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2019年の読書記録 April - June

うっかり上げ忘れ。
今季もたくさん読む!

1. 人類と建築の歴史(藤森 照信)

建築、もといその原形としての「住まい」を、原始時代から近現代までの流れを追って見ていく。
マズローの5段階欲求説じゃないけど、人間のいろいろな欲求の中で「安全な空間にいたい欲求」ってすごく大きいと思う。野山に暮らしていた祖先の時代では、家はまず安全であることが第一で、人類の本当にプリミティブな欲求がはっきり現れるよね、っていうことが確認できた気がする。
寺社建築にかぎらず、どこの国の文化にも同じ建築というものはないから、その成り立ちはすごく興味深い。とても全部は見きれないけど、どこかの旅先で、数千年、数万年前にそこにいた人たちの暮らしに思いを馳せてみたいなと思う。

2. 悲しき熱帯Ⅱ(レヴィ=ストロース)

森と人と。偉大の文化人類学者の、未知の文明への眼差し。
空気というより水に浸されたかのような熱帯の森の中では、人の思考、行動、しきたりは、自分たちの馴染みのある形からは遊離している。行動と未来を変えるのは自らの原理原則、論理ではなく、光と空気と音とを感知するプリミティブな感覚だけである。

3. 数学する人生(岡 潔、森田 真生)

数学者・岡潔が紡いだ、日常や心、人生についての言葉たち。
特に印象的だったのは宗教について綴っている部分。同じ数学者である森田が結びの章で解説しているが、数学なり俳句なり座禅なり、何かを自らの意志でやり続ける人はやがて「宗教的な」境地に達する。それを、神を必要とするいわゆる「宗教」とみなすかどうかは個人に任せるとして、社会をとりまく自然界、さらには自然界を包み込む法界という存在観がなんだかしっくりきた。私の眼と頭に、宗教にまつわる文章がとりわけ多く飛び込んでくるのも、そういうことなんだろうなと思う。
最所あさみさんのnoteで知った一冊。読み始めは(在仏中の回想など)正直なところ、思いがよく伝わらなかった。が、読み進めて終盤に向かっては、その回想部分も含めて伝えたかったことに色がついてきた、ような気がする(輪郭はまだないけれど。)この本は、何度も何度も読み直さないといけないなあと思う。

4. 習得への情熱 −チェスから武術へ−(ジョッシュ・ウェイツキン)

チェス、太極拳(そしてブラジル柔術)とまったく異なる領域で世界を制するほどの実績を上げてきた著者が、物事を習得する過程を事細かに文章化した一冊。
活躍する多くのスポーツ選手が「ゾーンに入る」ことについて言及するけど、得てして感覚的な話をここまで具体化しているのはすごい。私はスポーツもゲームも得意でなく、本気の競争に挑む機会はほぼないのだけれど、好きなことを続けるために必要なテクニックとマインドが明確に示されており、参考になった。

5. さよなら未来 エディターズ・クロニクル2010-2017(若林 恵)

『WIRED』日本版の(元)編集長による、エッセイや取材記録などの総集編。
最初にいうと、私はこの人の文章が好きだ。シンプルでストレートに強い。新たなコンテンツに入るたびに、目の前にあたらしい窓が現れたような気になった。記憶力が弱いので個々のお話をすべて覚えているわけではないが、この500ページを超える一冊に通底するある種のトーンはこれから先、自分の中にも細く長く流れていくような気がする。テクノロジー、日本社会、また編集者といったひとつひとつの仕事に対して、大いなる希望と絶望をもって対峙し発信する。そういう姿勢を見習いたいと思う。

6. 人間の建設(小林秀雄、岡潔)

数学者の考え方は勉強になる。「博士の愛した数学」のような小説も然り。
ものすごく簡潔な日本語で、比喩でも暗喩はあまり使わなくて、言いたいことはとてもストレートにわかりやすく話していることが多い。なのに、逆にもっと深い意味があるんじゃないかと変な方向から勘ぐってしまうのは、言葉の正しい意味に則って発言を理解できていないからだろうか。
またこの本は批評家・小林秀雄と数学者・岡潔との対談形式となっている。私は対談とか鼎談を「読む」のがなんとなく苦手で、いつも途中で疲れてしまうのだけど、この二人の対談は相当にストレスフリーだった。お互い譲れない一線、みたいなところでの話もしているが、TVの党首討論的な「相手をやりこめるための議論」という意思はみじんも見られず、お互いの思うところを理解しようという姿勢につらぬかれている気がする。
人との話し方、というテーマでも参考になることが多い本。

7. デッドエンドの思い出(よしもとばなな)

カレーを作っていて、たまたま残ったヨーグルトやスパイスやりんごなんかを入れているうちに、そして玉ねぎの量なんかをちょっと多くしたりしたら、本当に百万分の一の確率で、ものすごくおいしいものができてしまったような、でも、二度とは再現できない、そういう感じの幸せだった。

よしもとばななの小説は昔から好きだったけれど、上のこの文章に私の好きなよしもとばなな的エッセンスが凝縮されている気がする。小説がこの世にあることの幸せをかみしめられる一冊。

8. 地球生態系の危機−アフリカ奥地からのリポ−(石 弘之)

「かわいそうなアフリカ」、1980年代のリアル。
アフリカと聞いて連想するのが貧困、飢餓、干ばつという、良くも悪くも違和感のなくなってしまった言葉たちなのだが、この本ではそういった事態がどういう経緯で引き起こされたのか、非常にわかりやすく説明されている。ユニセフの広告やたまに入ってくるニュースなどで、「今アフリカで何が起こっているか」という即時的な状況は把握できるが、それを地理的・歴史的・政治的に時系列を追ってきちんと理解することはできていなかったと痛感した。
ちなみにこの本が出版されたのは1987年、まだ自分が生まれてもいない時代のことであり、現代は事態も多少は好転しているかと思ったのだが、調べてみると、異常気象は止まるところを知らず、世界の飢餓人口は増える一方だそうだ。SDGsなどのキーワード自体は共有され始めていると感じるが、実際に問題の解決にはさほど寄与できていないという負い目はある。
貧困の主体は小規模な農家が最も多い。彼らは天候不順の影響をダイレクトに受けるだけでなく、社会的にも不利(先進国からの援助も届かないことが多く、結果農村の働き手の多くが都市のスラム街に流入する)。彼らは自分たちの食べる主要穀物の代わりに、コーヒー豆や綿花、カカオなど輸出用の作物をケースも多いという。私が今日飲んだコロンビアのコーヒーも、どこかの農家と土地を疲弊させているのかもしれないと考えると、何気ない生活でも責任は重い。
この手の本は久しぶりに読んだけど、世界が自分のものからはあまりにかけ離れていて、読むのに非常に労力がかかる。でもそれは世界のどこかで他の人間が生きる現実なのだ。私は毎日を、彼らと同じ重みをもって生きられているだろうか?

9. 読みたいことを、書けばいい。(田中泰延)

読みました。反省しきり。
ヒロノブ先生が言いたいことはタイトルに集約されていると思う。そうわかってても読みたい気持ちが優って一気読み。一番の反省点として、好き勝手書くばかりで、いろいろなものへの愛と敬意は足りていなかったなと。同じくらい印象に残ったのは、編集者って素敵な仕事だなということ。呼び寄せの法則とかうさんくさいなーと思うけど、自分の一部だけでも信頼できれば、気づけば面白い人たちの輪に勝手に入っていってるということがわかった。


【番外編】ビジネス書など
①ファンベース(佐藤 尚之)

◆1月~3月の記録
四半期に1記事で更新予定。あくまで備忘録。


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