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多聞式 トランス誘導ルーティン

こんにちは、石井多聞(@tamonhypno)と申します。

このノートは「多聞式 催眠誘導ルーティン」の続編になります。

「多聞式 催眠導入ルーティン」は、無料部分の催眠理論が凄くよくまとまっていると色んな術師の方たちからお褒め頂きました。
(有料部分もよくまとまってますよ・・・?)

前作を読んでない方は、是非ご一読ください。
(催眠理論は無料部分に書いてあるので、そこだけでもOKです)

前作は「初心者でも催眠導入が出来るようになれる」というテーマで書きましたが、今回は「トランス状態へ誘導できるようになるルーティン」となっています。

今回も僕が実際に行っているトランス誘導を説明していきます。

対象者:
- 催眠導入はできたので、次の段階にいきたい人
-他の催眠術師の頭の中を覗きたい人

ノートの目的:
相手をトランス状態への誘導を学ぶ。

ルーティンの内容:
- 腕の弛緩
相手の両腕を効率よく弛緩させます。

- 魅了法
相手に術者の瞳を見つめさせ、トランス状態に誘導します。
アイコンタクトだけでトランス状態にする非常に強力な誘導法です。

- 肩揺らし法
トランス状態から一気に弛緩状態に落とす方法です。

- 深化法
弛緩状態をさらに深め、深い無意識の世界に誘導します。

【参考文献】
『現代催眠原論』
『動きが心をつくる──身体心理学への招待』
『自分では気づかない、ココロの盲点 完全版 本当の自分を知る練習問題80』

トランス状態とは?

トランス状態といってもさまざまな状態があります。
このノートで想定しているトランス状態は以下の定義とします。

意識レベルが低下し身体が弛緩するが、精神的には多幸感や恍惚感を感じている状態

これだけ読むと何やら怪しげな雰囲気がありますね。
安心してください合法です。

そもそもトランス状態とは何でしょうか?
僕は「没頭による解離」であると思っています。

「解離」は簡単に言えば「我を忘れた状態」です。
解離性同一障害が有名ですが、解離が全て病的なものであるとは限りません。むしろ、解離自体が悪いわけではなく、解離を制御できない状態が問題なのです。
我々は日常的に(健常な範囲の)解離と共に生きています。

・車を運転していて、つい口が悪くなる
・ゲームに没頭して時間を忘れる
・ぼーっとして、気づいたら時間が経っていた

これらは全て健常範囲の解離に分類され、日常生活において頻繁に起こる状態です。

もう1つの重要な要素が「没頭」であると考えます。
トランス状態とは「無意識的な動きや思考との同一化」に没頭することであると思っています。
もっと詳しくいえば「無意識的に動きや思考を、阻害されることなく発現する行為」に没頭することです。

歌や音楽、ダンスやスポーツなどに没頭することなどが想像しやすいでしょう。

例えば、あなたが「歌が好きで、すごい歌が上手い」とします。
自分の内なる情動を、歌として自由に表現できたのなら、すっごい楽しいですよね。
きっと僕だったら、歌うことに没頭してしまいます。

でも、現実はそうはなりません。
肯定されなかったり、上手くいかなかったり、何らかのストレスが伴う(阻害される)から、没頭しないんですよね。
逆に周りの人間が、すべてを受け入れ、役割りを与え、肯定すれば、ほとんどの人は歌うことに没頭すると思います。

トランス状態に誘導するということは、術者が受け入れ、役割りを与え、肯定して没頭状態に導くことなのです。
また、それを促すための道具として「イエスセット話法」「ペーシング」「行動への肯定」があると考えています。

【注意】
トランス状態には人それぞれの反応が異なります、必ずしも多幸感があるとは限りません。
頭痛や吐き気などを催す場合もあります。
よく相手を観察して異常を感じた場合は即座に中止して下さい。
【イエスセット話法】
よく肯定的な返事を引き出すテクニックと紹介される話法です。

「この前、パスタ好きっていってたよね?」
「うん」
「パスタっておいしいよね」
「うん」
「美味しいパスタの店知ってるから、一緒に行こうよ」
「うん」

というように肯定させる質問を連続して、了承の返事を引き出します。

まぁ、そんなわけねーだろって思うんですけどね。
さすがにこんな事されたら、バカにしているとしか思えません。

僕が思うイエスセット話法の目的は

・相手を肯定する
・無意識的に「はい」と答えられるレベルの質問で、意識レベルを下げる


であると思っています。
質問も3個とかでは全く意味がなく、数十分単位で連続して行わなければ効果はありません。

無意識とは?

