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[読書感想文]『つむじ風食堂の夜』吉田篤弘著

 【あらすじ】
 月舟町の十字路の角には「名無しの食堂」がある十字路にはいつもつむじ風が吹いていることから、その店を「つむじ風食堂」と客は呼ぶ。物語は主人公の「雨降り先生」の小さな暮らしと回想を中心に進んでいく。月舟町にある数件の店主たちとつむじ風食堂に集う先生の住む月舟アパートの住人や隣町の帽子屋との交流の中で、いつかどこか遠くへ行きたいと思っている先生は亡き夫やこの世の果てに思いを馳せる。


 「月舟町」の様子やそこに住む人々は、実にリアルで想像ができるのに、物語全体としてはどことなく捉えどころがなく、まさに「しだいに頭がぼんやりとし、自分の頭ではにような気さえしてくる」小説だ。『どうして』かを考えてみると、きっと主人公自信がそうであることだけでなく、物語中に出てくる話や会話のスケールが大きく、哲学的だからだろう。その意味で、月舟町という小さな町に私たちはいるのに(読んでいると、本当にそこの住人になったような気持ちになる)、考えていることは「ここ」ではない「どこか遠く」であり、今ではない過去だったりする。主人公と果物やの青年の間で交わされる哲学的な会話の内容を、本を読むことで実体験できるところが、この小説の魅力なのではないかと思う。


 全体を通して漂うメランコリックな雰囲気は、この梅雨の季節にあっていて、すんなりと頭がトリップできた。雨のそぼ降る日に是非、おすすめしたい。

#つむじ風食堂の夜 #吉田篤弘  #読書感想文

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