『ハランクルク 帝国の盾と異教の町』前編

【はじめに】最新2015年9月5日更新
 「ハランクルク、それは多脚歩行万能ビークル。人々の働く力であり、そして戦う力」
 このおはなしは痛快活劇メカアクション小説の第2話、前編になります。一応ここからでもおはなしについていけるとは思いますが、よろしければ第1話『帝国の盾と辺境領の姫』もお楽しみください。
 この第2話前編は、無料で全文を読むことが可能です。
 後編は冒頭部のみ無料、すべて読むのには課金をお願いする予定です(予価400円)。


【00 前回まで】
 大きな腕は岩をも砕く。
 力強い足はどんな獣よりも速く大地を駆ける。
 その乗り物はハランクルクと呼ばれた。
 ハランクルクは人を乗せ荷物を運び、やがて文明を興し、巨大な帝国建設の原動力となった。
 それからさらに長い年月が過ぎた、第3神聖紀6021年。

 リガ教団の追手から辛くも逃れた辺境領スドノウレの姫ケイミレライは、帝国軍の救援を請うべく、唯一の助力者、かつての英雄ナミカゼとともに北を目指していた。


【01 キャラバン襲撃さる】
「ああも近づかれるまで気づかなかったとは、なんのための見張りだ」
 毒づきながらカヒッサは機体に信号竿をかかげさせた。ハランクルクの手に高々とかかげられた竿の先端に信号内容を伝える模様の旗がひるがえる。それを見れば、キャラバンの僚機がカヒッサの命令を受け取れる仕掛けだ。
 その命令を受け、一斉に、とはいかなかったものの、一群となって進む大小のハランクルクが走行速度をあげる。速度を上げ遅れた操縦者の何人かは後方に気を取られていて、信号を読み取るのが遅れたのだろう。こんなときに無線通信機があれば、と思うが、普段かつかつで経営しているキャラバンにそんなものは高嶺の花だ。
 賊が彼女のキャラバンを襲撃してきたのは街道の上。隊列を先導していたカヒッサから直接は見えなかったが、機関銃の射撃音は聞き間違えようがない。操縦席から振り返ってみれば、街道の盛り上がった斜面のすぐ近くに賊のものらしいハランクルクがちらと見えた。
 ちょうど丘がちで、視界のきかないあたりを狙って襲ってきたのは向こうも考えてはいるが、しかし普通ならすぐさま帝国軍の巡察隊に発見され、蹴散らされてしまうところだ。だからこその街道なのである。
「それがこうも堂々と襲ってくる! 噂には聞いてたが……メードってところは……!」
 カヒッサは信号竿を手持ち砲に持ち替えながら、並んでキャラバンの先頭を走っていたハランクルクに機体を近づけ、叫ぶ。
「先導を頼む!」
「棟梁は?」
「時間を稼ぐ! 先にいけ!」
 叫び返す声に応えながら、カヒッサは機体を180度転回させ、キャラバンと逆走するかたちで速力を上げる。途端、後方で大きな爆発が起こった。
「榴弾か、噴進弾か。まさか地雷?」
 爆発が地雷なら待ち伏せを受けた可能性を考えなければならない。いつでも撃てるように手持ち砲を前方に向けながら、カヒッサはさらに速度をあげた。
 キャラバンのハランクルクはすべてスゥサ、つまりは乗用、運搬用、作業用の「戦闘用でないハランクルク」ばかりだった。荷物の運搬が仕事のキャラバンであるからそのほとんどが運搬用のスゥサということになるのだが、それはとりもなおさず、機関銃弾で簡単に撃ち抜かれてしまうごく薄い外装しかもっていないことを意味している。砲弾だの地雷だのを喰らえば簡単にばらばらになってしまうということだ。そうでないハランクルクは純粋に戦闘用に作られたカイラーナと呼ばれる機種だけだ。高出力で重装甲、しかし民間人が簡単に手に入れられる代物ではない。カヒッサの乗るハランクルクももちろんスゥサだった。
 荷物を満載した鈍重なハランクルク──スゥサがすれ違っていく。スゥサは大きさによって出力が異なっていて、一般に大型のものほど出力に余裕があるものの、機体重量と出力のバランスは実はほとんど一定している。そのために、最高速度は機体の大きさが違っていてもあまり変わらない。さすがに敏捷性には差があるものの、まっすぐ走る分には、高速走行に特化した機種を除けば、50ムグルク級の機体でも、200ムグルク級の機体でもそれほど速度に差は生まれない。
 とはいえ。荷物を積んでいる分、キャラバンのハランクルクたちがあまり速度を出せないのには違いない。ろくに武装していないキャラバンのハランクルクが賊から逃げ延びるにはその速度が問題なのだが。
「ええい、軍はなにをやっているんだ!」
 カヒッサの機体がキャラバンの最後尾を抜ける。その機体の脚が止まった。
「な……なんだあれは」
 午後の日差しの中、黒煙をあげて燃え上がっている爆発跡が、思わず彼女の足を止めさせたのだ。
 燃え上がっているのは、ハランクルクだった。
「なんで……」
 目探しすると、キャラバンの護衛に雇っているハランクルクたちがひとかたまりになって、じりじりと機体を後進させている。背中合わせに円陣を組むようにして全方位に銃口を向けている様子は、なにかに怯えているみたいだった。
 なにか異常なことが起きている。
 本来キャラバン護衛のハランクルクは、互いに距離をとって、襲撃者に対しての防御線を引く役割を担わなければいけない。大型砲の一撃で全滅してしまわない……つまり自身の生存率をあげるためにもそれは基本の行動だ。
 カヒッサが雇っている護衛たちは、それがわからないほどの素人ではないはずだった。それが、密集して……
「怯えている? 何に?」
 と、目探しし始めたところで、カヒッサは左手に動くものを見つけた。ハランクルクだ。大きく盛り土された街道の斜面を両手両足を使って登ってくる。速い。
 1機だけでどうするつもりだ。
 とカヒッサが思った瞬間、彼女の背後から猛烈な火線が斜面をちょうど登り切ったハランクルクに降り注いだ。
 狙いも何もあったものじゃない、なりふり構わない連射。
 ひとかたまりになっていた護衛のハランクルクたちの射撃だ。
「なにをやってる! あたしまで殺す気かっ!」
 慌てて機体を横に移動させ、射線から距離を取るカヒッサだが、銃撃はさらに続いている。
 雨のように降り注ぐ銃弾の中、穴だらけになりながら、驚いたことに賊のハランクルクはまだカヒッサの方に向かって進んでくるではないか。カヒッサも慌てて砲を構え直した。背後の護衛たちがなにか叫んでいるが、銃撃音がうるさ過ぎてなにを言っているかわからない。
 まるで効果がないのかと思われた銃撃だったが、ついに近づいてくるハランクルクは動きを止め、がくん、とその場に擱座した。
 途端。
 ハランクルクが閃光を発した。
 すくなくともカヒッサにはそのように見えた。
 次の瞬間猛烈な衝撃が襲いかかり、同時に炎が視界を覆い尽くした。