先ほど、トランス状態とは「無意識的な動きや思考との同一化」と言いましたが、無意識とは何でしょうか?

上の図はミューラー・リヤー錯視(Müller-Lyer illusion)という有名な錯視です。

僕たちの意識では、上の線の方が短く、下の線の方が長く感じますが、2つの線の長さは一緒なのです。
これらの錯視は、日常生活での視覚によって積み上げられた経験(遠くのものほど小さく見えるなど)による錯誤であるとされています。
事実、視覚からの経験が少ない乳幼児などは、この錯視がほとんど起こらないそうです。

この錯視を見ながら「2本の指で線の両端を摘まんでください」と指示すると、無意識的に広げた指の幅は2本とも同じ幅を広げていました

意識的には2本の線の長さが違うと認識していても、無意識的な動作は2本の線の長さが同じであると正しく認識していたのです。

つまり、意識的な思考は、無意識的な思考を全て把握しているわけではなく、時にお互いが相反する認知をしていることを示唆しています。

トランス状態と暗示の反応性

トランス状態=催眠状態とよく言われますが、トランス状態であることと催眠状態(暗示に反応する状態)は、おのおの独立した別の状態であると考えています。
トランス状態にあっても、暗示に反応しない人は少なからず存在します。

被催眠性被暗示性という2つの言葉があります。
(この2つは同一のものと扱われる場合もある)

【被催眠性(Hypnotizability)】
催眠感受性とも。
トランス状態(意識レベルが低い状態)への誘導のしやすさ。
トランス状態になったからといって、必ずしも暗示に反応するわけではない。
【被暗示性(Suggestibility)】
暗示(Suggestion)に対する反応性。
覚醒状態(非トランス状態)であっても、暗示に反応する事があります。

催眠術では「催眠深度」と呼ばれるものがあります。
催眠の深さによって名称が分類されており、「類催眠」「軽催眠」「中催眠」「深催眠」と、意識レベルが低くなれば低くなるほど催眠深度が深いとされています。

催眠深度という概念は、状態論の考え方に近いでしょう。
しかし、非状態論からすれば「催眠深度と被暗示性は(ほぼ)無関係である」となるかもしれません。
(この意見の相違で、術者同士の空気がピリッとすることもある)

よくテレビで見るような催眠術では、暗示を提示する前にトランス状態に入れますが、実際はあまり意味がない行動(演出的には意味がある)です。

ただし、「催眠術はトランス状態から暗示がかかる」という社会的なコンセンサスが形成されているため、トランス状態に誘導することで「暗示に反応する」という反応予期(Expectancy)が高進する可能性は大いにあります。逆に言えば、反応予期さえ充分に高まっていれば、トランス状態は不必要であるともいえます。

トランス状態は、催眠という枠組みの中での「お約束」のようなもので、意味があるかはわからないけど無いと物足りないという感じでしょう。

心ってなんなの?

催眠術師は心理誘導をしてトランス状態へ導くわけですが、そもそも心ってなんなんでしょう?

考えてみれば「心」って非常に曖昧な言葉ですよね。
厳密な定義はないのですが、広く普及している定義をあげれば「行動を決定するもの」だと思います。

人間の思考の末に行動を決定します、人間の思考を司る器官は脳ですよね。
じゃあ「心は脳にあるのか?」と言えば、そうでもない気がしています。
(ここら辺は、いろいろな意見があるようです)
なぜなら「我々の行動は脳だけで決定しているわけではないから」です。

僕は「心」とは以下の3つの要素で成り立っていると考えます。

【心を構成する3要素】
・脳
・身体の状態(末端までの神経)
・外部の環境

たとえば、あなたのお腹がとても痛い状況だったとします。
その状況で、通常通りの意思決定ができるでしょうか?
きっとネガティブな思考になると思います。

身体の調子が良くて、足取りが軽いときはどうでしょう?
いつもよりポジティブな思考になると思います。

このように身体の状態は、行動に影響を与えます。

とても寒い朝は「布団から出たくなくなる」と思います。
嫌な上司がいれば「会社に行きたくないな」と思います。
朝の占いで結果がよければ「何となく嬉しくなる」と思います。

