沢 直樹, 長崎 尚志

 人によっては、本編より面白かった、と思う人もいるんじゃないかなあ。いわゆる「設定マニア」と呼ばれる人種は、おそらく楽しめると思います。私もそれに近いので。
 マンガ本編は物語の展開に対し、劇的な印象を与える演習こそ巧みなのですが、「その展開が意味するものは何か」、ということを具体的に説明することをあまりしなかったように思います。なので、作品全体を通して何処か曖昧というか、雰囲気優先で話が進んでいる印象が残っているのですが、この本はその曖昧さを、どこまでがフィクションだかわからない膨大な情報量を駆使して、かなり整頓してくれているように思います。
 その反面、その「曖昧さを晴らす」という、本編のミステリアスな雰囲気を失いかねない行為を嫌ったのか、本編にはないタイトル通りの「もうひとつのモンスター」の話題を付け加えているので、もともと複雑な人物関係が、こと後半に行くに当たって一段とややこしくなり、少しでも間隔を空けて読むと、もうワケ分からなくなりかねません。改めてみると極めてミステリー小説じみた出だしと終わりの絡め方だったりするのですが。
 それにしても、これを書いた人の本編との関連が謎です。確か「MONSTER」は浦沢さん個人名義で、原作者とかはいなかった記憶があるのですが。


屈辱と歓喜と真実と―“報道されなかった”王ジャパン121日間の舞台裏
(和書)2009年04月14日 22:26
2007 ぴあ 石田 雄太

 感動と興奮の第2回WBC期間中、立ち寄った本屋で平積みになっていたので、お、最新刊でこんなのが出たのか、と思わず衝動買いしてしまったのですが、日付よく見たら2年前の本でやんの。WBCに便乗して倉庫から引っ張り出したのか。まんまと引っかかった私も迂闊だが、まあ連覇したので何もかも赦すうれしい顔。
 内容としては、いかにもNumber的というか、こと密着取材した対象者の意見や言動に簡単に賛同しすぎているんじゃないかなあ、という印象があって、ちょっと納得しかねる部分はあるのですが(少なくても、あれだけ否定的内容で書いているのだったら、もっとコーチ陣に対しても取材はすべきだろうと思うし)、読み応えのある内容であることは間違いありません。
 単なるナルシスティックな迎合記事にならないのは、やはり取材対象者各人が、それなりの説得力を持った人物たちだからだ、ということなのでしょう。世界一になるに相応しい実力を持った人達、というのはそうしたものです。悲しいかな現状の日本サッカー界では書けない本ですね。


飛びすぎる教室
(和書)2009年04月14日 22:16
講談社 清水 義範, 西原 理恵子, (著)

清水ハカセの授業を脱線しての雑談集、といった本巻。内容は多岐にわたっているのですが、こと世界、歴史の一般的な視点を問うような話が目立って、そのメッセージが説得力があって、面白かったです。ときにサイバラさんに一言伝えておきたいのですが、私はサイバラさんの挿絵目当てで「おもしろくても理科」を買って、それ以降、清水ハカセの他の書物を読むようになりました。だから、決してハカセはソンはしてませんよ。


浦和レッズ 敗戦記
(和書)2009年04月05日 10:10
小斎 秀樹 文藝春秋 2009年2月24日

 ここに書かれている内容がどれだけ事実に迫っているのか、客観的立場として成り立っているのかは知るよしもありませんが、これを読んで、レッズを愛する人であれば(いやそうでない人は読まないでしょうが)、ほとんどの人が「永井唯一郎」という選手に対して思いを馳せるのではないでしょうか。私は正直、それほど永井を高く評価している方ではなく、この本の後半で書かれているエンゲルスの永井に対するコメントに、ある程度共感してしまいます。それでも昨年の前半、一番攻撃面で機能していたのは永井だと思っていましたし、これまでの永井の永井以外には出来ない数々の華麗なゴールを思い返しては、彼が去っていったという事実に心痛みます。
 ところで昨日、レッズは社長交代を発表しました。なんか新聞記事を読む限り、サッカーと全然関係ない三菱のお偉方が回されてきた、という印象なのですが、大丈夫なんでしょうかね。


宝島社文庫「パーフェクト・プラン」
(和書)2009年04月05日 10:01
2005 宝島社 柳原 慧

とにかくアップテンポで二転三転で、疑問を抱かせる暇も与えず物語が転換していきます。詰め込みすぎで登場人物多すぎて書き込みも足りていないのですが、その力業は見事の一言。物語の最も重要な点であるコンピューター、ウィルスやネットに関しての記述も凝っていて凄いなあ、と思っていたのですが、巻末の解説を読むとどうやら応募時の原稿ではそのへんかなり微妙だったらしく、出版にあたって大幅に手直ししたようです。ちょっと作者の実力に下駄を履かせているようで、それは少し残念。それでもこの小説を読み終えた後の読後感の良さは大きな魅力だと思います。これだけゴッタ煮の物語の中で、敢えて中心に据えたのが、ほとんど牧歌的と言って良い「親子愛」であったことに、作者の良心を感じます。


チーム・バチスタの栄光(上) 「このミス」大賞シリーズ [宝島社文庫]
(和書)2009年04月05日 09:47
2007 宝島社 海堂 尊

上巻を読み終えた時点での感想としては、「ユーモアを含める度量のある、背伸びをしていないハードボイルド的一人称小説」といった感じでした。医学用語を多用していながら、衒学趣味には向かわずに文章に説得力を持たせるレベルで抑える節度もあって、読みやすい小説である反面、話題になった割には地味なお話だな、という印象もあったのですが……、まさか後半にあんなのが出てくるとわ。というわけで以降の感想は後半で。 


