三毛猫ミーのクリスマス 第24話 猫と人間、言葉は通じなくても伝えたいことが分かり合えるのニャ


https://editor.note.com/notes/naf3272bb32f0から続く

「そんなところで寝てたら、風邪ひくよ?」
「おばちゃんじゃナーイ!」
「おばちゃんとは言ってないよ」
 声に気づいて目を開けると、黒猫クーが、心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫?」
「んんん?ここは?」
 一瞬、状況を把握できなかったが、徐々に、鮮明に思い出した。
「そうだ、戦いが、終わったんだ」

「うん、猫ヶ原《ねこがはら》の戦いは、終わったよ」
 無秩序に停《と》めた数十台の電動カーのヘッドライトが、猫ヶ原《ねこがはら》全体を照らしていた。
 漆黒《しっこく》の上空から、爆音が聞こえてくる。
 ほどなくして、空の一点に着陸灯《ちゃくりくとう》の点滅《てんめつ》が現れ、ヘリコプターが、垂直に高度を落とし、風を巻いて、着陸した。

 着地したヘリから、二人の警官が、風を避けるように、降りてきた。
 警官は、島の警備員と何か話していたが、やがて、後ろ手に手錠をかけられて座り込んでいる三人組へ近づき、何か話しかけると、その身柄を引き取り、ヘリへ戻っていった。敵の三人組を乗せたヘリが、飛び立つ。
 あたしは黒猫クーに、
「どういうこと?」
と訊ねた。
 三人組は、これから、ヘリで強制送還されるという。
 動物愛護法を犯した罪で裁判にかけられ、犯罪者として、数百万円の罰金か、一年以上の懲役を言い渡され、間違いなく、刑務所行きになるだろう。
 刑期が終わって、出所しても、この島には出入り禁止の判決で、二度と、足を踏み入れることが出来ない。
 その証拠となる現場の写真や映像を、手配した弁護士団に見せるため、スケサーとカクサーが撮影している。スケサーとカクサーへ知らせたのは誰だろう?

「ちょっと遅かったけど、僕は、僕なりの強みで戦ったよ」
と、黒猫クーが、得意げに鼻を鳴らした。
 黒猫クーの異様な啼《な》き方に異変を察したローコー大統領が、パトロールするよう、スケサーとカクサーへ命じたのだという。
「僕の強みは、人間が好きなこと。人間も、僕たちを好きになってくれる。だから、言葉は通じなくても、伝えたいことが分かり合えるんだ」
 そうかも知れない。だから、ローコーと、スケサーとカクサーが、顧問弁護士へ連絡したり、あれこれ動いてくれたのだろう。
「人間とペットは、共存できる。お互い幸せになれる。ペットの犠牲の上に、人間の幸福が成り立つなんて、おかしいと思わない?」
 そう言いたげに、黒猫クーは、後ろ足で耳を掻いていた。

 東の空へ雷雲《らいうん》は過ぎ去り、いつしか、小雨になっていた。急激に、気温が下がりつつある。温暖な猫ヶ島《ねこがしま》らしからぬ寒さになってきた。
 あちこちで倒れている猫を、何十人もの島民が介抱していた。
 不幸中の幸いか、普段からケンカ慣れしているキティ組の猫ばかりだからか、命を落とした猫は、一匹もいなかった。
 あたしはホッと胸をなでおろした。
「そうだ!ボス猫ハローは、どうしたんだろう?」
と、彼が横たわっていた所へ駆けつけると、そこに、ドクトル・ゲーがしゃがみこんで、
「まったく、矢が刺さっているというのに、元気な猫だね」
と、ボス猫ハローを押さえつけ、触診《しょくしん》している。

