奴との戦いについて

一日目

夜に奴が出た。対処法を用意している間に隠れられ、あらゆる隙間をひっくり返し、一度は探し出したがまたしても逃げられてしまった。それ以降どこを探しても見つけることはできなかった。

二日目

捜索を続けるもやつを発見することはかなわなかった。もし卵を保持していて、我々人類の手の届かない場所で文明を気付かれてしまった場合多大なる損失を被ることになる。

奴への対策として用意したのは、高濃度の洗剤入りスプレーと、フマキラー株式会社から販売されているゴキブリワンプッシュプロ80回分、そして洗剤のついた捕獲、抹殺用ポリ袋だ。洗剤は奴に対して即効性があるとのうわさがある。あくまで噂どまりであるが、住民への影響を考慮した上で効力があり安価な薬剤を使わない手はなかった。ゴキブリワンプッシュプロ80回分は、先の戦争でも使用されたDDTを含んでおり、人体への悪影響も指摘されているが、比較的低濃度の製品であるため妥協の末使用することとした。奴らの潜伏先に対し使用し、あぶりだすための装備だ。

まずは戦場におびき出す必要がある。ゴキブリワンプッシュプロ80回分は、あぶり出しと抹殺の双方の機能を保持しているらしい。最後に目撃された付近のあらゆる潜伏可能な箇所に吹きかけた。速攻で出てくることはなかった。4時間ほどのちに、再度クリアリングしたところ唯一敷設していなかった場所の高所に駐留しているところを発見した。

交戦を始めた。遠距離での交戦のため、近距離用装備は使用しないこととした。右手にゴキブリワンプッシュプロ80回分、左手に洗剤入りスプレーを装備し、まずはゴキブリワンプッシュプロ80回分を奴の進行方向とやつ自体に向けて幾度か噴射する。この製品はそもそも直接噴射することを目的として開発されていないらしく、即効性はなかった。だが効いている。行き場をなくし、こちらの思惑通りのルートを進行し、洗剤入りスプレーの有効射程までおびき出すことに成功した。左装備の有効射程に入るタイミングですでに奴は戦意を喪失しており、壁から床へと落下した。だがまだ戦闘能力はあった。ゴキブリワンプッシュプロ80回分では弱らせるだけだったが、左装備によりあっけなく奴は床にへばりつくことになる。一度目の噴射でほぼ行動不能になっていたところに10度ほど噴射した。一部の触手を動かすことしかできなくなっていた。付近に用意していた近接装備で捕獲し、ポリエチレンで作られた3重の薄膜の中に収監した。

戦後処理

本来ゴキブリワンプッシュプロ80回分は、一日、6畳当たり4回を限度として使用することを考えて作られている。捕獲にあたり40回ほど閉所で使用してしまった。戦闘中噴霧派兵士周辺に漂い、一部吸引も行ってしまっている。また、情報では洗剤入りスプレーは奴の抹殺に即効性があるがどうやら内部の細菌を外にまき散らす効果があるらしい。よくふき取ってアルコールをぶちまけて殺菌した。ゴキブリワンプッシュプロ80回分による中毒症状への対策として風呂場で全身をよく洗い特に目、のどを念入りに浄化した。肺へ入った分は対応のしようがないが、強い中毒症状は出ていないため自然に排泄されるのを待つこととする。換気装置を能力上限で稼働し、噴霧を除去した。

まとめ

ゴキブリ野郎と我々人類のどちらが正しいかなどわからない。ただ言えることは、敗者が間違っていて、勝者が正しいということだ。今回人類は勝利を手にしたが、奴らに対し敗北を喫し屈辱を味わうこととなるか、それは簡単に排除できない現実味のある未来である。

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