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第三走目:走るための説明書を読む

2023/08/19
7.0km 20分

なんだか膝が痛い。

昔、キッチンラックが思った形に組めなくて、「なんか変だ」と言ったら男にこう言われたことがある。
「説明書を読みなさい。」
私の前には不安定なモニュメントがある。まず吸盤の位置がおかしい。芸術とともに安定力が爆発してしまっている。作者は新進気鋭のアーティストたる私だ。
「日本人は器用だから説明書は読まなくていいんだよ。」
男はあんぐりした顔で私に尋ねる。
「でもできてないよね?じゃあ読むでしょ。」
私はオーバーリアクションでこう返した。
「キミは一通りの学校教育を受けているね?なんならお利口さんの大学ご出身だったはずだ。その中で、【説明書は読みなさい】というのを見たことがあるかね?」
「あのね。アナタ、大学で情報系を専攻していたね?」
「いかにも。もっとも1番勉強したのはスペイン語だが。」
幼稚園児に話しかけるような口調の男とは対照的に私は伊佐坂先生のように答えた。
「【プログラムを書く時は設計書を読みましょう】って講義はあった?」
「ない。」
「教育機関で習う以前の常識なんよ。トイレでの紙の使い方を習わないのと同じ。」
伊佐坂破れたり。ぐうの音も出ない。だが食い下がる。
「でも会社では設計書読んでるよ。」
「説明書は読まないのに?説得力あるなぁ。」

話をランニングに戻そう。
膝が痛いということは、走り方に問題があるということだ。もしくは何らかの治療が必要ということかも知れない。これを改善しなければランニングハイは訪れようはずはない。そういや先輩も動画研究を行なっている。とりあえず、先人たちの正しい走りを学ぼう。新進気鋭の作家の作った膝で生きていく自信がない。「ランニングマシン フォーム」で検索をかけ、幾つかのサイトとyoutubeからメモをした。

1.歩幅は小さく。大抵のマシンの横に緊急に降りるラインがあるので最大でもその幅で。
2. 足の裏全体を使って押す感じに。跳んだり蹴るのはNG。腰骨の真下で着地。
3.初心者の域では最大でも速さは8kmに留める。回転を繰り返す感じに。速さを変えてもリズムは変えない。
4.腕は肘は90度を保ったまま肩甲骨を振るイメージで。
5. 腰の位置と目線の位置を高く保つ。

ハッ。意識することが多すぎる。
鏡でフォーム確認しようとすると目線が下がるじゃないか。しかし、これらを意識しているフォームは横から見て美しい。どうせなら、美しくランニングハイのゴールテープを切りたい。

ランニングフォーム五ヶ条を覚えようとするとただの意識の暗記になってしまい面白くない。「そういうダンスを今からする」と念じながら読むとするっと腑に落ちた。
私はapple musicでサーフロックベストをかけた。サーフ音楽のリズムがフォームをしっかり確認しながら走るのに丁度いいと感じたからである。

1曲目、surfin bird。腕の動き。今まで肘が鋭角になっていたのに気づく。肘を90度にしたモンキーダンスと思い込む。

2曲目、surf city。歩幅とリズムが合う。真下に落とす時に膝の痛みから、時々左によろけることに気付いた。

3曲目、surfin’ safari。足の裏で押す感じにすれば自然と腰の位置が高くなる。サーフィンで立った時もこういう気分なんだろうかと考える。

4曲目、miserlou。テンポを上げたい。だが我慢。煩悩と戦う。去れ、マーラよ!と念じる。ターンターンターンと口にする。

5曲目。wipe out。ドラム音にいよいよマーラが来やがったと思った。ギリギリと歯軋りをする。テンポを上げたい。先ほどより大きくターンターンターンと声に出すが、途中で「日野の2トン」と頭に浮かぶ。妄想で遊んでる余裕はないはずなのにどうして私はこうなのか。

6曲目。calfolnia sun。ここまでくるとあとはいかに膝の痛みを感じないように走るかだけだ。鏡を見ると、やはり左に時々よろけている。あと、右足裏の右側が痛い気がするが、熱を帯びているからなのか、左膝のせいなのかわからない。

7曲目、peter gunn。8曲目、apache。意外にもこの二曲が走りやすかった。いつもと違い、急な雨に降られたのではないかというくらい汗が噴き出る。フォームが違うと汗も変わるのか?

9曲目、mr.moto。ここまで来るとホッとする。音楽的にも好き系だ。鏡の中の私にも余裕が見える。フォームも前に鏡があるので全ては見えないがちょっと違う気がする。あとは秒数を読む。

完走。やはり先人たちの教えを先に知るのはトイレの紙の使い方くらい大事かもしれない。
足の痛みが気になる。熱っぽさや腫れはないように見えるが、左膝と右足にテーピングをしたほうがいいかもしれない。ロキソニンテープを貼って様子を見よう。

と、自分で案外真面目なことを書いていて驚いている。良いことだが、思っているランニングハイは「面白い!」ということではないのかもしれない。

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