見出し画像

「忠臣蔵 -四十七士-」オフブロードウェー公演を観劇

 オフブロードウェーで公演の「CHUSINGRA -47 Ronin-(忠臣蔵 -四十七士-)」を観劇してきました。個人的に感じたことをまとめます。(写真は全てAmaterasu-zaより提供/Photo by Melinda Hall)

 Amaterasu-zaの主宰、Akoさんが、ニューヨークで「忠臣蔵」を公演したいと話していたのを聞いたのは2年近く前。昨年1月には、英語の字幕を出す想定の、侍言葉によるプロトタイプ脚本のリーディング公演をオンラインで聴きました。それから時を経て、ニューヨーク在住の日本人俳優たちによる「忠臣蔵」オフブロードウェー公演が現実のものとなりました。

Photo by Melinda Hall

 有名だとはいえ、紆余曲折ありの長い物語。ましてやターゲットにする観客は、日本語を全く理解しないどころか、日本の歴史、物語の背景はおろか、簡単な概要すらも知らない人たち。前記のリーディング公演では、冒頭から赤穂藩の背景から浅野内匠頭、吉良上野介の人物像にいたるまでが詳細に説明され、セリフも説明的なものが多く、これを観客に分かりやすいものにするのは大変だろうなと思いながらも、どうやって舞台に落とし込むのか、とても興味がありました。
 観劇した「忠臣蔵 -四十七士-」は忠義、名誉というテーマにフォーカスして、十分に理解しやすいものになっていたと思います。非常に日本的なテーマを伝えるために、じっくりと語る正統派の演劇になっていて、舞台装置はミニマルながら、本格的なかつらや着物の衣装が用意され、侍言葉も含めて、「本格時代劇がニューヨークに現れた!」というインパクトがありました。

Photo by Melinda Hall

 「忠臣蔵」は登場人物が多い群衆劇です。開演前に配られたパンフレットを見ると、出演する俳優は総勢10人。正直、どうなるのだろう、と開演前から思っていましたが、演技、衣装、メイクなどを変えることで何役も演じ分ける俳優たちの技能は見事でした。こうして捻り出した工夫の数々は舞台の面白さであり、見どころと感じました。工夫といえば、語り部であるAkoさん演じる大石内蔵助の妻、りくとは別に、富森助右衛門 (小野功司さんはこの役のみを演じる) が終始登場し、物語をつなぐ役割を果たしています。これから観劇される方は、助右衛門を追うと分かりやすいです。
 また、サムライ劇をみせるサムライ・ソード・ソール主宰の天尾ヨシさんや殺陣波濤流NYの生徒である末永ジュンさんらが見せる殺陣も見どころの一つです。

Photo by Melinda Hall

 急に映画の話になって恐縮です(しかもネタバレあり)。個人的にもっとも好きな映画の一つが、小林正樹監督の「切腹」です。この作品、アメリカでの評価が非常に高い。脚本、演出、演技が完璧な上に、時代劇特有の殺陣というアクションが魅力的です。特にそれまでじっくり進んだ話が、最後に急展開して大々的な殺陣のシーンを展開させる流れは、忠臣蔵の流れもと似ています。この映画では殺陣が、サムライの生き様、そして死に様を表現するものとして、効果的に使われているのが高い評価のゆえんだと考えています。ニューヨーク版「忠臣蔵」リーディング公演に参加していた俳優の方々、スタッフの方々の顔ぶれから、殺陣がもっともっと入っている劇を想像していたので、個人的にはそういう要素を見たかったです。

Photo by Melinda Hall

 今回、2年近くかけて実際の舞台になるまでに、練習はおろか、人と会うことすら難しい状況のコロナ禍とも重なっています。脚本、演出、配役などではさまざまな紆余曲折があったのは想像にかたくありません。いかなる苦難を乗り越え、ニューヨークで時代劇を出現させたのは、忠臣蔵のストーリーと重なるところもあるように思って、そのとてもつもない胆力が舞台からにじみ出ていたように感じました。

舞台は11月13日(日)まで公演期間が延長されています。

詳細はこちら
http://www.amaterasuza.org

よろしければ、サポートをお願いいたします。こちらは活動費に当てさせていただきます。