チーム・バチスタの栄光(下) 「このミス」大賞シリーズ [宝島社文庫] (宝島社文庫 (600))
(和書)2009年04月05日 09:46
2007 宝島社 海堂 尊

物語の印象が豹変してしまう下巻。しかし決して一貫性のないという意味でなく、より一段と面白みを増して。それだけのインパクトを与えるキャラクターです、白鳥。物語のリアリティを損ないかねない、という点で言えばかなりリスキーなキャラクターですが、綿密な資料と巧みな文章で破綻無く、見事踏みとどまった作品だと思います。推理小説としては犯人当ての魅力に欠けるとか、犯人逮捕からの文章がやや長いとか、犯人の人物像がやや弱いとかの指摘を上げることも出来ますが、それはいずれもこの作品の魅力に比しては些細な物に思います。久しぶりに「この作品ならこれだけ話題になるのも当然!」と思える作品を読みました。


我が妻との闘争 (極限亭主の末路編)
(和書)2009年03月22日 11:08
アスキー 呉 エイジ

 連載時楽しみに読んでいたのですが、単行本は値段がかなり高いので買えませんでした。最近、マンガになっているのを知り懐かしさで購入。
 改めて読んでみて衝撃だったのは、以前連載で読んでいたときは主人公の呉さんに100%感情移入していたのに、今は、奥さんの方にもかなりの部分で賛成してしまう自分を見つけてしまったこと。社会人として生活を重ねるうちに、自分が変質してしまったことを思い知らされました。ある意味、未熟な大人(こと男)の社会適応度を測るリトマス試験紙として、この本は機能するかも知れません。
 ただ確実なのは、30過ぎの独身男性の読者は絶対、この巻の最終章を読んで激怒すること(苦笑)。なんだよ結局ノロケかよ! だから星一つ減らし(笑)。


シャムスカ・マジック
(和書)2009年03月22日 10:58
ペリクレス・シャムスカ 講談社 2009年1月31日

大分の救世主、見た目「印象としてインドの皇太子」「映画トランスフォーマーの主人公に似ている」シャムスカ様の御本です。中身は予想通り、企業PRめいた「うんうんそうですとも」と納得する以外ないような内容で占められていたとしても、シャムスカ様の御本となれば買わないわけにはいきません。私としてはシャムスカ様がAIの「story」が好きと分かっただけで十分でございます、ええ。日本代表監督もやってみたいとおっしゃって下さっていることですし。もっとも大分サポにとっては千葉の二の舞になるんぢゃないかという不安を募らせる発言でしょうが。


アナザヘヴン (下)
(和書)2009年03月22日 10:46
1999 角川書店 飯田 譲治, 梓 河人

この物語、要するに「寄生獣」をもっと俗っぽく内容を薄めて、エロとスプラッターを増量した内容、というのが正直な感想です。果てはUFOまで飛び出してくるトンデモ展開なのですが、いわゆる設定とか考証とかいった「説得力を持たせる」類の文章が全くと言っていいほど欠けているので、ドタバタのストーリー展開を追っかける以外に楽しみようがなく、そのくせ現代批評めいた偉そーな文章だけはときおり挟まってくるので、読み進めていくほどムカついてきました。
 ドタバタ娯楽小説としてはそれなりに面白い話なのですが、透けて見える原作者と執筆者の姿勢がなんとも腑に落ちませんでした。


アナザヘヴン (上)
(和書)2009年03月22日 10:32
1999 角川書店 飯田 譲治, 梓 河人

文章にやる気が感じられない、というのが第一印象です。好きでもないジャンルの映画をノベライズにしたような。全体的に「ハードボイルドを狙っているんだけどユーモアも心得ているよ」、あたりを狙った文章なのですが、どっちも中途半端で、結果としてとにかく「気障ったらしいんだけど格好悪い」文章になっているように思います。テンポだけは良いので読むのにストレスはそれほど感じないのですが。そして一番の問題点は下巻にて。


サッカー誰かに話したいちょっといい話?世界中から集めた
(和書)2009年03月03日 22:41
いとうやまね 東邦出版 2008年12月5日

エルゴラッソで連載していたときから大好きなコラムで、トルコのおじさんのことを書いていた回は今でもその新聞をとってあるほど。この単行本でも掲載されていたけど、内容が新聞時より短くなっているようで、残念でした。値段もけっこう高いので、この価格なら、やたらと余裕のあるレイアウトをもう少し工夫して、未掲載の回をさらに載せるようにして欲しかったです。
しかし、泣けます。子供の頃にサッカーボールを蹴るのに夢中になった人であるなら、簡潔な文体の行間に挟まれた郷愁が涙腺を直撃すること間違いなし。


殺人ピエロの孤島同窓会
(和書)2009年03月03日 22:25
2006 宝島社 水田 美意子

巻末の解説を読んでから買うんだった。なんでも12歳の女の子が書いた小説だそうです。「出来からすれば賞をあげられるレベルに達していないが」などといけしゃあしゃあと書いています。そんなの知らないで買った人の身にもなってもらいたいものです。出来が悪いのにお情けで賞をあげて、果たして本人のためになるのでしょうか。内容も、文章の上手い下手以前に、こんな殺伐としてグロテスクな内容を12歳の女の子が書いたのかと思うと、暗澹たる気持ちになります。まあ露悪趣味を書くことが大人っぽいという勘違いこそが、まさに子供っぽさと言えばそうなんでしょうけど。


