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夜の帳

小さい頃、といっても小学校には上がっていたと思うが、休みの日は家族で車に乗って買い物に出かけたものだった。

当時の家の近くに成城石井があり、そこで毎週のように両親が買うものがあった。
それはクリーム色の袋に入っていて、窓からこげ茶色の粉が見えていた。いつも少しだけ、あったかかった。
そして中からは香ばしい、芳しい香りがふんわりと漂っていた。
それがコーヒーだった。

私はコーヒー豆の香りが異常に好きで、車で帰りながらずーっと匂いを嗅いでいた。
それは今も、自分で豆を買って帰るときも変わらない癖だ。

どんなに仕事で疲れていても、帰り道に歩きながら一杯のコーヒーを思い浮かべるだけで笑みがこぼれる。
毎日、多い日は2杯も3杯も飲むのに、思うたびに幸せになるって…恋かな…

朝、気をひきしめたいとき。
一日を終えてほっと一息つきたいとき。
夜の帳をおろすように。

漆黒の液体と無の時間。
それは、扉を開けて階段をのぼり、踊り場でひと息ついて、またのぼる、そういうことににている。

最後まで読んでいただき、うれしいです。 サポートをいただいたら、本か、ちょっといい飲みもの代に充てたいとおもいます。