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『裏方で支える職人さんが大好き』伝統芸能の道具ラボ 主宰“田村民子”さん

能楽や歌舞伎など伝統芸能の道具類の復元・保全に取り組む「伝統芸能の道具ラボ」主宰の田村民子さんにお話を伺いました。伝統芸能の舞台を陰から支える裏方、職人さんたちの心に寄り添う田村さん。その背景に何があるのか、田村さんのストーリーを共有します。

プロフィール
出身地 
広島県
活動地域
東京を中心に全国
現在の職業
「伝統芸能の道具ラボ」主宰。
能楽、歌舞伎などの「伝統芸能の道具」やそれをつくる職人を支援するほか、入手困難になっている伝統芸能の道具を調査し、復元に取り組む。また、伝統芸能の道具類にまつわる執筆、インタビュー、講演、企画展示活動や、ワークショップなどを開催している。

伝統芸能の道具をつくる技術を継承したい

Q.どのような夢をお持ちですか?
田村民子(以下、田村敬称略):未来に伝統芸能の道具をつくる職人さんたちの技術を高い質を保ったまま継承したいというのが夢です。何気ない道具の一つ一つに、実はたくさんの知恵が詰まっているんです。小さな道具の裏にも、色々な工夫があり、職人さんたちの精神が込められています。私は、その技術を未来に継承していくお手伝いをしたいと思っています。

Q.夢を具現化するために、どんな目標や計画を立てていますか?
田村:今はボランティアとしてこの活動をしているのですが一人でやっているため、調査や復元が思うように進んでいません。たとえば組織のようなものを作って、夢に向かって速度を上げていくことも必要かなと思ったりもしています。また、活動資金を作るために、会員システムを作るという方法もあるかもしれません。ただ、このあたりは苦手なので、あまり進んでいません。

現在の伝統芸能の道具の現状はというと、技術継承がどれくらい危機的な状況なのか、どの程度お金が足りてないかなど、はっきりと数値化できていなません。それだと社会に対して具体的な提案ができないんですね。ですので、きちんとした基礎調査も行って発信していきたいと考えています。
また、伝統芸能の道具についての専門家がいない現状があります。伝統芸能の道具を守っていくために、新しい学問として立ち上げていきたという想いもあります。

Q. 現在どのような活動指針を持って、どのような活動をしていますか?
田村:
伝統芸能は、特殊で多様な「道具」をたくさん必要とします。それらの「道具」を作る技術が今、高齢化や経済性の問題など複合的な背景から消えつつあります。一度消滅してしまうと、それを復元させることは極めて困難です。そこで、未来へこうした技術を伝えていけるように道具を作る技術や、必要な素材について調査し、作れなくなっている道具については、復元を試みています。伝統芸能の道具の素材は、環境保全とも深い関わりがあるので、環境保全の観点も大切にしています。

また、復元については、いろんな専門家に相談しながら復元計画を立てるようにしています。伝統的に使われてきた素材の中には、現代では絶滅危惧種に指定されているものもあります。そういう場合は、環境保全とのバランスを考慮して、他のもので代用できないか検討します。この活動には、色々な専門家が必要なのでネットワークを広げていきたいと考えています。

それから復元について受けた相談の内容や復元過程の情報を蓄積して、それらの知見を社会に共有していきたいのでホームページを立ち上げ、発信しています。また、秋には書籍を出版する予定です。

職人さんたちが大好き!

Q.夢やビジョンを持ったきっかけは何ですか?そこには、どのような発見や出会いがあったのですか?
田村:もともとライターをしていて、ものづくりの連載を担当していました。真摯にものを作る人たちが発する言葉に感動しながら仕事をしていたところ、歌舞伎や能で使う道具をつくる職人さんたちに取材をする機会に恵まれていきました。伝統芸能は、外部者が関わりにくいところもあって、最初は職人さんたちは口を聞いてくれなかったり、電話も繋がらなかったりしました。一番忙しい時間に電話かけてしまって、怒られたりということもありました。

でも、次第に仲良くなっていくと、家族みたいになって親しく接してくれるようになりました。そして、道具の作り手がいないこと、素材がなくなってきていることなど本音を話してくれるようになりました。そうした現実を知ってしまったからには素通りできないなと思ったんです。何か力になれないかと考えて、少しずつ行動をするようになっていきました。

Q.その発見や出会いの背景には、何があったのですか?
田村
:私自身が、伝統的な文化が薄い新興住宅地で育ったことが影響しているかもしれませんね。伝統的なものには、若いころは反発もありましたが
仕事をするようになってから、その奥深さにだんだん惹かれるようになっていきました。古い世界は、ややこしいことも多いのですが、だからこそ守ってこられたものもあるように思います。そして、職人さんたちの人間臭いところが、なんともいえず魅力的です。

職人さんたちは、とにかく良い道具を作ることに一生懸命で、そして相手に喜んでもらいたいという気持ちで溢れているんですね。誇りを持って仕事をしつつ、決して前に出ることはしない。一歩引いたところから、道具を使う役者さんを輝かせるために、綺麗に見せるために力を尽くすんです。
彼らは、「裏方である職人が注目されるのはよくない」とよく言うのですが、私からすると、そういう心意気、控えめなところも裏方らしくてかっこいいなと。

なにごともそうですが、伝統芸能の世界も派手なことばかり注目されがちで、地味なところには光があまり当たりません。でも、地味だけど継承するべき技術は沢山ありますし、課題も多く抱えています。地味なところは、ビジネス的に見てお金にならない部分が多いので、なかなかみんな関わらないんです。そうした状況に対する静かな怒りも抱いています。それが、私を動かす原動力にもなっているかもしれませんね。


Q.最後に読者の方にメッセージをお願いします。
私自身は、自分が仕事をしていく中で、職人さんたちに出会い、彼らの課題に出会いました。身近にある小さな課題に向き合って、無理なく続けていく。そうしたら、面白い繋がりが広がっていきますし、その延長線上で社会が変わっていくのかもしれません。

みなさんも、身の回りで気になる課題があれば、行動してみてはいかがでしょうか。きっと、思いがけない出会いや喜びがあると思います。

記者:田村さん、今日は本当にありがとうございました。

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田村民子さんについての詳細情報についてはこちら
↓↓↓
http://www.dogulab.com/
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編集後記

今回インタビューの記者を担当した田中、塩田、石塚(カメラ)です。伝統芸能の道具の裏にある職人さんたちの魂までも肌で感じ、継承し続ける意志に刺激をもらいました。困っている人を何とかしたい!という原動力からは、まるで古き良き日本の精神性までも感じました。その姿勢は、今からの時代に必要な精神だと思い、これからも田村さんのご活躍を応援したいと思いました。田村さん、ありがとうございました。

この記事はリライズ・ニュースマガジン”美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36