機動戦士Zガンダム外伝 ティターンズの旗のもとに 下巻 アドバンス・オブ・Z
(和書)2009年02月28日 10:53
2008 メディアワークス 今野 敏, 富野 由悠季, 矢立 肇

元々読者が、小説を読もうと思って買っているのではない模型雑誌の、しかもプラモデルのCG写真と平載されることが前提で書かれた小説ですので、それだけでも大変なハンデです。その上で登場人物のかき分けはしっかりされていますし、ガンダム世界を描写するのに欠かせない、いわゆるカギカッコ付きの「リアル」を、文章に手際よく組み入れていますし、作者の苦労は伺えます。しかし、この物語の終わらせ方はどうしたものでしょう。グリプス戦編も戦後裁判編も、カタルシスの欠けたしなびたような締めくくりで、正直、作者の思いのようなモノが感じられません。邪推になりますが、この物語の原案は作者じゃないのでしょう。「こんなしょうもない終わらせ方の物語、面白くできるはずがないだろ!」とでも言わんばかりに、途中で話を放棄したような小説です。センチネルは小説で独立させたときに大幅に書き足しをしてしまし、この作品ももう少し、単行本にする時になんとかするべきだったのでは。


機動戦士Zガンダム外伝 ティターンズの旗のもとに 上巻 アドバンス・オブ・Z
(和書)2009年02月22日 23:02
2008 メディアワークス 今野 敏, 富野 由悠季, 矢立 肇

最低限ガンダムの知識を持っていて、あまつさえ先行して発売されていたみずきたつさんのマンガ版を読んでいないと十分に楽しめない、という、まことにハードルの高い一冊です。マンガ版が登場人物の青春群像的色彩が濃かったのに対し、小説版は戦争ドラマ+法廷ドラマとしてハードな印象が増しています。どちらが好きか、という点で、読む人のガンダムへの目線が問われるかも知れません。より具体的な感想は下巻へと続く。


39 刑法第三十九条
(和書)2009年02月22日 22:51
2000 角川書店 永井 泰宇

精神鑑定とか精神障害とかの資料をきっちりそろえて、しっかり調べて書いているな、という、まんまな感想がまず残ります。一方、「39条の是非を説く問題作!」と言うアオリ文に関しては、看板に偽りなしとまでは言えないものの、ちょっと内容に即していないような気もします。話の展開としてはむしろ、そのデリケートな部分を上手くすり抜けて、日和ったような印象がありました。なんか調べ上げた資料を手際よく並べ終わったところでもう、作者が満足しちゃったんじゃないかな、という邪推すら浮かぶ内容でした。


ニュートンの密室
(和書)2009年02月13日 16:47
2000 講談社 吉村 達也

以前、この作家さんが書いた「マタンゴ」の小説を読んだことがあります。その時は、そのストーリー展開と独特の文体のトンデモなさっぷりに、終始大笑いしながら、しかし読み終えた後は妙な満足感に包まれた、という経験を味わいました。
 この作品もまた、文章にクセがあります。分かり易すぎるくらい分かり易い文章で、深みとか重みというのが全くない。ただ、推理小説を「知的パズル」と割り切って読みのであればこれ以上ありがたい文体もなく、意図的なのかなあと思う反面、この文体で「文学論」だの「推理小説」とは、みたいなことを語られるとこちらが恥ずかしくなってしまうのも正直な感想。
 ただ、全体を通して文章に一貫性は感じ取れますし、構成もちゃんとしています。実力のない作家さんとも思えません。文章にも「ヘタウマ」というのがあるのかな、というのが一番の感想です。


日本語必笑講座
(和書)2009年02月13日 16:37
2003 講談社 清水 義範

清水センセエのお家芸である、普段使われている日本語の見落としがちな矛盾点を、鋭い視点と優れたユーモアでくみ取ったエッセイ集。まさに肩の力を抜いて文章を楽しむのにうってつけという一冊で、毎回清水センセエの作品にはお世話になっております。中にはネットや「VOW!」で幾らでも取り上げていそうなネタもありますが、発表する人の視線で印象もだいぶかわりますね。
 中でやや異色に感じたのが「比喩の嘘」。おそらくいつぞやの某政治家の週刊誌内での馬鹿発言の後に書かれた作品ではないか、と思われますが、この作品だけメッセージ性が強く、印象に残りました。


十三番目の人格(ペルソナ)―Isola
(和書)2009年02月03日 22:17
1996 角川書店 貴志 祐介

「黒い家」と比べると、よりホラーに徹した印象。というか「黒い家」は、保険業者の主人公の日常性の描写とホラー描写とが文章のバランスとしてひどく不安定で、そこが一般のホラーでは感じない迫るような恐怖感を持っていたのですが、こちらはずいぶんと整然とした内容になって、一つ魅力が減ってしまったかな、という気はしました。ただし決してつまらなくなったのではなく、心理学や古語などの知識とストーリーの絡めかたなど、物語としての面白さは増していると思います。


