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硝子の欠片の記憶たち(1)

田丸まひる第二歌集『硝子のボレット』(書肆侃侃房、新鋭短歌シリーズ)上梓に合わせて、嶋田さくらこさんと短歌日記を書き合いました。

◇平成26年7月28日(月) 

 通勤時間は車でだいたい40分で、たいていは同じ道を同じくらいの時間帯に通る。ので、たぶん毎日同じルートで犬(大きい。毛が多い)の散歩をしている男のひとの服装が変わっていくのに季節の移ろいを感じたりしている。夏場は腕が露出していて、運動が好きなひとの腕だ、と思う。真冬には襟のたった服を着ていて、外は寒かろう、わたしは車のヒーターに無理をさせる。そういえば犬の散歩のひとは5年くらい前から同じ道を同じ時間に通っている。犬も同じ犬なのかどうかは、わたしには判別できない。通学バスを待っている子どもは五年前にはいなかった子で、ランドセルが似合っていないのだけど、今日はいないなと思ったら、世間は夏休み。世間は夏休み。いいな。わたしは昨日、話をしたかったひとと電話で話をすることができたので、ちゃんと幸せなので、まあいい。あなたと穏やかに話をするために生きていたい。真夜中に届いたメールは、しんくわからで、象印の魔法瓶のことが書いてあるなって薄目を開けて見て、それから返事をするのは忘れていた。まあいい。

次に目が覚めたら言うよそれまでは一葉の舟に満たすあかるさ  田丸まひる


○平成26年7月28日(月)

 今日は誰かの誕生日だったはずだ。たぶん仲良しさんの。思い出せないのはもう遠くにいってしまった人だからなのか。
 涼しく過ごしやすい一日だった。日曜日のたのしさをうっかりひきずってしまい、仕事でたくさんぽかをやり、何回も怒られてどよんとした。夕方集金人さんから電話があり、7月分をもらいにいく。畑から野菜をもいでこい、と言うので、遠慮なくもぐ。なずび、とまと、ごーや、まんがんじ。今年はカメムシが多くて、野菜の先っぽをちゅーちゅー吸うのでたくさんだめになるとか。びっくりしたんだけど、トマトの花(小さくて黄色い)はすごくいい匂いがする。まるでフランジパニの香水をうすめたように、すがすがしく甘い。こういうことを教えてあげたい人がいて、だけどいつも会うときには忘れてしまっていてかなしい。
 今日の晩ごはんは、アジの開き、かぼちゃとハムのグラタン、イカとゴーヤのチャンプルー。ネットプリントを出しにセブンイレブンに行って、ちゃっかりプリンを買ってしまった。しあわせ。

触れたくてだめになりそう夏畑のトマトの花の匂いもあまい  嶋田さくらこ

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