これらは自分の外側の話ですよね、このように外部の環境は行動に影響を与えます。

つまり、行動の決定は「脳」だけでなく「身体の状態」「外部の環境」の影響を強く受けます。

■行動を誘発する状況

前作の「多聞式 催眠導入ルーティン」では、催眠術とは「行動を誘発する状況」を作り出す技術であると述べました。
状況の構成要素を前のノートから引用してみましょう。

【心理的な状況】
- 催眠に対する不安が解消されている
- 催眠に反応する予期
- 催眠に反応するという条件づけ
- 催眠に対する態度
- 催眠に対する動機、モチベーション

【生理的な状況】
- 身体の感覚
- 筋肉の状態
- 感覚の遮断(目を閉じるなど)

【術者と相手の関係性】
- 協力的、好意的
- 役割りの取得

勘が鋭い方は、お気づきかもしれませんね。
先ほど挙げた心を構成する3要素と、「行動を誘発する状況」ですが、それぞれの要素は同じものを指しているんです。

心理的な状況 = 脳
生理的な状況 = 身体の状態
術者と相手の関係性 = 外部の環境

ね?
手を変え品を変え、色々な言い方をしていますが、基本的に言ってることは変わりません。
人間の行動は脳だけで決まるほど単純じゃないということです。

催眠術を学ぶにあたって、コミュニケーション(スクリプト)が重視されがちですが、「身体の状態」や「外部の環境」はスクリプト以上に大切なものであると思っています。

事前コミュニケーション

前回の催眠導入ルーティンでは筋肉の緊張を扱ったのに対し、今回は筋肉の弛緩がテーマになります。

相手は椅子またはソファに座っていると仮定します。

【事前コミュニケーション例】

さて、先ほどの手が固まるという現象は「筋肉の緊張」でした、次は「筋肉の弛緩」を体験してみましょう。
(催眠導入ルーティンからの流れと仮定しています)

人間は、筋肉の緊張を自分の意思で比較的、簡単に行うことができます。
しかし、筋肉の弛緩というのは、自分の意思では難しいものなのです。

○○さんの利き手はどちらですか?
ちょっと握手してみましょう。
【椅子に座った相手と握手をする】

腕の力を抜いてくださいね。
そうです、そうです。
【いきなり手を放すと、手がゆっくりと下がる】

やはり腕に力が入っていますね。
本当に脱力していたら、腕はストーンと落ちるはずですよね?

このように人間は、筋肉の弛緩は自分の意志だけでは難しいものなのです。

これから僕がサポートしますので、身体の力を抜いていきましょう。

大多数の人間は筋肉の弛緩を意図的に行うことはできません。
いきなり手を離されると、腕はしばらくその場で留まり、ゆっくりと下がりはじめます。

もし完全に弛緩していたとしたら、腕は手を離した途端にストーンと落ちるはずです、無意識的に身体のどこかに力が入っているものなのです。

ちなみに本当に手を離した途端にストーンと落ちる人もいます。
そういう方は、身体のコントロールがとても上手な方ですね。

【腕が脱力できている場合】
すごい!脱力ができていますね!
もしかして、何かのスポーツの経験がありますか?
(直接ではなくスポーツ経験という表現を経由して肯定する)

普通は何のサポートもなしに脱力することはできないんですよ。
でも、サポートがあったら、もっと深く力を抜くことができるかもしれません。

これから僕がサポートしますので、身体の力を抜いていきましょう。

力を入れるという行為は容易に行えるのに、脱力は1人では上手くできないというのは、人間の身体の非常に面白いところですね。

術者がサポートすることによって、より深い弛緩の状態に誘導します。

呼吸法と身体の関係

呼吸は人間の生命維持にとって非常に重要なものです、呼吸が出来なければ数分で死に至ります。それほど重要な行為なのですから、呼吸が身体に大きな影響を及ぼすことは想像に難くないでしょう。