【02 おじさまと姫】
 連なる丘の向こうに、小さくハランクルクの群れが見え隠れする。北へ向かうキャラバンだ。
大小のハランクルクが間延びした長い列を作っている。30機はいるだろうか。キャラバンは帝国全土をつなぐ流通の動脈である。地域の生産物が集積される都市からまた別の都市へ、荷物を満載したハランクルクたちがこうしたキャラバンを作って行き交っている。無数のキャラバンは帝国という巨大な生き物の体を流れる血のようなものだ。
 ケイミレライは揺れる操縦席の中から双眼鏡でその様子を観察している。
 巨大な生き物といえば、そのキャラバン中には俗に「巨象」と呼ばれる超大型のハランクルクも混じっていた。
 伝説上の生き物がそのあだ名のもとになっているというが、その生き物にも脚が4対──8本もあったのだろうか? ケイミレライは視界の中にキャラバンを追いながらそんなことを思った。
「おじさま。あのキャラバンに便乗させてもらうというわけにはいかないんですか?」
 走行中のハランクルクの上の揺れる視界に酔ってしまう前に、双眼鏡から目を外して、彼女は操縦席の男に声をかけた。しかしハランクルクを操る男はむっつりと黙ったまま前方を睨んでいるばかりで、彼女の言葉に応える様子はない。
 年齢は50をまわっているだろうか。短く刈り込んだ髪の頭頂部はだいぶ頭皮が透けて見えてきている。
(お父様はだいぶ気にしてらして、いつも帽子をかぶってらっしゃったっけ……)
 だが、彼女の父親と操縦席の男が似ているところといえばそのくらいだ。がっしりとした体格、岩を削りだしたような顔立ち。もともとは同じくカイラーナを駆っていたというが、彼女の父親は目の前の男よりもずっと線が細く、貴族の血の濃さを感じさせる男で、歳もだいぶ若い。
 その父親と比べると、操縦桿を握っているのは無骨を絵に描いたような男だ。
 男は相変わらず黙ったままハランクルクを操っている。
 もともと口数の多い男ではないらしいのだが、ケイミレライは自分の言葉を無視されて黙ってしまう少女ではない。
「おじさまも道連れがいたほうが、追っ手の目を逃れやすいっておっしゃっていたじゃないですか。ここからなら追いつけそうですけど……」
 正反対、というわけではなかったが、ふたりの乗ったハランクルクは逆の方向へと向かっていたから、キャラバンは徐々に遠ざかっていってしまっていた。かなりゆっくりとした速度で走行しているこちらと比べると、キャラバンの方の速度はかなり速かった。
「あれくらいの速度なら、ボウヒドまでたどり着くのもかなり早そうですが……おじさま? ねえ、おじさま!」
 繰り返して呼びかけると、ようやく男が反応を示す。
「それが問題なんだ」
 操縦席の男……ナミカゼは、ひどく苦い茶を飲んだような表情を浮かべて、それからケイミレライの方を振り返りもせずに答えた。
「どういうことですか? 私たちは一刻も早く帝国軍の支援を得て、スドノウレに戻らなくてはいけないことはおじさまにもおはなししたはずです。そもそも、軍の駐屯地があるボウヒドはあのキャラバンの向かっている北ですよ? いま向かっているのは全然違う方向なんじゃないでしょうか、おじさま。それにどうしてそもそもこんなゆっくりした速度で……私を助けてくださったときには、あんなにすごい速さで走ったではないですか。ねえ、おじさま」
 畳み掛けるケイミレライに、ナミカゼはううとうめいた。
「頼む……そのおじさま、というのはなんとかならんか、姫」
 ナミカゼがずっと不機嫌そうな顔をしていた理由をようやく突き止めたケイミレライはむっとして年かさの男を睨んだ。
「大武侯とは呼んでくれるな、と言ったのはおじさまですよ? ほかにどうお呼びしろというんですか、おじさま。それに、まだ私の質問にもおじさまは答えてくれていません。どうなんですか、おじさま」
 ケイミレライの「おじさま」の連呼に、ナミカゼはついに降参してため息をついた。
「理由は、ある」
「どんな理由ですか?」
 これまで無視された分、ケイミレライの追求に容赦はない。しぶしぶナミカゼは言葉を続けた。
「ひとつには……力素管の残りが少ないこと」
「力素管が? そんなに?」
 駆動鋼と呼ばれる金属が、生き物で言えば筋肉のような役割を果たすことによってハランクルクは動いている。その駆動鋼に動力を供給しているのが力素管だ。生き物で言えば食べ物にあたるだろうか。この力素管からのパル力素の供給がなくなってしまえば、ハランクルクは動けなくなってしまう。
 ナミカゼはうなずいた。
「前の戦闘で、積んでいた分はほとんど使い切って残りがない上に、クセドへ戻らないまま来てしまったから……」
「キャラバンのひとから分けてもらうわけには……」
「そのために速度をあげたら、力素が保たない」
 ハランクルクに通常より激しい行動をさせた場合、力素の消費は通常よりもずっと大きくなる。ケイミレライもハランクルク操縦の訓練を受けた身だ。ナミカゼの言う理屈は理解できた。追手がある身だというのに、ナミカゼがハランクルクの速度をあげようとしないのもそれが理由だったのだ。
「ではあのキャラバンは見送るしかないんですね」
 未練げに振り返るが、キャラバンはもう最後尾が丘のむこうに見えるだけ、という程に遠のいていた。
「メードに着けば、力素管も手に入る」
「メード」
 ケイミレライはナミカゼの言った町の名を繰り返した。地方出のケイミレライに、この地方の町の名は馴染みがないはずだったが、どこかで聞いたことがある気がした。

【03 少年たち】
「2機も! 2機も失くしただと! それでなんの成果もありませんでしただと? ふざけるな!」
 コムギィは2発目の拳をエッシベッシに見舞った。1発目はこらえた少年も、身長で5カタムは大きい男の拳の威力に、ついに弾かれるように床に転がった。
 部屋を圧する怒気と暴力の空気に、その場にいた少年たちは立ち尽くすしかない。コムギィはまだ子供から半歩出たばかりのこの場の少年たちに対して、たったひとりの大人であったし、むろん、上位信徒であるコムギィに逆らうのは信仰上もできない相談ではあったのだが、なにより本能的な恐怖が彼らの身体を縛っていた。
 それでも、殴られたエッシベッシは負けず嫌いの性格が先に立つ。ほとんど無意識のうちに立ち上がろうとしていた。少年にしてみれば、床に這いつくばっているという自分自身が許せないのである。立ち上がればまた殴られるかもしれない、という思慮は、年若い少年の場合、立ち上がって、そして再び殴られたそのあとで浮かぶものだ。
 体を起こしてなにか言い返そうとするエッシベッシより先に、コムギィがさらにまくし立てる。
「お前たちにハランクルクを預けているのは、信仰心の強さを買ってのことだ! それがなんだこの結果は!」
「相手が……強かったから……」
「違う! お前たちの信仰心が足りないってことだ!」
 殴られた頬のあたりをおさえながら言うエッシベッシにコムギィが決めつける。
「信仰心が足りないから、大事なハランクルクを2機もなくすことになる……!」
 言いながら、コムギィがさらにエッシベッシに殴りかかろうとした時、別の少年の声が割って入った。
「取り消せ」
「なん……だと?」
 一方的に怒鳴りつけ、押さえつけることに馴れた上級信徒の耳は、この小さな声を聞き逃しはしなかった。
「いま言ったのはスモージ、おまえか」
 睨みつけるコムギィに、少年は明らかにひるんだようが、それでも男の問いにぎこちなくうなずいた。
「ゴシとソウブも、命をかけたんだ……っ、そんなこと言われる筋合いは……ないんだっ」
 エッシベッシよりもさらに小柄な少年──スモージの言葉にコムギィがひるんだ、あるいは戸惑ったとしても、それは一瞬のことだ。
 この街での信徒の束ねを任されている男は、彼にとって、言葉よりもずっと手っ取り早い手段に再び訴えた。
 この一発目の拳でスモージはあっさり吹っ飛んだ。完全に宙に浮いていた彼の身体は、末端の信徒が座ることを許されていない椅子にぶつかり、そして絡みあうようにして床に転がる。
 悲鳴があがった。
 少年たちの中の唯一の少女、レーフのあげた悲鳴だ。
 この悲鳴にコムギィはさらに興奮したのか、けだものめいたうめき声をあげながら、スモージに襲いかかっていった。

「痛かった? ごめんねっ」
 まだ赤い目をしたレーフは、スモージのうめきに濡らした布を持った手を慌てて引っ込めた。スモージはなにやら口を動かしたものの言葉らしい言葉を発することはできない。口の中も切れていたし、顔も殴られたところが腫れあがって、とてもしゃべるどころではないのだった。
 結局、平気だ、と返事する代わりに手を軽く振ってみせたのだが、その動作も痛みでひどくぎこちないものになってしまう。
 しかしレーフにはそれで充分通じたようで、うんとうなずくと、少しでも腫れた部分を冷やそうと、さっきよりも慎重な手つきで濡れた布をあてがっていった。
 朽ちかけたハランクルクの部品が積まれた集積所の一角、それが彼らのたまり場だった。
 スモージ。レーフ。エッシベッシ。そしてカトシオ、エーミット、ミミジオの6人がそこにいた。今朝まではさらにゴシとソウブもいた。
 彼らエッシベッシを頭とする若いリガ教徒の一団は、いつもここに集まって語り合うのが常だった。けれど半年前までは12人いた仲間も、いまでは6人にまで減ってしまっている。かつてはリガの教えについて熱く語り合った彼らもすっかり口数少なになった。
 コムギィに殴られたところをレーフに冷やしてもらっているスモージに、カトシオが言った。
「かっこつけるからそんな目に遭うんだぜ? あいつが言い返されるの嫌いだってわかっててやってるんだから、〈刺亀捕りに裸足で出かける〉ようなもんさ」
 本体のないハランクルクの腕の上に、カトシオは足を組んで座っている。
 仲間への口のききようといい、こういうやり方がかっこいいと思っているのだが、それをどこまでも貫けるほどの自信があるわけでもない。だから、真剣な怒りを浮かべてレーフが睨み返してきたときには、思わずかっとなってしまっていた。
「なんだよっ、本当のことだろ? レーフ!」
「それでもスモージはゴシとソウブのためにコムギィ様に言い返してくれたのよ!」
 レーフも言い返す。ことスモージのこととなると、レーフがかっとなりやすいことをレーフ自身とスモージ以外は気づいていて、最年少のミミジオと一番身体の大きなエーミットは「またはじまった」と顔を見合わせた。
「今日だって、異教徒の攻撃でエッシベッシのハランクルクが動けなくなった時、真っ先に助けに行ってくれたのはスモージだわ! そんときカトシオはなにしてたのよ!」
「え……援護射撃…………」
「カトシオ……」
 明らかなカトシオの言い訳に、諭すようにエーミットが口を挟んだ。仲間内でいちばん大柄な彼は、なにかとぶつかりがちなこの若い小集団の緩衝材のような存在だった。その彼に割って入られて、カトシオはぷいと横を向いてしまう。
 むろん、自分の言葉がその場で口をついて出た言い訳にすぎないことはカトシオ自身もよくわかっていた。しかし今更撤回するのも「格好わるい」からできない彼だ。
 レーフもエーミットが間にはいってくれて、それ以上カトシオに食って掛かるのはやめたものの、こと話題がスモージのことだけに、なかなか感情を収められない。まだ怒りのこもった目で向こうを向いたカトシオのことを睨みつけている。
 結局その場を収めたのは頬を腫らしたエッシベッシの言葉だった。
「俺の責任だ」
 エッシベッシは皆の中央に立って、全員を見回し、それから続けた。
「俺がどじを踏まなければ、ソウブもゴシも無駄死にせずに済んだんだ。あいつらの信心を無駄にしちまったのは俺の責任だ」
 スモージがなにか言いかけたが、やはり痛みのために言葉にならず、エッシベッシも「なにも言うな」と首を軽く振ってみせた。
「スモージにも迷惑かけたな。おまえのお陰で命拾いしたし、おまえがコムギィさんに言ったことだって、本当なら俺が言わなきゃいけなかったことだ。ありがとうな。今日はいったん解散して身体を休めてくれ」
 そう言ってひとり先に歩き出す。積み上がった残骸が迷路のようになった影に消えた彼のあとを、小走りにミミジオが追っていく。最年少の彼にとって、エッシベッシは憧れであり、いつも彼のあとをついて歩いているのだった。
 そしてカトシオが、さらにエーミットが立ち去る。
 レーフはスモージの介抱を続けるつもりだったようだが、スモージの方が少女の身体を押しやった。
「もう大丈夫だから」
 ようやっと、という感じで声を発した少年にまだ少女は不安そうだ。
「でも……」
「行けって。俺もあとちょっと休んだら行くから」
「う、うん」
 少女が未練げに何度も振り返りながら残骸の間に歩き去ったあとも、スモージは長いことその場に座り込んでいた。

