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真夜中に初対面の男にいじられて、クリスマス

昨日はクリスマス感ゼロのままほぼ終電で帰り、家の近くのビールとシャルキュトリー(ハムやソーセージなど手づくり加工肉)の店に立ち寄った。

カウンターに座り、お気に入りの山口・荻産の「ちょんまげビール」を飲んでいると、若い料理人さんに話しかけられる。年末年始の過ごし方の話から、お互いの地元の話へ。

「僕は山口なんです。下関。お姉さんは東京ですか?」
「あ、いや、鹿児島です。薩長ですねーあはは」
「へえ。鹿児島」

彼はにやっとした。そして言葉を続けた。

「鹿児島って……なんもないっすよね」

グラスをかたむける手が止まる。え? なんつった?

いまはじめてコミュニケーションを取った相手に、しかもお客さんに、それ言う? 意図は? どんなメリットあると思った? あきらかに小馬鹿にしたようなニュアンスだけど、「ひどい〜プンプン」って言うと思った? さとう珠緒じゃないからね? 驚いたよ、お姉さんは。

……いや、「驚いた」と書いたけれど、正直に言う。ちょっとカチンと来た。31歳、大人げなく言い返す。

「なんにもないですかね? 温泉あるし、桜島あるし、食べものはおいしいし安いし……。鹿児島で『なんもない』なら、『なんかある』のは政令指定都市以上だけにならないかな」

(*九州の政令指定都市は北九州市と福岡市、熊本市のみで、筆者は「いつかは鹿児島も」と思っている)

わたしは普段いい人に囲まれているので、「そっか、考えてみれば意外と住みやすいかもですね」くらいの返答を期待してしまった。しかし若者、まったく臆さない。むしろ、さらに重ねてくる。

「まあ、山口県民にとって、温泉は別府までですね」

Oh。黒川温泉と霧島温泉まで敵に回してきた。

「あと、友達が転勤で鹿児島行ったけど、最悪だったって言ってました」

ここで、「もういいや」と思った。

ああ、このひとは、コミュニケーションの引き出しがこれしかないんだな。「いじってる」つもりなんだなって。


わたしはそもそも、『月曜から夜更かし』『ヒルナンデス!』をはじめとしたテレビ番組で多用される、「いじりナレーション」や「いじりテロップ」があまり好きではない。

はじめは斬新でおもしろいと思ったけれど、「ひとをバカにしてOK」という空気、そして「いじれるほどいいチームで制作してます!」感がだんだんうっとうしくなってきて。わかりやすくおもしろいし反応がいいんだろうけど、ほかのやり方で盛り上げられないもんだろうかと思ってしまう。

とはいえ、テレビの外側を生きるわたしたちも、無意識に「いじり」を使っていることは多々ある。だれでも簡単に盛り上げられるし、ウチワ感が出るし、笑いで一体感が出るし……。トークにおける「いじり」は、麻薬に近い。

もしかしたらこの若き料理人さんは、テレビのいじり文化になじんで育った結果、麻薬中毒者になっているのかもしれない。
それできっと、学校や仲間うちなどの限られたコミュニティで通用していた「いじり」を、全方位に使っているんだろう。盛り上げ役で、自分のことをトーク上手くらいに思っていて。

それは可哀想なことだけどさ、いい年だし自分で気づかないとなあ……と思いながら、「山口県は総理大臣をいちばん輩出しているんです」というトークとビールを胃袋に流し込んだ。


いじりトークは、いじり手といじられ手とが、ある意味の「相思相愛」状態でなければ成立しない。これは絶対に忘れちゃいけない。そこの関係を見誤るって、けっこう怖いことだと思うのだ。相手がどれだけ傷つくか、不快になるかなんてわからないんだから。学校でも、職場でも、お店でも。


……と、いろいろ書いてきたけども。
やっぱり地元をバカにされたら腹が立つのだ。

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