呼吸は反射的な性質を持っています。
僕たちは特に意識せずとも、呼吸は無意識的に行われていますよね。
呼吸と心理状態は、無意識的に連動しています。

緊張状態のときは、呼吸が浅く早く。
興奮状態のときは、呼吸が深く早く。
リラックス状態のときは、呼吸が深く遅くなります。

他にも心臓の動きや発汗なども心理状態と連動していますが、それらは意図的に制御することは非常に困難で、呼吸は意図的に制御可能な数少ない動作の1つです。
(あと「まばたき」もそれに入りますね、それは後ほど…)

呼吸と心理状態が連動しているのであれば、逆に呼吸から心理状態を制御できるかもしれません。
例えば、何かに驚いて心臓がドキドキしているとき、どのような動作をしますか?
おそらく深呼吸をすると思います。
深呼吸をすると心臓の動悸は次第に収まり、心理状態もゆったりと落ち着きを感じてきます。

催眠において心理状態を操作するために「相手の呼吸を作る」という技術は非常に重要です。

■ペーシング「相手の呼吸を作る」
催眠のテクニックを調べると「ペーシング」という言葉がよく出てきます。
言葉を調べてみると「相手と呼吸(ペース)を合わせる」とあります。
僕にはいまいちピンと来ていなくて、人の肺活量なんて人それぞれなのに、相手に呼吸を合わせたところで不自然な呼吸になるだけじゃないかなぁと思ってます。

ペーシングとは「相手の呼吸(ペース)を制御する」ものであると思っています。
リラックスさせたいのなら呼吸をゆっくりにさせ、緊張させたいなら呼吸を早くさせるよう制御します。

相手のペースをどうやって制御するのか?
それはそんなに難しいことではなく、相槌のタイミング1つで相手の呼吸をコントロール出来ると思いませんか?

相槌をされれば相手は一呼吸おきます、これって相槌のタイミングで相手の呼吸を制御してるって事ですよね。
他にも聞く姿勢、表情、声のトーン、会話のテンポなど、相手の呼吸を制御する方法はいくらでもあると思いませんか?

リラックスのための呼吸法

呼吸を作ることによって、相手をリラックス状態に導くというアプローチは非常に有効です。
リラックスのための呼吸法は「腹式呼吸」「長息」とされています。

腹式呼吸は横隔膜を使う呼吸で、胸式呼吸よりも肺が大きく動くため、取り込める空気量が多くなります。
「長息」は吐く息を長くします、肺に残った空気を排出しやすく、その分、新鮮な空気を肺に送り込むことができます。

呼吸の仕方は「鼻から吸って、口から吐く」を意識します。
そして息を吸うことより、吐き切らせることをイメージさせてください。

【リラックスのための呼吸例】

それでは、深呼吸して身体をリラックスしてみましょう。

大きく息を吸って…吐いて…

鼻から吸って…口から吐きます…

息を吐き出すたびに、スーーーっと力が抜けていきます。
(スーは息を吐くタイミングに合わせる)

息を吸うよりも、吐くほうに意識を集中してください。
【吐く息を意識させることによって長息にさせる】

自分のリズムで構いませんよ、楽なリズムで呼吸してください。
【※非言語コミュニケーション】

最後の「自分のリズムで構いませんよ、楽なリズムで呼吸してください」というセリフは、「ゆっくりしたテンポ」で非言語コミュニケーションを行ってください。
「自分のリズムで構いません」と言語で示しておきながら、非言語で「(ただし)ゆっくりしたテンポで」と示唆しています。

ある意味、矛盾した示唆なのですが、相手に指示することなく「自発的に呼吸のリズムをゆっくりとさせる」ということを狙っています。

■許容アプローチ
古典催眠では「~しなさい」というの命令形は、相手に「抵抗」を与える可能性がありました。
許容アプローチでは「〜するかもしれません」など、許容の姿勢を見せる事によって命令形による抵抗を回避します。
(術者との関係性によっては、むしろ命令形の方が良い場合もあります)

個人的なことですが、このようなハッキリしない物言いは好きではないので、先ほどの例のように「決定権を相手に委ねる」というアプローチを使っています。
決定権を相手に委ねることによって、心理的な抵抗を回避しています。

人間は自分に決定権があると思うと安心する生き物ですので、決定権は相手に与えてしまいましょう。
ただし、非言語コミュニケーションなどを通じて、主導権は術者が保持します。

