さりげなく酔えるロマンチック横浜、港町酒場探検記 (サントリーシスターズクォータリー 1989) 後半

 次に訪れたバーは、山下公園から少し奥まった通りに面している『コージ』。
 この店の洋酒の豊富なこと。カウンターの後ろの壁ぎわには、ずらりずらずらと、スコッチやバーボンのボトルが並んでいる。ボトルはピカピカに磨きをあげられ、壁のうっすらとした蛍光灯の光のなかで、キラキラと光っている。
 思わず、「まあ、ホコリがつかないようにボトルをいつもきれいにしておくの、大変でしょう」と、聞いてしまった。定期的に、何人かで手分けして、いっせいにボトルをふくので、大変ではないとのことでした。
 ここでも、オリジナルのカクテル「ピーチカクテル」を飲む。濃い桃色のこの美しいカクテルは、トロリと甘いのに、後味はスッキリしている。
 でも、この店では、カクテルよりバーボンを飲みたい気分。そこでバーテンダーさんおすすめのバーボン"オールド・フォレスター”のロックを頼んだ。
 毎日、夕暮れ時にやって来て、バーボンをはじから一種類ずつ飲んで、味比べをしたい。でも、もの忘れにはげしいわたしは、明日になったら、今日飲んだバーボンの味を忘れているかな。
 バーを二軒訪ねたところで、お食事。
 なぜか、ヨコハマは関内でうなぎ。『八十八』の屏風に床の間付きのお座敷で食べに食べた。『八十八』は横浜で最も古いうなぎ屋さん。刺身に煮もの、粕汁など、色とりどりの料理が次から次へと現れた。どの料理もおいしく、全て残さず食べているうちに、お腹はいっぱい。もうダメだと思ったころ、本命のうなぎにごはん、きも吸いが登場。なんのその、それらも全部食べてしまった。
 ピシッと着物を着たおかみさんが、操業八〇年の『八十八』のルーツとヒストリーを語ってくれた。
 故山本周五郎をはじめ、たくさんの人が、『八十八』のうなぎを、おいしいおいしいと食べてきた、この由緒ある建物を、できるだけ、このまま残しておきたいそうだ。
 『八十八』には、気軽に食べられる食堂部門もあるので、今度は、そちらにおじゃましよう。
 食事のあとは、またも、酒場探訪が続く。
 マリンタワーの隣のビルにあるパブレストラン『アンカー』。ここのインテリアは、文句なしに気にいった。
 イギリスで買いつけてきたアンティークの木のテーブルとイスは、形、大きさがバラバラ。ひとつひとつの家具に表情がある。でも、ブラウンの色調は同じなので、全体はしっくりと調和している。
 天井からはランプ、窓にはステンドグラス、壁にはどっしりと暖炉。ピアノとベースのライブミュージック。ここも、しっとりとデートに絶好の店。
 やっぱり早く結婚しすぎた。五〇歳まで遊んでからにすればよかった。不倫といことを、少し、真剣に検討するべきかな。
 凝りに凝ったインテリアなのに、働いている人はざっくばらん、ツンとしていないところもよかった。
 さて、今夜の締めは、創業三〇年、名門クラブ『倫敦』。ここは、ヨコハマ紳士の社交サロン。ぶ厚いじゅうたんにシャンデリア。美しいお姉ささまたちが、クリスタルグラスに水割りを作って下さる。はっきりいって、わたしには場違い。それでも、柴田貢希ママは、あたたかく迎えて下さった。お父さん(田中小実昌氏)を連れて、またいらっしゃいとのこと。
 今度は、誰かステキな男性とヨコハマに来たいと思っていたのに、どうも、父ちゃんと来ることになりそう。ロマンチックなヨコハマの夜には、やっぱりわたしは無縁かしら。



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