「私の思考」について

 ちょっと頭がさえているとき、なにか高尚なものについて考えようと思い立ったりする。そうして考えていくと、これはなかなかいいのではないかという結論に行きつき、満足する。しかし、あるときふと気になって昔読んだ本を振り返ってみると、自分が行きついた結論とまったく同じようなことが書かれてあったりする。そして、「なんだ、既出だったか」などと妙ながっかり感に襲われる。
 
 つまるところ、自分で考えているようで、それはかつての誰かの思考をなぞっただけだった、という話である。そして、こういうことは自分の思考のかなり大きい範囲に言えることかもしれないと思う。かつて見た他人の思考の跡を、それが他人のものであるということを忘れ、自分のものにしてしまうのである。正確には、私が他人の思考に飲まれる、という方が正しいかもしれない。主体はあくまでかつて見た他人の思考であり、私はそれに追従するのみである。

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