首と肩の弛緩

現代人はストレスも多く、首と肩の筋肉が凝っている場合が多いです。
首と肩の凝りは意識の集中を阻害するため、トランス状態へ没入することへの非常に大きな障害になります。

そこで首と肩の筋肉を弛緩させます。

【首と肩の弛緩】

さて、もう一度握手してください。
今度は腕を離しませんから安心してください。
【握手をする】

うーん、もしかして緊張してますか?
それか首と肩に凝りがありますね、特に右のほうが凝ってますよね?
そして、寝付きが悪いでしょう?
小さな物音でも起きてしまいませんか?
【コールドリーディング(やらなくてもよい)】

身体を柔らかくなると、それらの症状も軽減されますよ。
首をぐるぐる~と回してみてください。
そうです、ぐるぐる~

首の力が抜けてくると、肩の力も抜けやすくなるんですよ。
次に肩の脱力をしてみましょう。

肩にぐーーっと力をいれて~
一気に力を抜いて~
(※2~3回繰り返す)

ね?
首と肩がポカポカしてきたでしょう。

首の筋肉と肩の筋肉を弛緩させましょう。

首をぐるぐると回して、首の筋肉をほぐします。

肩の筋肉は、脱力前に肩の力を緊張させてから、一気に脱力させます。
筋肉全般的に言えることですが、脱力前に緊張させることにより、一層の脱力を促すことができます。

筋肉の脱力は非常に重要です、相手の身体が緊張しているようであればストレッチなどで筋肉をほぐしてあげてください。
ストレッチの本を一冊ほど読んでおくと、色々な所で役に立ちます。

(※有料部分に、僕がやっているストレッチを紹介しています)

■コールドリーディング

コールドリーディングとは、相手の言葉やしぐさ、反応などを推測して相手の情報を読むという技術です。

先ほどの例では、握手するだけで身体の仕組みを見通しているようなパフォーマンスがコールドリーディングになります。
相手の筋肉、骨格、柔軟性を観察して、身体の情報を読み取ります。

コールドリーディングは、やってもやらなくても構いません。
ちょっとした権威づけ程度のものです。

・僧帽筋の発達具合
首の横の僧帽筋を見ます。
僧帽筋が発達していると、肩が凝っている可能性が高い。

・右肩と左肩の高さ
右肩と左肩の高さが違う場合、下がっている方の肩、腰の筋肉に負担が掛かっている可能性がある。

・腕を引いた時の柔軟さ
握手している手を微妙に前後左右に腕を引き、背中の筋肉(広背筋)の柔軟さを見る。

これらの筋肉や骨格を観察して、日常の姿勢や癖などを逆算しています。
筋肉と骨格は、その人がどんな行動を積み重ねているかの履歴のようなものです、ここから色々な情報を読み取ることができます。

バラしてしまったら、今後パフォーマンスがしにくくなりますね。
けど、このノートは有料なので大丈夫でしょう。
(しまった!ここは無料部分だっ!)

腕の分割弛緩法

分割弛緩法とは、体の部位単位で順に弛緩していく方法です。
人は全体を一気に弛緩することは難しくとも、部分ごとであれば上手く弛緩する事が可能です。

腕の分割弛緩法ですが、

「手首」→「肘から下」→「腕全体」

の順番で弛緩していきます。

【手首の弛緩】
それでは、僕がガイドしますから腕の弛緩をしてみましょう。

このように手首をぶらぶらさせます。

ぶらぶらぶら~
(擬音は意外と暗示的な効果があります)

どんどん手首が柔らかくなってきます。

手首を掴み、左右にぶらぶらと振ります。
上下ではなく左右に振ってください、上下は振ると重力によって勢いがつきすぎて手首を痛めてしまう場合があります。

【肘から下の弛緩】
手首が柔らかくなりましたね、いいですよ。
(行動の肯定)

