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はじめての上司、本の意義

明石にある出版社、ライツ社のnoteに、あの人が登場していた。

わたしのはじめての上司である、ダイヤモンド社の井上直さん。相変わらず日焼けがすごい。

井上さんの言葉を読んでいたら、9年前、彼の部下だったころのフレッシュな気持ちを思いだして胸がキューっとしたので(これがエモいというやつか)noteに残しておく。

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いまもきっとそうだと思うけれど、ダイヤモンド社では新入社員をまず営業系の部署に配属する。現場を知らずしていい記者・編集者にはなれん、という意図だったと思う。

わたしと同期のH嬢は、ふたりとも書店営業チームに配属。ざっくりいうと全国の書店さんに新刊の案内をしたり、パブリシティを伝えたり、売れ筋の本をすすめたりする部署で、そこの部長が井上さんだった。……なのだけど、上のnoteによると肩書きが「取締役 営業局長 兼 大阪支社長 兼 部長」になっていてぶっとんだ、なんだかいろいろ兼ねている。

彼のもとで働いたのはたった2年間。でも、まっさらな新米社会人のときにこのチームに入れたことはたしかな財産になっているなと思う。

たとえばダイヤモンド社が、井上さんの奮闘のおかげで編集・営業が一丸となって本を売る——つまり出版社としてありたい姿になっていて、それをあたりまえの環境として享受できたこと。

また、井上さんはちょっと、いや、かなり変わった人で面食らうことも多かったけれど(書店さんとの大事な会食で寝たり)、とにかくのびのびさせてくれた。どんな企画や勉強会も「やってみなよ」しか言われなかったと思う。あと、めちゃめちゃ忙しいのに家族を最優先する姿は当時からいいなあと思っていたし、2019年のいまこそ「いまどきだな」と感じる。

そしてなにより、徹底して「読者」の人生を大切にする人だったこと。

これがライター・編集の仕事をするわたしに、少なからず影響を与えていると思う。なんというか、一冊の本の価値、出版の価値を信じているひとだった。

当時は『もしドラ』が売れに売れていて(入社3ヶ月でミリオンに)、ほかにも10万部、20万部のヒット作がいくつも出ていた。それらは前のめりに売り伸ばしていったし、思いきった重版をかけていたけれど、一方で井上さんは毎年1000部、2000部とコツコツ版を重ねていく本もとても大切にしていた。

もちろん会社にとってベストセラーとロングセラー、両方とも大事な商品なのはまちがいない。でも彼は「読者にとってはどちらも、そのとき出会う唯一の本だから」というスタンスを示してくれていた。派手さに関係なく、たまたまめぐりあった誰かの役に立ったり、人生を豊かにしたりするもの。それが本で、自分たちが担っている仕事だと。

「一社目」はその後のキャリアにおおきく影響する、とよく言われる。それは「ひとりめの上司」も同じだと思う。考え方なり、仕事の仕方なり、働き方なり、よくも悪くも影響を受ける。働くなかで自らアップデートしていくにしろ、まずひとつの「基準」になる。新人とはひな鳥のようなものだ。

読んだ人の人生を変える、だから本は誠実につくらなきゃいけない。「唯一の本」を届けるため、立場関係なく全員で知恵をしぼっていく。——わたしがいま、ごくあたりまえにそう思えるのは、「ひな鳥時代」に身を置いた環境のおかげもおおいにあるだろう。

上司にとっては、毎年のように通り過ぎていくひとりの新入社員。でも、当人にとっては人生でたったひとりの「はじめての上司」なのだよね。そしてこんなに懐かしく思えるのは、きっと当時の自分がちゃんとがんばっていたからだよね、なんて思ったり。

そうそう、井上さんは「担当編集者にとっても大切な、唯一の本なんだから、その思いを汲んで売っていかないと」とも言っていた。つくり手側になって思うのは、そんな営業チームに本を託せたら最高、ということだ。


余談、記憶をたどってツイート検索したんだけども(リプ相手はわたし)。

……ほんとむちゃくちゃ。でもたのしかった(このときは彼の中でツイッターブームだったらしく、業務連絡もツイッターだった。最終のゴーサインが出る前に重版ツイートをして怒られたりしていた)。

フレッシュな気持ちを思い出したら、やる気がでてきた。いいコンテンツつくろ。

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