リアル鬼ごっこ
(和書)2009年01月27日 22:31
2001 文芸社 山田 悠介

レビューを始めて以来、初めて星一つをつけました。精一杯好意的に解釈して、この作品は「本来、ショートショートで済ませるべきネタを無理矢理引き延ばした(文体も敢えて言うならSSっぽい)ような内容、とでも表現すべきかと思います。しかし、あまりに文章が耐え難い。これは好みのレベルではなく、「下手」と断言すべきレベルだと思います。リアリティも緊張感も全く伝わらず、ひたすら冗長で芸のない説明的な文章をだらだらと続け、ありきたりとしか言えない「不幸な状況」を、まるで箇条書きのような単調さで並べた展開。キワモノとしか言いようのなシチュエーションの物語だけに、ラストで読者を驚かせる仕掛けがあればまだ許せたのですが、それすら安易きわまりなし。ぶっちゃけ、ブックオフで105円で買ったのですが、それでも腹が立ってしまいます。映画化もしたそうですが、いくらなんでもこの原作より出来が下ってことはないよなあ・・・。


永遠の森 博物館惑星
(和書)2009年01月25日 22:40
2004 早川書房 菅 浩江

最近読んだ中では、衝撃度が突出して強かった一冊。人から借りた本で、自分ではまず選ばないカテゴリだったから、未知の衝撃がありました。
SFでもミステリでもファンタジーでも人情劇でもある多層構造の物語で、作品の完成度が素晴らしい。各章ごとの物語もよくできているし、後編に連れて浮かび上がっていく物語の中心への盛り上げ方も上手で、久しぶりと思えるほどの充実した読後感がありました。文章に懲りすぎる点や、やや過度と思わせる衒学趣味は自分とは趣味の合わない部分ですが、これぞプロの書いた文書と思わせる出来だと思います。


そばかすのフィギュア (ハヤカワ文庫 JA ス 1-4)
(和書)2009年01月25日 22:30
2007 早川書房 菅 浩江

表題作は星雲賞受賞作で、海外にも翻訳されて話題になったそうですが、この作品だけ突出した出来というわけでなく、どれも面白いと思います。むしろ中年ヲタクの視点からすれば、ヲタクの描写はまだまだ甘い、と(笑)。
 短編それぞれの傾向が完全にバラバラで、それだけにバラエティに富んだ内容なのですが、かえって作者の器用貧乏な面が表に出てしまった印象もあるのですがどうでしょうか。


かめくん
(和書)2009年01月25日 14:18
2001 徳間書店 北野 勇作

最近読んだ本の中では、「スカイ・クロワ」や「となり町戦争」と似た印象の物語。自分のごく身近な場所に、醜悪な世界が口を開けているのに、何もせず何も出来ずにただ自分は閉塞された日常の中で過ごしているだけ、みたいな。ノー天気な終末論を持つことに間に合わなかった21世紀以降に思春期を迎えた世代には、きっとこういう世界観に強く共感できるのでしょうね。ただ、「スカイ~」や「となり町~」が、周囲の人との関係の中で自分を少しずつでも成長させていった印象がある中で、この物語はかめくんと周囲の人との描写が少ない気がします。無いわけではないですが、あくまでかめくんにとってはそれらは副次的なモノに過ぎず、自分の螺旋的な思考のみただひたすら突き進めて、結論的な諦念感を抱えた所で物語が終わってしまっている印象です。言ってしまえばひどくヲタク的な物語で、そして僕はこれはちと違うな、と思うわけです。


容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)
(和書)2009年01月11日 23:11
東野 圭吾 文藝春秋 2008年8月5日

ほとんど「馬鹿トリック」というべき大ネタを突き通してしまった文章力にまずは拍手。ただ、この内容を持って「純愛」として持ち上げられてしまうのは、売れっ子作家の特権だと思います。あれだけのことをやってのけておきながらその動機がほとんど書かれていないけど、これで皆さん納得できるの? こんなタチの悪いストーカーもいねえなあ、というのが私の正直な感想になってしまうんですが・・・。


掌の中の小鳥
(和書)2009年01月11日 23:05
2001 東京創元社 加納 朋子

しっかりしたトリックと芯のある構成で作られた少女マンガ的世界観。真似できそうでなかなか出来ない魅力的な世界で、加納さんの作品にはいつも楽しませて貰っています。挿絵ともよく似合っています。今回は武史くんがカッコ良かったなあ。格好悪い外見のカッコ良い奴って憧れるんですが、こういう発想って古いんでしょうか?


生首に聞いてみろ (角川文庫 の 6-2)
(和書)2009年01月11日 22:56
2007 角川書店 法月 綸太郎

出だしがひどくもたついている印象がありますが、推理や構成に関しては、よく出来ています。むしろ、この文章に関しての最大のポイントは「全く何の役に立たない主人公を許容できるか」、この一点に尽きると思います。金田一耕助どころじゃない使えない主人公であります。実際に素人が事件にアタマをつっこんでも、この程度しかできない、という意味でのリアリティはありますが、そんなリアルを求めてる読者っているんですかね? しかも事件展開事態はあくまで推理小説としてのリアリティで進展しているし。読み終えて後味スッキリ、といった推理小説ではないですね。


