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陰翳礼讃の森-1

雲は雨を連れて山を越えられなかった。雨の東京からトンネルぬけたら晴天。週末なのに、狐につままれたように静かな初秋が広がっていた。

15キロはあるだろう道祖神のような土の塊である作品をつんで、目的のギャラリー敷地内の森に公募展の作品を設置しにきた。

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地元の野菜直販店で買ったおむすびとおはぎを、なんともない水で胃に流す。日が暮れる前に設置を終わらせなければならない。

朝の露を吸った森は、日中は木々のこもれびに乾かされ、山から吹く冷たい風で仕上がってゆく。ふと足元をみると、苔のじゅうたんに枝影が重なって、作品の一部である言葉を照らしていた。

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ネットワーク社会にて、一方的な声を聴いていないか。絶賛されている世界の美しさにばかり目を取られていないか。

日本の足元にはこんなに誇らしき「陰翳礼讃」があった。

※写真は公募展作品の一部。言の葉の結界。

陰翳礼讃(いんえいらいさん):谷崎潤一郎の随筆。電灯がなかった時代の今日と違った日本の美の感覚。陰翳の中でこそ映える芸術を作り上げ、それこそが日本古来の美意識・美学の特徴だと主張。建築、照明、紙、食器、食べ物、化粧、能や歌舞伎の衣装の色彩など、多岐にわたって陰翳の考察がなされている。
Wikipedia より一部抜粋


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