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硝子の欠片の記憶たち(4)

◇平成26年8月24日(日) 

 昨日はじめて足を踏み入れた横浜は、雨だった。サンダルを履いてきたためにつま先が濡れてしまって困った。今日は降らない。シウマイを食べに来た、ではなくて、未来の横浜大会。大島さんと堂園さんの対談も、大辻さんと斉藤さんの時制の話も面白かった。インターネットという場における短歌の話もわたしは興味深く聞いていたけれど、あとから、普段ネットを使わないひとの「ネットの世界がどれほどの世界を占めているのかな。なんだか虚しい」という感想も聞いて、世界の重ならない具合も面白いと思った。懇親会では、金尾釘男さんと一緒に司会をさせてもらえて楽しかった。金尾さんの面白さはじわじわと滲み出る。治郎さんは大会前の宣言通り、未来シウマイ大会のテーマ(作詞作曲;加藤治郎)を朗々と歌い上げた。「前で喋ってると全然食べられないよ」って金尾さんに愚痴を言ったけど、実際は金尾さんの三倍くらい食べていた。それから、全力の怒りに燃やされそうになって、でもいっそ本当に燃やされてしまいたいし、燃やしたいし、愚かさに喘いだ。帰りは空港に早く着いて、新しくできたお店を見て回った。待合から見える夜の飛行機を撮影しようと思ったけど、光が強すぎて、うまく撮れなかった。

朝焼けの水を分け合う この水で死ねたらいいのにって言いそうになる
                             田丸まひる


○平成26年8月31日(日)

 わたしは軽井沢に来たんだ、と、改札を出た瞬間に思った。くっきりと冷気が来た。持っていたジャケットをはおった。式までぎりぎりだったので、どんどんゆく。今日は大切な二人の結婚式。結婚式はいい。特に披露宴がいい。わたしは結婚式は盛大にやった方がいいと思っている。ちゃんとしたところでそれなりの式と披露宴をするのは、かなりの資金が必要だけど、しないよりはした方がいい。その分のお金で海外旅行したり二人の欲しいものを買ったり(もしくは貯金)した方が合理的なのかもしれないが、そうじゃない。そういうことじゃないんだ。人と人の出会い、そこから生まれる関係のことを思う。わたしたちはほんの些細なできごとも運命にできるし、まったく見逃すこともできる。何を受けて、何を逃すか。
 式では、牧師さんが実行するにはけっこう難しいことを言っていた。「ゆるしなさい」とか「そのままうけいれなさい」とか。あと、人間は一人でいるのは良くない、と。その通りだと思った。
 うつくしいフレンチのフルコース、信州産にこだわったワインやジュース、気心のしれた友人のテーブル、涙もろい新郎と愛くるしい花嫁。今日一日のことをきっと何度も反芻する。ありがとう、呼んでくれて。心からの祝福を。
 薄暗くなって、二人に見送られながら軽井沢を出た。おみやげには野沢菜を買った。帰ったら二人に手紙を書こう。でもたぶん書きたいことが多すぎて、完成しないうちにまたどこかで会えたりするんだろう。

夕星のあかるくあれば銀色のポストに投函されない手紙  嶋田さくらこ


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