稀覯人の不思議 (光文社文庫 に 18-6)
(和書)2009年01月11日 22:42
二階堂 黎人 光文社 2008年10月9日

手塚マンガの蘊蓄がとにかく楽しい一冊。推理小説としては、ちょっとガッカリなトリック(反則ではないですが)や、なんだかなあ、という気持ちにさせる登場人物像も見逃してあげたくなるほどみっちりとトリビアが敷き詰められています。それにしても、以前から「妖怪探偵団」は読んでみたいなあ、と思っていたんですが、やっぱり無理なんですかね。


羆嵐
(和書)2009年01月11日 22:35
1982 新潮社 吉村 昭

「庶民」とか「草民」という言葉が似合う人物描写が、まさしく昭和。もっとも内容の事件は大正ですが。登場人物一人一人の内面まで含んだ描写はしっかり書かれているんですが、人の心理はあくまで心理に過ぎず、状況を是正させる力は欠片もなく、ただ飲みこまれるだけの脆弱な存在でしかない。そうした世界観が、「願うことで世界は変わる」といった類の「どこか嘘くさい前向きな状況認識」の多い平成表現と好対照を成している気がします。そっけないほどに必要以上の表現を省いた文章がつくづくカッコいい。


神経内科―頭痛からパーキンソン病まで
(和書)2009年01月11日 22:22
1995 岩波書店 小長谷 正明

神経内科というカテゴリー自体も満足に把握してないのに中古本買いしてしまった一冊。いわゆるサイコさんとかそういった類の資料になるかなーと思って買ったのだと思う。実際は少し分野が違って、あくまで脳という気管(と、その周辺)の機能障害とでもいうべき症例を説明してくれている本。必要な人以外は読まない類の本ですが、とても関心したのは、文章全体に溢れているユーモア。篤実な著者の人柄が伺えるような文章で、見習うべきモノがありました。


理由
(和書)2009年01月04日 09:46
2004 新潮社 宮部 みゆき

文章の上手さ、展開の巧みさ、登場人物のかき分け、伝えるべきテーマ、何をとっても文句のつけるべき箇所はございません。面白い作品です。ただ・・・。これは私だけなのかなあ。宮部みゆきってキライなんですよ!大っキライ!!!多分、友人レベルていうなら、「あいつとは何かソリがあわねえ」っていうレベルなんでしょうね。とにかくこの人が物語展開や人物描写を綴るときに漏れだしている「人物評価」や「世界認識」がとにかく認められないんです、私。なんでこんな気にくわない奴に、これほどの素晴らしい文才を神は与えてしまったのか。おかげで読んでしまうじゃないか。悔しい。


幕末機関説 いろはにほへと
(和書)2009年01月04日 09:38
2007 光文社 牧 秀彦, 高橋 良輔

いわゆるアニメの小説化の、典型的な失敗例。アニメの魅力も作家の実力も台無しにして、物語のダラダラした説明書きだけが残ったという代物。少なくてもこれを読んでアニメを読もうとか、牧さんの別の小説を読もうとか思う人は皆無だと思う。それでも時代設定や剣劇考証などを丁寧に説明しようとしてる箇所が散見できたので、その誠意に免じて星2つ。この作品の出来のヒドさの原因は作者以外の部分が大きいということの証左だと思います。


どこまでもアジアパー伝
(和書)2009年01月04日 09:28
2004 講談社 鴨志田 穣, 西原 理恵子

2巻目となって、文章がいよいよこなれた印象ある一方で、サイバラさんのマンガの方では、悪化するカモちゃんのアル中を持ちうる自虐的ギャクセンスを総動員して笑いに置き換えているという、作者が故人となった今となっては凄惨ささえ感じる内容であります。前巻のマンガ内で「風に吹かれる柳のような」「パンチドランカー文体」と称された余りに飾り気のない真っ正直な文章が、まるで長い長い遺書のようにさえ読めてきます。


機動戦士ガンダムUC (7) 黒いユニコーン
(和書)2009年01月04日 09:16
福井 晴敏 角川グループパブリッシング 2008年12月24日

なんてマニアックな旧型モビルスーツの組み合わせ。よもやドワッジとトローペンが一緒に出るとは。ザク1スナイパーとザクキャノンの登場はバンダイから販促の要請でもあったのでしょうか。個人的にはガンキャノンDTの登場が嬉しいのですがキット化はないのでしょうなー。ユニコーンって色的にウルトラマンを意識したデザインではないのかというのが自説なのですが、ならばバンシィはゼットンか?でもまだクライマックスじゃないのにやられちゃったし、ラスボスは別の、やっぱり超巨大MAか何かなんだろうなあ。
 と、以上は全く文章の評価とは別次元の感想でした。アルベルトくんの純情がことさら目を引く今回ですが、こうなってくるとキャラクター設定の外見とややそぐわない気がするのは私だけでしょうか。まんまオッサン、って感じだったもんなあ。


機動戦士ガンダムUC (6) 重力の井戸の底で (角川コミックス・エース 189-7)
(和書)2009年01月04日 09:00
富野 由悠季, 矢立 肇, 福井 晴敏 角川グループパブリッシング 2008年10月25日

怪獣モノも好きなんですね(笑)。今までで一番、映像化してもらいたい場面です、シャンブロの大暴れ。しかしこの場面、現実の社会事件にかなり迫った場面だったりするので、真っ先にカットされそうで怖いです。今まで散々言ってきたことを繰り返すのもアレですが、パロディだかオマージュだか知りませんが、「トライスター」はやり過ぎ。「おれを踏み台にした」って(苦笑)。それと、デルタプラスの上にユニコーンが乗る、というのは両者の大きさを考えるとかなり無理があるんだけどなあ。だけど別作品では似た形で大気圏突入した場面もあったしなあ。しかも二回も。作品当初は科学考証をかなり意識した出だしだったのに、回を重ねるにつれどんどんその部分が後回しになるのも、トミノさんを真似ていくつもりなんですかね・・・。


