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前提を疑おう

いまの常識は未来の非常識だ(という可能性がある)。

これほど、変化の激しい時代においてさえ、この前提に立てない人が少なくない。

例えば、結婚。
今でこそ、結婚といえば、恋愛の先にあるものと考えるのが普通でも、江戸時代においてはそうではなかった。江戸時代における結婚は、現実的実際的に生きていくために行われるものであった。
ようは、また何かの拍子で"恋愛の先に結婚があるというのが当たり前"でなくなる可能性は充分にあるというわけだ。

家族は江戸時代における生産の単位であって、結婚はまさにいまの就職と変わらなかったことは田中優子さんの『江戸の恋』を読むとわかる。

だからこそ、心中につながるような矛盾も生じるわけで、いまの恋愛結婚の先に気が変わって心中が起こるなどと想像してしまうと間違える。前提の方をうたがう必要があるわけだ。

そもそも、家と家族をつなげて考える発想すら、まったく変わらぬ前提などではない。
しかも、明治以前においては、東と西でイエに関する常識が異なっていたことを教えてくれるのは、網野善彦さんの『東と西の語る日本の歴史』だ。

いわば東国の社会は、領主のイエ支配を中心に、縦に百姓たちが領主と結びついた、家父長的な性格の強い主従関係が基礎となっているのに対し、西国の場合は百姓の小さなイエが横に連合したムラ的な結合が発達している。それがしばしば、荘・保の神社の宮座の組織に支えられているので、「座的結合」ともいわれるが、こうした百姓の結びつきが西国社会の基礎をなしていたのである。

家族という単位は必ずしもイエを構成する単位ではない。ひとつの家にひとつの家族というカタチが前提になったのは戦後にすぎない。
山本理顕さんの『地域社会圏主義』から引く。

戦後復興住宅は「1つの住宅に1つの家族が住む」という住み方を唯一のモデルとして供給された。「1住宅=1家族」である。その住宅に住むことによって私たち日本人はプライバシーとセキュリティという概念を徹底教育されたのである。

プライバシーだとか、セキュリティの概念さえも、ここに紐付いている。
けれど、家族がひとつ家の住むという前提が変わって、複数の家族がシェアハウスに住むカタチへと移行したとしても、それはおかしなことではない。ロンドンのオールドオークのような「コリビング」などの形態の住まい方も出てきている。
そして、その時にはプライバシーだとか、セキュリティという考え方も変わるだろう。

その時、いまの常識を前提に未来を考えると、未来の姿を捉え間違える。機械に向かって話しかけるのは難しいとか、ただの僕らの時代の常識でしかない。そんな常識がいつまでも続くと思うほうがれきに見れば非常識だということに気づく必要がある。

前提を疑う頭の柔らかさを身につけるには?

というわけで、前提のほうが変わることを視野に入れていなければ、本当の意味でイノベーションにつながる思考はできない。
では、どうしたら前提を疑えるだろう。

1つはちゃんと変化の兆しを気づけるよう、情報の入手と、その情報を統合的な視点で他の変化との関係で考えるようなクセをつけることだろう。

終身雇用も変われば、副業禁止も変わる。いや、そもそもいまのような就職のようなものは続くのか? と、そういう思考なできているか?

はたまたオンラインの教育コンテンツの利用によりオンデマンドでいつでも小分けに学ぶことが普通になれば学生だけが学びの専門家であるような見方も変わるし、そうなると学校は何する場所か?という話にもなる。

中国やスウェーデンなどのようにキャッシュレスになれば、そもそも支払いを購買タイミングといっしょである必要はなくなり当然レジなども存在しなくなる。個人間融資が楽になれば、あるタイミングの支払いは必ずしも自分が行わなくてもよいのかもしれない。
いや、お金を動かさずとも、共有されたモノだけがうまいこと動きさえすれば、都度の売買の発生もしなくなるかもしれない。

そして、シェア前提のものづくりであれば、より贅沢な作りがすることができるようになり、昔のような職人の手仕事が再び活きる環境が成立するかもしれない。

そんな風に、いまの時代の常識なんて実はカンタンに変わってしまうのだということを理解するためには、もう1つ、はじめに紹介した江戸期の結婚やイエのあり方について知っているという状態をつくるという意味で、いまとは違い過去を知っておくと発想は随分柔らかくなる。

ようは、そういう前提を疑う頭の柔らかさがないのは、そうした過去に関する知識があまりに乏しいからではないだろうか?とも思う。
歴史的な視点をもって、イノベーションなる変化を想像することができるか? その頭の想像力を養うには、過去と未来をつないで考えるための統合的な発想力が欠かせない。

#イノベーション #常識

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