【女3人、無頼旅 1】

 

【カナンRPG小説 さむらいの妻 1】

話は知るため、語るため……。

 このおはなしは、「石と呪いのファンタジー」世界を舞台にした、『カナンRPG』を実際にプレイした様子を、おはなしふうに書き起こしたものです。

 登場するキャラクターは、実際にプレイしたキャラクターそのままではなく、このおはなしのためのキャラクターなんですが、プレイの様子は実際のものをもとにしています。……まあつまりは、実際のプレイの様子とはちょっと違うかもしれないですよ、ということです。
 今回登場するのはこの3人。

●シグサ(♀)
 ふたつ名は〈荒ぶる頭〉、音楽好きの24歳。
 カナン中の音楽を楽しみたくて旅しているとは本人談。

●モモシル(♀)
 ふたつ名は〈青きまなざし〉。
 猪突猛進、なにかというと敵を作る、負けん気の強い18歳。
 腕っ節に覚えもないくせに、トラブルを起こす。

●コズ(♀)
 ふたつ名は〈大河の母〉。
 おせっかいで男好きの19歳。
 人当たりがよくておっとりして見られるが、実は3人の内でいちばんの長刀の使い手。

 こんな女の3人旅、いったいいかがあいなることやら……。

※RPGについて詳しい方へ。
 『カナンRPG』は、「石と呪いのファンタジー」世界、カナンを舞台にしたファンタジーRPGです。
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【さむらいの頼みごと】
「ひとつ頼まれてほしいのだが」
 さむらいは席に着くなりそう言った。
 さむらい……だろう。ずいぶんくたびれてはいるが、脇の膨らんだズボンはさむらい風だったし、その物腰もいかにも武家、といった感じだったから間違いないだろうとシグサはあたりをつけた。
 ただ、その装束はずいぶんと流行遅れだ。遅れ、というより「昔風」と言ってしまった方がいいだろう。少なくとも都会の流行とは無縁の生活をしているらしいことは想像がついた。
 旅の途中の寂れた宿場の居酒屋でのことだ。
「頼みごと、ですか?」
 いきなりなにを言い出すんだよ、あんたは。という顔でモモシルが聞き返す。この娘はいつもこんな調子でなにかにつけて挑戦的だ。
「いったいどんなお頼みごとがあるとおっしゃるんです? 私たちでできることならいいんですが……」
 3人の中ではいちばんひとあたりのいいコズがあとを引き取った。
 あたりが柔らかいので、人柄もいい、と相手はたいてい誤解するが、実はそうでもない。いまだってモモシルが挑発するような言い方で最初のひとことを切り出すのを待っていたのだ、とシグサは思っている。自分だけいい子になろうとするのは彼女の本能みたいなものなのだ。
 一方さむらいの方の答えはそれはそれでモモシルと変わらないくらいぶっきらぼうなものだった。
「できぬということであれば、ほかを探すしかない。……引き受けてくれようか?」
「え、いやそう言われましても……」
「まずは頼みごとってのを聞かせてくださいな」
 シグサに言われて、さむらいはようやく自分が先走っていたことに気づいたようだ。
「これはあいすまぬ。頼みというのは、ひと探しだ。我が妻に仕える侍女を探している」
 3人は顔を見合わせた。
 さむらいの頼みはこうだ。やんごとない身分の妻のために、侍女を募っている。成人前後の若い娘をひとり探してきてほしい、と。
 そのほかいくつか条件がつけられたが、だれでもいい、というほど楽な条件ではないものの、それほど難しい人探しでもなさそうだ。
「多くはないかもしれないが、謝礼もこのとおり、用意してある」
 さむらいは懐から袋を取り出した。
 卓の上に載せられた音からすると、中身は貨幣。それもけっこうな量だ。
「もし引き受けてくれるというなら、これを前金で渡そう。日限は3日。3日後にこの場所に侍女をつれてきてくれ」
 結局、あまり迷わず3人は依頼を引き受けることにした。路銀はいくらあっても困るということはないのだし、依頼自体もそれほど難しいこととは思われなかったからである。とくにコズが積極的だったのは、さむらいが男前だったからだろう。年齢が折り合えば、自分が侍女になると手を挙げたに違いない。

 さむらいが立ち去った後、3人は店の主人に聞いてみた。
 50がらみの店の主人は、3人の質問に、
「年頃の娘? ここにはそんなものはいないよ」
 とこれまたぶっきらぼうに答えた。
 3人にもう少し想像力があれば、主人の苦虫を噛み潰したような物言いが、単に人付き合いの下手さからくるものではないということに気づいたかもしれないし、また、さむらいと3人が話をしていたとき、ちょうど店の主人が席を外していたことにも気づいたかもしれない。
 いずれにしても、このときの3人は、依頼を果たそうとするあまり、こうしたことに気が回らなかったのである。
 前金を持ち逃げしようとしなかったのは立派な心がけではあったのだが、あとになってそうしておけばよかったとコズなどはため息をついたものだ。

