黒塚多聞

自分の作品をまとめるのがメインになると思います

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3月の自薦短歌

海中の洗礼堂に三月の雪が降りあなたに見せたかった パロールが壊れし後の世界には壊れたたましひが集ふといふ 耳に咲く紅梅の赤鮮明にあなたの影は樹のごとし 白か黒か問われないことオレンジの夕陽を浴びてカナリアが歌う 硝子の空を真っ逆さまに落ちてゆく晩年の燕、真昼の月の死 まぼろしを語ることなくうたにするムスカリの咲く内なる花野 きみが今漂うように目に見えぬ二番目の光があふれてゆく

    • 『光が漏れる』

      追憶の雪野は雪月花咲き乱れ隣にいないあなたを思う 廃園に降り積もる雪白き彼岸で讃美歌(キャロル)呟く 雨が止み微かに曇る空を見た世界は続きカナリヤが飛ぶ 人それぞれが造花のように柔らかく闇の奥へと溶けてゆくのみ 感情が静かに進む湖で時は止まりて白鳥の眠り 色彩は壊れた光の痕跡 芸術家は光を操る 古のパピルスから欠けた脆きロゴスを悼む冬の言語忌 月の光に柊の花が照らされてあなたを守り時は満ちたり 永遠が幻なことに気づいたよあなたの瞳をじっと見つめる あなたには

      • 『未来』4月号掲載7首

        本心を嘘に隠してやり過ごす朝はまたもや嘘をつく      雨 屋上でアステリズムを見上げている星のポリフォニーが響き渡る 努力(コナトゥス)を心掛けつつ今日もまた職場へ向かう変わらぬ朝(あした) 祝福をされることはないそれでも砂漠の日々を生き抜いていく 夜もまたひとつの太陽だと知ったこれでまた私は生きていける 宇宙の風よあなたの魂を呼び覚ませ私はあなたとともに在りたい 名が名が刻まれたはるか遠くの墓標にはまだ行けず雪が降り続いている

        • 「無題」

          光を失った。再び見ることができることを祈りながら歩き続けている。私は光の巡礼者なのかもしれない。東北の地方都市から海外の砂漠まで辿り着いたがまだ光は見えない。いつか光に満ちた地に到達できるだろう。今はそれを信じて巡礼のような旅を続けるだけだ。

        3月の自薦短歌

          「春の日」

          朝、目が覚めて部屋の窓を見ると、満開の桜が咲いていた。着替えて食事を済ませ、近所の公園へ向かった。  公園の入口の坂道を登りながら周囲を見渡すと、桃色の波が広がっていた。  坂を登りきり、自動販売機でペットボトルのお茶を買い、ベンチの中央に座った。  前方には桜を目当てにしたご老人、子供連れの家族、カップルなどがスマートフォンやデジタル一眼レフを構えて撮影しているのが見える。  空を見上げると、やや黒がかっている青空が広がっていた。  赤い公園のprayを口ずさみな

          「春の日」

          「冬凪」

          黙深くパロールの雪降りしきり言葉にならぬ言葉が積もる 声が出ないわけではない思い出せぬ白雪に消える無言の轍 何回も伝えたかったこの思い形にならず沈みゆくのみ 聞こえるだろうかあなたにはわたしが吹雪の中声抑えた慟哭の音が 闇の底を見つめていた深淵は終わることのない永遠の闇 朝焼けのレモンの黄色鮮やかにあなたのすべてがそこにあるように 祈りからすべては始まるこの世界で光に触れる影を曳きながら 名も知らぬ内なる花は今日も咲くどう生きていこう星の片隅で 少女の手から鳥

          『未来』3月号掲載8首+α

          無意識の夢と現のあわいにてラピスラズリの蝶が舞っている 肉体は魂の舟 遺伝子の川を漂うGeneのさざなみ 至福の日々を過ごすきみに花束を天使の集うスピノザの海 最期の地は何もない極地なり灰色の風が吹いている 無能力は生のすべてを阻害する絶対的な悲しみあふれ 悲しみの果てには瑠璃の悲しみの彫刻があり集められゆく 朝方のぼやけた意識の心象の花野で猿が僕を見つめる 月光がきみの御髪をかがやかす時は止まりて波音きこゆ 海彼通信コメント ◼️黒塚さん、生死の認識論だろう

          『未来』3月号掲載8首+α

          『未来』2月号掲載8首

          目の前の景色はすべて生き地獄鬼などおらず人の業なり 死者たちの黒き葬列が私たちを誘ってゆく夜の果てへと 夜明け前のカゲロウたちは闇へと溶けて夢を漂う 老境の名もなき王が月の砂漠を征くエーテルの風が吹く 千の天使がバスケットするはつあきの私の不安が躍動する コスモスが広がっていく白昼夢宇宙に咲く一輪の華 かなしみを黒壇の黒で塗り潰す白から黒へ闇が訪れる 紅葉の赤は人から流れた血の赤パレスチナに降る赤い雨

