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「旅する土鍋 リトアニア⑤」ライ麦パンのスープに想う

静かな誇り

彼らの顔はもはや満足気であり、静かな誇りに満ちている。

陶、籐、鉄、木、麻、綿、毛など、素朴な素材をつかった工芸品・民芸品が数えられないほどのテント下にならぶ3日間。リトアニアの守護人カジミエラスの命日を祝うためのカジューカス祭り。

厳冬のあいだに職人やアーティストがつくり溜めた工芸品や伝統食材のお披露目の3日間でもあり、近づく復活祭の飾りを入手する機会でもあるようだ。


静かな美

「写真撮ってもいいですか?」と聞くと照れながらこちらをむいてくれる。胸の雪がとけるような感情があふれる。

「DUONA(パン)」と書いてあるエプロンと地味なダウンジャケット姿なのに、瞳に吸い込まれてしまう。動揺してピントがぶれているのは、極寒のせいにしておこう。ぶれていても載せたかった一枚。

そして二枚目は父さんと。


静かな稼業

父や母、またはオバだかオジだか、近所の年配者なのかわからないが、20~30代の息子や娘のような若者が健気に商売を手伝っている姿にも感動した。決して親の前に出て弾けたりしない。職人をリスペクトしているような、一歩ひいた健気さに、ふるふるしてしまうのだ。

下の写真は、陶芸家である母と、販売を手伝っている娘。混雑に舞い上がってしまい訳わからぬ勘定をする母に、娘は気が気でない様子。あなたも陶芸家ですか?とたずねると、娘は「いえ今日は母の手伝いよ」(母はこれですもの、どうしましょ!)みたいなジェスチャーを添えて。

英語で話しかけると、多くのブースで「待ってて!お隣さんから英語しゃべれる人つれてくるから!」と店をぬけて、おじさん、おばさんが走る姿がとても愛らしかった。「きょうは休みだから母の様子をボクの彼女と見にきたら通訳たのまれちゃった」「でも母のつくったものおいしいよ」なんて言っている気のいいおにいさんもいた。

英語を話さない(聞かない)世代を助ける若者が、手段を差し出し、静かに支える姿がほほえましかった。日本も、伝統や文化の継承には、本来は当たり前であった美しい姿である。

静かな街

夜は、地元の料理を食べるべく旧ユダヤ人居住地区にあるビアレストランへ極寒な街を歩く。ガラス通りという名から、かつてガラス工房があったのだろうかと想像を膨らませる静かな職人街。

「冷たいビールと温かいスープを飲もう!」街の人がみんな矛盾にあふれた想いをつぶやいているように見える。伝統的な酒やビールが豊富で、早くからクラフトビールにも注目している飲酒大国であるが、早い段階から、屋外でアルコールを飲んではいけない条約(祭りでは指定ブースでの着席)、アルコール広告の全面禁止法までもが施行された国でもある。(⇒2018年1月施行 参照記事


極寒なのだけれどノドが乾く。

地元のホワイトビールをグビグビ飲んだ後、冷えた食道を通って胃に流れる温かい Duonas sriuba (Black Rye Bread/ライ麦パンのスープ)*1 は余計に沁みる。

あふれんばかりのスープに浸かっている真っ黒で酸味あるJuoda Ruginė Duona(ライ麦パン) *2 を口に運び目をとじると、あの美しき娘さんの小さな声「Viso! (バイバイ!)」が聴こえたような気がした。

この街は、まったくをもって静かなる美で感動させてくれる。

Duonas sriuba
伝統レシピによってつくられた燻製した熟成ハムのスープ。香草やサワークリームと。
Juoda Ruginė Duona
リトアニア料理(および昔の東欧ユダヤ教)料理では黒いライ麦パンが主流。小麦よりライ麦が育ちやすいとのことで、バルト三国、ポーランドにも類似のパンがある。

#旅する土鍋 #旅する土鍋リトアニア編

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