 さして難しくない。
 と思われた依頼は、最初からつまづくことになった。
 居酒屋の主人が言っていたとおり、小さな宿場町を探しても、依頼の条件に見合った娘はもちろん、子供の姿も見つからなかったのである。
「どうも辛気くさいと思ってたら、この宿場にはじいさんとばあさんしかいないじゃないの」
「流行病にでもやられたか?」
「それなら、お年寄りがまずやられるでしょうに」
「そりゃそうか」
「まあ、これだけ若い者がいないなら、宿場もさびれるわけよね」
「ほかをあたろう、ほかを。3日しかないんだぞ」
「確か、昨日通りかかった村はけっこうにぎやかだったよね」
「それだ! あそこなら、あのおっさんの気に入る娘もいるだろう」
「おっさんて……だいいち、あのおさむらいが気に入っても、奥様が気に入ってくれなきゃしょうがないんだけどね……」
「それはいま言ってもしょうがないでしょ」
「まあね。じゃあ昨日の村まで歩き通しで半日以上かかるわ。多少休みをいれれば、一日がかり。だから往復で1日ずつとられるとして……」
「村で人探しができるのは、1日か」
「そりゃ急がないと。さあ、いこう!」
 モモシルが早くも街道への道を歩き出す。あとのふたりもすぐにそれに続いた。

【4人の少女たち】
「なるほど、そういう娘なら我が村に何人か心当たりがございます」
 最初3人を胡散臭そうに見ていた村長は、コズの話でそんな具合にうなずいた。その前にモモシルがおおざっぱすぎる話をして、追い出されかけたあとのことである。
「……やっぱあんたは交渉ごとには向いてない」
「これでも、宮仕えしたことがあるんだぞ」
「いま旅暮らししてる理由がわかるわ……」
 村長の声がかりで4人の娘たちが集められてきた。
 10歳から15歳の、それぞれに顔立ちの整った娘たちである。村長によれば、やんごとないところと言葉を交わしても失礼にならない程度には人当たりがよいし、料理など身の回りの世話もできるという。
 ただ、いかにも旅人風の3人の女たちを前にして、村を離れなければならない奉公仕事にかなり不安を抱いているらしい。
「まあここはあたしに任せておいて」
 小さな棒状の道具を手にしたシグサが前に進み出た。
「お、出たな」
「いきなり歌い出すなんて、紙芝居みたいよねえ」
 4人の娘たちを前にして、シグサはその棒を口元にあてるようにしながら歌い出したのである。
 いきなり歌い出すなんて、ふつうに考えればうさんくさいもいいところだと思うのだが、シグサの歌はどうもふつうとは違うようで、村長も娘たちも歌声にすっかり聞き入ってしまっている。
「さすが神器……!」
「しーっ」
 コズがモモシルの口を慌てて押さえる。
 どうもシグサの歌が素晴らしいというより、彼女が手にしている短い棒になにか秘密があるらしい。
 ともあれ。
 シグサの歌声に、少女たちの心もすっかりほぐれたようだ。
 ひとりでも侍女候補を連れて行けば、義理が立つ、と思っていた3人だが、この歌のおかげで結局4人とも宿場まで連れて行くことになったのだった。

 つづく!

【ゲームテーブルから】
 ここからは解説です。
 『カナンRPG』のルールについて、ある程度知っているひと向けに書かれていますのでご了承ください。

 実際のゲームをもとにおはなし風に書き起こすと、いかにもそれぞれの出来事が唐突な感じがします。
 が、実際の物事というのはこんなふうに散文的なものなんでしょう。なかなか物語らしくはいかないものです。
 それぞれの場面では、単純な会話以外には、キャラクターはそれぞれ技能判定をおこなっています。
 村長と最初に会話したモモシルは、〈上流社交〉に失敗。
 続くコズが「だいじなもの判定」までもつれこんでなんとか成功したおかげで、村長に口利きを頼むことができました。
 最初の段階で、「各候補少女への交渉は1度ずつ」と制限をつけたため、できるだけ判定時のダイスを増やそうと皆いろいろ工夫した結果です。
 村長の口利きで、少女たちとの交渉時、ダイスが1個増えています。
 さらに最後に登場した、シグサの歌はえらく唐突ですが、以前のシナリオで手にいれた「だいじなもの」の特別な効果です。
 旅の経験が、思わぬところで役に立ったというわけです。マスターもこんなところで、この「だいじなもの」が使われるとは思っていませんでした。

 こうして4人の候補をさむらいのもとへ連れて行くことになった一行ですが、はなしはこの先意外な(そうでもないかなあ)展開を迎えることになります。
その2へ続く

テキストの舞台となっている架空世界カナンについては http://imaginary-fleet.sakura.ne.jp/ca/main.html こちらのサイトをご覧ください。
これからもカナンの情報はじわじわ増えていく予定です。
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