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幸せを語る言葉はどうしたって凡庸になる

わたしは「選択子ナシ」希望から一転、産むことを決めた組。最近、それを知っている同業の人たち(編集・ライター)から「話を聞かせてほしい」と頼まれることが続いた。「子どもを持つことにそこまで前向きではないんだけど……子アリの人生、率直にどうです?」と。

なぜ親歴わずか1年7ヶ月のわたしに……と首をひねったけれど、子どもを持つか決めかねているときに「子どもがいる生活のメリデメを挙げてください」と先輩ママさんを詰めてリスト化を頼むような人間だったので、相談相手としては適任だよなと思う。

彼らはざっくり、「都会暮らし、共働き、夫婦2人の生活がたのしい」「子どもがいると人生が制限されそう」「子どもが好きじゃないor興味ない」と以前のわたしと同じような思いを抱えつつ、でも経験したことないからこそ決めつけていいのか悩んでるって感じだ。まあ、人に問う時点でわりと積極的に興味はあるんじゃないかなとは思うけれど。

もちろんフリーランスのライターだと、「仕事・保活・お金どうしよう」と具体的な不安を抱えている人も多い。そこはわかる範囲で答えたり、適任なひとを紹介したりしている。

ただ、もっとも聞きたいであろう「産んで後悔しないか?」という質問、こればっかりは人によるとしか言えない。なので「n=1かつ、いまのところ」と何度も断りつつ、産んでめちゃよかったしワチャワチャしながらなんとかなってるよと答えている。

産んでよかった第一の理由も利己的っちゃ利己的で、子どもと過ごす時間は、自分がたのしいから。白状しよう、以前は公園遊びしている親を見て、

「あんな休日イヤだな、疲れそう」
「子どもの目線で遊んでなにがたのしいんだろう。映画行きたい」
「自分の人生を捨てて『親』としてのロールを演じてるのだろうか」

と、「青春の終わりの象徴」くらいの気持ちで遠くから眺めていた。

ところがどっこい。公園遊び、やってみると自分もふつうにたのしいではないか。動きがかわいい。応援したくなる。一挙手一投足にカメラを向け、その成長にきゃーきゃー。自分が歌ってないのに熱狂するライブと本質的には同じというか、「推しが子ども」状態だと言うとわかりやすいだろうか(ただし、圧倒的に世話を焼く必要はある)。

たった1年7ヶ月なので、イヤイヤ期すら経験していない。我々はまだまだ蜜月期だ、それは理解している。でも顔を見合わせて笑ったり、彼女が「ママ」と腕を広げて胸に飛び込んでくるの、心臓が破れそうになる。最高か。休日、めっちゃたのしみだもん。


……でもね。

子どもを産んでよかったと思うこと、たのしいことを文章にすると、どれもこれもおそろしいほど凡庸なの。好き勝手暮らしていたわたしが、DINKSを満喫していたわたしが、「別にイラネ」と思ってたやつなの。おいしいって笑うむすめを見ると幸せなんだよ、なんて、昔の自分にいくら熱弁しても「それどっかで聞いたことある」で終わっていただろう。

なので人に説明するとき、ものすごく困ってしまうのだ。この人が求めている「子どもを持ってよかった理由」はきっともっと知的でクリエイティブで、雑誌にも本にも載っていないような目からウロコが落ちるような答えなんだろうけど、真実は凡庸で、凡庸の中に本質がある。

「経験しなきゃわからない」はほんとう。でもそれは排他的で乱暴で冷たすぎる。不誠実でもある。

だから心のどこかで「いいアンサー」を期待している人——つまり子どもを産むことに前向きになる糸の端っこをつかみたい人のために言葉を尽くしたいのだけど、言語化すればするほど「子どもとの生活」が魅力的に描けない。そこにある幸せやたのしさは、はたから見たら眠くなるほど平凡な日々の描写にすぎない。

そういえばわたしも妊娠前、「世の中のいろんな側面が見えてまじで視野が広がるよ」「子育てしている人との同志感が異常」と言われても、ぜんっぜんピンと来なかったなと思い出す。あれはきっと、先輩ママが言葉を尽くして凡庸の中にある幸せを伝えようとしてくれてたんだな、といまならわかる。ありふれた幸せを、「なぜ幸せか」説明することはとても困難だ。

もちろん、子どもを育てるってそりゃあ大変だし、相談されたところで軽々しく「産みなよ」なんて言えない(いまも産まない選択全然アリ派)。子どもがかわいくない人だってたくさんいるし、わたしもいつそうなるかわからない。でも、大変な話ばかり出回って絶望しやすい時代なのでは? と、背中を押してほしそうな人を見て思ったりもする。

だからわたしは、「元子ナシ希望だけど産んでみてよかった、いまのところは派」というポジションを明確にしたうえで、こう伝えている。

「フツーの幸せをフツーに感じられて、古今東西のいろんな言葉や物語がものすごい勢いで腹に落ちるよ。あと、『推し』が家の中にいる生活はおもしろい」

ホントそれしか言えず、おそらく先輩ママが感じていたのと同じ歯がゆさや無力感を抱えたままではあるけれど……また求められればどこへでもお話ししに行こうと思う。

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