機動戦士ガンダムUC (5) ラプラスの亡霊 (角川コミックス・エース (KCA189-6))
(和書)2008年09月29日 18:04
福井 晴敏 角川グループパブリッシング 2008年7月26日

話としてはいよいよ面白くなっている、というべき巻なんですが……どうしても気になるのが、フロンタルさんの言動。なにもそこまでシャアを真似なくても、とげんなりしてしまっております。ハードでスペクタクルなストーリーも、なんだかパロデイめいて見えてしまう、というか……。それと、かくもどいつもこいつもいい人だらけになってしまう展開って、今の読者的にはどうなんだろう? とかもちょっと思ったり。それにしても、アルベルトがここまでキャラクターとして表に出てくるとは思わなかった。


さとうきび畑の風に乗って
(和書)2008年08月11日 07:08
1998 草思社 BEGIN

BEGINメンバーのインタビュー式自伝という本である以上、基本的にファン以外の人に勧めるタイプの本ではないと思いますが、それにしても面白い。書かれている石垣島の学生時代の生活が、同じ国内とは思えない。小学生時代に闘鶏用にニワトリを飼っていたとか、好きな人の家に夜這いをかけたとか(苦笑)。一番好きなエピソードは、ボーカルの栄昇さんが東京での予備校時代、てんかんを起こした女の子を助けた場面の描写。間違いなく何もせずに傍観していただけの周囲の人の一人であったろう自分から見ると、こういうことができる人がとても格好良く見えます。


黒い家
(和書)2008年08月11日 06:56
1998 角川書店 貴志 祐介

怖いよーこの話。こと接客業に接していた経験を持っている人ならしょっぱなから怖いよ(苦笑)。いるよこの手のモンスターな客って。殺人鬼より理不尽な客の方がよほど怖いんだよこの世の中。小説としては全体的にバランスの悪さが目立ちます。保険会社の日常というリアリズムタッチの場面と実際のホラーな場面の落差は気になりますし、犯人に行き着くまでの推理描写や現代世界批評のテーマの書き方も拙い感じもします。ただ、それでもやっぱ怖え。
 補足。上文を書き終えた後、他の方のレビューを見たら、この作品、和歌山カレー事件の前年の作品だと知りました。モンスターなクレーマーのついての話題が、夕方ニュースの定番になった世の中、いろいろと先見性のある作品だなあと改めて関心。


姉飼
(和書)2008年07月26日 12:20
2003 角川書店 遠藤 徹

自分の倒錯した性欲をそのまま文章で書き散らしたな、というのが素直な感想。この作品世界は濃密と表現するより単純に下品、と言った方が近いと思います。ただ、読者の存在をちゃんと意識した文章ではあるので、商業的価値がないとは思いません。キューブ・ガールズが一番、個人的には好みでしたし。
下品でグロテスクな文章が読みたい! という人にはお勧めかもしれませんが、仮に僕が選考委員だとしたらこの作品は選ばないと思います。


サンカ研究
(和書)2008年07月26日 12:09
1987 新泉社 田中 勝也

三角寛の研究の大半が虚構であった、という意見が優勢となってしまった昨今のサンカ説の中では、この本の大部分が無価値になってしまった感がある。よく読むと、この作者自身、三角の論文にはかなり懐疑的であったのが伺えるが、自分の従来の説、「上記」等の偽書扱いされている古文章の正当な評価を求めるあまり、三角のサンカ論文に手を出してしまった、という感じ。なんか痴漢冤罪を訴える人に協力したら本当に犯人だったパターンの市民団体にちと似ているような。
 ただ、巻末の森田誠一氏の「サンカ考」は資料的価値があると思います。


少年時代
(和書)2008年07月26日 10:52
2006 双葉社 池永 陽

正直、この展開はどうかと思う。確かに前半の、純真純朴一辺倒の、ノスタルジックのお手本のような少年時代の物語が最期まで続いたとしたら、読み手側でさえ気恥ずかしさを覚えてしまったとは思う。しかしやっぱり、この展開はない。無いと言われてもこれは自伝的物語であり、実際にあったことなのだから、と作者は反論するかも知れないが、(絶対に創作だとは思うけど……)一部の登場人物の言動や行動があまりに逸脱していると思う。なんだか胸焼けしたような読後感がありました。


快楽殺人の心理―FBI心理分析官のノートより
(和書)2008年07月26日 10:48
1995 講談社 ロバート・K・レスラー, 狩野 秀之

 10年以上も前に発表された本ですので、書かれている内容に目新しいものはありませんし、今となっては一般常識化した内容も多いようです。もっとも、こうした本に書かれている内容が常識化しているというのは、如何に世の中が嫌な方向に進んでいた証左、という気もしますが……。
 読んでみた正直な感想は、実際の快楽殺人者、というのが(大半が不幸な環境下で育ってきたという理由があるにせよ)如何に身勝手で幼稚な連中であるか、ということ。こうした本を書いておきながら、快楽殺人者、異常犯罪者を持ち上げ、ダークヒーロー化させる作品の先駆けとなった「羊たちの沈黙」の監修をやったということに、この作者は今、どんな気持ちでいるのか? それを是非、お尋ねしたい。