【04 メードの町】
「ああ、どこかで聞いたことがあると思っていました。あれがメードの町。ハランクルクの工場があるのですよね」
「知っていたのか、姫」
「地誌で学びました。たいしたことを知っているわけではありませんが、このあたりでは唯一のハランクルク工場なのでは」
 高台から見下ろすふたりの眼下にメードの町が広がっていた。
 大きく湾曲する川の両岸に並ぶいくつかの大きな建物が、ハランクルクを生産している工場群で、その周囲に広がっているのが市街地なのだろう。
「そのとおりだ」
 ナミカゼがうなずく。
「ここなら力素管も手に入るだろうし、機体の修理もできるだろう」
「ひどくやられたのですか?」
 ケイミレライは意外そうな顔をした。追手のハランクルクたちとの戦いは、彼女の見る限り圧倒的で、ナミカゼのハランクルクが損傷したとは思われなかったからだ。
「こいつは装甲していないからな。機銃弾はもちろん、飛び散った破片も防げない。あちこち穴が開いているのを見ただろう。駆動鋼がだいぶやられている」
「ああ……」
 ケイミレライは操縦席から身を乗り出して、改めて自分の乗っているハランクルクを検分する。
 褪せた乳白色の外装板には、ナミカゼの言うとおり、たしかに幾つもの黒い穴が開いてしまっていた。丸や楕円に開いているのは、機銃弾の跡だろうか。それよりもぐっと多いのが、かぎ裂きのようになっている大小の穴だ。これはきっと砲弾の爆発の破片が開けた穴なのだろう。
 その様子を確認してみて、ケイミレライは忘れかけていた疑問を思い出した。
「おじさま。このハランクルクはいったいなんなのです?」
「なに、とは」
 相変わらずまともに答える気がなさそうなナミカゼに、ケイミレライは食い下がる。
「あのリガ教徒たちと戦った折には、このハランクルクはカイラーナのようでした。いえ、それ以上のものだったと思います。あんなに俊敏に動けるカイラーナを私は知りません。むろんスゥサにはあんな動きはもっと無理です。でもカイラーナなら、分厚い装甲をまとっているものです。それが砲弾の直撃を受けたわけでもないのにこんなに穴だらけになって……。そもそも、この機体、戦っていた時と、機体のかたちが変わっているように思います。これは私の記憶違いでしょうか?」
 少女の質問に、ナミカゼはうーんとうめいた。そして結局機械換装した右手で顎をかきながら、
「答えるのが面倒くさい」
 とつぶやいた。
「もしや、このハランクルクにはなにか重大な秘密でもあるのですか? それならあえてお聞きはしませんが……」
 もともとは帝国軍で大武侯の位にあったナミカゼだ。その彼が操るハランクルクに、軍事機密の類が隠されていたとしても不思議ではないとケイミレライは思ったのだ。だが、返ってきた言葉はまたしても意外なものだった。
「いや、そういうことじゃないが……話すと、長くなる。……面倒なんだ」
 しばらくナミカゼの横顔を見つめて、どうやら本当に面倒なだけらしいと理解したケイミレライは、ため息をついて、再び近づいてくるメードの町に視線を向けた。
 立ち並ぶ建物は、彼女がナミカゼと出会ったクセド同様、平たい屋根の箱を積み上げたようなかたちで、ケイミレライの故郷であるスドノウレの赤い板葺きも鮮やかな斜めの屋根とはまるで見かけが異なっていた。
 いったい今頃、故郷はどうなっているだろうか。
 重臣ベイの反乱でリガ教徒に奪われた故郷スドノウレ。その領主である父ゼキスの身が案じられた。
 これまでのリガ教徒の成した行為を思えば、その身が無事であるかどうかは怪しいものだ。だが、いまの彼女には無事を祈ることしかできない。
「使命を、果たさなければ……」
 一日でも早く帝国軍を故郷に連れ帰り、故郷をリガ教団から取り戻すのだ……。
 ケイミレライが自分の思いに沈み込んでいると、不意にハランクルクが止まった。
「おじさま?」
いつの間にか建物がもうすぐそこに見えている。もう町の入口に辿り着いたのだ。
「修理工場にいかなければ。それから今日の宿も……」
「あてはあるのですか?」
「工場の方は」
「では、宿の方は私が探します」
「大丈夫か?」
 いかにも信用していない、という顔のナミカゼにケイミレライは思わず言い返す。
「もしかして私をなにもできない姫育ちと思ってらっしゃいます? ハランクルクの操縦だってできますし、宿探しくらい簡単です。……やったことはありませんが」
 少女の答えにナミカゼは小さくうめいたが、確かに手分けをしたほうが効率がいいと結論したようだ。
「では宿が見つかったら、トルゼットの工場に来てくれ。俺はそこに向かう」
「わかりました」
 こうして、ふたりは市街地に入ったところでふた手に分かれることになった。

【05 ケイミレライの受難】
 しかしナミカゼと別れて、ほどなくしてケイミレライの自信はあっさり打ち砕かれることになった。
「いったいどれが宿屋なの? それとも全部違うのかしら」
 故郷スドノウレであれば、宿屋は見てすぐそれとわかる玄関口をしているものなのだ。ところがこのメードの建物ときたら、どれが単なる住居で、どれが商売を営む店なのか区別がつかない。あるいは全部店なのかもしれないが、だとしてもどれがなにを商っているのかまるでわからない。小さな窓と頑丈そうな扉の建物は、全部同じにしか見えなかった。
 誰かに聞いてみようにも、メードの町は閑散としていて、ほとんど人通りがない。時折ハランクルクが通りかかるが、声をかけられるほどのんびりした速度で歩いているハランクルクには出会わなかった。
「ハランクルクを作っている町なんだから、もっと賑やかかと思っていたけれど……こんなものなのかしら」
 しっかりと閉じられた扉のひとつを開けて道を聞くのもなんとなくはばかられる。
 ケイミレライは途方に暮れた気分で、メードの大通りをとぼとぼと歩いて行った。
 このときのケイミレライは、メード周辺で度々キャラバンの襲撃が起こるせいで、行き来するひとがだいぶ減ってしまっていること、さらにはもとからいた住民たちの中にも町を出て行くものが増えていることを知らなかった。そして、メードがかつてそうであったような賑やかさをなくしている理由はさらにもうひとつあったのだが……。
「お嬢さん、なにか探してるのかい?」
 父親よりも年上らしいその男は、明らかに酔っていたから、まさか声をかけられると思っていなかったケイミレライは驚いてしまってすぐに返事できなかった。
「は、はあ、あの……」
 戸惑う間も、男は淀んだ目で彼女の全身を上から下まで何度も見ている。その視線に逃げ出したい気分になりながらも、ここまで宿屋はおろか、商店のひとつも見つけられていないケイミレライとしては、持ち前の責任感が足をその場にとどまらせてしまう。
「実は……宿屋を探していまして」
「宿? よそから来たのか、お嬢さんは。そりゃあちょうどよかった、あんたは運がいいよ」
「はい?」
「やってるんだよ、宿屋。おれがその宿屋をやってんだ」
「やってる……宿屋のご主人ですか?」
「そうそう。それそれ」
 酔漢特有の鷹揚さで男は何度かうなずくと、いきなり彼女の手を握って歩き出した。
「ひっ」
 じっとり湿って熱い男の手の感触が気持ち悪い。
(でも、ほかに宿も見当たらないし……)
 迷いながらも男に引かれるままについていく。
 大通りからすぐに路地のひとつに入り、さらにいくつかの角を曲がると、左右は箱状の建物の壁に囲まれて、空も頭上に小さく見えるだけになって、どんどん周囲は薄暗く、湿気たひんやりした空気に包まれていく。ちゃんときた道は覚えているつもりだが、さらに2回ほど路地を入る頃にはだいぶ怪しくなってきた。
「あ、あの。あの……っ」
 いったいどこまで行くつもりなのか、不安にかられたケイミレライが声をかけたものの、男は聞こえているのかいないのか速度をゆるめず歩いて行く。
 さすがに怖くなってきたケイミレライは、なおも歩き続けようとする男の手を引っ張った。
「どこまで……いくんですか? ほんとうにこの先に宿屋が……」
 バランスを崩しかけた男が、よろめきながら振り向く。
「もうちょっとだって……ああ? それとももう待てないか? まあ俺は寝台の上じゃなくったっていいけどよ」
「はい?」
 意外過ぎる展開に、ケイミレライは完全に不意を突かれた格好になった。
 つかまれていた手を、ぐいと押しやられて、背後に大きくよろめいた拍子に後頭部を建物の壁に打ちつけてしまう。一瞬揺らいだ意識が戻ってきた時には、地面に倒されて乳房をまさぐられていた。
「ひ……っ」
 男が迫る。男の無精髭にはナミカゼで慣れているつもりだったが、間近で見せつけられる酔漢の顔には思わずおぞけをふるった。
「ハランクルクにも乗らずにそんな格好してよう……っ、こうやって稼いでんだろ? 待ちきれないってんならここで……安心しろよ、ちゃんと払ってやるからようっ」
 ケイミレライには男が言っていることが理解できない。どうもひどい勘違いをされたらしいとは思ったものの、声が出てこない。どうにか誤解を解かなければという思いと、怒りと驚きと嫌悪感と恐怖と、とにかくいろんな感情が交錯しすぎていて言葉になってくれないのだ。
「ちが……やめ……や……っ」
 うめきながら男を押し返そうともがくのだが、酔っ払っているくせに男の動きはひどく周到というか技巧的で、ケイミレライの腕に込めた力を受け流し、いなして、逆にいっそう身体を近づけてくる。
「誘ったのはそっちなんだぜぇ」
 酒気を伴ったひどい匂いのする息を間近で吐きかけられて、ようやく彼女も自分に迫っている危機の中身を理解できた。
 だが、理解できたからといって状況がよくなるわけでもない。まだ少女の彼女にとって、男が自分に向けた欲望は、いっそうの恐慌に彼女を陥れただけだった。
「いやっ! いやあっ! やめてっ! やめなさいっ! いやあっ!」
「うへへへ、うえへへへへへっ!」
 生々しい欲望をむき出しに、男の手が乗衣の上から乳房を揉みしだいてくる。固く厚い生地でできた乗衣ごしの接触のおかげで、男の手の感触をそのまま感じはしなかったものの、さっき握られた手の、ぬめったような感触が蘇ってくるから、少女の感じる嫌悪がいささかでも減じるということはなかった。
 どうにかして逃れようとするケイミレライをあざ笑うかのように、男は彼女をその場に釘づけにして、なおも身体をまさぐり続ける。
 やがて、執拗な行為にケイミレライが絶望しかかったとき、急に男の動きが止まり、さらにいきなりのしかかってくる重さが消えた。
 なにが起こったのか?
 それを理解できないでいるケイミレライの頭上から声が降ってくる。
「こんなところでなにやってる!」
「わ、私は……」
 ケイミレライは答えかけたが、どうやら声は自分ではなく酔漢の方に向けられているようだった。
「てっ、てめえっ! この餓鬼、なにしやがる!」
 酔漢の怒声。さらに怒鳴り返す声。
「それはこっちの台詞だ! こんなところで女に悪さをしようなんて、ついにいかれやがったのか!」
 声はくぐもっていたけれど、ひどく若かった。いやその響きにはまだ幼さをさえ感じる。
(──子供?)
「おまえには関係ねえっ、向こう行ってろ! おまえの姉ちゃんがやってたことをやってるだけだろうがっ、文句言われる筋合いは……」
 男の言葉は銃声で遮られた。
 まだ混乱している視線をあげると、そこには腰だめに小銃を構えた少年の姿があった。ケイミレライは逆光気味の少年の顔に「かぼちゃのような顔をしているな」と一瞬思った。
 そんな彼女の思いも再び発した銃声に断たれる。
 一発、二発。
「ひいいっ、ひいいっ!」
 身体を起こして反対側……つまり酔漢の方を見やると、男は地面に尻もちをついて、後退っているところだった。その股間あたりにかすかに土煙が浮かんで、地面にはえぐられた穴が開いていた。小銃から放たれた弾丸が開けた穴だ。
「もういちど言ってみろ。俺の姉さんがなんだって?」
 少年は今度は小銃をしっかりと肩に構え直した。今度ははずさない、という意思表示だ。
 男は悲鳴をあげて逃げ出した。
 追うか、撃つか、と思われたが、少年は男が行ってしまうのに任せ、やがて銃をおろした。
「やっぱりこの町は最低だ……!」
 吐き捨てる少年の顔を、ケイミレライは不思議なものを見る目で見上げたのだった。
(自分の住んでいる町を悪く言う子供……?)

