催眠はダブルバインドか?

こんにちは、石井多聞(@tamonhypno)です。

突然ですが、催眠についての思いつきがありましたので、ここに書いてみたいと思います。

「催眠とは、人工的に作り出した矛盾した”課題”に対して、矛盾した解決を行うための”手段”である」

いきなりこんな事を言われても、何が何だかわかりませんよね。

これは僕が勝手に思っている仮説であり、根拠も何もありません。
こんな考えもあるかな~程度に読み流してもらえると幸いです。

「怒り」とは相手をコントロールするための手段

アドラー心理学では「怒り」とは「相手をコントロールするための手段」とされています。

例えば「怒りで我を忘れて、大声で怒鳴った」とかいう人がいたとしましょう、本当にそうでしょうか?
本当は「大声で怒鳴るために、”怒り”という感情を作った」のです。
なぜなら大声で怒鳴れば、相手を屈服させることができるため、自分にとって都合がいいからです。

「怒り」を含む「感情」というものは、他者をコントロールするための手っ取り早い手段でしかないのです。
つまり、人間は動機さえあれば「感情を手品のように作り出す」ことは日常的に行っている、だから催眠も「動機づけ」によって「感情」を引き起こすことができるのではないかと思ったわけです。

あれ?催眠すらも手段なのでは?

そこで僕は気づきます。

感情を作り出せるなら、催眠現象も作り出せるんじゃないかと。

後半で「予期」とか「自己効力感」とか小難しいことを言ってますが、知らなくてもこの話は理解できると思いますので無視してください

催眠とは「動機を満たすために、脳が作り出した手段」だと思いついたわけです。
人々は催眠にかかることに対して、さまざまな動機があります。
「催眠にかかったら楽しそう」、「術者の期待に応えたい」、「催眠で問題を解決したい」などなど…
それらの動機を満たすために、脳が催眠という現象を作り出しているのではないかと思いました。

ほとんどの人間が「感情が湧き上がって行動が起こる」と、脳に騙されているわけですよ、本当は「行動を起こすために感情が湧き上がっている」にも関わらず。
脳というのは本当に見事に意識を欺くことができるんです。
だったら、催眠現象くらい簡単に作り出ると思いませんか?

しかし…動機が足りない!

脳が催眠現象を作り出すことは納得できたのですが、僕の頭の中に引っかかりがありました。

「催眠にかかりたい」という動機だけで、大多数の人間が劇的な催眠現象を作り上げることができるのか?

という疑問です。

全体の1~2割程度の割り合いで、願望だけで催眠現象を起こせる人間(催眠エリート)は存在します。

しかし、それでは大多数の人間が催眠にかかるという事実を説明できないのではないか?
催眠現象を脳が作り出すには、それなりの「強い動機」が必要ではないかと思うのです。

ダブルバインド

ダブルバインド(Double bind)は、「知の巨人」と呼ばれたグレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)が作りだした概念です。

ダブルバインドは、分裂症患者と母親の例が非常にわかりやすいです。

ダブルバインド状況を浮彫りにする出来事が、分裂症患者とその母親との間で観察されている。分裂症の強度の発作からかなり回復した若者のところへ、母親が見舞いに来た。
喜んだ若者が衝動的に母の肩を抱くと、母親は身体をこわばらせた。
彼が手を引っ込めると、彼女は「もうわたしのことが好きじゃないの?」と尋ね、息子が顔を赤らめるのを見て「そんなにまごついちゃいけないわ。自分の気持ちを恐れることなんかないのよ」と言いきかせた。
患者はその後ほんの数分しか母親と一緒にいることができず、彼女が帰ったあと病院の清掃夫に襲いかかり、ショック治療室に連れていかれた。

『精神の生態学』より

母親は、言語では「もうわたしのことが好きじゃないの?」と「好意を示すメッセージ」を発しながら、非言語では「身体をこわばらせる」という「拒絶を示すメッセージ」を発しています。

母親は矛盾した”コミュニケーションのレベルが異なる”メッセージを、同時に若者につき付けています。

コミュニケーションのレベル(階層)って?

僕たちが行っているコミュニケーションには、階層・次元があります。
言葉よりも高次(メタレベル)なメッセージをメタメッセージといいます、それは仕草だったり、表情だったり、状況だったりしますが、いわゆる言語では説明しきれない「空気を読む」というものです。
たとえば京都の「ぶぶ漬けを食べていきなはれ」という言葉は、低次のメッセージでは「食事をしなさい」ですが、高次のメッセージ(メタメッセージ)は「帰れ」という意味を含んでいるのです。

ダブルバインドは以下の条件が全て揃う必要があります。

1.矛盾した2つの禁止命令が同時に発せられる
2.禁止命令のメッセージのレベルが異なる
3.この状況から逃れる術がない

1と2は何となく理解できるとして、重要なのは3の「状況から逃れる術がない」というものです。

さきほどの例だと、矛盾の根源が母親にあるにも関わらず、

「そんなにまごついちゃいけないわ。自分の気持ちを恐れることなんかないのよ」

と、矛盾が母親ではなく若者にあると転嫁しているのです。
このメッセージによって、若者の内でしか矛盾を解消せざるをえない状況になっています(逃げる術を断たれている)。

ベイトソンは統合失調症の原因を「ダブルバインドを用いたコミュニケーションが原因である」と考えました、現在はその主張は主流ではないものの、非常に大きなストレスを与えるものであるとされています。

催眠もダブルバインドなのでは?

なぜ唐突にダブルバインドの話をしたかというと、催眠暗示って実はダブルバインドなんじゃないかと思ったからです。

例えば「腕があがってきます」という暗示があったとします。

催眠にかかっている人が「はい、わかりました」と腕をあげたら催眠じゃないですよね。
この「腕があがってきます」という暗示には、「でも、意図的に腕をあげるな」という矛盾したメタメッセージが含まれているじゃないですか。

このような矛盾した課題(ダブルバインド)を解決するには、「腕はあがるけど、意図的じゃない」という矛盾した解決法しかないと思うんです。

催眠術師と相手に信頼ができている場合は「術師の出した課題を、達成してあげたい」という動機(逃れる術がないという条件になる)ができます。
その動機を達成するために脳が催眠現象を作り出すのではないかと思うのです。

後に

暗示はダブルバインドであり、その解決法として現象を脳が作り出す。

おそらく催眠術師からは否定されそうな話ですが、催眠という複雑な現象のひとつの側面であると思っています。

これが絶対に正しいという気はありませんが、この話を機に色々な話ができたらいいなと思っています。


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