テロリストのパラソル
(和書)2008年07月12日 23:48
1998 講談社 藤原 伊織

文章は上手いし人物は魅力的に書けているし構成は凝っているし、とてもよくできた内容だと思うのですが、素直に人に勧めるには抵抗を感じる作品です。読者を引きつける話の展開力は素晴らしいのですが、謎がまた謎を呼び続けるうちに、話の本題が薄れてしまい、一体この作品の中心となるべき「謎」は一体なんだったんだ? という気分に、途中で陥ったのがその理由だと思います。あまりに主人公の近辺の人間関係のみで、事件のほぼ全ての要素が集結してしまうラストも、見事な構成ではありますが、さすがに出来過ぎの感も。私はハードボイルドは滅多に読まないので、この文章のハードボイルドっぷりが「カッコ良い」のか、「なんちゃって」止まりなのかは、見分けがつきませんでした。


僕とトトの物語―映画『小さき勇者たち~ガメラ~』
(和書)2008年06月27日 22:54
2006 角川書店 竜居 由佳里

映画は未見です。夏の日の少年ものに、怪獣映画を足したお手軽ハナシかと思いきや、途中からかなりシリアスな展開になっていったので驚きました。話としてはかなりしっかりしていて、母親を亡くした主人公の心理描写や、子供向け作品の悪しき定番、「安易な自己犠牲」に対する強いアンチテーゼなどは、共感するものがありました。もう少し具体的描写を加えていれば、映画原作という枠に収まらず、一つの独立した作品として成立できたと思います。
 これを映画にするにあたっては、戦闘シーンが後半のみという点はネックでしょうし、文中に点在するあきらかに映像化できない描写を抜いた上で、この物語性をキチンと維持できているかがポイントだと思うのですが……、近々観てみます。
 それにしても、平成以降の子供向け番組に目立ち始めた「物語のクライマックスで、見知らぬ相手どうし(とくに子供)が力を合わせて主人公に力を与えて大逆転」というパターンは、なんか胡散くさくて、拒否反応を示す人もけっこういると思うんだけどどうですかね。


スカイ・クロラ
(和書)2008年06月27日 22:34
2002 中央公論新社 森 博嗣

思春期の世代に向けて書かれた小説で、そうでない世代が呼んでも価値がない、とまでは言い過ぎか。そう言いたくなるほど読み手の感受性に依存した文章で、30代半ばの生活疲労甚だしいオッサンが呼んでも、いまいちピンと来ません。もの凄く文章力と知識を持った人の書いたプログ小説、といった印象……かな。
呼んでて引っかかるセンテンスはあるし、いくらでもマニア受けする文章が書ける知識があるのに、そうすることに興味すら示さないような徹した文章力とか、流石と思うものは多いのだけど、住む世界が違いました。
これを原作とした映画か……劇場には行かないかな……。


悪魔のパス 天使のゴール
(和書)2008年06月27日 22:21
2002 幻冬舎 村上 龍

普段の村上龍作品と比べると、ずいぶんと娯楽色の強い作品、というかなんというか、いろいろと微笑ましい。途中までのストーリーは、まさに文中にもあったとおり、世界を股にかけたサスペンス映画のような展開。しかし後半、サッカーの試合が始まるとそれまでの物語の全てを放り投げて、試合展開の描写だけを徹底的に書き尽くし始める。それを無責任と思わず、「こんなストーリーよりも、サッカーの試合ってのは遙かにスペクタクルなんだ!」という村上さんの熱いメッセージと感じ取ることができる人であれば、試合内容のあちこちに、少年漫画の王道的展開が顔をのぞかせていることも、昭和時代のように「めでたし、めでたし」というフレーズがしっくりくる(納得できるか、というのは別です)エンディングも、微笑ましく読むとることができるでしょう。
読むに当たっては、サッカーに関する最低限の知識、及び外国人の名前が連続して出てもごっちゃにならずに識別できる能力が必要だと思います。


レイクサイド
(和書)2008年06月15日 19:07
2006 文藝春秋 東野 圭吾

息子のお受験の試験勉強で湖畔の別荘で過ごす複数の夫婦、そこで主人公の愛人が死体となって……、という、これだけ読むとほとんど火サスのラテ欄あらすじ。作者が東野さんでなければ絶対読まなかったでしょう。当然、興味を持つ登場人物も一人もおらず、前半はかなりの斜め読みをしていましたが、そこはさすが東野さん。終盤に浮かび上がってくる事件の真相と、そこに至るまでの伏線の張り方が上手い。すごく端正な構成で出来上がっている小説だと思います。未読の人にはアレですが、推理小説で犯人を、ロジックではなくて人物配置やセオリーで見つけてしまうタイプの方、犯人はあなたがおそらく今、想像している人で間違い有りません(笑)。でも読んで決して損のない小説ですよ。
 ところで、昔、学校で作文の際、「~だった」「~だった」と同じ文末が繰り返される文章は良くないと言われた記憶があるのですが、この小説の、とくに前半の文章って、実際どうなんだろう?


