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暮らしを

暮らしを良くしたい、という気持ちがほとんどない。単調な暮らしを送っていることに焦燥感を抱いたりはするが、現在ある暮らしそのものに飽きたりすることはあまりない。

ここではないどこかに行きたいという気持ちもほとんどない。柔らかく伸びる海岸線を切り取る車窓はもちろん歓ばしいものだが、わざわざ日程を組んで旅行する気力は特にない。

同じもの/ことを繰りかえすことに心地よさを感じる。新鮮な光景への欲望がそんなにない。積極的に世界を変化させたい、自分が暮らしやすい状態をつくりたいという気持ちが、ほんとうにない。

無数のオブジェクトが置かれたフィールドで、自分の領地を拡大していきたいという欲求がない。手元にあるものを愛でることしか求めていない。自分は閉じられている。閉じた輪の中を回りつづけることができれば、それでいい。

世界は獲得可能なものではない。昨日できなかったことができるようになって、知らなかったものを知って、これまでと違う自分に変わっていきたいなんて、思えない。あらかじめ区切られ自分に与えられたこの区画で寝転んでいたい。

新しい服が欲しくない。装いを変えれば心持ちも変わる。気持ちが華やぐが、わざわざ買いにいくほどじゃない。だいたい、欲しくなった時にはもう次のシーズンの服しか売っていない。世界のリズムは自分を待ってくれない。

この文章で、あなたを変えたくない。あなたの人生に自分の考えを染み込ませたくない。それで変わったあなたを愛せるかはわからない。また、その責任も取ることはできない。あなたに与えられるほど、自分は優れていない。

テクストを書きたくない。単なる注釈にとどまりたい。テクストの持つうねりを帯びた回転で、誰かを貫きたくない。石板に刻まれた文字の重たさは自分の手に余ると感じる。

自分なりの美しさがある。

寿司が食べてえぜ