見出し画像

旅する土鍋2019 「途立つ誕生日のスケルツォ」(後編)

(前編よりつづき)

4.  ドレスと口紅

時速100〜 120キロくらいで飛ばせばリグーリアからミラノまで2時間ほどで到着する。そんな道中もおかしな話は継続的にまじめに語られた。

ミラノに着いて解散した数時間後、驚くことにイゥインちゃんは大きく背中のあいたドレスを身につけ、真っ赤な口紅をつけて再登場したのだから、どこまで信じていいのか。師匠もシャワー浴びて、お気に入りのズボンに履きかえた。「アイロンがけしていないズボンで市長の家に行かないでしょ?」と再度冗談にレイヤーをかけてみると「ペッペは自然派だからこれくらいがいい」という。

一方わたしは、買い物に行くペラッペラの格好だし、海帰りのすっぴんでいた。イゥインちゃんが「この色なら似合いそうよ」と、口紅を差し出すので、滅多に塗らない紅をひいてみた。すっぴんに強いコントラストをもたらす紅は、歳を重ねた本日にふさわしかった。

頭は混乱しているが、冷静にも冷蔵庫で冷やしているリグーリアの白を持って3人でクルマに乗り込む。

5. 夢とぶどう酒

クルマに乗ったが行き先は不明。
着いた先は、ピザ屋でも、ケーキ屋でもなかった。

「あれ、ここは友人が住んでいるアパートよ!」というと、ええそうなんだ!ペッペ市長と同じアパートだなんてすごい!と言う。ええ?

困惑しながらも、またもや冷静に「友人に一言あいさつしたい」と言うと、もちろんそれがいい!と言う。友人は「どうぞ入って!」と言うので「少しだけね、実はペッペ市長がね…」と説明するやいなや、大勢が「アウグーリ!!(おめでとう)」と大合唱。

彼らの冗談からつづくすてきなワンシーン。
でもね、きっとこれは夢をみているのだろうと思ったので、あふれそうな涙は喉元でグッと止まった。

テーブルには家主お手製の料理や、友人でありプロの料理人たちの料理がどっさり並んでいる。これも夢のようで。

ようやくわかった。
人生は夢であると。

プロジェクト「旅する土鍋」は恩返しの旅でもあり。それなのに100倍の勢いで返すべく恩が増えた。一生かかっても返せるかわからないので、もう一回生まれ変わっても「わたし」であろうと決めた。ありがとうみんな。


イタリア人は日常からしょっちゅう冗談か本気がわからない会話をしている。そうか、冗談は夢をみさせてくれるもの。あなたたちは生まれながらのスケルツォ名人(冗談名人)なのね。

そして、冗談と本気が通じる日本の家族にもありがとう。


イタリア語「スケルツォ」は「冗談」という意味かつ、音楽の世界では快活で急速な三拍子の楽曲を示す。おどけた感じが「冗談」という言葉と重なる。ショパンの「スケルツォ第2番 変ロ短調」などがそのひとつ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

お礼に鳥の声を!
48

tamamiazuma

書く陶芸家。7年のイタリア修行を経て帰国後アトリエCocciorino設立。2013年ライターわらじ職ぬいで陶芸一本、土鍋を持ちあるきイタリア周遊「旅する土鍋」プロジェクト同時期よりスタート。WEB: tamamiazuma.com

2019旅する土鍋

2013年より毎年おおきな土鍋をかかえて「旅する土鍋イタリア」取材vol.7。
1つ のマガジンに含まれています
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。