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ただいま妄想中!

グリーンゴリラ外人部隊
(ユズリハ・ミカの物語)

0、地獄

「逃げろ!罠だ!!」
重なり続く爆発音と、仲間達の言葉にならない叫び。
それぞれの故郷の星の言葉。
何が起こっているのか、状況が理解出来ないユズリハ・ミカに向かって、隊長の声が、それだけはハッキリと聴こえた。
武器弾薬をフル装備した装甲強化服部隊 グリーンゴリラ七人の仲間達を、ステルス機能に特化した惑星上陸艇から送り出したミカは、作戦ポイント上空で待つ特殊任務艦 「黒衣の未亡人」ブラックウィドーに戻り、その艦橋で待機していた。

何か異常が起これば、ブラックウィドーのまま、惑星に上陸し、仲間達を支援、回収するためである。
グリーンゴリラ隊の専用艦ブラックウィドーには、元々、宇宙空間だけでなく、惑星大気中を航空機として自由に航行する機能が備わっているし、強襲上陸も出来るのだが、それでも、よりステルス機能を強化した小型の上陸艇を必要とする程、今回の作戦は隠密な行動が優先されていた。

1、降下

ほんの数十分前。
ただでさえ狭苦しい上陸艇に、さらにかさばるフル装備の装甲強化服を着た、グリーンゴリラ外人部隊の8人。
パイロットのミカは操縦席に、その小柄なテラン人の身体を、多少の余裕をもって納めていた。
身長160センチに足りない、テラン人でも小柄なミカは、どう見ても「戦う女性」ではない。
外人部隊よりも、星間保育園の保育士か、社長秘書・・いや、その美貌は、女優や、銀河ネットのレポーターのほうがお似合いだ。

長い髪は、本当は黒髪だが、明るい栗色に染めていた。
面長の顔に、気が強そうな高い鼻がシュッと通っている。
何よりも、その切れ長で潤んだ瞳と、それに似合った長い睫毛が、どんな星の男達をも虜にした。
パイロットなので、必要最低限の強化装備しか身にまとっていないのも、狭い上陸艇でも嵩張らず、どこか涼しげな佇まいの理由だった。

隊長のミーコは、ミカと同じテラン人の男性だが、その中年体型を無理矢理、装甲強化服に押し込めて、副操縦席に座っていた。
操縦席の横には、彼の「重力斧」グラビトンアックスが立ててある。
グラビトンアックスは、近年発明された航宙エンジン「反発する物体を必要としない、反重力装置」・・・つまり、惑星から離陸して、そのまま宇宙空間を航行出来る、画期的な航宙エンジンの技術を応用した武器で、高重力の光の斧の刃を、相手に叩き込む乱暴で原始的な近接格闘スタイルの携帯武器である。

ミーコは司令塔であるべき隊長だから、本来なら遠距離戦闘装備を選ぶべきなのだが、戦闘スタイルは、近接格闘を得意としていた。
グリーンゴリラ隊の隊員達も、自ら先頭に立って戦う隊長が好きだった。
中距離の敵は腰のブラスター。
さらに左肩に担ぐようなカタチになる、背中のバックパックから突き出たビームキャノン。
右肩には超小型のミサイルポッドがあり、遠距離攻撃や上空からの敵に備えている。

その他の6人は、赤い室内灯に照らされ、通勤電車のような横長の椅子に向かい合って3人ずつ座り、間の空間にはそれぞれの得意分野、そのコードネームに特化した個人装備の銃火器や飛翔装備等が並んでいた。

「うさんくせえ作戦だ。いつもに増してな。」
古参のチドーリ人、ダイゴンのボヤキはいつものことだが、皆んなが同じように思っていた。
ダイゴンのボヤキが、虚しい独り言になってしまうのを防いだのは、相棒のベノヴだった。同じチドーリ人だ。
「胡散臭く無い作戦なんて、俺たちに、今まであったンか?」
チドーリ人特有の、少々荒っぽい訛りのある銀河標準語でベノヴがつっこむ。
「まあな。何かを盗み出すとか、誰かをこっそり殺すとか・・・少なくとも俺たちは、軍隊ってやつの末端の一部って感じではないな。全く別の、面倒な汚いものを消すための掃除屋だ。」

ダイゴンが言うように、グリーンゴリラ外人部隊は、特別な部隊だった。

特別な報酬と戦いが好きで、わざわざ他所の星の軍隊に入った血の気の多い外人部隊・・・というのとは、彼等は違っていた。

銀河帝国に侵略された星の王族出身で、人質のように帝国軍に入隊させられたもの。
忠誠を誓う印に、部族の代表として入隊したもの。
反乱を企てた家族の汚名を返上するために入隊したもの。
それぞれに事情があった。
それ故に、命がいくつあっても足りないような、捨て身の任務専門の部隊だった。
生き残っているのは、運が良いだけでなく、特殊な能力を持つ者達が集まっているから・・・そして何よりも「必ず帰る」という意志が強いからだ。
だから余計に、さらに過酷な任務が与えられるのだった。