「そういう女性と勘違いされていた? そういうふうに見えますか、私」
 ひどく衝撃を受けたていのケイミレライに、少年は少々慌てぎみに首を振った。
 そのとき初めて、少年の顔が妙に不格好に見えたのは、顔中がひどく腫れ上がっているせいだと彼女はわかった。とはいえ初対面の少年になにがあったのかと聞くこともできない。腫れ上がった原因が何週間も前のこと、ということはないはずだ。たぶんつい1時間かそこら前に殴られるか、ぶつけるかしたのではないだろうか。
「見えないよ。全然。だいたい、歳はともかく、そんな格好の商売女はいないよ。あのじじいには、どんな女でもそう見えるだけさ」
 酔漢の狼藉から救われたケイミレライは、あらためて少年から、酔漢が自分を売春婦と勘違いしたのだと聞かされたところだ。
「そうですか……」
 あからさまにほっとした顔のケイミレライに、少年は今度は気分を害したようだった。ぶっきらぼうに言う。
「で、そんな格好のあんたは、こんなところでなにをしてたんだよ」
「その……宿屋を探していまして」
「このへんにあるのは淫売宿ばかりだぜ? そりゃああのじじいだって勘違いも……」
 今度はケイミレライが慌ててここまでの経緯を説明する番になった。
「なるほど……旅のひとから見ると、この町の建物はどれも同じに見えるのか。そういうもんか」
 ケイミレライの説明にちょっと感心した様子で少年は周囲を見回した。
「だったら俺が案内してやるよ。同じ信……仲間がやってる宿だ。そこならあんな飲んだくれじじいはいないから安心だ」
「え、ええ……」
 受け合う少年は、さっきの酔漢よりはずっとましな人間に見えたものの、一度まんまと騙されてしまったケイミレライとしては、うかつに彼の言葉を鵜呑みにできない気分だ。
「なんだよ。信じないのか? ……まあ無理もないか。嫌ならいいけどよ」
 一瞬だけ迷ってから、ケイミレライは少年の提案を受け入れることにした。
「いえ、やっぱりお願いします。このままではどちらにしても野宿することになってしまいますから。……それはそれでもう慣れましたけど」
「ふうん。……まあいいや。じゃあついてきなよ」
 少年は先に立って歩き出す。ケイミレライは後を追いかけた。

 よろめきながら歩いていた先ほどの酔漢と違って、少年の歩みは颯爽としていたので、ケイミレライは遅れないように早足で歩かなければならなかった。
「意外と……足が、早いんですね」
「意外って、なんだよ」
「いえ。私よりも、背が小さいのに」
「小さいってことはないだろ。……変わんねえよ」
 立ち止まって振り向いた少年はケイミレライを見て、ふんと鼻を鳴らしてまた歩き出す。
(ほんの1カタムくらい……私のほうが大きいと思うけれど……)
 と思ったものの、その感想は口には出さないことにした。どうも自分の発言は少年の誇りを傷つけてしまったらしいと気づいたからだ。
(さっきから、私はなんだか彼を怒らせてばかりいる気がします)
 といって、黙ってついていくのも不安が増す。さっきのようなことにならないためにも、できるだけ少年の素性が知りたい。
 そう思ったケイミレライは別の話題を切り出そうと考えたのだが、それがまた少年の心を刺激する結果になってしまった。
「さっきは、助けてくれてありがとう。でも……あなた、普段はなにをしているの? 子供なのにそんな銃を持っ……」
「俺が子供なら……っ、お前だってそうだろっ。ひとを餓鬼扱いできる歳かよっ」
「あ、いえ、ごめんなさい。それ、普通は持てない銃でしょ。なのに……と思ったものだから」
 全自動射撃ができる自動小銃の民間人の所持は帝国法の禁じるところだ。だが、それが言うほど守られていないことは、姫育ちのケイミレライでさえ知っていることではある。
「な、なんだよ。軍にでも通報するつもりか?」
 肩がけしていた小銃をかばうようにする少年。
「そういうつもりはないけど。でも、そんなものを持ってたら、気になるでしょ? 普段なにしてるのかって」
 だいたい、この界隈に帝国軍のまとまった部隊などいはしない。いてくれれば彼女の旅はここで終わってくれるだろうに。
「なにって……護身用さ。最近は物騒だから」
 少年は馴れた動作で銃を構えてみせた。
「まあ……たしかに。そうみたいだけど……」
 先ほど自分が体験したばかりの出来事を思い出してケイミレライは身体を震わせた。
 宿屋には半クリクほどでたどり着いた。


