催眠って本当にあるの?
こんにちは、石井多聞(@tamonhypno)と申します。
催眠術師とマジシャンをしております。
催眠術師をしていると、よく聞かれる質問があります。
「催眠って本当にあるの?」
そこで僕はいつもこう答えています、
「催眠はないかもしれないです、けど催眠の現象はあります」
こう答えると、みなさん結構驚かれます。
催眠術師なのに「催眠はないかもしれない」とは、どういう事なのでしょうか?
このような質問に対して、よく見かける回答例が、
「日常生活でも催眠状態は頻繁に起きています、
だから催眠はあるんです」
というものなんですが、僕はそれを聞くといつもこう思います。
それって催眠がある根拠になってなくない?
だって催眠状態なんて主観的な感覚の話であって、客観的に観測できる証拠ではないじゃないですか。
いったい、何を根拠として催眠状態であるとしているのでしょうか?
催眠の仕組み
実を言いますと、催眠の仕組みというものは完全に解明されていません。
こちらの話は「多聞式 催眠導入ルーティン」の「催眠の理論」に書かれています、無料部分で全く構いませんので、是非ご一読ください。
催眠の大きな枠組みとして「非状態論」があるのですが、「非状態論」を突き詰めていけば、
催眠は心理状態によって生じる通常行動と考える
となります。
催眠とは特別なものはなく、催眠の現象は僕たちがいつも行っている社会行動の範囲内だということですね。
言葉遊びの範疇なのかもしれませんが「催眠はないかもしれない」というのも間違いではないですよね。
とはいえ、催眠の仕組みは解らなくとも催眠の現象というものは古くから確認されています。
仕組みはわからないけど、現象が確認されているものって結構あります、医療の現場で不可欠である「麻酔」だって仕組みは解明されていないんですよ。
ストループ効果の抑制
催眠の現象は学者たちのあいだで広く認知されていましたが、その仕組みまでは解りませんでした。
しかし、fMRI (functional magnetic resonance imaging)の登場によって、脳のどこが活発に活動しているかを見れるようになります。
2006年にAmir Razらが「催眠によってストループ効果を抑制する」という研究結果を発表しました。
Raz, A., Kirsch, I., Pollard, J., & Nitkin-Kaner, Y. (2006). Suggestion reduces
the stroop effect. Psychological science, 17(2)
■ストループ効果とは?
ストループ効果(stroop effect)とは、文字の意味と文字色のように同時にふたつの情報が干渉しあう現象です。
以下の文字を見て、素早く文字色を答えてみてください。
普通に色を答えるよりも、時間がかかったと思います。
これは「文字の意味」と「文字の色」という異なる刺激が同時に提示されて、脳内で矛盾を解決する葛藤を起こしていることが原因です。
なお、矛盾の解決は無意識的に行われており、意識的に葛藤を避けることは不可能であるとされていました。
そこで「文字が意味のない記号に見える」という暗示を与える事によって、文字の意味を認識しなくなりストループ干渉が起きなくなること(ストループ効果の抑制)を確認しました。
催眠中の脳の状態
催眠によって「ストループ効果の抑制」が起きている被験者の脳はどうなっているのでしょうか?
大脳の前部帯常回皮質(the anterior cingulate correx: ACC)の活動が活発になります。
ACCは「注意力の促進」や「矛盾の監視」を行うことがわかっています。
ACCが活性化したら余計にストループ干渉が起きると思うでしょう?
しかしACCと繋がる前頭前野との情報伝達が機能していない状態になっていたのです。
無意識的な矛盾の監視(ACC)と意識的なな分析(前頭前野)が切り離されたことにより、矛盾を起こすことなく問題を解決できたと推測されています。
この研究の画期的なところは、催眠中の脳の処理状態に変容が起きていることの、客観的に観察できる生理学的な証拠を示したことです。
まとめ
これを見て「催眠はあったんや!」と学者たちのあいだで思われましたが、このように脳の処理が変わる人は20%程度といわれています。
つまり、催眠現象が起きるすべての人に、脳の変容が起きるわけではなかったのです。
たとえ脳の生理学的変化が起きたとして、それを引き起こすのは相手自身の心理です。
心理はコミュニケーションによって操作できます。
コミュニケーションを使って脳の変容を引き起こすことが、まさに催眠ではないでしょうか?
参考資料
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