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硝子の欠片の記憶たち(3)

◇平成26年8月17日(日)

 会いたいひとには会いに行く。さくらこさんに会いに京都へ。さくらこさんに選んでもらったランチをいただきながら、短歌のこと、愛するひとたちのことを話す。(一度好きになってしまったひとから飛び立つのは難しい。先に飛び立っていかれたとしても、そこから動くときの足の痛みを思うと怖い。)ふわふわに泡立てた人参のムースをすする。(素直でいよう、と思う。)夕方からは、大森靖子ちゃんのライブのために大阪へ。ライブ行ったことないので緊張していたら、たまたま昔の友達から電話がかかってきて、ライブの作法を教えてもらえた。音楽を捨てよ、そして音楽へ。ライブハウスでは開演一時間前から靖子ちゃんが歌ったりしゃべったりしていて、目も耳もちかちかする。ちかちかにやられてしまって、ほとんど言葉を発することなんかできなくて、わたしが喋れたのは、物販のときとアセロラジュースを買ったときと、靖子ちゃんに向かってと、隣の女の子と一言、足のしびれ具合についてだけだった。歌いたい。音楽はできないけど、言葉を。それから、どうせ消費されるんなら思い切り消費する価値のあるものになりたいって、強く願った。

目をつむる前髪を切る(息を吸う、吐く)こころからあなたをはずす
                                                             田丸まひる


○平成26年8月17日(日)

 白いガーゼコットンのワンピースはたしか4年ほど前にZARAのバーゲンで買ったやつで、たぶん数えれば10回くらいしか着ていない。おそらく今日で11回目。この夏はじめてで、さいご。午前11時半にまひるさんと待ち合わせ。予約したフレンチは、京野菜をふんだんに使いつつ、毎回斬新でうつくしいお料理を出してくれる、わたしのお気に入りのお店。真横に京都タワーが見える。すこし雨模様で空は暗かったけれど、その分タワーの赤がきわだっていた。京都タワーのことは、わりと好きだ。まひるさんの声は心地よいアルト。もうすぐ出る田丸まひる第二歌集に、シェフのオリジナルカクテルで乾杯した。こんな雨の日のじんわりした逢瀬もいい。
 ランチのあとはまだ別れがたくて、まひるさんのライブの予定ぎりぎりまで中村藤吉でテイクアウトのアイスクリームをほおばりながらおしゃべり。もちろんさっきデザートも食べたんだけど。改札を通り、お互いに別々のホームに下りる階段に向かいながら手を振る。まひるさんは大阪へ、わたしは滋賀へ。
 愛は愛のままそっとしておく。何も生み出さなくてもいい。みんなが手を取り合って生産性を目指すべきじゃない。大切なことは残るものばかりじゃないし、二人でしたどんな話も何も解決しないままでよかった。わたしたちはそういうところでとても気が合う。そんなことを車窓から雨の琵琶湖を眺めながら思った。

眠るためだけのぬくもり欲しがれば月が出てるのに雨が降っている
                                                        嶋田さくらこ

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