【06 トルゼットの修理工場】
 ちょうど酔漢とケイミレライが出会った頃には、ナミカゼは目当ての修理工場にたどり着いていたが、こちらはこちらで、思っていなかった状況に出くわしていた。
 薄い波板の壁のめぐらされた工場の建物は、かなり大型のハランクルクでも難なく入れるほど背が高い。だが、その正面入口にあたるシャッターは、いまは降りていて、建物自体、しんと静まり返っていた。
「休業か? この街で」
 メードはハランクルク生産の町だ。近隣のどの町よりも多くハランクルクが集まっているはずだし、修理の仕事だってたくさんあるはずなのだ。なのに、あたりに並ぶ工場も静まり返って、何の音も聞こえてこない。立ち並ぶ工場が揃って休業中だとでもいうのだろうか。
「そういえば」
 とナミカゼは、ここに来るまでの間もほとんどハランクルクとすれ違わなかったことを思い出した。
「ここは本当にメードか?」
 まさか、丘を超え移動する間に道でも間違えたのかと、ありえないはずのことを考えかけた時、建物の脇にある人間用の扉が開いて、中から少女が顔を出した。
 少女、と思ったのはナミカゼの直感だったが、あるいは少年かもしれない。作業着らしいぶかぶかのズボンと、袖なしのシャツ姿。身体にぴったりフィットしたシャツだったにも関わらず、女性らしさを見せる凹凸は見つからなかったからだ。
「あ、おい……」
 しかしナミカゼが声を出した瞬間、すごい勢いで扉が締まって、少女は中に引っ込んでしまう。
「……無人、ではなさそうだ」
 扉まで行って声をかけたものかどうか、ナミカゼが考えていると、再び同じ扉が開いた。
 今度現れたのは、また小柄な女。ただしさっきの少女よりはだいぶ年を食った女だ。
「ああ、すまない。ちょっと修理工場を探しているんだが」
 逃げられないうちに、と慌てて声をかけると、女は腕を組んでナミカゼの方を見た。……というより、彼の乗っているハランクルクを見たのだろう。
「修理工場ならうちもそうだけど?」
「トルゼットの工場を探してきたんだ。知っているかな」
「…………あんたは?」
「知っているのか?」
「トルゼットならあたしのことだよ。で、あんたは誰なんだい。ずいぶん変わったハランクルクに乗っているじゃないか」
「あんたが。すまない、女とは思っていなかったんだ」
「あんたもあのなんとか教ってのの仲間かい?」
 急に険悪になったトルゼットに、ナミカゼはやや慌ててとりつくろった。
「評判だけ聞いていて、男か女かなんて考えてもいなかっただけだ。……なんとか教? まさかリガ教のことか?」
「おや、知ってるのかい」
「まあ知らなくもない。だがしかし、なんで俺のことを奴らの仲間だなんて思った?」
「それはね……ああ、まってくれ、あんたあたしに用があってきたんじゃなかったのかい? そのハランクルクだろ?」
「あ、ああそうだった。こいつの修理を頼みたい」
 トルゼットはあらためてナミカゼのハランクルクを興味深げにみやり、うなずいた。
「中に入れな。いまシャッターを開けてやる。ハッスマー!」
 もしかするとハッスマーというのが、さっきの少女だか少年の名だろうか。名前だけ聞くと少年のようにも思われる。
 疑問は疑問として、音を立てて開き始めたシャッターを前に、ナミカゼは機体を再起動させるため操縦席に身体を戻した。


【07 市長モッダモーダの屋敷】
「今月も、あがりははかばかしくないようだな」
「はかばかしくないようだな!」
「はあ……申し訳ありません」
 いつも市長の言葉を繰り返すだけのドギックを内心で殴り殺しながら、コムギィは頭を下げた。
 メード市の中心部にある豪奢な屋敷。箱状の建物ばかりのメードの中で唯一の第2神聖期ふうの建築の、市長、モッダモーダの邸宅はひどく目立つ建物だ。本来、反帝国を掲げるリガ教徒のコムギィが、帝国の官吏であるメード市長と会見をもつことなど有り得ないことで、この表に出せない会見場として、私邸であるここが選ばれているわけだが、実のところを言えば、なにかというと派手好きのモッダモーダが、メード市に似つかわしい箱状の建物の市庁舎で執務するのを嫌っているからという理由も大きいのだった。
 彼は市長でありながら、まるで市庁舎にいつかないことで知られている。ほとんどの行政業務は下級官吏たちによってこなされているものの、どうしても市長の決済が必要な件に関しては、ハランクルクで5分かかるこの屋敷まで官吏たちがやってくることになっているのだった。
 当然市政が滞る場面は少なくないのだが、メードのハランクルク工場の大半を経営している工場主でもあるモッダモーダの権勢に逆らえる人間などこの町にはいない。
 それならばこの後ろ暗い会見ももっとおおっぴらにしてもよさそうなものではあるのだが、さすがにそこまでしては帝国中央政府に目をつけられかねない……と、モッダモーダにしては、これでも世の目をはばかっているつもりなのである。
 昼間から酒を満たしたグラスを手にしたメード市長は不機嫌に続ける。
「本来取り締まるべきお前たちの活動を黙認してやっているのは、ハランクルク売買の利益があると思えばこそなんだぞ。おかげ信徒の数もだいぶ増えたそうじゃないか」
「増えているようだな! コムギィ」
 再び繰り返すドギックは、モッダモーダにへつらうことだけでいまの地位を手に入れた、と言われる男だ。地位、といっても帝国の定める公式の官位を与えられているわけではないのだが、非公式の副市長ともいうべき立場におさまって、こうしておおいに虎の威を借りている。
「は。おかげさまで」
 再びコムギィは頭を下げた。そうしていないといまにも目の前の骨ばった男に飛びかかってしまいそうだからだ。本来、我慢とか忍耐とかいう美徳とはまったく無縁のコムギィだ。拳の一撃で顔面を砕いてやれる自信もあった。
「おまえたちが格安でハランクルクを手に入れられるのも、私の協力があったればこそだというのがわかっておらんのだ」
 モッダモーダは半透明の酒を口に運んでまた言った。
 そうなのだ。市長がリガ教徒たちに図っている「便宜」こそ、彼が気に食わない腰巾着にまで頭を下げなければならない理由だった。
「いえ、そのようなことは……」
「わかっておらんのだ! この町で荷受けするキャラバンの情報を逐一お前たちに伝えてくださっている市長閣下の尽力を無にしおって!」
 ドギックが畳み掛ける。
「も、もうしわけありません。次回こそは……」
 さらに頭を下げるコムギィに、今度はモッダモーダが答えた。
「そうだな。次はうまくやってもらわなければ困る。そろそろ保険会社の方もいろいろ勘ぐり始めているようだからな。保険会社の雇った傭兵共がやってくるか、あるいは帝国軍の部隊が送り込まれてくる前に、お前たちももう少しはハランクルクが欲しかろう」
「それは……はい。もちろんです」
「次のキャラバンはあさって町を出発することになっている。詳しくはその書類に載っておるから」
 モッダモーダが顎をしゃくると、ドギックがうやうやしい仕草で書類を取り出し、コムギィに手渡した。
「さっさと行け、そしてお前たちの神とやらが欲しいだけハランクルクを手に入れられるよう、しっかり働くのだな」
 自分の視線がドギックを殺してしまわないよう、頭を下げたまま、コムギィは会見の部屋を出た。
「異教徒め、いずれ神罰がくだるぞ……!」
 という言葉は口から出さないままにとどめた。なにしろ、ハランクルクを集めることは、教団上層部からの厳命なのだから。もしも背けば、信徒としての階級の降格、破門さえあるかもしれない。気に食わない者に腕力でいうことを聞かせてきたコムギィもさすがにこればかりはモッダモーダらに頭を下げざるをえないのだった。
「もっと餓鬼どもを厳しく指導してやらんとな。なに、信者は増えているんだ。餓鬼どもの代わりはいくらでも……」
 屋敷を出て、自分用のハランクルクに乗り込みながら、コムギィはつぶやいた。市長であり工場主であるモッダモーダの協力の下、出荷されるハランクルクを運ぶキャラバンを襲撃しているのは彼ら……正確に言えばエッシベッシら少年たちなのだった。
 どんなふうに少年たちを「指導」してやるか、その計画を練りながら走り去るコムギィのハランクルクと入れ違いに、もう一台のハランクルクが屋敷の敷地に入ってきた。
 いかにも作業用然としたコムギィのハランクルクと比べると、今度のハランクルクは腕部に機関銃などを装着していて、同じスゥサでもあきらかに戦闘用だった。とはいえ、外装自体はぴかぴかに磨き上げられていて、傭兵たちが使う改造ハランクルクとも見えない。もとよりカイラーナでもない。
「いまのは例の狂信者どもの……」
 操縦席から降り立った男は、ちらとコムギィのハランクルクのいった先を見やってから、たるんだ腹を大儀そうに揺らしながら、屋敷に入っていった。
「おじさん。おれですボドゴーダです!」
「これはこれは、ボドゴーダ隊長。ようこそおいでくださいました」
「ドギックか。お前には用はない。おじさんはどこだ」
「は。市長閣下は奥の間に……」
 揉み手をするドギックを押しのけるようにしてボドゴーダは示された奥の間へと向かった。モッダモーダの甥である彼は、メードの町で市長の威を借るドギックを無視できる数少ない存在だった。
 先ほどコムギィが彼自身にしたのと同じ表情を浮かべて、ドギックがボドゴーダを見送る。その目は「いつか殺してやる」と言っていたが、肥満体とはいえ巨漢のボドゴーダが相手では、痩せぎすの彼がその望みをかなえるのは無理難題だったろう。
「やあ、おじさん。あいつらはどうしたの?」
 ボドゴーダはドギックに対する横柄さとは打って変わった、おもねるような口調で声をかけた。
 その様子は正直いって不気味なのだが、かならずしもモッダモーダはそう思っていないらしい。鷹揚な笑顔で応える。
「あいつら? ああ、あの傭兵どものことか。断ったさ。キャラバンが襲われとるという噂を聞きつけてきたんだろうが、わが町にも立派な警備隊がいる、とな……で、なんだ、ボドゴーダ。また小遣いを使い切ったのか?」
「ごめんよおじさん。なにかと出費が多くってさあ」
「おいおい。使いすぎだぞ? 今度はなにをやらかした」
「やらかしたなんてひどいな。町の連中をおとなしくさせておくには、必要経費がかかるんだよ。わかってるだろ」
「ほどほどにしておけよ。最近、工場の工員が減ってきとる。おまえがいろいろ好き勝手しとるからじゃないのか」
「そ、それは濡れ衣だよ。そりゃあまあ、年越しの宴会におじさんの工場の工員の娘で楽しませてもらったりはしたけどさ」
「一度に10人もさらってくるからだ。おかげで工員どもをおとなしくさせるのにずいぶん使わされた」
「俺だって責任取ったじゃないか」
「ふん。娘の家族を家ごと焼き払うのが責任をとったというならな。まあ、やつらが訴え出ようにも、家を焼いたのが町の警備隊長当人ではどうにもできはせんが」
「それでちょっとは工員が減ったかもしれないけどさ。でも、主な原因は例の連中だよ。あのなんとかいう教団の連中。さっきも来てたろ。おじさんこそ、あんな奴らとつるむのはほどほどにしないと、工場が動かなくなるよ」
「つるむだなどと……私は、奴らと取引しているだけだ。奴らに安価にハランクルクを売ってやる。代わりに私は奴らにキャラバンを襲撃させ、その保険金を手に入れる……とな。いずれ発注元はハランクルクを注文せねばならんわけだし、盗まれた分、安く売ってやると言えば、よろこんでその金額を払う。我々に二重取りされているともしらずにな」
「まったくだ。間抜けな連中だよ。だけど問題はあいつらだ。あいつら、女と男はいっしょに働いちゃだめだとかなんとか、よくわからないこと言って、どんどん女の工員をやめさせてるらしいんだよ。なんか、あいつらの神様の教えなんだとさ」
「おいおい。そんな話はきいておらんぞ。ほんとうなのか、それは」
「俺は信者じゃないから詳しくはわからないよ。女なんか、適当に楽しんでおけばいいのに、変な理屈をこねて……まったく変わった奴らだよ」
「ふうむ。それが本当なら、いろいろ困るぞ。工場が動かなくなってしまうではないか。おい、ドギック、ドギック!」
「おじさん、おじさん。俺の小遣い忘れてるだろ」
「ああ、わかっとる。それもいま持ってこさせる。ドギック!」