彼等が身につけている装甲強化服は、兵士の身体能力を強化し、さまざまな環境下での活動をサポート、さらに外部からの物理的攻撃、化学的攻撃からも身を守るものだ。
通常の宇宙服や作業服よりも性能を強化され、外観もゴツいものになっている。
その姿が、古のテランの、巨人に似た絶滅動物に似ていることから、「グリーンゴリラ隊」と呼ばれているのだ。
ノーマルの強化スーツで、300キロの重さの装備を軽々と担ぎ、リパルサーリフト付きのバックパックを使って、時速40キロ以上で走り続けることが出来る。
グリーンゴリラ隊の隊員の装甲強化服は、それぞれの特殊技能や好みによって、更にカスタムチューンされていた。
作戦行動時には、ヘルメットを兼ねたマスクで顔が隠れてしまうため、マスクには色分けされた歌舞伎の隈取りのような模様が施され、個人のパーソナルマークになっていた。

「そろそろ準備しろ!」
オレンジ色の隈取りのマスクを被りながら、隊長のミーコが言った。
マスクにはヘルメットの機能の他に、通信機能、防毒マスクを兼ねた、さまざまな環境下での呼吸補助機能などが付いている。
小さなボヤキも、舌打ちも、仲間には筒抜けだ。

ダイゴンは、何か愚痴りながらグレーのラインのマスクを被った。
ベノヴのマスクはダークブルーだ。
同じ惑星チドーリ出身のダイゴンとベノヴの 二人は、マスクの色まで似ていた。
チドーリ人はミカたちテラン人とよく似た外観だ。
テラン人よりも少し皮膚が厚くて、赤黒っぽい。
そして、耳が少し大きい。
ダイゴンはテランのネズミに似た、前歯が目立つ、いたずら小僧のような丸顔の男。
携行銃器はブラスターショットガン。
小さいエネルギーの塊の火球を、時にはストレートに、時には細かいシャワーのように発射する。
ダイゴンのショットガンは、長い銃身と銃床を切り詰めて、携行しやすくしていた。
近距離戦闘に向いた火器だ。

ダイゴンよりも、少しだけ背が高いベノヴは、四角い顔で、いつも困ったような表情をしている男だ。
携行銃器はブラスターライフル。
繊細な狙撃モードにも出来る特殊銃である。
息のあったコンビネーションで、二人は戦う。
一人では、その風貌通り、ねずみ花火のように、どこに行くか解らない暴れ方をするダイゴンを、ベノヴは戦場でも上手く誘導していた。

漫才コンビのようなダイゴとベノヴの二人を、同じ列の長椅子で笑って見ていた長身のダダーン人のノンも、自分の旧式のマーク1型マスクを被って、その褐色の整った顔を隠した。
同じ美しい顔立ちだが、こちらは、ミカとは対照的な「戦う女性」というイメージ。
身長も小柄なダイゴたちチドーリ人よりも高く、もし生身で闘えば腕っ節も強いだろう。
携行武器も大型のガトリングブラスター 。
一射すれば、目の前の敵グループをまとめてミンチにしてしまう。
あえて旧式のマーク1マスクを被るのは、過剰な索敵装備が彼女好みという事もある。
しかし、それよりも重要なのは、ダダーン人の特徴である、こめかみから生えた短い角が、旧式のマスクの方が居心地が良いという事らしい。
彼女の体格と性格、その角から、他の部隊からは鬼姫とアダ名をつけられているが、グリーンゴリラ隊では、彼女の怒りを恐れて、そんな事を言う者はいない。
しかしノンは、自分が他の部隊から鬼姫と呼ばれている事を知っていて、むしろ面白がっているようだ。
彼女のマスクには、紅いラインが入っていた。
鬼姫には似合いの、血の赤だ。

向かい側の3人は、一層風変わりなメンバーだった。
隊で一番身体が小さい◯◯は、緑色の◯◯人。
身長はテラン人の幼児程しか無い。
しかし元々、生身でも一番跳躍力のある彼の強化服は、アクロバティックな動きが出来るように改良されている。
両腕のガントレットには、伸縮し飛び出す、超振動して相手を裂く爪が内蔵されていた。
バックパックにも他の隊員のようなビームキャノンやミサイルポッドは無く、飛行に特化した推進システムになっている。
これを使い、自身が飛び道具と化すのだった。
腰の左右には、小型のブラスターをぶら下げていて、二丁拳銃で戦う。
敵から見たら、猛スピードで飛ぶピンボールから攻撃されるようなものだ。
実は彼は、占領された惑星◯◯の王族なのだった。
古来、◯◯の王族は、自ら闘い、民を護って来た。
◯◯は、◯◯の民を守る為に、帝国に忠誠を表し、外人部隊に入っているのだった。
マスクの隈取りは、彼の身体と同じ、緑色。

その◯◯を真ん中にして、進行方向に座っているのはスナイパーの◯◯。
彼も索敵能力に優れたマーク1マスクを、さらにスナイパー用にカスタムし愛用している。
大きなレンズが特徴的なマスクは、不気味だ。
パーソナルカラーは白。
騒々しいダイゴンとベノヴのチドーリコンビとは対照的な、物静かな男だ。
視力、聴力が元々優れている惑星◯◯の出身。
更に冷静で忍耐力が強い◯◯は、スナイパーとしては、最高の素質を持っていた。
愛用のスナイパーライフルは、やや旧式だが、信頼性が高く、射程の長さを誇っている。
戦場となる惑星の重力まで考慮し、弾道を調整出来る。


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