歌うクジラ
(和書)2008年06月15日 18:53
2000 東京創元社 ロバード シーゲル, Robert Siegel, 中村 融

8年前にジャケ買いしてみたはいいものの、内容がやたらつまらなく感じてほったらかしていたものをこの度、再読。意外や意外、ちゃんとおもしろかったです。童話と言っていい内容と訳文独特のくどい文章の組み合わせが最悪で、それで当時は受け付けなかったのでしょう。そこで引っ掛からなければ、良くできた動物主人公の冒険成長物語として楽しめます。御想像できるかと思いますが、こんな内容の物語を本気で書く人たちなら、そら捕鯨に反対するわなあ、と思わせること請け合いです(苦笑)。


宝島社文庫「そのケータイはXX(エクスクロス)で」
(和書)2008年06月10日 22:35
2004 宝島社 上甲 宣之

他の方のレビューを見れば分かります通り、賛否分かれる作品ではないかな、と。私は圧倒的に「賛」ですが。読むかどうか迷っている方は、この文庫本の巻末解説がかなり適切に内容を評価しているので、その部分のみ立ち読みしてから決めることをお勧めします。遊園地のアトラクションめいたハラハラドキドキは保証します。あまりにアッサリしたラストは、「呆気ない」や「説明不足」と紙一重ですが、ペタンティックで偉そうな探偵の長高説が苦手な私にはこれもまたよし、でした。ときかくこうも徹底的に、娯楽を求めて突っ走る文章的体力は見事、というしかありません。


夜市 (角川ホラー文庫 つ 1-1)
(和書)2008年06月05日 22:30
恒川 光太郎 角川グループパブリッシング 2008年5月24日

ホラー大賞をとったのはタイトルになっている「夜市」。これも良いですが、同時収録の「風の古道」の方がとても良い。かなり大胆なストーリー構成をしていて、とても端正の良い文章と合わさって、実に淡々とシンプルなのに、胸に染みる。幻想描写をかくも装飾無しの文だけで書くのは凄い腕前だと思う。一方で、事態を説明する文章になると、少し硬くなる印象がある。この文章と作品世界なら、そこまで律儀に全容を明確に一本化しなくても、と思うけど、それは好みの問題なのでしょうね。


蒲公英草紙―常野物語 (集英社文庫 お 48-5)
(和書)2008年06月05日 22:20
恩田 陸 集英社 2008年5月20日

話は面白いし、クライマックスには感動もするんですが、如何せん、文章が良くない。延々と登場人物を羅列する出だしから最期まで、やたらに説明的な台詞と一人称の地の文。ストーリー展開も明らかにオーバーペースで、民話調の世界観のはずなのに心が休まりません。この内容であったら、各登場人物の書き込みをもっと密にして、2倍の文章量にしてちょうどいいぐらいだったのではないでしょうか。残念ながら、人に勧める、というところまではいきません。


股旅フットボール―地域リーグから見たJリーグ「百年構想」の光と影
(和書)2008年06月05日 22:12
宇都宮 徹壱 東邦出版 2008年4月

連載記事を本にしたもので、前半は正直、あまり面白くなかった。「サッカー文化の根付いていない日本の地方都市で苦労しつつサッカー普及に情熱を傾けている人物」、というインタビュー相手の人物描写が強すぎて、各地方の特色の描写が弱く見えたので。ただ、連載で続けていくうちに筆が慣れたのか、後半に従ってそれぞれの地方の個性が明確になっていったように思う。最終章の地域リーグ決勝の章など、例えると、「少年ジャンプ」の名物、「これまでの人気キャラ総登場トーナメント」みたいな興奮をもって読めた。それでも、もう少し紀行文的な内容を含めると面白かったと思うんだけど……。
 それにしても、現在増加を続ける野球の地域独立リーグに対して、こういうルポを書く人が現れないのは何故?


機動戦士ガンダムUC(4) パラオ攻略戦 特装版(MGユニコーン武器セットつき)
(和書)2008年05月29日 22:54
2008 角川書店

買ったのは特装版じゃなくて通常版でしたが。特装版はやっぱりヤフオクでえらい値段がついていたりするんですか?コクピットがエヴァだったり主人公無視して大暴れするあたりレイズナーぽかったり。そもそも、ジム面から変形じゃなくて変身して白地に赤のラインのガンダムにってウルトラマンじゃないんだから、と作者のヲタ向けサービス精神みちみち。従来のシリーズのメカ・キャラが出るのもその賜物なんでしょうが、なにもそこまで、ともちょっと思う。文中の挿絵が安彦さんじゃなくなっているとは!それは仕方ないとしても、ファンサービスと狙って10台前半の女の子のヌードの場面をわざわざ選んで挿絵にするあざとさはさすがに減点対象。通勤電車内で読んでいたこっちの身にもなれ。


オシムの言葉 (集英社文庫 き 10-3)
(和書)2008年05月29日 22:42
木村 元彦 集英社 2008年5月20日

村上龍さんの言うとおりの大傑作ルポタージュだと思います。ハードカバー版で読んだ時はそこかしらの場面で号泣してました。追加章はもっと書いて欲しかった気がしますが、バランス的にも仕方ないんですかね。こないだの代表戦、マスコミの方々が言うほど悪い内容ではなかったと思うのですが、やはりオシムが示そうとしてした、「本当の日本のサッカー」に対する期待が大きすぎたせいで、ちっとも代表戦の観戦に身が入りません。つくづく残念。

更新は不定期ですので、気長に待っていただけると幸いです。Jリーグのサポーターの方はどこのチームでも大歓迎。煽り合いではなくゆるいノリで楽しめたらいいなと思っています。