【08 カイラーナ・ヌンボッツ】
 閑散とした工場内について問うナミカゼに、トルゼットは「みんな例の教団のせいさ」と吐き捨てた。
「どういうことだ?」
「あいつら、女の下では働けないとぬかしやがった。神の教えに反するんだと」
「それは……修理工としての腕がよくてもか?」
「そういうことは関係ないんだと。あげくに、この工場を渡せ、女は男が支配するもんだときやがったもんだから、全員叩きだしてやったのさ。で、最後に残ったのがあの子ひとり……」
 いきなりトルゼットに指さされて、ハッスマーと呼ばれた少女……だか少年だかはとびあがった。そしてまた、無言のまま向こうに走り去ってしまう。
「……あの性格がなければねえ。でもまあ、腕は悪くない。あの子が残ってくれて助かったよ」
「そんなことで、大丈夫なのか?」
「こいつの修理かい? やるさ。どうにも難しそうな仕事になりそうだけど、それは追い出した連中がいたっていなくなって、関係ない。カイラーナの修理はやったことがあるけど、これはまただいぶ旧い型みたいだからね。ヌンボッツなんだろ。本物を見るのは初めてだけど」
「この状態でそれを言い当てたのはあんたが最初だ。なるほど、任せられそうだ」
 ふん、とトルゼットは鼻を鳴らした。
「買いかぶられても困るけどね。カイラーナ用の駆動鋼、それもヌンボッツなんて昔の機種に使えそうなののストックなんかそうそうあるもんじゃない」
「まあ、そうだろうな。……だがなんとか動作に支障がないところまで持って行って欲しいんだ。まだ旅は長いんでね」
「気楽な一人旅ってやつかい? それにしちゃあこんな曰くありげなハランクルクで……しかしまあ、綺麗さっぱり装甲を取っちまったもんだね。よくこんなので動かせるもんだ。これで動かしたら、ばらばらになるか、それとも空でも飛んじまうんじゃないのかねえ!」
 トルゼットは、ナミカゼのハランクルクの外装を手のひらで何度か叩いた。その音は一般のスゥサと変わらない、薄い外装板のそれだ。
「まあ、たしかに扱いづらい機体ではあるけどな。その分、スピードではどんなハランクルクにも負けない」
「そりゃあそうだろうさ! カイラーナの出力で、機体はスゥサ並の重さしかないんじゃあね。いったいなんだってこんな無茶な機体にしちまったんだい……」
「それは……」
 ナミカゼは答えかけたところで視線を工場の入口の方に向けた。ちょうどシャッターの開いた入り口から誰かが入ってこようとしているところだった。
 声をかけようとしたトルゼットに、ナミカゼが代わりに答えた。
「俺の連れだ」
「連れ? あの娘がかい? 娘? まさか、女房ってんじゃないだろうね」
「…………どっちでもない」
 きょろきょろと外から工場内を覗いていたケイミレライは、ナミカゼの姿を見つけると、笑顔で手を振った。
「おじさまぁ!」
 その言葉にトルゼットは真顔でナミカゼを見る。
「……愛人か」
「なんでそうなる!」
 ケイミレライが工場にやってきたところで、あらためてナミカゼのハランクルク──ヌンボッツの修理の段取りをどうするかの相談が始まった。
「やはりカイラーナなんですか。このハランクルクは」
 あらためてヌンボッツを見上げているケイミレライをナミカゼは「世話になった知り合いの娘」と紹介した。簡単に彼女の素性をあきらかにするわけにはいかないと考えているのである。
「無茶な改造してるけどね。15年前までは帝国軍の主力だったカイラーナさ。いまじゃあもっと多用途に使えるウーゾに切り替わっちまったが」
「では、父もこのハランクルクに……」
「なんだい、あんたの親父さんも軍人だったのかい?」
「え、ええまあ」
 思わず漏れてしまった言葉を聞きとがめられて、ケイミレライはあいまいにうなずいた。しかしトルゼットの興味はあくまでもハランクルクの方にあるようで、ケイミレライの態度は気にならなかったようだ。
「そうはいっても、このヌンボッツは、カイラーナの一番の特徴である装甲をほとんど取っぱらっちまってるけどねえ。よくこれでまともに動かせるもんだ。上半身を後ろ前にしてるのは、それもあるのかね。動きを制限して、駆動鋼への負担を小さくするために」
「上半身を? ええと、それってどういう……」
 ナミカゼの旅の道連れという少女の反応に、トルゼットは首を傾げた。
 戦いと彼女自身の救出劇という混乱した状況の中、ケイミレライはナミカゼのヌンボッツの「変身」についてよくわかっていないのだが、トルゼットにしてみれば「なんで知らないのか」ということになる。
「いや、その……滅多にはやらないからな。確かに本来の姿勢に戻すと機体へ負担が掛かり過ぎるし。彼女を託されたのはつい先週のことなんだよ、トルゼットさん」
 ナミカゼが取り繕った。
「さんはいいよ。なるほどそれじゃあこの機体の本来の姿を知らないのも無理はないか。じゃあ、やってみせてくれるかい。機体の状態を確認するのにも、元の姿勢に戻してもらったほうが見やすいからね」
「わかった。じゃあ、その前に……」
 ナミカゼは工場のハランクルクを借りて「荷台」の荷物を先に下した。
「こうしないと、荷物がそこらに落っこちることになるからな」
「なるほど、滅多にやらないわけだ」
 うなずくトルゼットの前で、荷台を空にしたヌンボッツの荷台側にある「本来の操縦席」に乗り込んだナミカゼが、機体の上半身を回転させる。
 駆動鋼の動作音である、弾けるような金属音を立てながら、ハランクルクの上半身だけが回転して、ナミカゼの乗り込んだ側の操縦席が正面に回った。
「ああ……これが、あのときの……」
 思わずケイミレライはつぶやいていた。彼女がガンに囚われていたとき、救出に駆けつけてくれたハランクルクが、再び目の前にいる。
 そしてハランクルクは、1クリク前まで荷台だった巨大な盾を左腕で構え直した。
「これがあの〈帝国の盾〉か」
 トルゼットが感に堪えないとため息を漏らす。
「トルゼットさんも初めてご覧になるんですか?」
「だからさんはやめなって。くすぐったいよ。あたしの子供の頃にはまだこいつ……の元の機体は、帝国軍の主力だったけど、この辺じゃ軍隊が出動するようなことも昔はなかったからねえ。話には聞いていたけれど、こうやって見るのは初めてさ。昔はこの馬鹿でかい盾がまるで城壁のように敵に向かって進撃していったっていうよ」
 トルゼットの言葉にうなずきながら、ケイミレライは3カイほどのハランクルクを見上げた。
 ただ上半身の向きを変えただけなのに、ひどくたくましく、あるいは猛々しく感じるのは気のせいだろうか。ハランクルク自体の全高よりも高い巨大な盾がそう思わせるのだろうか。
 砲弾の直撃さえ跳ねのける〈帝国の盾〉…………。
「そういえば、おじさまもおっしゃっていましたが、ハランクルクづくりの町だのに、この町には帝国軍がいないんですね」
「昔はいたのさ。5年くらい前に駐屯地を引き払っちまった。以来、このへんでも野盗どもが好き勝手するようになっちまって」
「そんな……、臣民の暮らしを守るのが帝国軍のつとめだのに」
「そうは言ってもいないもんはいないんだよ。リガ教徒なんて変な連中も増えてきて、すっかりこの町も暮らしにくくなった。ひとも減ったしねえ」
 トルゼットはハッスマーに指示してナミカゼのハランクルクの外装板を取り外させながら、隣り合った数件の修理工場が、すでに無人になっているのだとケイミレライに話して聞かせた。
「軍がいないにしても、なにか代わるものはないのですか? 盗賊が跋扈しているとなると危険ではないですか」
「いちおう、この町にも警備隊があるんだけどねえ。正直盗賊よりたちが悪い。隊長が市長の親戚なのをいいことに、やりたい放題。そりゃあ神様なんかにすがりたくなる連中も増えるってものさ」
「私も……子供が、小銃をかついでいるのを見ました」
「ああ、そういうのも最近珍しくなくなったねえ。この町もひどいことになったもんさ。昔はこうじゃなかった」
 外装板をはずされ、内部の機構がむき出しになったハランクルクの脚部を点検して周りながら、トルゼットはそんなことを言った。
「誰のせいなんだろうねえ。あのぼんくら市長のせいか、それとも軍を引き上げちまった帝国のせいか……この駆動鋼はいっぺん取り外した方がいいね。交換部品があるといいけど」
「帝国の……」
 うつむくケイミレライを気にせず、トルゼットはなにやら専門的な用語をつぶやきながら、ハランクルクの点検を進めていく。ケイミレライには最小限のことしかわからないが、それでもその様子から、彼女がよほどこの特別なハランクルクに興味を惹かれ、この点検を楽しんでもいるらしいことがわかった。
「なにか、お手伝いできることがありますか?」
 だめでもともとと聞いてみたが、やはり答えは予想のとおりだった。
「必要ない。それより宿をとったんだろ。場所だけ教えて、おじさまとふたり休んできなよ。その間に修理の段取りをまとめちまうからさ」
「はい」
 素直にうなずくケイミレライに対して、ナミカゼが憮然とした表情なのは、トルゼットにまでおじさま呼ばわりされたからだろう。
「さ、専門的なことは専門家にお任せして、行きましょう。おじさま」