 元気な猫?
 見ると、ボス猫ハローが、ジタバタ暴れている。
「生きていたんだ!」
と、あたしは嬉しくなって、駆け寄ろうとすると、ゲー先生が、
「病院へ連れて帰って、麻酔かけて、矢を抜くから」
と、暴れるボス猫ハローに「うるさい!」と一喝してから、助手へ、
「包帯でも巻いて、猫カゴの中へ放りこんでおきな!全治一ヶ月の入院!」
と言い捨て、あとを助手に任せ、次に、血だらけになっているカシラのジロチョーを見つけて歩み寄り、聴診器を心臓にあてると、
「死んだように」
と言った。
「熟睡《じゅくすい》している。神経のズ太い猫だこと」
 カシラのジロチョーは、イビキをかいて眠っていた。猫だって鼾《いびき》をかくし、夢も見る。激戦で疲れたのだろう。
「派手に血が流れているように見えるけど、創傷《そうしょう》数が多いだけで、どれもこれも傷は浅い。ほれ!起きろ!」
と言って、ゲー先生は、ジロチョーを助手へポーンと放り投げ、
「丸刈りにして、傷薬《きずぐすり》でもつけておきな!全治一ヶ月の入院!」
と言い放ってから背を向け、他の倒れている猫のもとへ歩いて行った。
「がらっぱちで、大雑把な女医だなあ」
と、あたしは、親しみを覚えた。
 猫ヶ原《ねこがはら》の中央では、白猫ジョーが倒れていた。その脇で、アイパッチ猫のダンペーが、

アイパッチ猫のダンペー

「立て!立つんだ!ジョー」
と声を張り上げているが、白猫ジョーは、
「無茶いうなよ、おっつぁん。矢が刺さってんだぜ?」
と鼻白《はなじろ》んでいる。
 あたしは、ジョーへ駆け寄り、
「足に、矢が刺さったのね。でも、元気そうで、良かった」
と声をかけた。ジョーは遠い目をして、
「燃えたよ、燃え尽きた、真っ白にな」
と微笑んた。

あたしは、
「あんた、もともと、真っ白い猫じゃないの」
とは茶化さず、
「お疲れさん」
と労《ねぎら》った。

「結局、亡くなったのは、矢に射抜かれて死んだ、キティ組の若い者だけ……か」
「いいえ。一匹たりとも失っていないよ」
 いつの間にか、ロシアンブルーのシャドーが横にいた。
「いたの!影みたいなやつ」
「もしかして、ミーちゃん、誤解しているかと思って、教えにきたの」
「何を?」
「動物病院の診察台の上で寝ていた猫」
「うん?」
「死んでないの」
「は?」
「みんなが病院が去ったあと、静かになった診察室にドルトル・ゲーがやってきて……」
「ふんふん?」
「無造作に矢を抜いたとたん、キティ組の若い者は、目を覚ましたの」
「気絶していただけ?」
「そう。その猫を、ゲー先生が治療して、今は、病院の折の中で、疲れ切って眠っているよ」
 良かった。
 人間との闘いで亡くなった猫は、ゼロ。
 あたしたちの完全勝利で幕を閉じた。

 あたしも疲れた。猫ヶ森《ねこがもり》で休もうかと思ったとき、
「あれ?猫ヶ森《ねこがもり》?」
と、大事なことを思い出した。
「しまった!クリスマス・プレゼント、まだ、四つしか渡してない!」
 もうすぐクリスマスの夜が終わる。この島には、何千匹もの猫がいるのに、今から配ったんじゃ、間に合わない。
 あわてて、クリスマス・プレゼントを隠した場所へ急行した。
「無い!」
 探しても探しても、隠したはずのクリスマス・プレゼントが見つからなかった。
「なぜ?」
 訳が分からず、ボーッと棒のように突っ立っていると、どこからかアメリカンショートヘアのショーが姿を現し、
「大丈夫。私が配っておいたから」
と微笑んだ。

「ショー!あんた、どこへ消えてたの?こちとら、大変だったんだから」
「ああ、知ってるよ。とても忙しそうだから、君の分のパワーキャンドルも配っておいた」
「どういうこと?」
「私も、君と同じで」
「同じ?」
「サンタクロースの代理で、プレゼントを渡すように頼まれたんだ」
「え!」
と驚いたのは、うしろを付いてきた黒猫クーだった。
「サンタクロースの代理?」
「そうだよ」
「サンタクロースって、本当にいるの?」
「この世には、いない。あの世に、いるんだ」
「あの世から来るの?」
「年に一度のクリスマスに、ね」
「そうだったの」
「私と三毛猫ミーも、サンタと一緒に、天国から来たんだ」

最終25話へ続く

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