          『未来』2月号掲載8首

          『未来』1月号掲載8首

          眠れぬ夜も病める日々も朝は来るきみのおかげで世界は回る 手を繋ぎ硝子の海を見ていよう静寂のまま漂っている 満月が静かに照らす夜の海の波は流れて生命は揺れる 三億の時の流れを漂ってカゲロウたちは生を繋げる 八月に別れを告げる時が来るトンボが飛んで九月は来たり 目をつむり静かの海を歩きゆくあなたの祈りは星の降る夜 我が心すべてあなたに委ねんと楓のような日常となる 喜びや悲しみは移りゆくものか手帳に記し栞を挟む

          『未来』1月号掲載8首

          『未来』2023年12月号掲載7首

          失った翼を嘆き小夜の街へ僕はまだ飛べるのでしょうか? 生の果て繰り返される輪廻転生(サンサーラ)僕らは何度も生まれ変わる それぞれの風の中にいるわたしたち(いつまでも風は吹き続ける) 新しい歌が生まれて育ちゆくこの瞬間がただ愛おしい 獣(けだもの)は法治の檻に潜みおり反逆のために爪を研ぐ きみよ眠れ宇宙の終わるその時に起こしてあげる最後を見よう 果てしなく広くて遠い草原で狼が歌を歌っている

          『未来』2023年12月号掲載7首

          『未来』2023年11月号掲載7首

          ぼんやりと海を漂う夏の朝聴こえてきたよ海の静寂 電子の界を彷徨う新しきアリスがあらわれることはあるだろうか 白夜(はくや)に揺れ水中に消える白い花眩む視界に愛憎も揺れる Heavy weather 雨、我々は無力なり祈りを捧げ明日を待つ身 銀河にはひとつになったきみがいて明日はきみの手に真理はきみの瞳(め)に 脱け殻のように生き抜く虚しさよいずれは踏まれ忘れ去られる 月光が曠野を照らし飛び出した子供らが舞う上弦の月

          『未来』2023年11月号掲載7首

          「雪と薔薇」

          白雪を朝になるまで眺めてた生きるか死ぬかさえも忘れて 内面の扉を閉めて生きていく砂漠に咲く花を探すんだ この日々を塗り潰せずにただ無力それでも夜明けを迎えるのだろう 何気なくフィンブルの冬を思い出す隣り合わせの終末(おわり)を感じる 物語なき日常をただ歩む世界の果てで黄昏を見た 庭先で白い薔薇(そうび)が咲いている触れようとして指先を切る 僕はただ途方に暮れて立ちすくむ掴んだものは流れて消えた Fragileと雪に書いてすぐ消した弱さとはかすかなまぶしさ 夜行

          「雪と薔薇」

          『未来』2023年10月号掲載9首

          きみの目に暗黒はいま光りつつ黒い紫陽花の造花の心よ 虚無をまとい煙のように人が消え、男たちは証拠を奪った 女たちは答えを隠し立ち去った私は消えた跡を探す 満月の光で息を吹き返し街は真夜中に活動する 夜を駆けるマキャベリストの子供たち成長してもそのままであれ 盲目の老詩人は秘密の鍵で無限の図書館へと消えた そびえ立つ絶望の塔は膨張せり夜道を歩く人々を喰う 現代のソドムとゴモラでは何が起こっているか君は知らない コーカサス行きは廃線となって閉ざされた救済の地は存在

          『未来』2023年10月号掲載9首

          『未来』2023年9月号 掲載8首

          君のことも名もなき花も曖昧だalexithymia(記憶喪失)の夜が更ける 水のように自在に変わる自らを目指して生きよと願う深夜 傷痕を指でなぞったその先の荒野にコヨーテの群れが吠ゆ 選択肢のない日々をただ選ぶのみ踏みにじられるためにある花 私が死んで別の私が現れる火花が散って曖昧になる 廃市で終焉の音(ね)が鳴り響く死と乙女の影が消え去る 何度でもこの瞬間は繰り返す王を弑するナイフ輝く 夢の中で千の仮面(ペルソナ)を身につけて神に銃を向ける愚かさの罪

          『未来』2023年9月号 掲載8首

          『未来』2023年8月号 掲載7首

          闇ぬちに光閉ざせば永遠に感情のないまま漂える 曖昧で生きることさえままならず苧環抱いて泣きながら寝る 鈍色の蝶が『審判』に止まった魂の鱗粉が舞い散る 哀しみは未だ癒えずにただ一人己の天使を胸に抱いて きみが閉じた心の裏側に光が満ちるようにと祈っている 美しき春の死骸が横たわり世界の終わりが笑っている 魔法解け見上げる空は浅黒く夢や希望は必要がない

          『未来』2023年8月号 掲載7首

          「誕生」

          満月の夜。きみは笑顔で海に佇んでいる。すべての生命の母であるかのように。月光がきみをやさしく包み込む。波が流れる。太古の時代の海が一瞬視界に映った。今、生命の誕生の瞬間に立ち会っているのだ。あらゆる生命が生まれ、ゆらりと揺れた。