【09 少年たちの企み】
 トルゼットの工場からナミカゼとケイミレライが宿へと向かった頃、スモージら少年たちは急な呼び出しをコムギィから受けていた。前回と同じ、本来は新入りの信者がリガ教の教えを授かる場だが、エッシベッシたちにコムギィが命令を下す場としても使われている。
「3日後だ!」
 モッダモーダから受け取った書類を卓に叩きつけながらコムギィが怒鳴る。
「キャラバンですか? 早いですね」
 とエッシベッシ。
 今朝方大きなキャラバンが、組み立てられたばかりのハランクルクを積んでメードを出発したばかりなのだ。そしてそれを襲撃したのがエッシベッシたちである。
 ハランクルク製造が主な産業であるこのメードでも、出荷……つまりキャラバンの出発は、毎日あるというものでもない。毎週1度あれば多い方で、こんなふうにあいだ2日で出荷が行われる、というのは珍しい。
「発注主も気が急いているんだろう。ここのところ、出発したキャラバンが途中で消えることが多いからな」
 コムギィが笑みを浮かべる。
「で、その話を俺たちが聞かされたということは、次の獲物がそれなんですね」
 エッシベッシの確認にコムギィは怒鳴り返した。
「あたりまえだ! いいか今度は失敗するなよ。最低でも巨象サイズのやつを1機は抑えるんだ。そうすれば、普通のが10機は手に入る。実際に動くまでに、俺の方で何人か揃えてやる。それだけ頭数が揃えば、お前たちがどれだけ能無しでも、なんとかできるだろう。いざというときは……」
「わかってます」
 凄むコムギィにエッシベッシはうなずく。
「命をかけても、今度はちゃんとハランクルクを手に入れてみせます」
「よく言ったぞ。信仰のためには命をかけねばならんこともある。教団は、いま神の王国を作るために、1機でも多くのハランクルクを必要としているんだからな。信仰のために命をかけろ!」
 怒鳴り散らすだけ怒鳴り散らして、コムギィが去ったあと、エッシベッシたちは再び例の残骸の山の間に集まった。
「確かに発注主は急いでいるらしいな」
 エッシベッシはコムギィから渡された書類から目を上げた。
「そうなのか?」
 まだしゃべりづらそうなスモージの問いに彼はうなずき返す。
「ハランクルクの積み出しが、いつもの倉庫からじゃなく、工場から直接になってる」
「よほどせっつかれたんだぜ。コムギィみたいによ」
 カトシオがせせら笑う。だがコムギィへの反感のせいもあって、今度は誰もが彼の言葉にうなずいた。
「それで俺たちにしわよせが来るのはたまらないな」
 とエーミット。今朝襲撃を行ったばかりの彼らにとって、3日後再び襲撃を行うというのは今までにない出来事だった。
「けど、教団がハランクルクを必要としてるのも事実だろ?」
 エッシベッシにそう返されれば、エーミットもうなずかざる得ない。手段を選ばずハランクルクを調達せよ、というのは、ずっとまえから彼らが受けている指示であることに違いはないからだ。
「なんでそんなにたくさんハランクルクが要るのかなあ」
 あらためてミミジオが疑問を呈した。それに答えたのはスモージだ。
「戦争さ。帝国と戦うんだ。コムギィも言ってたじゃないか。神の王国を作るんだって」
「戦争……」
 レーフがつぶやく。
「戦争か」
 エッシベッシもその言葉を噛みしめるように繰り返した。
「そうなったら、俺たちリガ教徒も堂々と正面から帝国軍と戦うんだ。えっとなんて言ったっけ……」
 スモージはいつかその時がくることが楽しみでしょうがない、という調子でぐっと拳を固めてみせた。
「信仰の槍、か?」
 エッシベッシは教典の中で教わった言葉をあげた。神の王国建設を邪魔する邪悪と戦う戦士たちのことだ。教典の中では特別に英雄的な戦士として紹介されている。
「そう、それ! 俺たちがその槍になるんだ。こんな盗賊のまね事なんかじゃなく。本物の戦士に!」
「俺たちが簡単にそんなものになれるかよ。どうせ使い捨ての平信者だぜ」
 カトシオがいつもの調子で揶揄するが、その言葉には不安が透けて見える。
 しかし、応えるエッシベッシはもうそんな仲間の不安など眼中にない様子だった。生来の負けず嫌いが再び頭をもたげてきていた。
「だったら、使い捨てじゃないところを見せてやろう。コムギィを……いや、教団の偉いひとが認めざる得ないようなでっかい成果をあげるんだ」
「でも、どうやって? なにをすればそんなでっかい成果をあげられるんだ」
 一応冷静なところをエーミットがみせるが、その顔にも普段にない興奮が滲んでいる。
「これだ」
 エッシベッシはコムギィから受け取ってきた書類を片手で叩いた。
「さっきも言ったろ。今回の積み出しは直接工場から行われる」
「それで?」
「工場を直接襲うのさ」
「ええっ」
 ミミジオが驚きの声をあげた。だが、ほかの中も大なり小なり同じ反応だった。すっかりいつもどおり、キャラバンが出発したあと、それを襲撃するのだと思い込んでいたからだ。
「キャラバンを襲うのはもちろん、倉庫にだって、そのとき積み出しする分のハランクルクしか置いてない。だけど、工場ならどうだ?」
「そうか、今回積み出ししないハランクルクもたくさん置いてある……」
 エッシベッシの指摘にスモージがうなずく。エッシベッシは続ける。
「中には組立途中のもあるかもしれないが、どうせならそれも全部いただいちまうんだ。そしてそれを持って、スドノウレへ行く!」
「スドノウレ? どこだよそれ」
 カトシオがやや刺のある調子で聞き返す。命令にない襲撃を行おうと仲間たちがまとまっていくことが不安なのだ。
「噂で聞いたんだ。教団はそこに王国を建設するために、ひとやハランクルクを集めてるって」
「ああ……町を出てった信者の行く先って……」
 スモージがうなずいた。
「一応秘密ってことになってるらしいが、みんな行き先も知れずに巡礼だって言われたって不安だからな。上級信徒様から聞き出したらしいんだよ」
 と、エッシベッシ。
「そうか、じゃあ奪ったハランクルクを全部持ってスドノウレへ……」
 スモージの言葉に、カトシオはさすがに慌てた調子で口を挟んだ。
「コ、コムギィはどうすんだよ?」
 スモージは「コムギィには教えない」というように首を振った。
「せっかく手に入れたハランクルク、全部あいつの手柄にするのかよ」
「でもよう……」
 スモージにするどくにらまれ、彼よりも年かさの少年は口ごもる。そしてカトシオの不安を、エッシベッシも一蹴した。
「嫌なら残った者だけでもやるぞ。大型のスゥサを手に入れれば、それだけでも10機はハランクルクを運べる。それを2機、なんとかして手に入れるんだ」
「20機のハランクルクか……すげえや」
 ミミジオが目を輝かせる。
「いつまでもこんな町でくすぶってなんかいない。俺たちが信仰の槍になるんだ!」
 エッシベッシが拳を突き上げた。
「おう! やるよ、エッシベッシ!」
 最初にスモージが、
「おれも、おれも!」
 そしてミミジオも遅れじとエッシベッシに賛同する。
「お、おれだって……」
 ついにカトシオも不承不承頷いた。
「わかった。俺もやろう。これまでみんなでやってきたんだからな」
 さらに、慎重に考えこむふうだったエーミットもエッシベッシに従うことを承諾する。少年たちのリーダーは、満足気に生死を共にしてきた仲間たちにうなずき返した。
「そうさ。コムギィにも、あいつが連れてきたにわか信者なんかにも、手柄を渡したりはしない。おまえも頼むぞ、レーフ」
「う……うん」
 エッシベッシの言葉にレーフはうなずいたものの、その目はまだ殴られた腫れがはっきり残るスモージの顔に心配そうに注がれていた。