そこから肘から下が柔らかくなります。
【握手する形で握り、一方の手で肘を押さえる】

ぶらぶらぶら~

下図のように肘を抑えながら、肘から下の部分を左右に振ります。

【腕全体の弛緩】
肘から下が柔らかくなりました。

柔らかいのが段々上がってきて…
【肩に手を添える】

腕全体が、ぶらぶらぶら~

このように腕全体を左右に振ります。

腕全体を柔らかくしたら、最後に肩から弛緩させます。

【肩をストーンと落とす】
腕全体が柔らかくなってきました、いいですよ。

これから3つ数えると、肩がストーンと下に落ちます。
いきますよ、1つ、2つ、3つ。

ストーーーーン
【腕を下に引っ張り肩を落とす】

腕のブラブラと振っている状態から、タイミングをあわせて下方向に引き落とします。力任せに引くのではなく、自然な感じで下に大きく引き下げてください。

ゆっくりと元の体勢にもどすと、図のように肩が傾いた状態になります。

とても不思議なのですが、相手は自分の肩が傾いている事に気づきません。
「傾いていますよ」と指摘しても「え、傾いてます??」と全く自覚がない事が多々あります。

これではバランスが悪いので、もう片方の腕にも同様に弛緩してあげてください、両肩の高さが揃います。

全身の弛緩

ここまでで、首、肩、両腕が弛緩している状態です。
ここから漸進的に身体全体を弛緩していきます。

【全身の弛緩誘導例】
これで、首、肩、両腕の力が抜けてきました。
(状況を言語化して再確認させる)

それでは、呼吸を鼻から吸って、口から吐いて。
吐く息に注意を向けてください。
(長息への誘導)

息を吐くと同時に、身体の余分な力も一緒に出ていきます。
スーーーーーーーーーと、ストレスや緊張、いらないものが出ていきます。
(息を吐くタイミングでスーーーと言ってください)

首、肩、腕の力が抜けると、今度は背中の力が抜けやすくなるんです。
(現象から連結しての暗示)

息を吐くたびに、固かったものが柔らかく。
どんどんぐんにゃりしてきます。
【肩に手を置き、呼吸に合わせてゆっくりと揺らす】

そうそう、いいですよ。
(行動の肯定)

身体の揺れは筋肉を緩めます。
それはまるで電車に心地よく揺られているように。
暖かい日差しの中、電車の揺れがガタンゴトン…
ウトウトしてしまうような、揺れるたびに身体が緩んでいきます。
(心地よい情景を伝える)

背中の力が吐く息と共にスーッと抜けていく。
腰の力がスーッと抜ける…
お腹の力…太ももの力…足の力…全身が緩んでいきます。
(分割して順に弛緩していく)

全身の力が抜けると、とっても心地がよいです。
揺れに身体を預けて、ガタンゴトン…
どんどん深いところに落ちていきます。

相手を揺らす時は、優しくゆっくりと心地よく揺らしてください。
ここでは「電車で揺られながら、うたた寝する」というイメージを与えています。

事前に首と肩を柔らかくしているので、首が柔らかく揺れるように揺すってください。
地よい揺れと暗示によるイメージで、だんだんと筋肉が弛緩していきます。

魅了法と共感

ここで僕の場合は「魅了法」で一気にトランス状態に誘導します。
魅了法とは「凝視法」の一種なのですが、術師自身の目を凝視させてトランス誘導します。

【凝視法】
一点を凝視させるという催眠最古のトランス誘導法です。
じっと一点を見つめていると目が疲れて、自然とまぶたが落ちてきます。

魅了法は、凝視の対象を術師の瞳にしただけなのですが、これはとても強力な誘導法です。

ここからは僕の仮説です、参考までにお聞きください。

■共感という本能
術師の目を見させるとによって、お互いに「共感(empathy)」が生まれるのではないかと思っています。

【共感(empathy)】
広義には、心の中で他者と自分を同一と扱う心理。
無意識のうちに他者と自分を同化させ、他者の体験を自分の事のように体感すること。
相手との境界線がなくなり、感情的な同一化が行われる。

この共感(共感能力)こそが、人間が獲得した最も強力な本能であり武器であります。かの有名なチャールズ・ダーウィンも以下のように述べています。

「共感は、生物としての人間が進化の過程で、最も重要な生存戦略として獲得してきたものだ」

チャールズ・ダーウィン『人間の由来』より

ダーウィンは、共感こそが社会的本能の礎であり、進化の末に獲得した最も重要な本能であると語っています。

■アイコンタクトの重要性
最近の研究では、犬と人間がアイコンタクトをすることにより、お互いの脳にオキシトシンが分泌される事も判っています。

犬と人間が互いの目を見つめ合うことで、双方に「愛情ホルモン」であるオキシトシンの分泌が促進されるとの研究論文を16日、麻布大学(Azabu University)動物応用科学科の菊水健史(Takefumi Kikusui)氏率いるチームが米科学誌「サイエンス(Science)」に発表した。

