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クライアントワークと本づくりについて夜行バスで考えたこと

自分でも信じられない。このnoteをどこで書いてると思う?

夜行バスの中だ。神戸行きの、夜行バス。

関西で猛威をふるった台風21号は、わたしが乗る予定だった新幹線の架線をぶったぎり去って行った。
仕事は撮影を伴う複数人のインタビューで、スケジュールはぎっしり埋まっている。明日の始発の新幹線で行ってもおさまらないし、そもそも動くかどうかわからない。ちなみに飛行機も満席。

それで残された最後の手段として、制作スタッフ全員で夜行バスに揺られているというわけだ。ちなみに、近年話題のラグジュアリーな夜行バスじゃない。大学生のときに乗った夜行バスと何の変化もない、「ザ・夜行バス」。31歳、化粧を落としていない肌が悲鳴をあげている。

もはや非日常すぎてテンションが高まっている自分もいるのだけど、その中でひとつ、「ほほーっ」と思ったことがある。制作スタッフの、クライアントワークに対するスタンスだ。

じつは新幹線の架線が切れたと聞いたとき、東京駅で待機していたスタッフの間には「今日の移動は無理だね」という空気が漂った。一瞬夜行バスの案も浮かんだけれど、いくらなんでも過酷すぎるよねと本気で検討せず。

ところが、そんな空気を切り裂くように、神戸のクライアントから電話がかかってきた。

「夜行バスは空きがあるみたいですよ」

そのひとことで事態は動いた。22:30新宿発、6:00三宮着のバスに乗るため、でっかく重たい撮影機器を抱え(わたしは自分の荷物だけだけど)山手線で東京駅からバスタ新宿へぞろぞろと向かう。

しかし乗車直前、「関西の高速道路はほぼ通行止めになっています。いま出発しても、到着は明日の夕方になるかもしれません」という衝撃的なアナウンスが。

明日の夕方て! もはや夜行ちゃうやん!

…と、似非関西弁で突っ込みたくなるくらいの遅延可能性に笑ってしまう。

わたしの感覚だと、ここで諦める。15時間以上バスの中にいる可能性があるって、リスク高すぎない?

しかしそんなわたしの及び腰などどこ吹く風、ディレクターはさらりと言ってのけたのだ。

「乗りましょう。クライアントの提案ですから

……すごい! と思った。純粋に。

わたしは普段、たとえば本一冊をつくるときに「クライアント様」を意識することはまずない。基本的に著者や編集者とは二人三脚だし、そのときのチームによって温度と濃度は違えど、基本はみんなで読者のほうを向いているイメージ。

だからそのディレクターさんの「クライアントの期待にこたえる、クライアントを尊重する、クライアント最優先の姿勢」が、なんだか新鮮だったのだ。

もちろんこれは、どっちがいい悪いの話じゃなくて。ただ単純に「だれがお金を出してくれるか」の意識の違いだと思う。お金を出してくれるひとにまず喜んでもらうのは、当たり前のことだから。

ディレクターさんがお金を出してくれるクライアントを最大限に尊重するように、わたしたちは本を買ってくれる読者をいちばんに考える。読者をいちばんに考えて、ちゃんと真摯につくる。結局は同じなんだよね。

ただ、クライアントと違って読者は目には見えないし、制作過程で意見もくれない。だからこそ怖いし、よりシビアにならなきゃなあ。

バス酔いしつつ、あらためてそんなことをつらつらと考えました。

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