【10 謎の宿泊客】
「ここですよ、おじさま」
「よさそうな宿じゃないか」
「そういうものですか? 私にはよくわかりませんけど……」
 慣れてくるとケイミレライにも、この地方の四角い建物の区別がつくようになってきた。つくりこそどの建物もよく似ているが、壁の色や扉など、民家と店舗、そして宿屋などでそれぞれに違いがあるらしいのだ。といっても、それらの違いは、ケイミレライなどにとってみればごく些細なもので「もっとわかりやすく作ってくれてもいいのに」と思わずにはいられないものではあったのだが。
 そんなわけで、ナミカゼと連れ立ってトルゼットの工場をあとにした彼女は、あの顔を腫らした少年に案内された宿に、さほど迷わずに戻ることができたのだった。
 あまり愛想のない宿の主人と会釈を交わして、2階にある部屋に上がろうと階段を登りかけたところに、別の一団が階段を降りてきた。
「少し出てくるぞ、主人」
 先頭から2番めの男が主人に声をかけた。あとにさらに4人が降りてくる。ケイミレライとナミカゼは脇によけて彼らが通りすぎるのを待たなければならなかった。
「あてが外れましたね隊長。この町なら仕事になるかと思ったんですが」
「まったくだぜ、バブロ。お前の情報を真に受けて損したぞ」
「うるせえゴモース。この界隈で盗賊どもが暴れまわってるってのは本当なんだよ。なら俺たちの出番だってあると思うだろうが。あのくそ市長め!」
「なんだっけ? うちには立派な警備隊があるから、傭兵なんか必要ない、だっけ?」
「その警備隊とやらとやらせてほしいよな。俺たちのハランクルク相手にどれだけ立派にやってくれるかをよ」
 男たちはふたりには目もくれず宿の外へ出て行く。賑やかな男たちのなかで、最初に話しかけられた先頭の男だけは口をつぐんでむっつりと歩いて行く。ケイミレライは、男が左右共に生身よりも一回り大きなサイズの手に機械換装していることに気づいた。
「傭兵か」
 ナミカゼのつぶやきにケイミレライはうなずいた。
「そのようですね。やはり物騒なところなんでしょうか」
 顔を腫らして小銃を携えていた少年の姿が彼女の脳裏によみがえる。
「かもしれん。気をつけよう」
「はい」
 2階へ上がり、ナミカゼはケイミレライがとってくれた部屋の扉を開け……そこで動作を止めた。背中にぶつかりそうになったケイミレライは慌てて1歩下がった。
 故障したハランクルクのような動作でナミカゼが振り向く。
「姫。なぜこの部屋には寝台がふたつあるんだ?」
 ナミカゼの質問に、ケイミレライは面食らって答えた。
「え。でもさすがにひとつの寝台で寝るというわけには……。そのほうがよかったでしょうか?」
「い、いやっ、そうじゃないっ。そうではなくて……どうしてこの部屋に寝台がふたつあるのかと……」
「それはふたり部屋ですから」
「待て、待ってくれ」
 かみ合わない会話に、ナミカゼは機械化していない方の手を突き出して、少女の言葉をさえぎった。
「姫。もしやと思うが、部屋はこれしかとっていないのか?」
「はい」
「どうして」
「家族だという触れ込みにしておいた方が、いろいろ詮索されずに済むと思いましたから」
「なるほど…………」
 ナミカゼはうなった。
 そう説明されると、確かに筋が通っている。これでも自分たちは追われる身なのだから、おいそれと身分を明かさない方がいいに決まっているのだ。
「とはいえ、さすがにひとつの寝台で……というのも……、でも家族なら、やっぱりそのほうがよかったでしょうか」
「いや! これでいい! これでいい! 問題ないっ」
 ナミカゼは慌てて少女に背中を向けた。
(姫の気遣いを妙な勘違いしてしまった自分が恥ずかしいだけだ。決して姫によこしまな気持ちなど……)
 思うそばから、最初に出会った日の、シモネッタに借りたシャツがはちきれそうなほど盛り上がった胸のふくらみや、リガ教徒から救い出した時のむき出しの白い肌が浮かんできてしまう。
(なにを考えているんだ、なにを……!)
 へたをすれば孫でも通じる年齢なのだ、と自分に言い聞かせる。でなくともかつて部下だった男の娘に「手を出す」など彼の倫理観が許さなかった。
「では私、お風呂をいただいてきます」
 そんなナミカゼの内心にはまったく気づかないまま、ケイミレライは着替えを手に部屋を出る。当人にしてみれば、さきほど酔漢に襲われたときの、気持ちの汚れを(もちろん身体の汚れも含めて)洗い流したいだけなのだが、「ああ」とぶっきらぼうに答えるナミカゼにとっては、相当にほっとさせられるところだったのである。

【11 ナミカゼ困惑す】
「自分のハランクルクが気になるのはわかるけど、もう少ししてからでもよかったんじゃないのかい? まだ修理っていったってなにも進んでないよ」
「ああ……」
 妙に疲れた顔でうなずくナミカゼに、トルゼットは首を傾げた。
「まあ……いいさ。いろいろ確認したいこともあったからね」
「ああ」
「一応修理の段取りをまとめてみたんだけど……なにしろ特殊なハランクルクじゃないか。破損して交換が必要な駆動鋼も、廃番になってる型が多くてね」
「ああ」
「在庫がないでもないが、完全に元通りにするにはだいぶ足りない。そこで……」
「ああ」
「……聞いてるかい、ナミカゼさん」
「ああ……、ああ。聞いてるよ。とりあえず動かしてる最中にトラブルが出ないようにして欲しいんだ」
「一応聞いてはいたようだね。それなんだが、出力バランスを取り直すというのはどうだろう」
 ひどく気のない様子に見えたナミカゼは、トルゼットの提案に初めて興味がわいた、という顔で視線を向けてきた。
「……どういうことだ?」
「もともと、機体の各部の重量に対して高すぎるこいつの出力を、いくらか抑えこもうということだよ」
「まってくれ、それじゃあただのスゥサになってしまう」
 ナミカゼの抗議に、トルゼットは手のひらをひらひらと振ってみせた。そんな抗議は予想の範囲ということらしい。
「そうはならないさ。抑えるのはほんの数パーセント。あたしの見立てだが、そうすることで、取り回しもしやすくなると思うんだがね。あんた、動作に急な制動をかけるとき、関節にカウンターをいれてるだろう。そのせいで関節とその周りの外装がだいぶすり減ってるよ。当然駆動鋼にも相応のダメージがいってるはずだ」
「出力をおさえることで、そうしなくて済むようにする、と?」
 トルゼットはうなずいた。
「たぶん今までよりも、ずっと無茶な動作をさせられるようになるよ」
 ナミカゼは小さくうなって考え込んだ。
「それが本当なら……いや、待て。待ってくれ。その改造には時間がかかるのか? 前にも言ったかもしれないが、俺たちにはあまり時間がないんだ」
 今度もトルゼットは手をひらひらさせた。
「わかってるわかってる。そんなにかかりはしないさ。基本的には駆動鋼の数を減らして、それが難しいところはもっと出力の小さいやつに交換するだけだからね。普通にやったら3日もあれば……」
「もっと短くならないか?」
「そんなに急いでいるのかい?」
「場合によっては、力素管の補充だけして、修理は諦めることも考えていた」
「むう。……わかった。二晩おくれ。今夜と、もうひと晩」
「ありがたい。料金はできるだけ払うから」
「当然だ。じゃあ方針がきまったら、あとはやるだけだ。……あんたは帰っていいよ、ナミカゼさん」
「え」
「いられても邪魔なだけなんだから。さっさと宿に帰って、あのお嬢ちゃんと仲良くしてきな」
 ナミカゼはなにか言い返そうとしたが、もうトルゼットは聞いていなかった。
 結局「工場で寝かせてもらうわけにはいかないだろうか」と言い出すことさえできないまま、彼は宿へすごすご帰るしかなかったのだ。

──後編へ続く!

【あとがき 2015年9月5日】
 作者です。
 7月からスタートした第2話前編、楽しんでもらえてますでしょうか。
 引き続き後編も楽しんでもらえれば幸いです。
(なにせ、作者にとっては課金のある後編こそ本番なわけで……!)

 さて、第1話で姫を助けて再び戦いに身を投じることを決意したナミカゼおじさんですが、そのときの戦いのダメージを修理すべくメードの町に立ち寄ります。
 つまり今回は「ハランクルク紹介編」みたいなおはなしなのです。
 なにしろ『ハランクルク』は、メカはもちろん世界設定もオリジナルなわけで、読者の皆さんにそれらをある程度飲み込んでおいてもらわないと、話を進めるのが難しくなってしまうのです。
 とくにハランクルクというメカニズムがどんなものか、というのはだいじなところなので、これからもちょっとずつ本編に交えて紹介していくことになると思います。
 全編でちらっと登場したところでは、キャラバンがひとつ。
 なにしろこの世界、飛行機とか鉄道とかありませんから、物流はハランクルクに頼っているわけです。今後もキャラバンはいろんなかたちで物語に登場してくると思いますが、今回はそのさわりだけ。
 あと、関連して〈巨象〉クラスのスゥサが登場してますね。
 カイラーナは戦闘用ハランクルクということで、あまり大きさのバリエーションがありませんが、民間機であるスゥサはその用途に応じていろいろな大きさがあります。第1話に登場した一人乗りの超小型ハランクルクから、なかには〈巨象〉よりも大きな機種も……。
 あとは駆動鋼と力素管のおはなしと……ナミカゼおじさんのハランクルクの名前が出ましたね。ヌンボッツという機種らしいです。ずいぶん改造しちゃってますから、ヌンボッツ改とでも呼べばいいのかな? もしかしたらケイミレライ姫がいい相性を考えてくれるかもしれません。

 というわけで、第2話前編はここまで。
 引き続き後編もよろしくおねがいします!

 あ、感想とか支援のちゃりんとか、お待ちしてますー。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?