(中略)

犬と人間がアイコンタクトを通じ、信頼と感情面の結びつきを育むオキシトシンの分泌を高め、数百年にわたり共に進化して親密になった可能性を示唆している。

http://www.afpbb.com/articles/-/3045639

社会性が発達した動物である犬や人間は、アイコンタクトを通じてオキシトシンが分泌されるということです。
実験では犬と人間でしたが、人間同士でも(よほど嫌悪感がなければ)同様にオキシトシンが分泌されると思われます。

愛情ホルモンとも呼ばれるオキシトシンが分泌されることによって、「共感」が強まることは想像にかたくありません。

■共感と前帯状皮質(ACC)
共感を司る脳の部位は前帯状皮質(ACC)であると言われています。

僕に以前に書いた「催眠って本当にあるの?」に、「催眠状態の生理学的状態」について書いたことがあります。

このノートから、生理学的な状態をまとめると以下の通りになります。

催眠状態とされる脳の生理的状態は、前帯状皮質(ACC)が活発になるが、前頭前野との結合が弱まる(減結合)。
この2つが減結合することによって、「心の葛藤」が抑制され暗示の内容を疑うことなく受け入れてしまう。

心の葛藤が抑制されることによって、催眠予期が生理的に高まりやすい状態とも言えます。
共感を司る前帯状皮質(ACC)が、催眠の生理学的状態にも深く関わっていることは、非常に興味深いことです。

このように様々な要因から、魅了法は最も理にかなった誘導法であると考えています。

アイコンタクトを用いて、人間の本能である「共感」を刺激して、トランス状態に強力に誘導します。

もちろん魅了法をやるかは、術者のキャラクターによるところも大きいでしょう。魅了法を使いたくない場合は、指などを使った凝視法やフラワーズ法を用います。

リハーサル法

「リハーサル法」とは、現象の動作をわざと練習させることで、動作を淀みなく行わせることができる方法です。

【一気に落ちるための導入】
ここから一気に深い所へ落ちてみませんか?
高い所から一気に落ちると、とても気持ちがいいですよ。
(予期を高め、了解を取ります)

これから全身の弛緩を行います、僕が支えますから安心して身体を任せてください。
身体を支えるために肩や腕に触れる必要があります、よろしいですか?
(身体に触れてしまう許可も取ります)

まず、一気に落ちる練習をしてみましょう。
練習ですので、わざと落ちてみてくださいね。

僕が指を鳴らすと、全身の力がカクーンと一気に抜けます。
指がなると…こんなふうにカクーンと力が抜けます。
(前傾の姿勢を取らせる)

何も説明せずに「カクーンと一気に抜けます」と、ぶっつけ本番で言われても上手く力が抜けない人が殆どです。
リハーサルをする事によって「あ、こんなふうに力を抜くんだ」という前提を作ります。
また、問題がある点を点検して修正していきます。

・前かがみにスッと落ちる事ができるか?
・首もちゃんと脱力できているか?
・背中がちゃんと脱力できているか?
・もっと力を抜けることを示唆する。

上手く動作ができるようになるまで、必要であれば複数回リハーサルをします。

リハーサル法には、催眠の動作確認だけではなく、タイミングの確認をさせるという役割りもあります。

催眠にかかる側の方たちから「術者によって合図のタイミングが違うから、どのタイミングで力を抜いていいか迷う」という話をよく聞きます。
カウントの最後の数字を言ったタイミングなのか、指を鳴らしたタイミングなのか、カウントダウンはゼロまで言うのか、などなど…

リハーサル法でタイミングを共通認識にしておけば、相手も動作に迷いが無くなり深く落ちることができるようになります。

ここから具体的な技法の説明に入りますが、ここからは有料部分となります。
実を言うと理論的な部分は無料部分に書いてあります、ここまでの理論を理解していれば自分なりの技法を確立できるでしょう。

ここから先は「投げ銭」的な気持ちで読んで頂ければと思います。
僕の気をつけている点などを細かく書いていますので、料金分の価値はあると思っています。

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